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A sound mind in a sound body 健全なる精神は健全なる肉体に宿る

2018 OCT 26 20:20:10 pm by 西 牟呂雄

 週刊誌の藤原正彦氏が執筆する巻頭随筆で『健全なる精神は健全なる肉体に宿る』の原文は「A sound mind in a sound body」だと知った。どうも訳語とは違う流れの文章が原典のようである。
 僕はこの文言を懐かしく思い出した。
 今では信じられないであろうが、小児喘息だった僕は体が弱く、チビの頃はしょっちゅう熱を出したり気持ち悪くなって早退していた。
 無論勉強は遅れるし体育は見学する。あの体育の見学というのはやった人はわかるだろうが実に手持ち無沙汰で、しょうがないから一人で石を並べたりして退屈だった記憶がある、小学校の頃の話だ。
 その後喘息は治まったが、肺炎やら気管支炎、腎盂炎、あげくの果てに結膜炎だのモノモライをやりまくる。どうやら人並みに皆勤通学できるようになったのは中学になってから。ただ、いきなり目の前が暗ーくなってボヤッと意識が飛んで倒れる(本当にバタリ)貧血は成人するくらいまで続いた。あれはなるときは結構気持ちがいいのだが気が付くと息があがり物凄い頭痛がする。
 偉い人の話の中には、そうした状況でよく読書をしその後の人格形成に役立ったことが記されたりするが、僕の場合は漫画ばかり読んで全く人格は向上しない。まぁただのヒネたガキになった訳だが口は達者になった。
 そしてその頃には今から考えれば奇怪な会話を日常的にしていて、妙なオリジナルの惹句を作っては遊んだ。
 「僕はチボー家で言えばジャックなんだな」
 これでピンと来る人には敬意を表するが、恥ずかしながらロジェ・マルタン・デュ・ガールの原作を読み通せていない。長すぎる。18年もかけて発表された作品だ。
 そしてもう一つ。偉大な哲学者は結構病んでいることを知って冒頭の言葉を捻って編み出したのがこれだ。
 「健全なる精神はしばしば不健全な肉体に宿る」
 当然仲間からはバカにされた。
 おまけにその後、酒を覚えてからは心身共に不健全になってしまい、このセリフの真贋は極めようがなくなった。
 更に考えると作家や詩人はしばしば肉体は健全でも不健全な精神になるケースが少なくない。
 例えばヘミングウェイ。マッチョのイメージが強いが、鬱病っぽくなってショットガンで自殺。父親・弟・姉妹も自殺という最初からおかしかった家系なのか。
 本邦も自殺・心中には事欠かないのはご案内の通り。芥川・太宰・三島・川端とヤバい筋が並ぶ。
 僕が日本の良識だと思っていた江藤淳の自殺には本当にびっくりした。体調悪化と愛妻を亡くした絶望感からと言われたが、あんなにバランスのいい(右よりではあるが)人が。
 一方作曲家の方は飲酒の逸話が多い。リスト、ブラームス、シューベルト等は酔っ払っては恥ずかしい行いをしたことが記録に残っている。モーツァルトにいたってはそれどころではない。ワーグナーは麻薬だったか。
 してみると惹句は正しくはこうではないか。
 「不健全な精神は美しい作品を生み出す」

 話は変わるが、肉体を鍛え上げているアスリートが健全な精神を保っているかどうかも微妙な問題である。現役の時はそれなりに節制するのだろうが、引退した途端にヤバいことに手を染めた輩は枚挙に暇がない。最近では指導者の道に進んで騒ぎを引き起こした例がアメフト、ボクシング、体操、シャブをキメた野球OB・・・・。これらは肉体だけではなく脳みそまでを鍛えすぎて、モノを考える機能に障害を起こしたかもしれない。
 一般論ではないが、”天才”プレイヤーは、やや”天然”の域に達するとバランスが良くなって”健全な精神”を保つように見える。一流と二流の違いだとも言えよう。
 そう思えたのは先日の大坂なおみが優勝した際の純情極まりない一筋の涙を見たからである。試合は色々あったのだが彼女の素直なメンタルはそのまま伝わり、あの自然体にはアメリカ中が参ったはずだ。この健全ぶりは、例えば長嶋茂雄がそうだった。我がファイターズで言えば新庄がそうだった。あの人は本当に何も考えていないで好き勝手やって、バリ島に移住して絵描きになったところが凄い(稼いだ金はどこかに行ってしまったらしいが)。
 それに対して二流所はどうしても心に奢り高ぶりが感じられる、謙虚さがない。そこで妙に偉そうに振る舞ったりして引退後に墓穴を掘ってしまう。故星野仙一の自称「超二流」というのがあったが、こういう謙虚さが大事なのだろう、引退後もいい仕事をした。
 
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Categories:言葉

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