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喜寿庵の異変 Ⅲ

2022 AUG 20 9:09:33 am by 西 牟呂雄

 暑い。渓谷沿いの喜寿庵も暑い。
 長年愛でていた楓の銘木『滝山』も枯れた。とても寂しいがこれはもはや天変地異の前触れではないのか。

ここに立っていた

 すると、だ。この庭先に何と鹿が姿を現した。
 峻険な崖を登って来たのだろう。一瞬、何がいるのかわからず、スマホを手にすることもできなかった。
 以前、やはり桂川を超えて猿の一家が出没したことがあって、姿は可愛かったが近くによると野生の闘争心丸出しで、エア・ガンで武装した。鹿はどうか。

トコトコ歩いて

 どうも大型犬くらいの大きさだから小鹿なのだろう。
 こちらは室内にいたので、悠々と芝生の上を歩きだした。思わず立ち上がった所で人の気配に気が付いたらしい。
 ものすごいジャンプ力で、庭の奥の笹山を飛び越えてしまった。
 その先はネイチャー・ファームで、更に富士急行の線路だ。
 飛び出して後を追った。

軽くジャンプ

 しかしファームにも表門にももう姿はない。時間にして1分にも満たない白昼夢のような展開だった。
 後に近所の知り合いに確認したが、この鹿は前日に渓谷の対岸で目撃されていたようだが、この百年来鹿がこちら側に渡って崖を登った、などという話は聞いたことがないという。
 それにしてもすごい運動能力で、源平合戦の鵯越の逆落としは事実だったに違いないと思った。鹿が下りられるなら馬も下りられる、と言って本当に崖を駆け下った、と。
 余談であるが、最近の研究では鵯越を駆け下りたのは義経ではなく、多田行綱という源氏の武将だったらしい。
 それはともかく、あのバンビは無事に山に帰れたのだろうかと心配になった。
 もし、奈良公園の鹿のように街中をトコトコ歩いたりしたら、いくら田舎とは言え警察沙汰くらいにはなったろうに。
 そういえば、喜寿庵の謎の飛び地で草刈りをしていた時、通りがかったおっちゃんに『ここは鹿が出たらしいよ』と言われたことがあった。

千平米もある謎の飛び地」

 その時は、熊じゃなきゃいいや、と思っただけだが、庭先でピョンピョンされるといささか大自然の驚異といった恐怖感めいた驚きを感じる。
 で、話が変わるがこの厄介な土地は登記上は農地で申請してあるらしく、ほったらかしにすると『耕作放棄地』と見なされて役所から通知が来る。従って所定の手続きにより農業用への賃貸申し入れをするのだが、その際、所有者がちゃんと管理しているかどうかチェックされる。おかげで僕が一人でセッセと草刈りをしているのだが、これが途轍もなく面倒な作業なのだ。
 普段姿を見せない僕がやっていると、通りがかりのお百姓さんが『なんだこいつ』という感じで話しかけてくるようになった。
 中に一人、異様におせっかいなジジイがいて『この刈り方じゃだめだ』とか『この刃では笹が切れない』とかイチャモンをつけてくる。うるさいから適当に相槌を打っていると、だんだんエラソーな口をきき出した。要するにイナカのジジイでなんにでも口を突っ込んで威圧したいタイプなんだろう。見ているとたまに近くで農作業をしている人にも威張り散らしている様子が伺えた。
 そして(半分くらい何を言ってるかわからなかったが)昔ここでビニールハウス)をやったこともあるようなことを言い出した。おもしろくなってきたぞ。試しに一度『それがどうした』とガンをくれてやったら途端に口ごもってしまった。今度来たら『じゃあおっちゃんがやってみな』くらいのドスをきかせてみようか。楽しみだ。

 今年のジャガイモとダイコンが虫にやられて大不作だったことを書いたが、その後もファームの不調は続いている。ナスは大きくならないし、ピーマンは半分が枯れた。キュウリはそこそこなのだが、ニンジンに至っては何じゃこりゃ。とても収穫とも言えないレベルで実に情けない限りである。
 虫のせいかこのバカみたいな暑さのせいか。前稿の『異変』で大切にしていた楓の無残な姿を載せたが、喜寿庵全体で樹勢が弱まっているのではないか。
 とすればそこに寝起きしている私の体にいいわけがない。
 そもそも年明けのお参りで『半凶』を引いたことを思い出した!
 あの小鹿のバンビはその異変に警鐘を鳴らす神の使いだったら・・・。酒やめようかな。

喜寿庵の異変か

喜寿庵の異変 PART2

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Categories:和の心 喜寿庵

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