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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(200X年 男子中学編Ⅲ)

2014 JUN 18 20:20:53 pm by 西 牟呂雄

E中学は私立男子一貫校で、中学受験をするため、みんな小学校の5・6年生の時は塾通いをしてくる。そのせいかどうか、何だか話しをしてても面白くも何ともない。初めサッカー部に入ったが同学年の奴等となじめず、すぐ辞めてしまった。そんな訳で、仲間と言えば席が近かったというだけの安直な理由で、同じクラスの4人仲間という具合になった。そして不思議なことに2年も4人が同じクラスとなり、まあ腐れ縁なんだろう。
 英(はなぶさ)と出井、もう一人B・B(原部バラベと読む)というのがいる。
 E中・高は自由闊達がウリになっているが、僕に言わせれば、生徒と先生が馴れ合っているようなもんで、もともと好き勝手にやっている僕としてはこの1年何とも居心地の悪い思いだった。マア仲間が4人もいれば良しとするところか。こいつらはある意味話していて楽しい。
 しかしまぁその4人だって面白いことは面白いが、中身はバラバラだ。僕は自分で言うのはナンだが、みっともない服装が嫌いで中学生にしては凝るが、比較的おしゃれなのは出井くらい。英(はなぶさ)は全く気取らないで一年中ジーパンだし、B・Bに至っては支離滅裂だ。特に色の選び方がひどい。2年になってから、毎月髪の色を変えだしたのを見た時は、狂ったかと思った。
 ところで僕は、どういうわけか真面目な兄貴の影響で芥川・三島・春樹くらいは読むが、先日の現代文の授業で太宰の『走れメロス』の感想文を提出しろ、と来た。小学生じゃあるまいし、よりにもよって。それで登場人物のステレオ・タイプぶりをおちょくり倒し、太宰のテーマへのアプローチのあざとさを批判するような文章を提出したところ、何と放課後に来い教官室に来い、を食ってしまった。多少予想された説教であったが『こうひねくれた感想は奇をてらったつもりでも結局陳腐なものにしかならない。もっと中学生らしくあるべき友情の・・・・。』と説教されてマイッた。友情と言われても頭に浮かんだのはあの四人だし。と思いながら教室に帰ると、あいつ等が心配して待っていたので、念のためどんなことを書いたのか聞いた。
英「まァオレは『この王こそが最もメロスの帰りを待ち侘びていたに違いない。』とまとめた。」なかなかやるじゃないか。英は小説を好むけれど洋物中心で、不思議なことに1960年代のことにやたらと詳しい。黒人公民権運動の指導者マーチン・ルーサー・キング牧師がやったという有名(らしい)な長い演説を暗記していて、『アイ・ハヴ・ア・ドリーム』と抑揚たっぷりにスラスラ喋ったのでビックリした。ギターを弾きながら『花はどこへ行った』とか『サンフランシスコ・ベイ・ブルース』といったフォーク・ソングを歌って見せたりもする多才な奴だ。ビーチ・ボーイズという聞いたこともないバンドもこいつから教えてもらった、結構イケてる。
出井「オレとしては途中メロスが襲われるところが切ないが、体力の回復と共に気力が漲ってくるところが『命』の躍動だ、としておいた。」出井は古典趣味で、また熱中すると深読みのしすぎといった趣があってついていけなくなる。この前の日本史の授業中、平安時代の院政の発表をしたが『政治をすると言っても官位の人事をするだけで、この時代に民衆の幸福を考える皇族も貴族もいるわけないから、おべんちゃらか女や稚児さんの取りっこぐらいしか評価の基準はありません。そのスキをついて武士がですね・・・。』とやって教師を激怒させていた。
B・B「僕は『あんなに一日中走れないから、どうせならセリヌンチウスの方になる。』って書いたな。」バカ。マンガの読みすぎで人格の浅さが丸出しだ。

 男子校だから女の子に興味深々のやつらばかりのはずだが、あいつ等は口では『女日照りだ。』とか『彼女ほしい。』とか言うくせに、僕に言わせれば女に免疫がないとしか見えない。要はちょっとしたセンスの問題で、そういうことであればあるほどそのセンスの有る・無しは致命傷だ。奴らは永久にだめだろう。
 まあ、この手の遊び話は学園内では大したことにはならないし、いきおい外の世界で遊ぶとなるのだが、しかし残念ながらE中学のブランドネームが効いてしまって、そこでは僕がガキ扱いされてしまう。お坊ちゃん学校ということで、ドスが効かないことおびただしい。
 おまけにチーマーのアンちゃんになればなったで、これが又ケンカばかりしている本当のバカとか、恐ろしく話しが下品な奴とかは願い下げだから、何でも仲良くなりゃいいってもんじゃない。結局クラス仲間の4人組となってしまう。

 2004年恐ろしく暑かった夏が終わり、秋空の下運動会の準備が始まった。
 これが又煩わしいことこの上ない。とにかく男ばかりだ。華やかなアトラクションなんか全く無し。競技は高等部が棒倒しで中等部が騎馬戦だけ。そして、その合間にばかばかしかったり、卑猥極まりない応援合戦。それを中高一緒なもんだから、朝から夕方まで延々とやる。
 いっそさぼってやろうかと思っていた矢先にクラスの委員選考があった。応援とか何だかんだでクラスの半分くらいは委員をやることになるが、多少の例外を除いて自分で手を挙げる奴はいないから、やれアミダだジャンケンだとやっていたら僕が競技委員になってしまった。これは、いわばクラスの競技のマトメ役で、練習の段取りからチーム編成までやらなければならない、極めてウザイ。
 一月前から、体育は全部運動会の練習だ。といっても当日サボリを決めるつもりの奴から、まるっきりオマカセの奴、やたら張り切る奴、まとまりの悪いこと甚だしい。とにかくこんなガキの遊びみたいなもんに付き合うだけでもアホらしいのに、冗談じゃない。
 一回めの騎馬の組み合わせからしてモメた。僕達はちょうど4人で組んだが、一人足りないだのあいつとは組みたくないでスッタモンダ。やっと全てが編成されいよいよ立ち上がる時、我が騎馬は崩れた。僕が上に乗ったのだが、英が小柄なためバランスを崩し、走り出した途端に僕はもんどりうって落ちた。何たることだ!
「もうイヤんなった。」
「とにかくウチの騎馬だけでも何とかしよう。」
「うん。おれも思うんだけど上に乗せるのは英の方がいいと思う。」
「だけど、オレが上じゃあ組討になった時は戦力にならんぞ。」
「いや、まあ聞け。」
出井が言うには、実際に組討になった時は見たところ掴み合いになって、ほとんどが両方とも潰れている。それよりも機動力を出して、体当たりで相手の馬を倒した方が確立は高く、剣道でも体当たりは有効な技とされているそうだ。剣道部の出井が言うのだからそうなのかもしれない。急遽僕が前、右出井、左B・B、騎乗英に変えて御丁寧にも昼休みにまで練習した。
 ある日B・Bがノートを広げて真剣な声で言った。
「僕は艦隊運動の研究をしているけど、こんなこと考えたらどうかな。」
作戦要務令と書かれたノートには、『五輪陣形』とか、『錐揉陣形』という複雑な陣形にあいつが考えた空母機動部隊が配置されていた。それにしても空母『天狗』とかイージス『高天原』、潜水艦『酒呑童子』とはどういうセンスか。何のためにこんなことをしたのかは知らんが。
「こんなことできる訳ないだろ。」
「いや、使える。」
 発案者のB・Bは無視して、英、出井と検討した。
 結果、僕達の騎馬が先頭になって、全騎馬が楔形で突進するものと、二つの固まりになってび両側からV字型に挟み撃ちにするものが有効だということになった。
 体育の練習の時に、まず教室に集めて説明をすることにした。説明は出井。
「皆ちょっと聞いてくれ。」
 こんな時ガキみたいな奴らは単純に乗ってくるから扱いやすい。ヒネた小僧なんかがツベコベ言うと面倒だが、出井は他の3人より信頼が厚いのでこういう時うってつけだ。各騎馬の配置まで決めて、黒板に書き出した。この際楔形は『くさび』、V字型は『鶴翼』と命名された。早速練習するとこれがまた絶望的に動きが鈍い。ダメだ。紅白戦にもなりゃしない。もっぱらワーワー言いながら言ってみれば蛇行行進の稽古をしているようなもんだ。
 ところが面白いもんで、1週間もするとアラ不思議。慣れるに従ってみんなキビキビとかなり機動力がついてきた。しまいには上から英の号令の下、楔ー鶴翼ー楔といった複雑な動きまでこなせるようになった。ひょっとしたら。

 当日は良く晴れた運動会日和というやつだ。騎馬戦は中学学年ごとの5クラス総当り。なんとなく皆も張り切っている。いよいよ2年の出番だ。円陣を組んで僕がエールをかけた。
「いいかー。」「うおー!」「ぜーってーまけねー!」「ウオーッツ!」段々声もでかくなる。よーし。
 騎乗して、合図が鳴ると同時に英の号令がかかる。「くさびー!楔だ!」
 結果は正に鎧袖一触というやつだ。びっくりした相手をまるで踏み潰すみたいに追い散らして圧勝した。次ぎもその次ぎも圧勝。こうなりゃ全勝優勝だ。
「みんなー。彼女いるかー!」「いねー!」「彼女ほしいかー!」「ほしー!」「全勝して合コンだー!」「ウーオー!!」最後の声はとりわけでかかった。
 合図が鳴って得意の『くさび』にかかったところ、何と驚いたことに相手も同じような形をとるではないか!あわてた英が大声で号令している。
「くさびじゃなーい!カクヨクー、両側広がれー!両翼上がれー!。」
 相手も研究したのだろうか、それどころかこちらが体制を変えている間も「ウオーッ」の歓声とともに突っ込んでくる。先頭の馬はサッカー部の頃から僕と何かとソリの合わない飯田ではないか。
「オイ、椎野!飯田の狙いは初めからお前だけだ。潰されたらこっちは総崩れだぞ!」
「上等だ。前進するぞ!」
 中心の僕達が突撃したので、きれいに両翼に分かれかけた鶴翼がW字のようになったまま激突した。そのまま揉みあっていたが、向こうも引かない。足まで踏んできた。このやろーと反射的に首を振りながら、左目の上で飯田の鼻のあたりにバチーッと頭突きした。セコいケンカの時にやる手だ。
『ゴッツ!』と音がして「ウーッ。」と呻きながら飯田が膝を屈した。ざまーみろ。
 ところが、全体がメチャクチャな潰しあいになった時に、飯田が復活してきて鼻血で胸と顔を真っ赤にしながら、掴みかかってきた。
 「椎野ー、やりやがったな!」「やめろ!オレは両手塞がってんだ!」「知るか!きたないことしやがって。」飯田は僕に飛び掛ってきた。
 その時左側のB・Bが間に割り込むように入ってきて、飯田のわき腹をドスーと蹴り上げた。おかげで英は頭から落ちた。飯田も再び「ウーッ。」とうつぶせになってしまった。B・Bはそのままサッカーボールを蹴るようにキックしている。押し寄せてくる奴らを制して振り向いた。
「出井!B・Bを張り倒せ、飯田にケガさせるぞ!」
 出井は豹が飛び掛るみたいに素早くB・Bに飛びついて2人は転がった。
 ガキのケンカは双方の犠牲が同じになれば終わりだ。転がってるのが飯田とB・Bになって双方の睨み合いになった頃、やっと高等部の審判部員がフォイッスルを吹きながらやってきた。結果は没収試合。ヤレヤレ。

 ところがそれでは済まなかった。実行委員会審判部は聞き込みの結果、倒れてからのB・Bの蹴りを暴力行為として重く見て、休み明けのクラス討議にかける旨決定した。
 そして休み明けのホーム・ルームに高校生の応援団長、審判部長、競技委員長がやって来た。
 曰く、審判部としては、競技中のケガについては正々堂々としたものであれば不問に付すが、今回は、詳細に検討した結果見過ごす訳にはいかない、E学園の自治と自由を守るためにも、諸君の真剣な討議を踏まえ、我々は学生を処分することはできないので、職員会議にあげて検討してもらう、その際の処分には停学、退学もあり得る、云々、クドクドと喋った。何が自治と自由だ、たかが中学生のケンカぐらい裁けないで笑わせると思った。
 それがどうしたことか、クラスの反応が違う。坊ちゃん育ちの子供達は『処分』にビビッたか。椎野の頭突きはやりすぎだ、B・Bは協調性がない、せっかくの運動会がぶち壊しになった、どーした・こーした意見が出て、全体がB・B非難の論調に収斂していく。なんてこった。こういう奴らがそのうちエリートにでもなって、E学園の校風は素晴らしかった、などとぬかすのかと思うと、胸糞が更に悪くなった。スケープ・ゴートを見つけて後は知らん、の根性が見えるようだ。全くガキは始末に負えない。
 と、僕の後ろでガタッと音がしてB・Bが立ち上がった。不貞腐れている。
「オレもういいッス。皆で決めてくれ。」
と言うと、クラスを飛び出してしまった。イカン。英と目が会った。格別のニヤニヤ笑いだ。英は機嫌の悪い時にニヤノヤする癖があった。出井は怒りで真っ青というか、緑っぽくなってしまっている。まずい!
「ちょっと待てよ。オイ少し違うだろ。アクシデントとケンカだろ。先輩達も処分だ何だ言わんで下さい。この程度で処分にされるなら騎馬戦なんかやらずにカケッコでもやってて下さいよ。オイ、皆クラスで処分だなんて結論出すのやめろよ。」
同時に英と出井が席を立った。ヨーシ、こんな坊ちゃん学校でたかが小競り合いに一遍に4人も処分なんかできるもんか。そう思って胸を張って外に出た。

「B・Bはどこだ?」
「カバン持ってないから帰ってないよ。多分あそこだ。」
 出井が連れて来た所は、体育館の裏側だった。秋の日が眩しく差している塀の隅に黄色く染めた髪を鮮やかに反射させてB・Bがうずくまっていた。
 ハッとしたが、運動会のクラス・カラーは黄色だ。あいつまさか運動会の黄色に合わせるために春先から毎月髪を染め出していたのか?いや、そんな計画性の有る奴じゃない。
「あいつなんであんなとこにいるの?」
「さあ、前にアリの行列で遊んでた。」
「何だ、そりゃ。」
 それはともかく声をかけようとした矢先、「待て。」と英が止めた。
「今声かけるとアイツ引っ込みがつかなくなって口が滑るかもしれん。ありゃ悔し泣きだよ。」
「エッ。」
 全くガキは手がかかるが、まあいいか。
「夕刻のセリヌンチウスだな。」
「メロスは声をかけないのも情のウチ。」
「じゃ行くか。」「ああ。」「うん。」
 振り返って歩き出すと、真っ赤な秋の夕日で僕達3人のデコボコな長い影が伸びていた。

おしまい

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(200X年男子中学編)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(200X年男子中学編Ⅱ)


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