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ロシア残照 Ⅱ

2013 SEP 25 7:07:47 am by 西 牟呂雄

以前、真冬のロシアに行った際の話。モスクワから200キロ程東にある製鉄所に行った。そこは年間400万トンクラスの中堅電炉メーカーで、コンペティターのヨーロッパ勢の牙城であり、そこに鋳造設備を売り込むというミッションだった。片道3時間くらいで雪こそ降りはしなかったがガリガリに凍った道路である、生きた心地がしなかった。帰りには少し慣れたが、特に大型トラックが猛スピードで抜いていく時など怖いのなんの。おまけにモスクワで雇った運転手はかの地は初めてで、雪原に行き先表示も無く、あっさり道を間違えてみせた。

さて商談もそこそこ進み、試験評価ぐらいはやってもらえそうになってホッとしていると、突然向こうの偉い人がこっちを向いて何か言った。無論通訳を通じてロシア語で言ったのだが、

「私の娘が日本語を勉強しているが、ナマの日本語を聞いたことが無いので、電話で話してやってもらえないか。」

だそうである。こちらも民間外交は望むところなので快諾すると、自宅に電話しどうぞ、という感じでマイクオープンにした。女の子の声が聞こえてきた。

「あたしのなまえはアリョーナです。」                               はっきりした綺麗な日本語である。~~~~ました、といっためちゃくちゃな日本語かと思っていたボクは度肝を抜かれた。                              「あのー(マヌケな返事だ)、ずいぶん日本語が上手なんですね。」            「・・・・。」(どうやら ジョウズ が解らないようだ)                  「どうやって勉強しているのですか。」                              「英語のインターネットで勉強しています。」                          「?????????。どうして日本語を勉強しているのですか。」                  「日本のアニメの主題歌を歌いたいからです。」                       「・・・・。勉強して日本に来て下さい。」

こちらでも日本のアニメは人気があるので放送されていて、セリフは全部吹き替えなのだが、主題歌のところは日本語で流れて日本語の字幕がそのまま使われているそうだ。アリョーナという(15才といったか)少女はその主題歌を覚えたくて字幕を読めるように苦労して勉強していた。こんな田舎では日本語学校があるはずもなく、ロシア語の教材もないので、インターネットの英語版の日本語教室を見ながらセッセと覚えたらしい。たかがアニメと言うなかれ、ソフト・パワーはこういう底上げには多大な貢献をしているではないか。うっかり名前も告げていなかったが、いつか日本で会うことがあったら、それは微笑ましいヒトコマになるだろう。

ヘトヘトになってモスクワで投宿したが、メール・チェックをしようとしたら繋がらない。ビジネスセンターに聞くとWi-Hiの電波は部屋ではとれず、ロビーに降りないとダメ、と言われた。仕方が無いので夜の12時にノコノコとパソコンを手に降りて行くとこれが大勢の人々。それも若い女性ばかりなのだ。これは・・・・。みんな東洋人が珍しいのかこっちを見ている。よくみればどれもとびきりの美人だ。「コンバンハ」エッ日本語じゃないか。昼間のアリョーナの日本語はかわいらしかったが、こっちは邪悪な妖艶さが声にまで出ている。ハハーン、この寒いのに(外はマイナス30度。ロビーは暑いが)やたらとスカートも短い。するとロシアのこんな所にまで来て怪しからんコトに及んだ先達がいたのか!ボクはロビーのソファーにズラリと女性がたむろして「カモがいる。」と言わんばかりの視線を浴びる片隅でそそくさとパソコンをいじっては部屋に帰った。まさか民間人の僕にハニー・トラップもないんだろうが、さすがにモスクワだ。

あのアリョーナが日本語がうまくなってもこんなところでは使わないで欲しい、と思わずにいられなかった。

ロシア残照

ロシア残照 Ⅲ


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