Sonar Members Club No.36

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夏至の日に府中にて

2018 JUN 30 10:10:16 am by 西 牟呂雄

 色々あって府中の運転免許試験場で講習を受け(させられ)た。まっ事情は察して欲しい。さる不幸な偶然が重なった、とだけ言っておこう。
 せめて見た目だけでも印象が良くなるようにスーツ姿のクール・ビズで、朝も早よから暗い気持ちで出かけていった。
 なぜスーツか。実は数十年前に同じ講習を受け(させられ)た事があり、その時周りにいた人々のあまりに殺伐とした風情に唖然とさせられたからだ。
 明らかに”ゾク”と思われるガキ共が『無免でくらってよ』とか『もう2回目で後がネーんだ』などという話をしていてその空気に怖気づいた。今回の講習には”考査”があり、それと”受講態度”を評価することになっていたので、そんな奴らとは違うところを見せなければならんと思い立ったのだ。
 辿り着くと、我々受講者(といっても更新ではない)はたったの13人。年齢構成も割に高く(ダントツは私)前回の時にワンサカいたようなガキ共はおらず、どうやらプロのドライバーが微罪を重ねてここに至った人が半分くらいのようだった。
 やはり罰則が強化されて、当時は講習ですんでいた輩はすでに剥奪・取り消しに至っているのではないのか。雰囲気も柔らかい。スーツまで着込んだ私は逆に浮いてしまった。
 講習室に入って待っていると、見るからにゴツくて目付きの鋭いオッサンが入ってきて注意事項を説明すると空気は一変した。何しろ居眠りするな、頬杖つくな、足は組むな、特にガムは噛むな、と注意があって軍隊調なのだ。あのオッサンはきっと交通機動隊のOBか出向者に違いない。すると私をここに送り込んだ奴の同類ではないか、クソいまいましい。
 ブログ仲間のトムさんの『ポンペイ通信』によれば、かの地であればまずこんな目には会わなかったろうと気が滅入った。
 自然と力が入ったのかスーツ姿が目立ったのかは知らないが、オッサンはしきりと私にガンを飛ばして来る、まずい。状況が状況だけにお上に歯向かう訳にはいかない、あわてて神妙な顔をする。

 講習はミッチリ6時間。昔はこんなプログラムじゃなかった。グロテスクなビデオを見せられて終わりだったんじゃなかったか。
 今のは事故に至るまでのプロセスが中心で、オマケに適性試験や実車、シュミレーター講習までやって考査されるのだ。
 最初にガツンとやられたので久しぶりに授業を受けるような緊張感でもっともらしく聞いていた。最近の傾向で高齢者と自転車への注意を喚起し、ちょっとした不注意で悲惨なことになる、と言った内容である。
 最悪だったのはドライヴ・シュミレーターで、考査の対象ではないらしいが通常の運転感覚とは著しく違っていて、時間内に終わらなかったり車線をはみだしたり、ついでにスピードオーバーまでやらかしてしまった。なんだってこの私がゲーム・センターにあるような物で減点されなけりゃならんのだ。
 
 やっとこさ終えて、さすがにクタクタになってJRに乗り込むと驚いた。先程のあの講師のオッサンが乗り込んで来るではないか。私を認めると先ほどの厳しい顔とは打って変わってニコヤカに話しかけられた。
『お疲れ様でした』
『いえ、お世話になりました』
『まあ、二度とお目にかかることのないように慎重にやってください。はっはっはっは』
 ここに至って私は少し考えが変わって来た。
 ちょっとした不注意でここに来るはめに至ったのは、そのおかげでもっと悲惨なことになることを事前に防いだのではないか、と。すると初めの頃のあの忌々しさが、この程度ですんで良かったのではないか、と言う気持ちになってきた。きっと先程の厳しい講習にすっかり洗脳されたのだろう。
 私は平成30年のこの夏至の日から1年間、慎重な上にも慎重に、規則を遵守することを心に誓ったのだった(ウソです)。

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Categories:えらいこっちゃ

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