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初々しい染五郎さん

2022 JUL 1 0:00:29 am by 西 牟呂雄

 高麗屋三代揃っての襲名により晴れて市川染五郎(8代目)となり、今年の大河ドラマで朝日将軍木曽義仲の嫡男、清水冠者義高を演じて話題となった。
 さてさていかなる舞台だろうか。何しろコロナのおかげできっかり2年ぶりの歌舞伎座である。思えばずいぶんのご無沙汰なんだが、我ら前期高齢者は4回目のワクチン摂取も始まるし、いい加減下火にもなったし、染五郎さんが演じるならエーイ行っちまえ、となりました。
 その染五郎さん、大変なイケメンでこりゃ遊びもお盛んだろうと期待していたら、今年通っていた青学の高等部を中退したとか、いいですね~。あたしゃ役者が悪さしようが何しようが一向に構わない。この業界の先輩たちの行儀の悪さはハンパないから『芸に精進するため』なんて小理屈はいらない。舞台に出て遊び倒してたら学校の勉強どころじゃねえ、で充分。
 着いてみると佇まいは歌舞伎座なのだが、満席にならないように空いている(売り出されなかった)席が二席ごとに設けられ、場内には『大向(舞台に オトワヤ!とか掛ける合いの手)禁止』などと書かれ、お弁当を食べる吉兆は閉まり、3階の喫煙所も使用禁止。まだコロナ前には戻っていないことを実感させられた。
 それでも髪をセットしたハッとする程の奇麗どころが粋な和服を着こなしていたり、それなりの華やかさはあり、やっぱりお江戸はこうでなくちゃいけねーや。

 出し物は徳川家康の長男ながら信長により切腹させられる『信康』です。
 出てきた出てきた、妖気を漂わせながらの登場は待ってましたぁ。
 役者にしては今風の小顔で背も高い。キビキビとした動きに十分な間。
 そしてこの家系の難である声が、まだ若いのでくぐもらないところ、いいですねぇ。高麗屋ぁ、っと大向こうはいけませんでした。
 さて、お家のために謀反の嫌疑をかけられて親子の情を断ち切って切腹して果てるのですが、史実はどうかというとよくわからない。
 家康はこの信康や秀吉に養子にやったりした次男の秀康にどうも冷たい。この若いころにできた子供には徳川を名乗らせていない。信康は通称岡崎信康の後、死して松平信康。秀康にいたっては羽柴三河守秀康の次は結城秀康、のちに越前松平となる有様。信康は若くして死んだので資料が少ないが、勇猛果敢な武者振りとも伝わるし、秀康も天下無双の槍の使い手で将軍候補にも挙がった。戦国時代の親子の情は今日では測りがたいのである。

名槍物語

 ところで歌舞伎見物の醍醐味に、新たな贔屓の役者を掘り出すことがある。今回はいましたねぇ、いいのが(まるで女衒の台詞だが)。女形で信康の正室徳姫をやった高砂屋中村莟玉(かんぎょく)さん。
 どうです、玉三郎さんや雀右衛門さんもきれいですけどこの人、今風なところが一味違う。
 染五郎さんもそうですが、この頃の役者さんは小顔なので見た目がこぎれい(ただ舞台ではデカい顔の方が化粧映えする場合も)なんですな。
 
 一般家庭の出身ですが、お母さまが歌舞伎好きで子供のころから見ていたそうだ。この辺、筆者と似ている。
 ある時、新橋演舞場のロビーで「切られ与三郎」の真似をしていたところを花柳福邑に声をかけられ、中村梅玉を紹介され見習いとして楽屋に通いだす。筋がよかったのでしょう、その後梅玉と養子縁組した。
 筆者も至る所で歌舞伎の口上の物真似をしているが(玉三郎の真似なんか結構受ける)、トンとそういった機会に恵まれたことは、ない。何故だ。

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Categories:古典

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