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矛盾を矛盾と感じるのは常識という感情

2017 JUL 1 12:12:15 pm by 西 牟呂雄

 さすがに高等数学には疎いが、今から50年も前に集合論で以下の命題が証明されている。
仮説A「ベラボーな集合とケチな集合の中間にあたる集合はある」
仮説B「ベラボーな集合とケチな集合の中間にあたる集合はない」
上記AとBは矛盾しない。
 お分かりだろうか。
 数学基礎論の技法を使って上記の二つの仮説を論理的な範囲内で絞り込んでいくとすっぽりと入れ代わってしまう。1963年にアメリカのポール・コーヘンが証明してみせたと、日本の大数学者である岡潔の著作で知った。どういう数式を組み立てるのかまでは知らないが。
 いくら理論的に証明されてもこれはチト困るのではないか。そして岡先生はこうおっしゃってる。
『知性の中だけで厳然として存在する数学は、考えることはできるかも知れないがやる気になれない。だから感情抜きでは、学問といえども成立しえない』
 思考を凝らして理論を打ち立てそれが証明されても『魂』が引き付けられなければそれは紙に書いたただの”式”ということだろうか。

 思いつきで『光速で移動している天体の”中”では時間は存在しない』という仮説を考えてみた。きっかけは光速の移動体から光線が出ても速度は光速以上にはならない、とされていることを考察していた時だ。
 何となく気になってわざわざ物理に詳しい人に確認してみる。すると、あっさりこう言われた。
『理論的にはその移動体の”中”では時間は”無い”が、質量のある移動体が光速で動く事はない』
 ふぅーん。こっちは仮定そのものが矛盾しているということか。上記岡先生のおっしゃるところの『知性の中だけに存在する数学』とはそういうことか。

 その文脈で解釈すると、今日に至るまで積み重ねてきた、例えは『神学』『哲学』『数学』のような形而上の大問題から社会科学の理論に至るまで、意味がないとか役に立たないとかまでは言わないが、興味の湧かない話には凡人は近づかない方が無難だ。
 高度に知的な議論であっても、あまねく人間の感情が満たされなければ凡百の(私のような)人間にとっては猫に小判ということか。
 例えば「自衛隊は違憲である」という判決が出て現実と矛盾しているところで、災害や(あるかもしれない)侵略が起こった際の必要性は自然と人々の理解するところで判決なんかどうでもいいと。
 偉い憲法学者センセイが違憲であるとまで言い切っても存在する事象は自衛隊だけではない。すると後生大事に崇め奉っている『憲法』を守らなくても罰則もなにもなく『理念の中だけに存在する理想』であって形而下にのみ日々暮らす罪深い(私のような)人々にとっては関係ない、これもマズいわ。

 例えば毛沢東は言っている。背景にある大きな矛盾「主要矛盾」に気付き、この主要矛盾に気付いて手を付けない限り、目の前の矛盾「従属矛盾」が解決されない、と。これは階級闘争を指導する為の『矛盾論』の一節だが、この場合の「主要矛盾」に挑戦した文化大革命は既に否定されている(中国の人、怒らないで。私が言ったんじゃない)。
 但し、この扇動的主張が理論的に矛盾していようがいまいが多くの人の熱狂を呼んだ事は、紅衛兵旋風を(見てはいないが)知っている者として腑に落ちる。
 日本も人のことは言えない。選挙でナントカ・チルドレンを大量に当選させたりしてしょっちゅう国益を損なっている。あれは感情をコントロールされてしまったと言えないか。その昔に無謀な戦争までしたこともある。

 世界は右傾化しているといわれるが、ナショナリズムもグローバリズムも個人の内面では矛盾無く同居する事は可能で、それは同時に企業といった組織でもありうる。どちらかが「侵略主義・覇権主義」で片方が「平和主義・協調主義」ということにはならない。右翼がナショナリストで左翼がグローバリストであるといった簡単な色分けなどできないのは昔からだ。
 アメリカ第一主義や英国のEU離脱でさえエマニュエル・トッドの言によれば「人口動態の変化」と「家族構成」で説明がつく(英国と大陸の家族構成の違い。アメリカの40~50代の白人人口の減)。
 別に右翼が理論的に進化したとも思えないから、一部扇動されたマスの部分に当たる連中が激しく反応してどこもかしこも分裂した結果ではないか。そもそも極端な主張は右翼でも左翼でも直ぐ分裂する。

 大げさなことを書き連ねたが、知性の中にのみ存在する理論を見いだすほどに鍛えてきた人間が、腑に落ちる話にのみ満足して扇動されるようでは早い話、知的部分を放棄したような忸怩たる想いがよぎる。
 (私程度の)一般人が理論的な矛盾に悶えるより手っ取り早い方法はないものか。

 こういうことを暫く考えていて一つだけ思い至った。それは実に当たり前のことで『歴史に学べ』『常識に従え』ではないのか。
 当たり前すぎて拍子抜けな上に、仲間内からしばしば『非常識』を指摘される私が言うと、その程度の話か、となるか。しかしそういう経験をしての今日であり、随分痛い目にも合ってきた。
 そうして多少なりとも身に付けた常識とは、どうやら困った事に反グローバルといったものになりそうなのだ。僕自身海外事業をいくつも手掛けたが、結局稼ぐためにやった、それだけのことなのだ。それはその事象によって品が良くなるとか心が豊かになるという話しではない。
 更に言えば「日本の常識は世界の非常識」と言い習わされているが、単に稼ぐというだけならそれなりのマナーさえ心掛ければ充分で、よその真似なんかする必要はないとさえ言える。日本の常識で充分だ。
 「常識」とは最低限社会を分裂させないための知識の蓄積だろう。海外で生活をするならともかく今後も日本で暮らし死んでいく者としては移民何千万人なんて言われると、成長しなくていいとさえ思える。これ今時はレイシスト扱いされますか。

 この話、変な方向に飛んでしまったので次稿に譲って「常識」とは何か、に挑戦してみたい。

3分後の世界は見えているのか


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Categories:アルツハルマゲドン

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