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2030年 AIを制御する日本 

2019 APR 11 6:06:39 am by 西 牟呂雄

 AIがとっくに人間の脳力を越えてしまい、人間が発する質問に即答できるようになってもう10年経った。
 AI機能搭載のケータイの普及率は先進国で成人の100%近くになり、個人が持ち歩く対話型が主流になっている、2030年の話である。
 しかしこの10年間、AIは加速度的に機能をアップしてしまったために、むしろ使う側だった人間が深刻な問題に直面してきた。
 一例を挙げよう。
「人間は何のために生きているのか」といった誠に純粋な質問に対して、優れたAIは「子孫を残すため」と答えてしまう。
 これは先進国では社会的に大問題となった。すなわちLGBTの人々やお子さんに恵まれなかったご夫婦への差別と受け取られかねない回答をサラッとしてしまう。或いは、恋愛関係の相談事の長い話を聞くだけ聞いて「その人はあなたを大事ににするつもりはサラサラなさそうです」と当たり前の結論を言い渡すだけ。絶望して、これからどうしたらいいのか、等と質問しても「そのまま目の前のことを一生懸命やりなさい」だけ。将来を絶望して落ち込む年寄りや若者が巷に溢れ、世の中は沈滞してしまったのだ。
 ただし、本格的にウツ病になったりパニック・シンドロームに陥ると、その時点で治療の必要が感知されて、尋ねられたAIの治療プログラムが作動し、丁寧に話も聞きアドバイスもし投薬まで処方してくれるから問題はない。問題はそこに至る前の段階である。
 大昔から人間は多かれ少なかれ悩みを持つもので、これまた大昔からその都度自分で諦めてみたりふてくされたり怒ったり、或いは嘆き、月並みな言い方ではオトナになると解釈されてきた。
 それがそうなる前に簡単にダメ出しされて無気力になってしまう人が多くなり、上記の停滞感が世の中を覆う。
 投票率は10%程度から上がることは無く、生産性はガタ落ち、人々は無能になるばかり。文化と民主主義の終わりとまで危惧された。 
 この10年のAI(特にこの稿ではディープ・ラーニング型認識機能)は社会統制型、即ち中国式の認識AIと、民間アドバタイジング型、GAFAのようなアメリカ式に大別されて発展した。しかしどちらも人権問題を内包しつつ、前述の社会的な退廃を招いている。
 かくして中国では返って格差を拡大させ、各地の反乱のおさえが利かなくなり、アメリカでは銃の乱射事件が後を絶たず、人種間対立は深刻化した。また、EUはほぼその機能を失い移民迫害に歯止めがかから無い有様となる。

 ところが、先進国で日本だけはそうならなかった。 
 実はカラクリがあって日本はAI活用の軸を劇的に変えて、AIそのものをベーシック・アセットとして国民に与える事によって開放し、それによるデータもプライバシーを総括する高度な機密性を持つ情報省でストックすることにした。

2025年 AIを国民のベーシック・アセットに


 日本人は、上からの管理ではなく、草の根の自主管理になるようなAIソフトを初めから持たされているのだ。
 犯罪に関しては、2021年に個人データの寡占が独禁法に触れる問題が大きくなったのため、情報吸い上げの際に個人が特定できないようにする、という建前を法制化しつつ、全国民の大きな流れを掴み危機を封じ込める、即ちユングのいう共同体の意識を汲み取る目的で、危機管理をすることにした。変態であろうがサディストであろうが、ゲイであろうがはばかることなく趣味を持つのは自由。ただし臨界点を超えるレベルの情報だけを掬い取る仕組みだ。
 その上で、国民に支給するAIには秘かにアルゴリズムが組み込まれ、嘘をつかせていたのである。
 この”嘘”とは白を黒と言い換えるような露骨な嘘っ八ではなく、質問の深刻度に沿って曖昧さを持たせる回答が組み込まれている日本オリジナルのAI機能である。分かり易く言えば、一神教的な世界での”嘘”は神様に対する強烈な背信だが、日本には八百万も神がいるために背徳感はない。
 例えば冒頭の質問にしても、相手に合わせて『あなたはそれを考える為に生まれた』とか『その答えは生き抜いた末に分かる事になっている』というように、どうでもよいデタラメを用意して、チューニングしてしまう。恋愛関連は『すぐ後にもっと素晴らしい恋があることになっている』という嘘を回答する。
 どうやら従来あった”おみくじ”とか”禅問答”といった文化を下地にアルゴリズムに組み込んだものと思われるが、全て翻訳不可能な”嘘”ではある。

 かくして日本のみは社会が安定し順調な経済環境を保っている為、世界中が日本モデルを導入しようと盛んにアプローチしてきている。

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Categories:202X年の怪

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