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202X年の怪 Ⅲ(何かおかしい!)

2014 SEP 25 12:12:43 pm by 西牟呂 憲

3日目
 警察官大量動員による山狩りは徹夜で行われたようだが、何のニュースも入らない。東北・北陸およびその他数県で県警に迷彩色の自衛隊員が常駐する画像が流れるばかりで、肝心の山狩りの成果はさっぱり伝わってこない。
 新設の大本営統合会議は朝から非公開で行われており、午前9時に記者会見が行われた。野田聖子総理を中心に安全保障会議の小渕優子官房長官・小池百合子防衛大臣・山谷えり子外務大に加え新設「大本営」の石原慎太郎特命本部長が驚いたことに迷彩服を着ている。またしても佐々淳之東京都知事の姿が見えた。野田聖子総理がマイクの前に立つ。
『一昨日に一連の海上及び陸上への攻撃について、現在分かっていることは極めて正確なミサイル攻撃であったことが判明しました。どこから飛来したものかはただいま調査中。不正確なことは申し上げられません。但し標的であった可能性の非常に高い各所の稼働中の原発について、操業に支障をきたす物的人的被害は出ておりません。放射能の漏えいもなし。電力の不安は全くありません。東京をはじめ各所で起こった磁気爆弾の爆発は明確なテロ行為と判断し警察総力を挙げての捜査中。人的被害は軽微とは聞いておりますが、大量のテータが破壊されておりバックアップ体制が間に合いません。今以上の混乱を拡大させないため、1昨日申し上げた金融・株式市場の閉鎖は続けざるを得ません。従って大都市部はカード決済もできずスイカ等も一部機能は失われています。混乱をこれ以上拡大しないため、本日は全ての公的機関を休み。国民の皆様には今少し辛抱をお願いします。但し、物資の流通は政府が万全を期しており生活に不安は生じません。今しばらく待機下さい。』
続いて石原本部長がマイクを握り締める。
『えー、現在進行中の防衛作戦について説明します。米第七艦隊及び護衛艦隊は日本領海内で作戦行動中。場所は申上げられません。ところで護衛艦隊は第一郡・第二郡の二つで別々の海域に展開。第一郡の旗艦は新型の垂直離陸可能型F-35改を搭載した「いずも」。第二郡は同型艦の「かしま」。それぞれオスプレイを搭載した「ひゅうが」「いせ」を配備しました。それから海上保安庁所属の一部とイージス艦「みょうこう」は沖縄方面を厳重警戒中です。もう一つお知らせします。テロ行為をし得る進入部隊の山狩りについて、都道府県知事並びに各県警本部との連絡体制を構築中と昨日申上げたましたが、一元的に管理するため暫定的に大本営に直属した「治安統合連絡会議」を設置し議長に佐々淳之都知事を任命しております。これによって防衛・治安の一体化が図られ、より早く国民の安全が回復されるものと考えます。それでは佐々議長から。』
『急遽議長を拝命した佐々です。全警察総力を挙げての山狩りでの逮捕者は全くございません。ただこの画像をご覧ください。』
会見場に映し出されたのは山の中の景色だ。
『これは某県の山中のものです。鑑識の分析では24時間前には30人程度が潜伏していた形跡があります。毛髪・指紋・排泄物が確認されておりますが、人種、性別、年齢は明らかになっておりません。次の画像。このミニ・バンの車列は昨日東北自動車道で確認されたものです。ネットで寄せられたものですが、次のこの写真、もう一つ、すべて同じ車列でNシステムでもヒットしました。明らかに組織的な行動です。同様の事例は中国自動車道、中央自動車道でも確認されています。従って正体不明のテロリスト集団が既に都市部の繁華街周辺に潜伏している可能性、更には国内にこの集団を支援する団体が有り得るということです。治安連絡会議は仮にそのような事態があるとすれば、断固として破防法の適用を執行します。更に深刻なのはサイバー攻撃を受けていることです。磁気爆弾テロ後、防衛・治安・公安関係に被害が出ております。初めて明らかに致しますが、政府内部での連絡はすべてアナログ通信に切り替えました。国民の皆さんにおかれてもネットでのやり取りは非常に危険です。一両日中には現在の山狩り体制から、地下に潜ったと思われるテロリスト捜査に切り替えます。警察の総力はそちらに傾注しますが、治安は引き続き陸上自衛隊の協力の下大本営の指揮下にあるとお心得下さい。ご安心ください、私には遥か昔ではありますが、浅間山荘で連合赤軍と対峙した経験があります。』
あまりの迫力に質問は出ず、水を打ったように静まり返った。大本営発表以外ロクにニュース・ソースがなく、又唯一の情報元のネット・SNS等も危ない、となっては何が何だか誰も本当の事を知り得ない事態となる。いつのまにか不審集団はテロリストと呼ばれるようになり、国民は現金が底を尽きかけ、自衛隊は生活空間で可視化され、海も空も封鎖され、大本営の呼称は違和感がなくなった。おまけに海上自衛隊がヘリ搭載空母にF-35まで載せているとは、野党が活発な頃には大問題となりそうな話もなし崩し的に受け入れられてしまう。更に不思議な事に一人の犠牲者もいないのだった。
 新聞は情報を載せられず、論評も出来ず、テレビは娯楽番組(アニメ等)を流す以外することがなくなり、NHKは大本営発表に備え静止画に音楽を流し始めた。
 夕刊が出た。一紙は裏側が印刷されていない。ある紙は『首都 さながら戒厳令』と打った。又、『テロリストどこに消えた』とやったところもあった。更には『どこに行った政治家』の記事も出た。確かに情報もなく、官僚も寄って来ず、指揮する組織も無いチルドレン議員は衆参ともに何の役にも立たず、テレビにも呼ばれない。この非常事態に頼りにならない、とばかりに軽んじられるばかりだ。
 しかし、一般の日本人は別に大慌てでパニックに陥ることなく淡々と日常を過ごしていた。農村部に至っては、この騒動の影響が全く無いと言って良かった。度々の大災害の時と同様で、ましてや暴動など起きない。国民は緊張しつつも寝苦しい夜を過ごした。自主休業した都市部の繁華街はともかく、地方ともなるとさすがに客足は落ちたものの飲み屋は平然と営業していた。因みにプロ野球は全試合中止された。

四日目
 この日は6時に大本営発表が始まった。国民は固唾を飲んでNHKを見た。今回は石原本部長と佐々議長だけの発表だった。石原本部長がまず登壇する。
『おはようございます。私から申し上げるのは防衛作戦継続中ということだけです。』
こう言ってマイクを今は『車椅子の議長』となった佐々淳之議長にさっさと渡す(シャレじゃない)。
『まことに遺憾ながら山狩りの成果は全くありませんでしたので作戦終了しました。テロ部隊は既に都市部に移動していると断定しました。たったの四日でこうも機動力があるのは、ある種の軍事訓練を受けていることは間違いありません。本日よりは公安捜査中心に切り替え、具体的に言えば国民の皆さんの隣りに紛れ込んでいるテロ集団を摘発するローラー作戦になります。御協力をお願いします。特に滞在中の外国人等の方々、不快に思われれるかもしれません。ですが国家存亡の危機といっても大袈裟ではありませんですぞ。一時滞在中・長期滞在中・特別永住者等の皆さんは、積極的に協力をむしろお願い申し上げます。尚、関係各所の懸命な努力により、本日より株式・金融・公的機関を再開させます。ただ、空港及び海上の海外との出入国はまだです。当面は貿易閉鎖。失われたデジタル通信機能は徐々に回復しておりますが、万全ではありません。又、海外でもこの事態について報道がなされております。日本がテロに乗っ取られた、日本で革命が起こった、ひどいのは日本が侵略を始めた、と言ったような風評を流している形跡が確認されています。従って外国人記者クラブにて大本営からの正式発表を致します。本日の午前11時です。以上。』

 外国人記者クラブに詰めかけた報道陣の前に現れたのは、大本営報道官の村中大佐と名乗る軍人だった。流暢な英語で以下のような内容を伝えた。注)東京オリンピック時点で自衛隊の階級は旧軍の呼称が復活していた。
『日本版NSCの指揮の元、都市部に流入したと思われるテロ・ゲリラ部隊の摘発は順調とは言い難く、警察当局だけでは人手が足りません。従ってまず東京23区・名古屋市・大阪市・広島市・福岡市を封鎖し、自衛隊も動員させて大ローラー作戦を行います。首都圏をはじめ各地の高速道路出入り口は封鎖、一般道路にも交通を制限、各外国機関の出入り封鎖、宗教団体へも協力を願います。しかしこれは法令に基づく調査であって、対テロ封じであることをご理解されたし。12時を以て作戦開始。尚、報道は自由ですが捜査の邪魔になることは避けていただきたい。質問を多少受けます。』
『AP通信のライマンです。どの程度の期間になりますか。』
『できるだけ速やかに、としかお答えできない。』
『ワシントン・ポストのリューゲですが。どういった勢力の侵入と考えられますか。』
『全く分からない。敵対勢力なのかどうかも不明。』
『ロイターのマンソンジュと申します。指定された都市部以外への同様の作戦はありますか。』
『勿論だ。西へも東へも北へも南へも、日本中隈なくである。失礼。これより作戦行動に入ります。』
会場はざわついた。村中大佐の声が次第に高揚してくるのが画面を通じて国民に伝わった。

 午後から自衛隊の走行車両と兵員輸送車が轟音を上げながら現れた。首都圏に限っては実際には環状八号を、大阪地区は大阪環状線を、他地域も県庁所在地及び市庁舎を中心に、繁華街を囲み込んだ様だった。
 この時第二のテロが起こってしまった。
 テレビの全画面が砂嵐状になり、ラジオからは物凄いハウリングが溢れ出す。何がしかの電波ジャックが起きたらしい。国民は一瞬情報難民となったようだ。
 この間30分程、不思議な時間が過ぎた。どうも電波ジャックを受けたのは在京キー局のみだったようで、キー局配信の番組は写らなくなったが、地方のテレビ及びBS・CSは見られた。地上波も直に回復したが、その間唯一の情報共有手段となったネットに流言飛語が飛び交った。警告にも関わらず多くの人はSNSを使い、実際一部を除いては繋がりにくい程度の支障のため、不自由は感じていない。噂の類は様々で、都心で機関銃の乱射音が聞こえる、UFOの目撃情報が多数アップされる、某国が日本上陸の準備中だ、揚陸艦が接岸した、在日米軍が横田基地から逃げ出した・・・・。

 深夜、都内某所で声を潜めた会話が交わされた。
「なあ、テロだか何だか知らないけどあれだけ撃ち込んで来て一発も当たらないってよっぽど下手なのか。」
「死傷者ゼロのテロって何だろうな。」
「上陸部隊って何するんだろう。本土の実効支配ったって現実味ないよな。」
「オレたちこうして酒飲んでるもん。」
「そろそろ仕事しないとまずいぜ。」
「うん。」

つづく

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202X年の怪 (日本侵略される!)

202X年の怪 Ⅱ(戒厳令ではない!)

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