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我が友 中村順一君を思う

2016 NOV 19 14:14:21 pm by 西牟呂 憲

 アッいう間に命日が来てしまった。
 僕の事務所から彼が最後に執務していたビルが見える。屋上までタバコを吸いに行くと思わずそっちを見てしまう。調度こちら側に面した一画がそうだったはずだ、一度遊びに行ったことがある。思えば出会いの時とお別れの寸前は声を掛ければ届くような距離にいた訳だ。
 そして恐ろしいことに途中もズッと近くで仕事をする可能性も実はあった。

 別々の学校に進学していたが付き合いは性懲りも無く続き、やがて就職の時期を迎える。彼はそれまでの言動から役所とか金融に進むだろうと思っていた。こちらはとてもそんなガラじゃない、銀行なんかとんでもないと初めから視野に無かった。
 しかし長年のチンピラ暮らしも就職ともなれば心機一転のチャンスだ。今度こそ真面目にやるんだ、と張り切った僕は後に奉職することになる固いメーカーを秘かに志望したのだった。
 何度も面接され、志望動機や仕事に対する考え方を必死に訴えたりして幹部面接に辿り着いた。
 オフィス内の広い部屋に志望の学生達が集められ、緊張しながら順番を待つ。随分優秀そうな学生達だなと些かゲンナリしたものの、同じ学年だろうと気を整えていたところに一人の学生がやや遅れて入ってきた。こいついい度胸してるな、と顔を見ると何と驚いたことに奴ではないか!『オッ』『・・・暫くだな』と目礼してみたものの落ち着かなくなった。
 確か僕の方が早く終わり奴を捕まえた。アノ時期集中的に会社訪問をする学生が真新しいリクルート・スーツでウロウロするのは大手町界隈の風物で、特に永代通りは別名『基幹産業通り』と言われていた。東京海上火災の訪問解禁日の前夜に徹夜の学生が並んだ頃の話だ。次の会社に行く方向が同じだったので二人で並んで歩いて話した。
「お前金融志望だったんじゃないのか。なんで来たんだ」
「ン?勧めてくれる先輩がいてね」
僕の心は瞬間、まさかコイツと同僚になるのじゃないだろうなと千々に乱れた。
「オイ。本気で来るんじゃないだろうな。俺はここを志望してるんだぞ」
「まァ縁があったらそうなるかも知れん」
ここで僕が致命的なミスを犯す。思わず言ってしまった。
「お願いです。止めて下さい」
すると奴はこちらの動揺を見透かしたかのように余裕の表情を浮かべ、少し顎を上げて目を合わせてきた。
「何しろ基幹産業だからのぅ」
「イヤッ、役所か金融の方がお似合いです。〇省でも△銀でも偉くなるでしょう。イヨッ次官!頭取!」
 勝負は一瞬にして決まった。絶対にしてはいけないこと、即ち奴にへり下ってしまい、うっかり丁寧語まで使った。
 考えてみればそれまでの十数年の腐れ縁が今後何十年も続くのは奴にしてもイヤに決まっているから、初めの時点では五分だったはずである。にも拘らず初動のミスで奴の方が優位に立ってしまったが後の祭。上から目線の奴に、
「コチラからそっちの領分には出て行きませんから。お願いですからコッチに来ないで下さい。」
 と必死に訴えたのだった。しかし奴は懇願する僕をせせら笑ってこう言い放った。
「風通しのいい素晴らしい会社だと思うがね」
 思わせぶりないやがらせを言った後、別れて次の訪問先に行ったのだった。

 結局奴は金融に行き同僚になることは無くなったので胸をなでおろしたが、もしそうなっていたらどうだったろうと想像を巡らす。
 奴のことだから本社の企画部門の幹部にでもなって戦略を巡らせたことだろう。そして僕はその実戦部隊に回り、最前線に飛び出していたのじゃないだろうか(実際そういう道を進んだ)。
 そうなった場合の会話を想像してみた。どっちが誰かは容易にわかるだろう。
「オイ、全く予算を達成できてないじゃないか。重大な問題である」
「ムチャ言うな。現場はこれが手一杯なんだ」
「しかしこの事業の立ち上がりの遅れは全体の経営計画の足を著しく引っ張ることになる」
「ウルサイ。その経営計画とやらはお前がテキトーに積み上げたもんだろう」
「テキトーじゃない。口を慎め。未達ともなれば戦略の見直しを求められることになるであろう」
「それじゃもっとマシな応援をよこせと言った時に何で賛成しなかった」
「応援派遣は人事の問題。コストも上がり収益も圧迫する」
「じゃお前が来てやってみせろ」
「そこを上手く何とかするのがお前の仕事である」
「これ以上は絶対に無理だ。」
「では死ね」
「よーし、お前の非を社長に訴えてその場で腹を切ってやる」
「バカ!ジンデン(二人の間では『死ね』を指す符丁)。面倒な事しないで一人で死ね。骨は拾ってやるから靖国で待っていろ」
「冗談じゃねえ、一人では死なん。お前も道連れにしてやる」

本当にこういう会話をしたような気になってしまった。
これからもあいつとはこうして対話を続けることになるだろう。

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