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風と波と潮と

2019 MAY 5 7:07:20 am by 西 牟呂雄

 船に乗るという行為は、果たして行先がない場合は何の意味もないのだろうか。『フライング・ダッチマン』という幽霊船の伝説はワグナーのオペラにまでなって人口に膾炙しているが、永遠に港に入らない航海があったら乗る人は・・・。
 阿川弘之のクルーズエッセイに(大金持ちの未亡人かと思われる)乗船したきりズーッと乗り続けて降りない人の話を読んだ覚えがあるが、そういう人が何かの拍子に亡くなったら水葬してもらえるかな、タダで。
 僕は島影も海岸線も見えないクルージングは、ヨットで最長3昼夜までだ。それでも陸が見えた時はホッとした気分になった。八丈島への航海では御蔵島と八丈島の間でしばらく島影はなく、黒潮の北上に押されて時間はけっこうかかるが距離は約75kmでしかない。

 連休の海は、いつもナラエの(北東の)凄い風が吹くので迷ったが、久しぶりに海に行った。雨である。三々五々とクルーが集まって来るが船を下ろして舫った時点でこの日は出ないことに決定。夜はゴーンと冷えてガタガタしながら寝た。

あっ 雪が

 翌日、寒い。
 防寒具を着込んだ他の僚船が次々と出港するのでもう後に引けなくなった。
 で、油壷湾をでると、真っ白に雪化粧した富士山までクッキリと見えた。夕べ降雪があったのだ。
 風はと言えば南の微風だ、しめたっと針路を東に向けて城ケ島大橋をくぐる。
 ところが東京湾に入った途端に天気は一変した。おそらく低気圧が抜けてしまったのだろう、白波が立つほどの北東の風に変わった。
 貨物船は10連休も関係ないからデカい船も通る。意外と速い上にウェーキもきつい。バシャバシャと被りながら南総の港を目指した。
 横浜の方からけっこうヨットが上って来る。急がないと船が着けられないぞ。
 浮桟橋の船溜りに、あー寒かった、と舫って一服していたら40フィートくらいのデカい奴が入り込んで来た。オジイちゃんが3人で操船していたが港の奥まで行ってターンしてきた。それが結構なスロットルでスーッと向かい側のプレジャー・ボートに寄って行ったかと思ったら、そのままの勢いでダーンと当てた、何だあれは。一人がスターンの方に駆けよるのだが、謝るのが先だろう。当てられた方は行き足が止まらずその前の船にも突っ込みそうになったが止まった。慌てた慌てた。
 ところがその当てた方はそのままアスターンをかけて、クルリと向きを変えるとまた港の奥の方にウロウロし出した。あれ、まさか側に来て横抱きさせてくれなんて言われたらイヤだぜ、と見ていると錨を下ろして停泊するではないか、何だコイツ等。
 ボートが向かって、何かの話がついたようだった。そしてその船は出て行く。どうなってんだ。保険で修理させるだろうが、出際にペコペコするぐらいでいいのか。

 夜、近くのスーパーでその日に釣れたような鰯や鯖を買ってきて船の上で焼いて食べた。昼間見た事故の話になったのだが、あの船は(無論名前を見た)今後南総・相模湾・伊豆七島のどこの港でも相手にされないだろう、という結論になった。こういう噂は足が速い。例えば

山崎豊子さんの取材力


 すると(まぁ入港はできるにしても)その港では他の船の冷たい視線を浴びるはずだ。海を愛する人間だったら耐えられないだろうに、あいつ等は平気かな。

 その晩、昔港にいた海にしか生きられない、岡では生きていけないオッサンの思い出話に花が咲いた。

海の上の人生 ホントかよ

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Categories:ヨット

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