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モデルナ戦記

2022 FEB 19 0:00:17 am by 西 牟呂雄

 3回目のワクチンを打った。前2回はファイザーだった。諸説あってそのままファイザーで行くかモデルナにするか迷ったが、ファイザーの方は予約が一月先になりそうだったので思い切ってモデルナでハイブリッド型を選択した。
 前2回とも腕の痛みも熱も出ず、どうってことなかった。今回もどうせそうさ、とホイホイ打ったのだ。
 会場で問診を受ける。
「アレルギーはありますか」
「ありません」
「服用中の薬は」
「××〇◎▽を服用してます」
「アルコールは大丈夫ですか」
「毎晩やってます」
「そうじゃなくて、消毒用のアルコールに被れたりしたことはありますか」
「全然ありません」
「ハイハイ」
チクッ、イテっ、でおしまい。今日はお風呂と酒はダメらしい。
 夜になって少し腕が痛いような気がしたが、まあいいや。
 翌朝、何事もなく目覚める。二日酔いもないしきょうも元気だ、タバコがうまい。
 ところが昼過ぎ、突然異変が起こった。首筋を風で冷やされた感じ。ヤバい!
 大事を取ってテレワークをしていたので慌てて体温を測ると38度。しまった、ナメていた。急いでスキーのインナーに着替え、タートルのセーターを着込む。まだ寒い、ジャケットも羽織りまるでゲレンデに立つようないで立ちに身を固めた。
 そういえば昨日『水分を多目に取って』とアドバイスされたのを思い出し、お茶のペット・ボトルをガブ飲みする。食欲はない。
 夕方、日が落ちてくると寒さが厳しくなったような、体温は同じだ。
 ここで僕は気合を入れる。司令官の僕(すなわち脳)から体の各部部隊長に総攻撃態勢を伝達することにした。

脳「各部隊長集合せよ。訓示を達する」
 神経を通じて前線から部隊長たちがやってきた。
「これより我が軍は総攻撃をかける。目下の苦戦は敵ウィルスを撃退すべくm-RNA作戦を展開中であるが、ここが戦いの分岐点である。各隊、『抗体』の防衛線が構築されるまであと少しの辛抱だ。勝利を信じて全力を上げるべし」
「隊長」
「何だ。腕少佐」
「我が部隊は昨日の左翼からの攻撃により消耗著しく、目下痛みに耐えるのが精一杯であります」
「それは織り込み済みである。残存兵力を率いて右展開せよ」
「隊長」
「腎臓少佐か」
「揮下、膀胱小隊も隊長の『お茶がぶ飲み作戦』遂行中につき疲労著しく、戦闘継続不能ー」
「却下。引き続き戦闘に従事せよ。もういいか」
「隊長ー」
「何だお前達まで。肝臓・膵臓両少佐。何か不満か」
「わが部隊は連日のアルコール攻めに壊滅寸前であります」
「分かっておる。大腸隊を見てみろ。癌攻撃も癒えていないのに健闘しているではないか。最後まで戦ってくれ」
 戦闘はその後も続き、火ぶたが切られてから8時間を経過した。もはや限界と言えよう。私は決断した。
「参謀長。小脳参謀長」
「はっ」
「戦局我に利在らず。最後の突撃を命ずる」
「お待ちください。友軍は現在も奮闘中です」
「時間の無駄だ。最後の突撃を決行する」
「隊長。早まってはいけません。何をなさるおつもりですか」
「小官自ら禁断の『びいる弾』を使用し、特攻突撃をする。全軍に通達せよ」
 現場からは悲鳴が上がった。特に肝臓少佐は『一命に代えても踏み止まっていただきます』と意見具申してきたが無視した。
「食道・胃・十二指腸・小腸の部隊の損傷はなお一層苛烈なものとなることを覚悟せよ」
「隊長ー。おやめくださいー」
「すでに大命は下った。諸君、靖国で待つ。突撃にー、前へー」
 号令とともにプシュッという音がして缶式びいる弾が発射された。

 翌朝、我が部隊は何故か何事もなかったように配置についまま目覚めた。戦闘は終了し、我が軍はかろうじて戦線を維持、即ち勝利した。私の脳裏にはその喜びは湧かず、軽い頭痛が残った。待てよ、若干の吐き気もある。戦闘の後遺症か、そういえば缶式ビイル弾に加えて焼酎ナパームも投入したのだった。人、これを二日酔いと言う。

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Categories:アルツハルマゲドン

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