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もしも江戸時代が続いていたら

2017 JAN 31 20:20:03 pm by 西 牟呂雄

 僕のような保守派・守旧派は時代の変化に『本当かよ』と疑ってかかる癖がある。最先端を行っているつもりの革新派も30年も過ぎれば古くなってしまう。現在盛んにグローバリズムの終焉と右傾化・内政回帰が言われだすとそれで景気でも悪くなったらどうなるのか心配になる(個人的にはTPP反対でグローバリズムもそろそろと思ってたからどうでもいいが)。
 こういう気質は初めから自己矛盾を抱えていて、直ぐに昔は良かったと言い出すことになりかねない。ボブ・デイランは良かったローリング・ストーンズは良かった、昭和は良かった・・・。
 本当は、ヒッピーがいて学生運動が盛んで組合闘争は激しかった頃は世の中結構殺伐としていた。恐らく懐かしむ人々は自分が若かった日々を否定したくないからそんなことを言っていて、目下のところ人口比率が最も高い団塊組の声が最も大きく聞こえる。
 『三丁目の夕日』が描き出した時代は交通事故が多く、埃っぽく、不便な時代だったと記憶している。
 その前は東京は空襲を受けて焼けた。
 その又前の戦前は良かったかというと、それこそ大正期なんかは平和な時代で白樺派がロマンチックな恋愛小説を書いていたが、当然庶民は貧しく苦しい生活をしていたはず。それでもまァカタギなら余程の悲劇に出くわす以外は普通に暮らした(兵役に取られて戦死した英霊は除く)。

 さかのぼって明治維新はそんなに素晴らしいか。
 京都に行ってみると良く分かるが、江戸期に寺社が保有していた広大な敷地を下級武士上がりの新政府高官が私した。尊皇攘夷と言うが、攘夷なんか途中でどこかに行ってしまって、尊王の方は幕末期の社会常識でさえあった。何が言いたいかというと、社会変革はその都度に本のページをめくるように進むのが望ましく、ひっくり返した後に前時代の資産を分捕りあうようなことは好まない、というのが保守の精神だと言いたいのだ。維新後の凄まじい汚職や、掠め取りまがいの略奪で京都の広大な別荘を作ったのが気に入らない。
 お江戸の時代があのまま続いても近代税制と中央集権(この場合は国軍の創設を意識している)は進み、当たり前のように将軍も大名も溶け込んでしまったと考えている。現に華族制度ができた。
 砲艦外交によってアタフタ開国した印象があるが、丹念に調べていくとどうしてどうして幕府は圧倒的な軍事力を目の当たりにして粘り強く理屈を並べ焦らしに焦らして交渉している。いきなりぶっ放したり切りつけててコテンパンにやられた長州や薩摩に比べれば遥かに国際感覚は上だと思える。
 江戸期は封建制度と鎖国で暗黒時代のように語られるのもいかがなものか。身分制度に苦しんだ人も理不尽な年貢に苦しめられた農民もいただろう。
 だが当時の農業技術では飢饉は世界中でも起こったことであり、身分制度も今日なお形を変えて残っている。均衡社会だった幕藩体制時代を通じておよそ3千万人だった人口が明治期を経て6千万人に増えた事は生産性の上昇で国民が食える状況になったことは確かだ。
 実は江戸期を通じて信州の山間にある村落人口の推移を調査した研究によると、長期に渡って全く変わっていない。実際には間引きが行われていたことが報告されている。だがそれは鎖国のせいじゃない。
 江戸期は前半こそ戦国の名残があったが、社会が安定してくると平和で文化の華が咲く。上は上なりに、下は下なりにその文化に磨きをかけることができた。更にその後半(吉宗以後)には『民を大事にする』といった平和な社会ならではの考え方が広まる。
 一例を挙げる。『無礼打ち』なる行為は時代劇に出て来るようにやたらと武士が農民・町人を切り捨てる権利となっているが、実際は細かく本当にその正当性があるのか審査される。該当しないと見なされれば斬った方は斬首の上御家断絶だ。役所に届出る、証拠品の検分、無礼な行為を立証する証人、全部揃えなければそれも斬首。大体処罰されてしまうため、江戸後期には無礼打ちでお咎めなしは滅多になかった。まぁ大体両成敗で両方とも処罰されてしまうのだ(これが故に忠臣蔵で浅野だけ切腹させられたと評判が悪かった)。それが故に幕末期になるまで抜刀しての斬り合いなんか滅多に見られるものじゃなく、武士も実際に白刃での対峙などすることなく一生を終えた者が殆どだった。

 幕末期には身分制度がガッチリしていたら世に出ることもない連中が藩政・幕政に口が出せるイイ世の中になってきていた。しかし維新後、途端に資産のブン取り合いと汚職まみれになったのはどうしたことか。西郷はそれで頭に来た。
 又、鎖国といっても出島から入って来る海外情勢は瞬く間に江戸にも伝わり情報は良く咀嚼された。ジタバタ感は拭えないものの開国したのは井伊大老で、その後幕府は貿易で大儲け。その独占が気に食わないと強く思ったのが明治維新と言えなくも無い。
 世襲封建主義がよろしくないのはそうかも知れないが、できもしない連中に無理矢理勉強を強いてオチこぼれを作り心を歪ませるより、初めから職業が決まっていて早くからその道に精を出す方が健全な部分はあるのじゃないか(アッ、僕はチンピラでしたけど)。あれこれ勝手に妄想にかられて自分探しの旅などという金と時間の無駄を過ごさなくて済む。
 世襲の統治が気に入らないといっても、今だって大方の人はやりたくも無い政治家は世襲でもしてもらわなければなり手がないか、相当怪しいでしゃばりが当選してしまう。子供の頃から有権者にペコペコして選挙でヘトヘトになる親を見て志を立てる人間の方が、ポッと出のチルドレンやタレント候補よりいいに決まっていると思うのは僕だけかな。その点お江戸の昔は大名でさえアホだったり女狂いがバレるとお家取り潰しになるので回りが必死に庇っていたではないか。今の議員とさして違わない。

 極論すると公武合体くらいで妥協して、内戦なんかやらずに漸進的に改革されるのが望ましかった。逆に言えば明治以後の改革スピードが速すぎたのであの忌まわしい敗戦があったとも考えられる(但しその場合我が国が英米・ロシアの支配を受けなかったかどうかは研究の余地がある)。 

 以下はお江戸のまたその前の豊臣時代が続いていたらどうだったかを想像して、時代順に宝暦年間から平成まで五段階やって遊んだが、やはり結果は同じだった。

宝暦元年 難波(なにわ)の花

万延元年 浪花(なにわ)の華

明治末年 浪速(なにわ)のハナ

昭和元年 ナニワの花盛り

平成28年 大阪オリンピック ナニワの狂い咲き 


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そうせい侯  雑感

Categories:浪速のハナ

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