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ブログ・スペースを借りました キャッチャー・イン・ザ・ライ

2017 NOV 24 8:08:50 am by 西 牟呂雄

 僕は野球のチームに入れてもらいました。特に経験はないのですが他に知っているスポーツがあまりなく、何となくみんながやっているので入りたくなったのです。ユニホームも着てみたかったし。
 あの意地悪なニシムロさんが野球のチームを作っていて、慢性的にメンバーが不足しているから練習に来てみたら、と誘ってくれたのがきっかけです。全員素人だとか、ニシムロさんは外野手だそうです。チーム名は「ダーティー・ハリーズ」、変ですね。
 それで会費を振り込みユニホームをオーダーし、スパイクも買いグラブも新調してある土曜日に練習に行ってきました。
 夕方の集合だったのですが、行ってみるともう皆さん来ていて、慌てて着替えてキャッチボールをしている所に加わります。タダ一人の知り合いのニシムロさんに挨拶すると『オッ来たな。肩慣らししよう』と相手をしてくれました。
 ボ-ルを握るのも久しぶりでエイッと投げるとフヤーンと相手の人にまで届かない。そして気楽な事に誰もがそういった疲れた球を投げています。ヨシヨシ、あんまりレヴェルも高くなさそうで、これなら気後れしないな。
 暫くしてニシムロさんが声を掛けました。
「ヨーシ、集合」
 全部で10人が駆け足で集ってきます。
「紹介しよう。オレの友達のバラベだ。オイ、自己紹介しろよ」
「初めまして。本格的な野球はやったことなくてヘタですけど一生懸命やるんで宜しくお願いします」
 すると皆が拍手をもって迎えてくれました。いい人達です。
「それでポジションなんだけど、ウチはキャッチャーが辞めちゃったんだよ。せっかくグラブも買ったみたいだけどキャッチャーやってくれ。こいつがエースのシイノだ」
「えっ、捕手なんてやったことないし道具もないですよ」
「いいんだ。ボールさえ捕れれば。幸い辞めたやつがプロテクターもミットも全部置いてったからそれ使ってくれ。じゃあピッチングとバッティングに別れて練習しよう」
「バラベ君。じゃあマウンド行こうか」
「はい」
 初めてやる捕手というポジションはどう座ってやるのか。新しく飼ったグローブをミットに代えて恐るおそるしゃがんでみた。
「あははは、本当に初めてなんだね」
 シイノさんが呆れながらいろいろと教えてくれ、何とか格好はついて構えます。
するとフヤーンとした山なりの緩いボールを投げてくれる。オォ、捕れるではないか。これなら勤まる。ウキウキして30分ほどキャッチングをします。
「ヨーシ。バッテイングもやってみろ」
 ニシムロさんがキャッチャーを代わってくれて僕はバッター・ボックスに立ちます。充分に素振りをしていると『ああ、それじゃダメ』と言ってくれる人が側に来ました。ハナフサさんだそうです。
「握りはもっとこう。脇を締めてから振ってみて」
 親切だなあ、と思いつつ脇を締めてシイノさんのボールをひっぱたくとこれが芯に当たったのです。
「おいおい、凄い引っ張りだな。これは新戦力になる」
 ニシムロさんの声がかかって、力が入ってきました。
 それから試合形式の練習に移ります。全部で10人ですから一人づつバッターになって次の人に代わっていきます。ヒットが出ると塁に残るので、外野から順に守備が減っていくシステムでした。
「打ってごらん」
 何と満塁になって外野がいなくなった時にシイノさんから声が掛かりました。
「あたしが代わったげる」
 さっきからファーストを守っていた気になる風貌の人が走ってきたのですが、やけに長い髪だと思っていたら女性でした、ビックリ。イデイさんと言うその人がパッパとプロテクターを付けて僕は打席に。
 シイノさんの一段とふやけたボールをひっぱたくと、カンッという音とともに外野にまで転がって行きました。『マワレ、マワレ』の声と共に、外野がいないせいもあってランニング・ホームラン!皆が歓声と拍手をもって迎えてくれました。

 こんな軽い練習でいいのか、とも思いましたがいつもこの程度なので助かります。
 しかし僕は元気なのですが、他の人達は随分疲れていました。僕の体力なぞ知れたものなのに不思議です。
 ある日、練習が終わったらニシムロさんが集合をかけました。
「エート、久しぶりに例の試合を組むことになった」「オスッ」
 驚いたことに全員が声を揃えて『オス』だ。明らかに緊張感が違う。
「相手はあのホワイト・ドルフィンズだ。賭け金、罰金、報奨金はいつもの倍付け」「オスッ」
「じゃ、来週気合を入れて集合。一人も欠けるなよ」「オーッス」
解散しましたが、なんだか雲行きが変なのでニシムロさんに聞いてみます。
「賭け金って何ですか」
「ああ、言ってなかったな。オレ達のリーグ戦は一試合いくら、の賭け金をやり取りするんだ。遊びだから大した額じゃない。それから緊張感を持たせる為にエラーなんかに罰金を払うことにしているのさ。その分ホームランには報奨金とか出してインセンテイヴにもしてる。きょうの一発みたいなのを放ってせいぜい稼げ」
「アノー、スポーツでそんなことやっていいんでしょうか」
「遊びだよ」
そんなものでしょうか。

 試合の日が来ました。僕は緊張感に包まれつつも張り切ってグラウンドに1時間も早く着いてしまいました。
「オーッス」「オスッ」「オスッ」
 驚いたことに全員もう揃っていて練習をしています。すぐに着替えてキャッチボールに加わろうとするとニシムロさんが手招きしています。
「シイノがもう肩をつくったから球を受けてくれ。あと球種はストレートとフォークだから」
エッ、聞いてないよ。シイノさんだってフォークなんか僕に投げた事はありません。
「じゃあねえ、何もしないときはストレートでサインに首を振って拒否するフリをしたときにフォーク投げる事にしよう。それを変える回の時はベンチで言うから」
エッ、エッ、僕じゃなくてシイノさんが勝手に決めるの。それって・・・。
「構えて真ん中でしっかり捕って」
ズドーン!いきなり物凄いスピード・ボールが僕のキャッチャー・ミットに投げ込まれました!何なんだこれは!手がジーンと痺れました。
「次、フォーク行くよ」
ドッ・ボクッ。ボールはホームベースあたりでグッと沈んでバウンドし、僕は捕れずにプロテクターに当たった音です。凄い落差です、これでは捕れません。
「よーし、ミーティングやるぞ」
どうしよう、と慌てているとニシムロさんから声がかかり皆が円陣を組みました。
「今日の試合の賭け金は前回の二階建てになってるから〇〇万円だ。みんな張り切れよ」
「うぉーッス」
「それでダーティー・ハリーズ式罰金はいつもの通り。ヒット、ホームラン、ファインプレー、ピッチャーの奪三振はプラス。エラー、ゲッツー、三振アウトはマイナス査定。きょうのワン・ポイントは〇万円だな」
「うぉーッス」
 何を言っているのでしょう。分からないまま僕達の攻撃から試合が始まりました。
 ウワッ相手のピッチャーが凄く早いボールを投げます。これは・・・。
 ところが3番に入っているハナフサさんがガン!と跳ね返して猛烈な勢いで出塁しました。・・・何だか練習の時と違う。
 こんどは守備につきます。シイノさんは僕に関係なくバンバン投げてきます、アッ打たれた。
 次のバッターの二球目でシイノさんが首を振りました、これはフォークを投げてくる。ワァッ、ボールはガクンと落ちてホーム・ベースの前で跳ね、僕はこれをそらしてしまいました。マズイ。このすぐ後に二塁打を打たれ点を取られました。
 試合は進み、ダーティー・ハリーズは巧みに得点。しかし相手も追加点で6回になりました。その間僕はと言えばたびたび後逸したり悪送球したり、なにしろこんなに本格的に野球をやった事はないのですから。打席ではバットを振ることさえできずに見逃しの三振ばかり。
 ところが三振してベンチに帰るときにネクストのイデイさん(あの女性の選手です)がケラケラ笑いながらニシムロさんと話しているのが聞こえました。
「あの子また見逃しで罰金もう〇万円になったよ」
「まったくいいカモの晒しモンだよな」

 全てが分かりました。この試合の仕掛けが解けたのです。イジワルなニシムロさんは僕をだまして罰金をむしり取り、エラーと三振の山を築かせて笑いものにするために本当はヴェテラン揃いのチームに誘い試合を組んだのでしょう。
 そうか!他の9人で本格的な練習をして、その練習が終わった頃を僕に集合時間だと教えてクール・ダウンしていたんだ。だからあんなにダラダラしていたんだ。
 そして他のイデイさんやハナフサさん、シイノさんも一緒になって僕を騙していたに違いない。親切そうな顔までして・・・・。
 大のオトナが寄ってたかって僕を苛める為に時間とエネルギーを使っています。
 逃げ出した方がいいのでしょうか、でもそうすればもっと凄い罰金を取られるかもしれない。

 嘘だらけのチームで捕手をやらされているのです。これではキャッチャー・イン・ザ・ライです。だから僕は、再びニシムロさんのパスワードを解読してここにあの人の悪だくみを書きつけてあの人の悪意を告発する事にしました。
 皆さん!あのひどい人に騙されないで下さい!

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