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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編Ⅲ)

2014 APR 23 22:22:28 pm by 西 牟呂雄

 夏休みが終わり、9月なのだがE高校はすぐ中間テストが始まった。しかし僕たち3人組は試験そのものはどうでもよく、午前中で終わってしまった後まさか麻雀をする訳にもいかずどうやってヒマを潰すのか困っていた。通用門の前を全校生徒がズラズラと下っていく坂道の光景の中で僕達は明らかに浮いていた。すると足早に歩いていく女子生徒と椎野が二言三言会話をした。B・Bはそれを見て僕をつついた。
「おい、あの娘は誰だ。」
「椎野のクラスの娘だよ。確か椎野と同じ中学じゃないか。」
「ちょっとお茶飲んで行こうぜ。」
サテンに入って早速ハイ・ライトに火をつけると、椎野に切り出した。
「おい、さっき話してた中学一緒の娘は何て言うんだ。」
「ん?出井のことか。出井聡子。かわいいよ。」
「フゥーン。イデイさんね。椎野知ってるならオレに紹介してくれよ。」
「ばか!やめとけ。お前の手に負えるわけない。ありゃ真面目だぞ。」
「いいじゃないか。ま、今んところオレは秀才とは言えんが。誰か彼氏がいるのか。」
「そうじゃないんだよ。ありゃ孤独癖とでもいうのかつるまないんだよ。きれいで人気者だけど真ん中にぽつん。お前にはもうちょっとトロそうな愛想のいいのを見繕ってやる。」
「やだぜ、そんなの。」
「だからいきなりチャレンジするのが無理なんだよ。あらゆる物事に手順があるように、アーパーな姉ちゃんに2~3回振られてからじゃないと高みには登れないんだぜ。大体オレ等が喋ってる口調も内容も女にゃ通じないのがオチだ。話をするにも修行がいるんだよ。ナメてもらっちゃ困るな。」
「振られなかったらそのアーパーとくっついちゃうじゃないか。オレの青春が無駄になるだろうが。」
「なるわけないって、所詮お前は麻雀カブレのバンド・ボーイだろ、今はゴキブリ並みの高校生なんだから自分をわきまえろ。」
「何だよ、よしオレひとりでやる。」
「ばーか。」「バーカ。クソして寝ろ。」

 しばらくすると、何と驚いたことに出井さんにB・Bが冊子を手渡ししていたのを偶然チラッと目撃した。なんだあいつ、椎野にバカにされて玉砕戦法にでも出たのか。これは早速知らせなけりゃいけない。
「何!あいつそんな無謀なことしてたのか。こりゃどのみちロクなことにゃならん。手を打っておかないと。」
椎野は早速動いて、翌日あきれかえった顔で報告があった。
「どうやらあのバカ、出井に自作の詩集か何かを送って感想を聞かせてくれって言ったらしい。出井は出井でよしゃーいいのに真面目に読んで感想を書いてやったそうだ。『面白い文章です。』みたいなことを返事したと言ってたよ。お前同じクラスだろ。B・Bの様子はどうだ。」
そういえば、夢中になっていたバーチャル日本史のメモは今学期から途絶えていたし、バンドの練習の声もかからない。いや、休み時間や放課後にあいつの顔を見ていない。
 昼休みに声を掛けた。
「おい、B・B。」
「ん?なんだよ。」
「練習しようぜ。F高の文化祭からオファーが来てるぜ。30分5曲だって。」
「いつ?」
「11月の3日だよ。椎野もベース・コピーしたからさ。」
「ワシはちょっときょうはダメだ。忙しい。」
「どこ行くんだよ。」
「ん?図書室。」
「はぁ、まさか勉強でもするのか。」
「いや、雑誌造ってるんだ。」
「ざっし?って何の雑誌だよ。」
「あとで教えるよ。まだ一号しか出来てないんだもん。」
「中身なんだよ。手伝ってやろうか。」
「ダメダメダメ。まぁ内容は詩とその評論だけど。」
野郎、ついに気でも狂ったんじゃないか。

 3日ほどして椎野と放課後図書室を覗いた。B・Bは受験勉強をしている生徒に交じって隅っこにいるのがすぐ分かった。何やら沢山の本を広げたり積み上げたりした中で一生懸命何かを書いていた。図書室では会話厳禁だから向いの席について「みーつけた」と書いたメモを渡すと、目を剥いてビックリしていた。ビックリしたのはこっちも同じで奴は鉄筆をもってガリ板を切っていた(この時代コピーは無く、ワープロも無い)。積んである本は誰かの全集、高村光太郎、小林秀雄。ノートに草稿を持っているらしく、言葉を確認したりして原稿を書いていたのだ。露骨にいやな顔をして「あと1時間」とメモを返してきた。僕はしょうがないから薄い原書を見繕って読み、椎野は所在無く持っていた推理小説を読んだ。5時前にB・Bが本を片づけ出し、僕たちに目くばせしたので一緒に出た。いつものサテンでハイライト。
「本当に雑誌を造ってるのか。」
「ああ、これが創刊記念号だ。」
表紙には『黄道Vol1』と題名。はやりのサイケデリックなイラスト、花をあしらったつもりのようだ。目次はと言えば、
ー今週の詩          『川の中州の一厘のコスモス』  阿部瀬出男
ー現代詩の創成期       『同人誌 山繭とその時代』   アビイ・ツェーデエ
ー感傷的表現の類似性     『高村光太郎を読む』    恵比寿大師
ー連載俳句          『街の風』           原辺 ユズル
ー季節の連歌         『季題 晩秋』         詠み人知らず
「一体どれくらい掛けてこれ造ってんだ。」
「一週間かかった。次の号は毎日やってまだ原稿が半分だよ。週刊誌にしようと思ったけど企画倒れになりそうだ。」
「この著者ってお前の知り合いなのか、誰も知らないけど。」
「そりゃそうだよ。全部ワシが文体変えて書いてるんだ。」
「じゃみんなおまえのペン・ネームか。それにしてもゴロの悪い。」
「思いつかないからA・B・C・Dをフランス語で読んだりドイツ語で読んだりしながら考えたんだ。」
「で、何だってこんなもん造って、いったい誰が読むんだよ。」
「出井さんにあげるんだよ。」
「お前!出井一人のためにこんなことやってんのか。」
「ワシの詩は個性があって面白いから、連作するといいでしょう、と。類似の作品を探して比較してみるといいでしょう、刺激をうけるのではないでしょうか。って感想書いてくれたんだ。オラオラオラオラこれだ。」
僕は心配になった。B・Bの奴とんでもない勘違いをしたんじゃないだろうか。
 椎野は黙って目を通して傍らに置くとドスの効いた声で話し始めた。
「これだからシロートは困る!言わないこっちゃない。初めに聞くけど、お前は出井の何を知ってるんだ。」
「何をって何だ。」
「だから何が趣味か、とかどんなものが好きか、とか得意な物は何かとか。」
「そんなこと知らん。」
「あのなあ。坊や、恋愛は一人でするものじゃないのは知ってるよな。ましてや相手はお前が誰かも知らん。それがいきなりこんな紙屑をワンサカ送り付けられたらどんなに気味が悪いか分かってんのか。何で相談しないんだ。」
「だって、初めに紹介してくれって頼んだらいったらヤメロって言ったじゃないか。」
「当たり前だろ、自分でどう思ってるか知らないがお前立派な変人だぞ。段取りもつけないで何考えてんだ。」
「じゃ、どうしろってんだ。邪魔するな。」
B・Bは例によって不貞腐れた。どうしろって言ってももう遅いんじゃないか、と思っていると百戦錬磨の椎野は言った。
「オレに任せろ。話す機会を作ってやる。」

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 麻雀白虎隊)

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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編 エピローグ)

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Categories:サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる オリジナル

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