Sonar Members Club No.36

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友達ができた

2020 SEP 29 8:08:03 am by 西 牟呂雄

 かねてからブログにも書いているが、僕はもう積極的に友人を増やそうとはしていないし、そういう機会は極力避けている。ただ、偶然知りあって仲良くなるのを拒むほど偏屈でもない。
 そもそも学校に通ったり就職したりして嫌でも顔見知りになる人数は何千人にもなるが、1人の人間が長く親しむのは常に百人を超えないのではなかろうか。チーム・メイトもクラス・メイトも同僚も、環境が変わってもそのうち何年かに一度会うくらいになっていき、前期高齢者になる頃はレパートリーは減る。
 親族は年上から減っていくのは仕方が無いが、決行結婚やらお目出たやらで総数は一定、むしろ少子化の趨勢でこちらも冠婚葬祭は減少気味といった感じ。
 うまくしたもので、こちらもしょっちゅう飲み歩くのが辛くなってくるし、今更そういう機会を増やすこともなかろう。例外は子供のトモダチができるケースかな。ところが喜寿庵で月に一回集って御飯を作って食べる北富士総合大学の学生さん達との交流も、このコロナ騒ぎで途絶えたまま。

先生とレイモンド君

 などと喜寿庵で思いを巡らせていたら、やはり現れた。ヒョッコリ先生だ。それが驚いたことに赤ん坊を抱いている。
「やあやあやあやあ。元気かね」
「きょうはペットのピッコロやマリリンは一緒じゃないんですか」
(注;以前は同じ名前の男の子と妹を連れていたはずなのだが)
「うん。いやこの子が一緒だから置いてきた」
「お孫さんですか、この子」
「名前はレイモンド君。孫どころか曾孫じゃ」
「(なんだ、家族がいたのか)わぁ、かわいいですね。レイモンドちゃーん」
「うーぎゅ~~」
「早速なんだがね、きょう一日この子預かってくれんか」
「(またとんでもないことを)はぁ~」
「この子の親は今ミャンマーに行ってて、それでしばらくワシのところにいるんだけど、色々とローテーションの都合で月に一日くらい手が足りないんだ。キミは信用できると見込んでの頼みだからよろしく頼むよ」
「(また勝手なことを、前はことわりも無くバーベキューをやってたな)それは・・・今僕一人なんですよ。泣いたりしたらどうしようもないでしょう」
「キミィ!人の親だろう。何とかしなさい。赤ん坊には喜怒哀楽のうち『喜』と『怒』しかないことぐらい知ってるだろ。泣くときは怒っていてできることはおしめを代えるかミルクを飲ませること」
 と言っておしめとキャップ装着型の缶ミルクをいくつか出してテーブルに並べた。
「ホラホラ、おじさんが遊んでくれるよ」
 と言いながら赤ちゃんを僕に抱っこさせるのだ。

先生撮影 笑ってる

 レイモンド君はギューッとしがみついてきた。何だか安全を確かめているようでこちらもヒシッと抱きとめてしまった。
「それじゃよろしく」
「(まだ、わかりましたと言ってないだろう)チョット待ってください。ちゃんと迎えに来てくれるんでしょうね」
「きょうの夜までには来るから心配しなくていいよ」
 と言ってスタスタ出て行った、おいおいおいおい。あと10時間もあるじゃないか。
 取り合えずこのまま抱っこしていたが、この子重い。しかもしがみつくだけじゃなくてTシャツの袖を噛んでいる。仕方なく畳に座布団を敷いて寝かした途端に『ふんぎゃ~』と大声で泣き出した、怒ってるのか。すると見る見る大粒の涙が頬を伝わっているではないか。ヤバイ、と早速おしめを代えようと脱がそうとするが、そっくり返ってどうにもならない。もう一度抱っこしたら泣き止んだ。参ったな。
 しばらく家の中をウロウロしてみると機嫌が直った。いくら赤ちゃんでも環境が変わったのは気になるのだろう、キョロキョロと天井を見上げたり、家具を触ろうとする。不思議なものでこちらも『それは電気スタンドだよ』とか『ここはお風呂なんだ』と話しかける。すると姿見の前で『ア~ア~』とか反応を示した。
「レイモンド君、これは鏡でレイモンド君が映ってるんだヨ」
 と教えてあげた。どうも鏡の向こうにも現実の世界があると思ったらしく、一生懸命手を伸ばしているのでその前で遊んでみた。不思議そうに触ってみている。

鏡で遊んでる

 と、いきなり鏡の向こうに行こうとしてガンッと頭をぶつけまた『ふんぎゃ~』と泣き出してしまった。だが今回はすぐに立ち直って嬉しそうに、かつ真剣な顔で触ったり叩いたりしはじめた。
 その後、本当にお腹がすいたらしく例のミルクを飲んだり、しがみ付きながら寝たり。目が覚めると仰向けのまま足の指を咥えるという離れ技までしてみせた。慌てて検索すると『生後半年くらいの赤ちゃんは足が自分の身体の一部だということがわかる』のだそうだ。ちなみに赤ちゃんがしがみついたまま寝ると、体温の高さで二人とも汗だくになる。
 それから暗くなるまで庭に出たり僕が昔使っていたオモチャ(なぜか押入れにあった)で遊んだりして過ごした。まだハイハイもできないのにオモチャをいじったり鏡で遊ぶのは実に楽しそうで、思い通りにならないと考えている。

寝てくれた

 午後7時、先生が迎えにやってきた。何だ酔っ払ってるじゃないか。乳母車を押してきた。
「やあやあやあ、どうもありがとう。いい子にしてたかい」
「(いい子もクソもないだろ、赤ん坊なんだから)まぁ、こんなもんでしょうね。よく泣きよく遊びよく飲んでよく寝ました」
「そうかそうか。あのね、また時々頼んでいいかな」
「(そらきた。図々しいにも程があるだろうに)もちろんですよ。いつですか今度は」
「それがワシも色々忙しくてね。予定は立たないんだが、再来月くらいかな」
「(嘘つけ、ヒマなくせに)事前に言ってくれないといないかもしれませんよ。僕も仕事があるし」
「まっ、その時はその時。ほら、帰るよ」
 レイモンド君を乳母車に乗せてあげた。何だか心なしか眼差しが淋しそうに見える。
「じゃあね、また遊ぼうね」
 先生とともに帰っていった。
 何が、赤ん坊には『喜』と『怒』しかない、だ。ちゃんと『哀』も『楽』もあるじゃないか。僕とレイモンド君はトモダチになったのだ。早くまた来ないかな。

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Categories:和の心 喜寿庵

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