秋風に 汗まみれゴルフ地獄
2016 SEP 5 0:00:43 am by 西 牟呂雄

台風一過の高原には涼風が吹き始め、空はもう秋。喜寿庵では夜は涼しい。
遊びすぎて静かに休んでいたところ、あのゴルフ敵が再び挑戦してきた。正直チョット疲れていたので気が進まなかったが、口が裂けてもそんな事は言えない。
「オレの真似をした〝7番の転がし寄せ”は少しは上達したのか?」
「そっちこそピッチングのシャンクは克服できたのか?」
と罵り合って再び勝負することになってしまった。
雲は鱗雲で空は澄んでいるが日が照るとまだ熱い。こんな日に奴とゴルフなんて初めからやる気が湧かず、実にゴルフに失礼なこと夥しい。
清清しい朝の第一打は、こいつとでなければどんなに気落ちが良かったことだろう。既に闘いが始まっている、とばかりに条件を付けた。
「お前の言う通り、この夏必殺の7番転がしの技を磨いた。だから今日の寄せは全部7番を使う。その代わりお前は7番を封印してピッチングを使え」
「ああいいよ。全部サンドでもいいぜ」
ん?今日の奴は妙に口の利き方が丁寧だ、おかしい。
僕も奴もそこそこの出だしだった。
ただスプーンがダフり気味で、カチンッと飛んでいかない。しかしそれを補ったのが例の〝7番転がし寄せ″だ。運よくガード・バンカーにも掴まらなかったのでそこそこの所まで持っていける。
しかし、まぁ僕程度の腕ではコース真ん中の木に当てたりはする。するといつもは『おめでとう、木下さんに名前を変えろ』等といやがらせを言うアイツが『交通事故だな』等と慰めてくるではないか。
6番ホール。フェアウェイ・バンカーに打ち込んだ。
ハーフ・トップ気味に打ち出したいのだがなかなかできない、と思った途端モロにトップしてエッジにぶつかり出ない。もう一振り、出ない。カーッと頭に来てクリークで打ったらドダフリで出た。
ところがこの僕のジタバタにも奴は反応しない。いつもなら『砂遊びが好きなんだろ。ビーチにでも行け』の一言があったはずだ。
7番ホール。熱くなっていた時の悪い癖でグィーンとスライスしたボールが右の林に入った。散々苦労してやっとフェアウェイに出てくると奴は既にグリーンに到達するところでこちらを窺っている。ルール上は前には出てはいけないのだが2サムだしこいつとやる時は時間短縮のために打てるボールは打ってしまう。
ここでハッと気が付いた。奴はきっと僕のブログを読んだに違いない。そして長い修行の末にやっと辿り着いた秘密の呪文を体得したのだ。
『我に艱難辛苦を与えたまえ。敵に増長と慢心を与えたまえ』
そうでなければ、あのような落ち着いた態度でいられるはずがない。しまった。
僕は大きく深呼吸をしやっと自分を取り戻してゆっくりと構えた。無論ここまではメタ負けなのだが。
そして9番のショートに転機がやってきた。
185ヤードに乗らずに、セカンドもエッジ。そこで必殺の7番転がしが強めに転がった。ああっ大きいかとビビッたら、読み切れなかったアンジュレーションを上手く走ってガシャンとピンに当たった。チップインだ(パーだけど)。奴は渾身のパットを外してボギー。
「いやー、お見事な寄せだったな」
「そっちこそ惜しかったな」
何だかこれでは本当に紳士のスポーツみたいではないか。
それにしても熱い。全身グッショリなので着替える。
昼飯を食べながら慎重に相手の心の動きを探った。9番のおかげで握りはだいぶ稼いでいた。ビールを勧めるとにこやかに応じる、つられて僕もおかわりまでした。
昼のスタートからは我々にしては順調だった。3ホール程分けが続いて二つ続けて負け6ホール目で勝ち。残りが少なくなる。
チラチラと奴を見やると、このままではガッパリ取られることになるので明らかに狼狽しているのがわかった。
「なあ、そろそろ別列車走せないか」
ついに馬脚を現したな、この時を待っていた。
「オレはいいけど・・。そんなことやってるとゴルフが荒れるぜ」
と落ち着き払って言ってやった。
「何だと!握らなきゃ荒れないほどの腕だと思ってんのか」
いいぞ、こっちのペースだ。
「いやっ、握らんとはいってない。しょーがねーなー。じゃいつものエキストラでやるか」
バカめ。7番は打ち下ろし池越え、右が林、180ヤードの長めショートだ。一つ引導を渡してやろうとクリークを握った。アッ・・・・池・・・・。
奴は右の林、まだ戦える。しかし林と言っても奥はまばらで2オンのパー。こっちはダボ、いかん。
「ホー、やっぱり別立てをやると本当に〝荒れる”んだな」
「やかましい。次は倍付けにしろ」
こいつとはやっぱりこうでなくては。え?後二ホールはどうなったか?勿論逆転勝ちに決まってる(負けてたらブログに書かなかっただろう)。ゴルフ場に真っ赤な赤トンボがたくさん飛んでいた。結局二人はゴルフの高みの境地にはいまだに至らないのであった。まだ先は長い。
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Categories:和の心 喜寿庵
