Sonar Members Club No.36

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北方四島共同経済活動は

2017 DEC 10 22:22:57 pm by 西 牟呂雄

北富士総合大学冬季特別講座

 受講者の皆さんお早うございます。冒頭からナンですが、これでは全然遅く、足りない。
 安倍ープーチンの両首脳の肝入りで合意した「八項目の協力プラン」や提題の共同経済活動はこの一年大して進展しませんでした。
 僅かにこの九月、ウラジオストックでの東方経済フォーラムにおいて優先的に事業を絞り込んだだけで、その事業とは以下の五つ
① 海産物の養殖
② 温室野菜の栽培
③ 島の特性に応じた観光ツアー
④ 風力発電の導入
⑤ ゴミ処理・削減対策
です。
 これらは学生諸君には分からないかもしれませんが、典型的な官僚の作文です。おそらく外務省の関係者が考えたのでしょうが。
 皆さんは北方四島の人口がどれくらいかご存知ですか。色丹島で三千、国後島で八千、択捉島で六千と言われています。軍関係は除かれているでしょうが合計で二万人を越える事はないでしょう。即ちこのエリアでの地産地消型の経済活動を育成しても成り立たない、下世話に言えばペイしない。ロシアの方に旨みがないのです。
 この際、主権の所在は一端脇に置きましょう。勿論日本の領土であることは間違いありませんが、70年進展していない話です。例えば同じように実効支配されている竹島ではこういった共同活動など永遠に望めません。

 北海道側の窓口となりうる釧路市は四島合計とほぼ同じ人口ですが、その予算規模はどれぐらいでしょうか。1700億円~1800億円です。
 上記の5項目での事業規模をどのくらいで想定したのかわかりませんが、領土であるという主張を強く出す為には10兆円くらいの投資は覚悟すべきでしょう。上記予算の70年分を考えての金額です。
 この5項目を見る限り、そんな金額を考えていないことは明らかです。腰が引けてます。四島の外から人や金を引き込める事業はせいぜい➀と➂でしょうか。大したことにはなりません。
 もっとロシア人も日本人も四島に行きたくなる、行けばビジネスになる、面白いことがある、そうならなければ。

 一時、面積二等分論や3島返還論などがありましたが、これらは面子を潰される外務省及びその周辺によって内側から潰されました。実はロシアは長年の領土問題をこの等分方式で二度解決しています。中国とノルウェーです。中国とは川の中州、といっても335平方キロもありますが、その二等分、ノルウェーとは17万5千平方キロの大陸棚海域の二等分です。

 ところがロシアは今年の八月に、色丹島に新型特区を開設することを発表しました。これは結構なクセ球なのです。なぜでしょう。
 色丹島は1956年宣言で既に日本への返還を明らかにしている2島の方です。当時のソ蓮ですら返そうと明記した島にロシアの特区であることを発表してきた訳です。
 おそらく外務官僚は『認めがたい』と反発したでしょう。法的には日本領土に勝手に施政権を主張した形になりますから。
 ですがこのシグナルに乗らない手はありません。
 プーチン大統領は領土を返すつもりなどサラサラないのです。これは確かな筋で何度も確認されています。あのゴルバチョフでも全く関心を持たなかった。

 ところで私はこの夏にエカテリンブルグで開催された産業展示会に行き、プーチン大統領の権力の強さをまざまざと見ました。なんとプーチンが来ると突然発表され、事前のセレモニーが全てひっくり返りました。海外からの参加者も数千人いましたが、勝手に来て見学し勝手に帰って行きました。森元総理とは気が合う様で少し会談はしました。
 お陰で予定はメチャクチャです。しかしロシア人スタッフからは全く不平はなく、我々に対する(私はともかく)謝罪などありません。
 一般のロシア人は気が長い、100年位はついこの前の感覚でしょう。実は日露戦争に負けたことを深く根に持ってもいます。領土の返還など考えたこともない。
 そういう輩を相手に、安倍総理は実に巧みに駒を進めています。民主党政権を覚えていますか。皆さんがまだ小学校でしょうかね。日露関係は最悪でした。鳩山元総理の息子さんはモスクワに留学してましたが、物凄く評判は悪かったです。
 もっとも民主党政権で喜んだ国はありませんでしたが。中国でさえ不貞腐れて韓国はイ・ミョンバクが竹島に上陸しました。彼らの外交は稚拙過ぎましたが、自民党も対ロシアは腰が引けていました。わずかに橋本総理時代、手を伸ばせば届くところまでいったのですが相手のエリツィンが弱ってしまい潰れてしまいました。小渕・森総理もプーチンとは結構良かったのですが次の小泉総理はぶち壊しにしました。田中真紀子という田中角栄さんの娘さんを外務大臣にしたりして、ロシア通の鈴木宗男さん、民進党から自民党に移った鈴木貴子議員のお父さんですね、を逮捕にまで持って行きます。
 ここではその内容については触れません、各自で調べてください。
 現在一強とまで言われる安倍総理は自民党総裁をもう一期やるかもしれません。プーチン大統領は足元の弱い指導者を絶対に相手にしません。トランプ大統領でさえ二期目は無いかもしれない、とナメているフシがあります。
 安倍総理の次に誰がやっても多分だめでしょう。プーチン大統領も来年の大統領選挙への出馬を宣言しました。この時期しかないはずです。
 それなのにあの5つの共同事業ではロシア側が満足するはずがありません。

 一方で実は北方領土問題が解決してほしくない人達も日本にはいます。誰だと思いますか。まず四島周辺の漁師さん達。彼等はソ連時代からロシアの沿岸警備隊と秘かに関係を構築していました。ベトナム戦争を戦っていたアメリカ兵の中でロシアに亡命した人達がいますが、何人かは日本経由で道東の漁船から亡命したことが確認されています。闇があったようです。
 今日でも年収2千万を超える人がいます。ナマコの密漁ですね。今やヤクザの三大シノギは覚醒剤・オレオレ詐欺・密漁と言われています。こういった人達は返還されてシノギが減るのは困ります。
 また、水産加工工場が稼動して安い製品が大量に入ってくると困る事業者も出てくるでしょう。ましてや『特区』にされて様々な便宜供与が成されたりすれば、周辺自治体の税収にも影響があるかもしれません。総じて『北海道経済打撃論』とくくられます。
 外務省は安倍総理の外交にも危機感があるようです。官邸主導でやられると組織存亡の危機バネが働いて『それは現状ではできません』と強く出るでしょう。日本の官僚は極めて優秀ですが、特に『ノー』という事に関してはプロ中のプロなのです。
 その他にも四島が返還されないことで食っている学者・政治家はウヨウヨいるのです。

 さて、色丹島の話しに戻ります。上記の共同事業で島内のインフラ整備だけをするなら初めに申上げたようにいかにもミミッチイ。
 まず日本人が大勢乗り込んでいき、稼いで見せる。使ってみせる。色丹ブランドを日本にもロシアにも売り込む。属人主義で法を適用し日露が協力して治安に当たる。ディズニー・ランド・ノース・ポールなんかどうですか。島独自の仮想通貨は考えられませんか。
 なにしろ特区を宣言されて外資を呼び込むところで日本がグズグズしていると、例えば制裁を食っている北の国や中国が参入する可能性だってあるのです。

 さて、この中で北海道出身の人はいますか。どこですか。根室!近いといえば近いですね。あなたは。ああ札幌ですか。はい、帯広。他には、函館ですか。
 どうでしょう、返還されたら移住する気はありますか。・・・・ダメか(笑)。
 ほかの地方の方どうですか。さすがにいませんか。観光だったらどうでしょう。これは結構いますね。成る程。
 私はどうするかと言いますと、この年で移住されても迷惑でしょうからさすがに引越しはしません。
 ですが、現地で何か仕事があるならばやってみたいとは思います。ここでこういう講義をしている責任もありますから(笑)。

 実際は日米安保条約の適用はできないでしょうし、施政権・徴税権・治安維持と政治的なハードルはまだまだ高いのです。
 ですが本日の皆さんはお若い学生の純粋な民間人です。もしも事業がスタートした際、もっともその頃は卒業か(笑)、そんな場所を見ることは滅多にできません。是非歴史の証人になって頂きたい。そしてその見聞を生かしていって下さい。
 時間が来ましたのでこれで講義を終わります。質問は後から受けます。
 

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