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ウクライナのスナイパー

2022 MAR 21 0:00:14 am by 西 牟呂雄

 別に戦争を煽るつもりはなく、ひたすら停戦・平和を祈っております。
 アンドレイ・スコベツキー少将
 セルゲイ・ポロフニャ大佐
 アンドレイ・コレスニコフ少将
 ビタリー・ゲラシモフ少将
 オレグ・ミトヤエフ少将
 いずれも今回の侵攻で戦死したロシア軍の高官である。侵攻とそれに至る国家の意思は邪悪かつ憎むべきものだが、戦死された人を嘲る気にはなれない。
 オシントから拾っただけで5人にも上る将官の戦士は、狙撃によるものと言われている。狙撃、すなわち遠距離からの高性能ライフルで仕留められた。
 通常このクラスの指揮官が最前線のコンバット・ゾーンに行くことは考えにくいが、そうせざるを得なかったのか、或いはウクライナのスナイパーがそこまで肉薄したのか。ちなみに先日閉幕した北京パラリンピックにおいて、ウクライナに最初の金メダルをもたらしたのはバイアスロン。ノルディック・スキーと射撃を組み合わせた競技だ。この国の射撃は伝統があるのだ。

リュドミラ・パブリチャンコ

 その昔、独ソ戦の時代に赤軍には2000人もの女性スナイパーがいた。
 その中でも飛び抜けて成果を上げた伝説の兵士がいた。リュドミラ・パヴリチェンコ少佐、その名の示す通りキエフ出身のウクライナ人女性である(~~~ンコとつくのは~~の子というウクライナ語)。
 若いころから競技としての射撃に打ち込み、キエフ大学に進学した頃に戦争が始まると狙撃手に志願する。トカレフを手に擬装を纏って長時間潜伏し、進軍した敵を背後から狙撃した、成功は数百人。
 連日ウクライナの士気の高さが報道される。女性もどんどん志願しているが、パブリチェンコの伝統を受け継ぐ人々だろう。
 彼女は戦場からは無事に帰れたのだが、赤軍の英雄として没後の遺体は皮肉にも現在ウクライナを侵攻しているロシアの首都、モスクワのノヴォヂヴィシエ墓地に埋葬された。
 狙撃手は敵中に孤立するケースが多く、2000人の女性スナイパーで生還できたのは1/4に満たない。リーザ・ミロノヴァ、モスクワ出身。ニーナ・ペトロヴァ、狙撃教官から48才で義勇軍に志願。アリヤ・モルダグロヴァ、カザフスタン出身18歳。ローザ・シャーニナ、入隊前は保母さん。いずれも名を成した狙撃手だったが戦死した。

 鮮やかに基地を叩いたロシア軍だったが、プーチンに上っていた情報の精度が悪すぎたのか、当初の戦争設計は成り立っていない。ロシアはその後の個別戦闘で押し込んだがそれで済むと思っていたのか。分割・傀儡政権、どちらのケースもウクライナ人の中に残り続ける憎しみを消すことはできず、仮にあの広い国土を占領するとしても今展開している以上の兵力を割けない。ロシア陸軍の常備兵力は27万人と聞く、半分以上を突っ込んでいてあれだ。
 このままでは長引けば長引くほど勝てなくなる。ウクライナはチェチェンやジョージアとは違う、どうやって統治するつもりだったのか。破れかぶれで核を使ってしまえば、(小型の限定核を無人の荒野に使うのだろうが)永久にロシアは破綻する。中国も態度を変える。
 偽旗作戦(false flag tactics)も既に見破られ、情報戦でも押され気味、サイバー戦もどうやら効果は限定的に見える。
 帝国陸軍が大陸で、アメリカがベトナムで、ソ連がアフガンで経験したことをプーチンが学んでいるとすれば、そろそろ国内に向けて恰好のつく落し所の結果を交渉するはずだ。

 待てよ。こうまで無理筋の戦争をプーチンが仕掛けた要因について、いかにもと言える合理的なものがない。真珠湾をやっちまった裏にハル・ノートがあったのだが、アメリカ人でその存在を知る者は皆無。我々の知らないハル・ノートをプーチンに突き付けた陰謀はないのか。
 例えばアメリカの圧力を受けたくない某国がNATOをそそのかし、ウクライナに核が配備されたとプーチンに吹き込んだ。或いは中国を追い詰めるためにウクライナのNATO入りを煽ってプーチンを切れさせ習近平に踏み絵を迫る。・・・・あんまりふざけてると顰蹙だから止めておく。

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Categories:ロシア残照

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