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オリンピックへの道 あと5年(2015年からの憂鬱 序章)

2013 OCT 11 9:09:12 am by 西 牟呂雄

2015年夏、予てから恐れられていた中国経済が崩壊した。理財商品の決済ができなくなった地方銀行の破綻から飛び火し、シャドウバンキング等の破綻が隠せなくなってしまった。外貨が一斉に逃げ出したのである。もはや信用不安どころではなくなった共産党中央は、ほぼマーケットを閉鎖せざるを得ず社会主義市場経済の看板をかなぐり捨て、報道はブラック・アウトして国境も閉鎖するという超強行手段をとった。一部の米国債が出回っていたことは噂になっていたが、大量に売却されたことから誰も手がつけられず、さすがのアメリカも度を失った。中国はWTO加盟国の面目もなにも、ルール無視の蛮行を繰り返し貿易は香港の窓口以外は全て表に出られなくなったのだ。

ところが不思議なことに軍事的な緊張は全く起こらなかった。中国は国境を固めるばかりで、内側に閉じこもったことと、アメリカがアジアに構っていられなくなったからである。中国の国内から洩れてくる話は、どうやら力で押さえつけていた地下経済が地方当局の制御を受け付けなくなるほど相対的に肥大し、又周辺の少数民族問題を押さえつけることに人民解放軍を投入し続けるコストに耐えきれなくなって、外に向かう余裕がなくなってしまったようだ。一方経済は世界中どこもかしこもメチャクチャになりG7もG8も全く機能しない。年の暮れに向けて暗雲の中、金はバカ上がり、物は売れず、大雑把にいって資源の無い国は猛烈なインフレ、エネルギー輸出国は逆にウルトラ級のデフレが進行する有様。複雑に絡み合ったグローバル経済を調整する機能・信用が消失したのだった。売れもしない物は誰も造らない、と言う簡単な理屈で時代はリーマン・ショックどころか大恐慌の遙か以前に退化したかのようであった。要するに中国自身がグローバル経済に組み込まれてしまって、一国の統治機構の限界を超えたことにあまりにも無警戒だったのだ。

その中でただ日本のみ、無論急ブレーキはかかったが、何とか踏みとどまった。ひとえに絶好調で再選を続ける安部最強内閣が、メタンハイドレードの商業生産を可能にし、北方領土解決(面積等分方式、地続きの国境ができた)の際にロシアと交わした安全保障条約に加え、天然ガス樺太ライン敷設により長年のエネルギー問題を解決していたからである。日露国境は新名所として観光地化してブームを呼び、エトロフバブルが一時的に発生した。この日露安全保障条約は、日米条約の不備と不可侵条約の不健全を補完したような『国際条約の宝石』とも言われた緻密なもので、アメリカさえも異を唱えることができなかった(紙面の都合上詳しくは文献参照)。勿論日米同盟堅持の大前提あってこそであるのだが。

年が明けると、貿易決済を以前からユーロにしていた北朝鮮が国家機能を全く失い、中朝国境が廃止されそうになった。国境に人民解放軍が進駐する恐怖感にかられた韓国朴大統領は、前年から経済破綻していたこともありここに苦渋の決断をし、安部総理の呼びかけた日台韓ブロック経済圏に参加することとした。あまりの中国に依存した経済の大打撃に反対世論が形成されなかったことが大きかった。この効果は絶大で、2016年は数十年ぶりに何やら奇妙勝つ緩やかな共生感が漂ってきた。無論GDPは各国マイナス成長なのであるが、日本式『仕方が無い』韓国式『ケンチャナヨー』台湾式『メィウェンテイ』が合体したとでも言うのか。3国とも少子化の傾向が著しかったせいかも知れない。ただ竹島だけはこの時点では未解決であった。

2016年のリオデジャネイロ・オリンピックはまず開催地のブラジルの破綻が現実のものになり手をあげてしまい、強行しても参加国はせいぜいG7くらいの規模でしかないため、戦時とモスクワボイコット以来の中止の憂き目にあってしまった。

夏の勝負どころだった衆参同時選挙はまたもや安部自民党の圧勝で政治的には無風が続く年末、通常国会において、突如『国民皆兵法』がヴエールを脱いだ。それは周到に練られた案であったが、一言で言えば『兵役に就かない者への年金はストップする』だった。しかも遡って全国民に、だ。官邸側近及び少数の官僚が練っていると言う噂はあったのだが全く洩れてこなかった。検討グループに民間・学者・有識者の類いを一切入れなかったため、リークもされなかった。 即ち、この時点で10%の消費税でも超恐慌の元、財政は悪化どころではなく、かといって15%への増税が通るわけもなく、ターゲットにされたのが年金だった。一方で少子化による若年人口の減少はこれも止める術がなく、最早ニートだ引き籠もりだの類いを放っておく余裕もなくなっていたからである。早い話、一度でも兵役を勤め上げれば面倒みるがそれ以外は知らん、とする制度のようだ。問題はいままで勤め上げていないオヤジ、オッサン、ジイサマ、の類いで、この辺はこれからの詰めとされた。本当に年金が支給されるのは70才以上で、ガタがきていたりボケが始まっていなければ兵隊に取られて働く事になるのだ。衝撃が走った。だが、通常国会の議論は反対論に対する準備が実に周到で、ありきたりの空論を質問に上げる野党議員の意気があがらないまま、予算を編成して審議継続で年を終える。

2017年は奇妙な超恐慌下の平和は慌ただしく続き、日台韓の経済ブロック効果は東南アジアからインドへと非軍事的に連帯を伸し、各国の経済に些か効果をもたらした。第一次安部内閣の『自由と反映の弧』が、規模感は縮小したものの実現してしまったのだ。その中で、通常国会において、秋に例の国民皆兵法の国民投票が実施されることになった。既に改正されていた国民投票法がここで生きたわけだ。そしてその流れにおいて憲法改正、皇室典範改正までもが俎上に上がる。政党はこの頃とっくに再編されており、自民党・公明党・共産党以外は極右の正義党、中間の進歩党、北斗党、平和クラブであるが、旧左派は政治的に全くパワーを失っていた。大きく特筆されるのは、最強安倍内閣が憲法9条の『永久にこれを放棄する』の項目を残したまま集団的自衛権を堅持すること、更に期を合わせるかのように愛子内親王殿下、秋篠宮佳子内親王殿下の旧皇族との婚約あい整い、皇室典範が『男系』の一条を滑り込ませる離れ業もあり、10月1日の国民投票日を迎えた。

結果は投票率85%という驚異的な投票率で、何と、3投票案件とも70%越えの指示が示された。直後から投票率・賛成率の合計から6割しか賛成していない、という裁判が各地で起こされたが、民意は動かなかった。ひとえに内乱状態に陥った中国からの外圧がなかったことと、ブロック経済に異存を高めた韓国からの反発がなかったことが地滑り的な投票行動を呼んだ。更に巷間噂されていることには、役立たずの亭主が定年後ブラブラしているのに業を煮やしていた熟年主婦層(賛成票では最も多かった)が賛成し、先のことを考えない失業中の若年層と、実際ヒマを持て余しそうなオヤジ層が投票した結果だった。

あまりの票の多さに目が眩んだ保守政党も(この時点で衆議院自民党300正義党80議席)離合集散の動きが起こり、安部総理率いる自民党と野田聖子党首を擁する保守本流党に再編され、野田は時期総理の筆頭候補に躍り出た。信じられないことであるが、フェミニスト・リベラルはやることが無くなってしまい、男女雇用均等法を盾にとっての門戸開放運動に押され、看護・賄い・後方支援専門の通称『バーサマ部隊』の設立を推し進める有様で、何と通常国会において成立してしまった。

国防陸軍の編成は急ピッチで大幅に改革された。学業修了者の即時入隊組は訓練後、しかる後に下士官になって年金は安泰、隊員の競争率は2倍に達した。中学卒業に受験する少年国防学校(かつての少年術科学校)は20倍の競争率に、国防大学も一躍超難関校になってエリートとなった。例の奇妙な平和の風の所以である。

つづく

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