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ヒョッコリ先生闘病記

2022 AUG 31 23:23:57 pm by 西 牟呂雄

 あのヒョッコリ先生がついにコロナに罹った。ごく親しい人で初めての患者だ。
 何だか咳が出るな、と気になったので抗原キットを使ってみると陰性。そこで近くでやっていたモニタリング検査でPCRを受ける。
 これ、スマホで登録して結果をメールする、という触れ込みだが、後期高齢アナログおじさんの先生は何回やってもうまくいかない。周りにはアルバイトか職員か知らないが人はいっぱいいたらしいが、誰も教えられないと怒っていた。せっかくやりにきたのだから、もう少し熟達したインストラクターを並べておけ、と。
 この時点で全く陰性を疑っていなかったそうだ。2週間前に4回目を打ったばかりだからだ。
 すると、結果は「陽性の疑い」なのだった、なんじゃそりゃ。どうやら陽性っぽいが発熱外来で医師の判断無しでは何とも言えないらしい。入院したりホテル住まいをしなければとビビッて私に電話してきた。目下の状況では医師の診察後陽性が確定してから保健所が判断するようだ。 
 で、取り合えず家庭内別居体制を組んで籠城することになった。そうなるとヒマなものだからしょっちゅう覚えたてのラインが来るようになってしまった。
 私は同居しているはずのレイモンド君(推定2才)にうつしていないか気が気じゃなかったが、幸いご両親と夏休みの旅行に行っているそうなのでホッと胸をなでおろした。いや、そうも言ってられない、先生だって推定90才以上だった。
 そして翌日の朝一番で指定された発熱外来に行ったのだが、結局問診し、PCR検査の検体を取り、熱が出ていないと確認すると、以下のやり取りとなったようだ。
『咳止めでも出しておきましょうか』
『あっあの、コロナの特効薬は処方してもらえないんですか』
『ああ、あれね。重症化した人だけなんですよ』
『すると・・・私はどうなるのでしょう』
『うん、ほとんどの人はそのまま熱が引いて直ります』
『・・・・ワシは後期高齢者なんだけど』
 夜、連絡が入ったが、何もしてもらえなかったので頭にきた先生は普段通りビールをあおりまくっていた。この日新規感染者は20万人を超えていたが、その中には先生は入っていない。ということは陽性の疑いのある人も含めると少なくとも10万人くらいはあやしいのではないかと恐ろしくなった。
 翌日、診療を受けたお医者様が自ら電話をしてきたそうだ。
『えーと、結果なんですけど陽性でした』
『あー、そうですか。でも何ともありません』
『それはよかった。こちらから保健所に報告しておきますから電話が来ます』
『それで、今更何をすればいいんですか』
『なにもしなくていいですよ。撒き散らさなければいいということです』
『・・・・』
 この電話の2日後に保健所から連絡があったとか。熱がないと伝えてオシマイ。
 お役所というところは官公労が強いので、一般的に人員は厚めにいるのだが、なるべく働かないという風土病があるため、危機の際は決まって大混乱に陥る、今がそうだ。それに対して怒っても仕方がない。こういう場合はなるべくこの人たちに仕事が行かないように考えた方がコトはスムースに行く、というのが私の持論だ。ここに及んで全数把握なんか必要ない。増減傾向が分かればいい。
 薬も処方してもらっていない、熱はない、言いつけ通り部屋から出ていない。毎晩ビールをガブ飲みしている。こんな患者はわざわざ管理する必要はないのではないか。第一治療してもらえないのだから2類も5類もクソもない。厚生省の事務方は前例を変えるのがいやなんだろうが、柔軟に考えて負荷を減らしなさい。マスゴミも煽るのは止めなさい。ところで先生は一人で食事はどうしているのだろう。出前でも取っているのか。

 そして恐れていた事が。
『あのねえ、両親と旅行に行っていたレイモンド君が帰ってくるんだけどサ』
『はぁ』
『親はその足でまたロンドンに行くわけだ』
『そうなんですか』
『そこでだ、ワシが10日間の療養期間が過ぎるまで1日だけなんだけど』
『・・・・』
『キミならあの子もなついていて安心なんだけどね』
 いやもクソもない。一体このウチはどうなっているのか。仕方なく東京で1日レイモンド君を預かり、翌日先生の所に送って行くことになってしまった。まあ、僕も夏休みをとってるし、喜寿庵にも行くし・・・。
 過日、レイモンド君を伴って拙宅に来たご両親は平身低頭しながら大変ご丁寧な挨拶と高価なお土産と着替え一式を置いてロンドンに旅立っていった。
 僕は、せっかくだから一緒に遊ぼうとベランダに自慢のプールを準備した。

キャーキャー

 このブールに浸かりながら本を読んだりすると、熱い日差しの時なんかは実の気持ちが良く、時々楽しんでいた。蒸し暑い夜に星を見ながら寝そべっているとそのまま寝てしまいそうに、チョットしたリゾート気分になれる。いくつになっても夏休みは楽しいな。
 レイモンド君は全然水を怖がらない。半日シャボン玉やおもちゃで遊びまくって疲れて寝てくれた。

 結局、何事もなく10日間を過ごした先生にレイモンド君を送って行くと、嬉しそうに喜寿織に迎えに来てこう言った。
『わはは、これでワシは無敵の抗体保持者になった。キミも4回目を早く打ちなさい。町外れにジビエ料理の店を見つけたからワシの快気祝いをやろう』
 実はレイモンド君はプールに浸かりすぎてお腹の具合が悪くなったのだが、そのことは言わなかった。
 僕の夏休みも終ったな。

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Categories:えらいこっちゃ

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