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わかったぞ 白隠禅師

2017 MAY 10 19:19:04 pm by 西 牟呂雄

 達磨大師の禅画で有名な臨済宗の高僧、白隠慧鶴(はくいん えかく)禅師は江戸時代・五代将軍の頃の名僧だ。それまでの禅の考案を体系化させて臨済宗の理論的流れを組み立てた。
 大変頭のいい人だったようで出家して諸国を行脚するが、誰と論争しても負けなかったらしい。しまいには『まあ、この五百年というもの我ほどの秀才はおるまい』と自信過剰になって慢心する。
 なにしろ『鐘の音を開いて悟りを開いた』、托鉢(たくはつ)に出て婆さんに竹ぼうきで追い払われて悟る、コオロギの音を聞いてまた悟る。生涯に三六回の悟りを開いたと言うほどで、ここまでくると『悟りオタク』だが、論理的思考の確かな人だったのだろう。
 ところが正受老人こと道鏡慧端という名僧の噂を聞き、信州にこれを訪ねるとボコボコにされてしまう。なにするものぞとまくしたてたところ「這?箇(しゃこ)は是汝の学得底(それはおまえがまなんだもの)。那箇(なこ)か是見性底(なにがお前の本質か)。」とやり込められて絶句する。それからというもの廊下から蹴落されたりしながら修行を積む。増長を叩き潰された。
 道鏡慧端はこれまた大変な人で、一説によれば真田の長男信之の落とし種とされる。禅僧に「自分の心の中に観音を見つけよ」と告げられてわずか16歳で悟りを得たとか。滅多に喋らなかった人で「終日咳喇不聞」とまで弟子に言われていた。そこへ自信満々の若造が乗り込んだのだからたまらない。
 白隠はハタと覚醒し、今まで本を読んで得た知識はいらんとばかりに蔵書を全部焼いたというから凄まじいというか勿体無いというか。
 白隠はその後修行のやり過ぎで禅病となってしまう。禅病とは座禅を組んで瞑想していると頭痛がしたり手足が冷たくなり具合が悪くなる。或いは今でいう鬱病のようになることを指していると思われる。面壁九年、禅宗の創始者である達磨大師のように手足が萎えるのかもしれない。
 ここから話は一気に怪しげになるが、京都洛外の山中に暮らす白幽子という仙人を訪ね禅病治療の「内観の秘法」を伝授されたと記している。
 白幽子は年齢200歳以上ということはともかく、墓碑も残っているのだが。
 白隠禅師がその秘法で修行僧を治療したのは事実で、一種の気功である。ただしそれを書き残したのは会ったとされる時から40年も経った後だ。髪は膝に届くほど伸び『中庸』『老子』『金剛般若経』の三冊を置いて端坐していたと。『中庸』『老子』『金剛経』を選んであったのが絶妙で、儒教・道教・仏教からそれぞれ最高の経典を持って来ている。”三冊”とかいうあたり実に怪しい。

 わかったぞ!若き頃に、オレほど頭のいいやつはいないと思うような人だ。いくら徳を積んだってチャメッ気まで無くなるはずはない。自分の考えた治療法に箔をつけるためにテキトーな仙人をでっち上げたに違いない。頭のいい人の考えそうなことだ。
(「内観の秘法」が書かれた更に50年後に『近世畸人伝』という書物が出され、白幽子自筆の文章の写しと墓碑を元に実在を記しているが案外白隠禅師自身の作り物じゃないか)

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