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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 麻雀白虎隊)

2014 APR 6 2:02:58 am by 西室 建

とある東京のど真ん中の繁華街、学ラン姿の高校生が卓を囲んでポン・チイやっている。午前10時の話だ。こんな時間からやっている雀荘も雀荘だが、高校生もロクなもんじゃない。四人が卓を囲み二人が立ち会っており、一回ごとに二人が入れ替わる。どうやら二人はイカサマをやっていないかをチェックするらしい。何やら緊迫した雰囲気の中「ロン!」の声が掛かった。「やった、メンタンピンだ。トップが来たぞ。」「アチャーッ。」「やられたっ。」「ざまーみやがれ。白虎隊の連勝だ。」

この日は麻雀白虎隊と麻雀奇兵隊の決戦だったのだ。少し解説がいる。この時代の東京のガキで、不良ごっこに勤しむ輩(本当のワルではなく生意気盛りの者を指す)に支持されたのは、深沢七郎・野坂昭如といったところだったが、ウチの高校のグループではアナーキーなギャンブラー阿佐田哲也のエッセイが流行った。一連の麻雀小説にもカブれて、作品中の『麻雀新撰組』が劇画になっているのをB・B(本名は原辺・ばらべと読む)が熟読していた。登場人物は三人だったから僕達3人で名乗りを上げないか、と提案してきたので乗った。名づけて麻雀白虎隊の始まりだった。実は3人でイカサマ(簡単なサイン)をやって誰かをカモってやろうとの魂胆だった。確かに覚えたてのシロウトには抜群の効果があって、色んな奴等を引きずり込んで散々小遣いを巻き上げた。ところが一月ほど経つと、妙な噂が立った。「E高校に麻雀白虎隊なる秘密組織があって、物凄い雀ゴロ集団らしい。」というのだ。初めは同じ学年の間で広まり、雀荘から別の高校にも伝わったらしい。

劇画というジャンルは、要するに漫画なのだが、当時はある種のステータスがあって、いわゆる少年漫画とは一線を画していた。B・Bはソレと思われる作品を好んで熟読し、よく僕たちに勧めた。「ソウル・シンガー」という作品は少年マガジンか何かに連載された奇っ怪なモノで、僕なんかは全然面白くなかったが、確か盲目の歌手が能面を着けて歌う、といったモチーフだった。B・Bはそのセリフを真似た喋り方でよく話していた。
「オレ、今日はかったるいからヒッピるぜ。」
どうも、疲れて面倒臭いからサボッて帰る、と言っているらしい。巷でヒッピーがたくさんいた。又、谷岡ヤスジが一世を風靡した「メッタメタガキ道講座」にも影響を受けて、変な関西弁も使う。
「オラオラオラオラ、ワリャ終いにゃ血ィ見るドー!」
と言った調子だ。同じように勧められた「高校生無頼控」も何か変な劇画だと思っただけ。一番ひどいと思ったのは「パチンカー人別帳」という流れのパチプロの話。奇想天外な技を繰り出す美球一心という主人公がカッコいいと言うのだが。世の中のまともな高校生が「巨人の星」や「あしたのジョー」を読んでいた頃である。アイツの趣味にはついていけない。

しかし妙なもので、白虎隊が有名になると『オレも入れてくれよ。』などと言い出すバカが出てきた。椎野が局長と呼ばれていたので仕切り役だった。『お前の腕ではとてもダメだ。』とか『ホンモノの麻雀新撰組だって3人なんだ。』と言って断っていた。ちなみに本物は阿佐田哲也、小島武夫、古川凱章だったか。そうこうしているうちに同じ学年の麻雀天狗だった大和(やまと)が集めた麻雀奇兵隊なるものができてしまい、バカバカしいことに白虎隊に勝負を挑んできた。大和は学年1の秀才だ。奇兵隊も3人なので、2人づつ出して毎回入れ替える変則ルールで勝敗をつけることになった。それで冒頭の下りになるわけだが、帰り際にB・Bの奴が不思議なことを呟いた。『これで白虎隊の三連勝だ。鳥羽伏見まで押し返したな。』何のことだ。

日本史の授業中にB・Bから紙が廻ってきた。こういうペーパーが先生の目を掠めてよく廻って来るが、なんだろうと思ってこっそり見ると新聞の体裁だ。目に飛び込んで来たのは『1885年(明治28年)初代内閣閣僚名簿』という表だった。何じゃこれは。

《内閣総理大臣 徳川慶喜  前15代将軍》  《外務大臣    福沢諭吉  中津藩士 適塾 慶應義塾塾長》  《内務大臣    勝 海舟  幕臣 海軍伝習所》  《大蔵大臣    小栗忠順  上野介 幕臣》  《陸軍大臣    大島圭介  幕臣 適塾 ジョン万次郎門下》  《海軍大臣    榎本武揚  幕臣 昌平黌 ジョン万次郎門下》  《司法大臣    西 周    津和野藩士 藩校養老館》  《文部大臣    新島襄    安中藩士 米アーマスト大》  《農商務大臣  松平容保   元会津藩主》  《逓信大臣    原 市之進  元水戸藩士 昌平黌》

休み時間にB・Bに聞くと『いや、白虎隊が三連勝したから明治維新が起きなかったんだよ。だけど歴史の必然性があって藩幕体制はもう持たないから、徳川が改革しちゃって廃藩置県はやるわけだ。すると責任内閣制を取らざるを得ないんだけど、薩長土肥の人材は使えないからこういう内閣になるんじゃないかって必死に考えたんだ。』バカかこいつ。教科書を見ると、一学期の今は授業はまだ平安京がどうした、とやっているのに、明治維新の前後にビッシリ書き込みがしてあって、いちいち人物が代えられている。そんなことに夢中になるなら暗記でもしたほうがよっぽど楽だろうに。

ところが白虎隊と奇兵隊の決戦はその後1週間も続き、白虎隊は5連勝した。このころ僕はこの麻雀というゲームの奥深さに魅せられるようになって、五味康祐の本やら指南書を読み込みのめり込んでいた。椎野はめっぽう勝負強く、起死回生の手をよく積もり上がって粘る。問題はB・Bで、自分では天衣無縫流亜空間殺法などとうそぶいていたが、場の流れを見ない殿様麻雀で一か八かの賭けに出たがる、はっきりいって下手だった。同じ頃、隣の謂わば兄弟校にあたるF高校の中学の時の同級生から電話が掛かり、白虎隊のことが噂になって、彼らも麻雀鬼面党を名乗ることにしたから勝負しようぜ、と誘いがかかった。面白い、と受けることにした。F校麻雀鬼面党はやはりなかなか強かった。というか勝負に出ることを極力避けて、こちらの転ぶのを待つ戦法だったようで慎重な打ち回しに徹していた。こういう時にはバカみたいにツイた者勝ちになるのだが、ふざけたことにこの日のB・Bが凄かった。リーチをかければ一発でつもる、相手の高そうなときにピンフで上がる、親ではウラドラを乗せる、と怖いものなしだ。F校の連中は『こりゃ参った。』と頭を掻きながら帰っていった。

しかしその後白虎隊はスランプに陥った。不思議なものでB・Bのバカ打ちのせいじゃなく、僕も椎野もよくマヌケな振込みをしてボロボロ負けだした。奇兵隊は研究も熱心でどうやら僕たちがやる程度のサインを出し合っているのが分かった。分かったがこっちもやっているし、配牌が毎回毎回物凄いクソ手でどうにもならない。椎野もうんざりしていたが、B・Bだけは負けが込んで小遣いが無くなっても嬉々として次の(奴の言う)決戦を仕掛けるのだ。僕は不安になって、奴の日本史の教科書を見た。すると案の定まだ先の江戸時代のところが真っ黒になるまで書き換えられていた。徳川家〇のところが全部丁寧に豊臣秀×に書き換えられており、松平ナントカは羽柴カントカ。加藤家・福島家・石田家という(他にもやたらあったが)関ヶ原から江戸初期に無くなっているところが大っぴらに親藩としていいところに配置されている。無論豊臣太政大臣家は大阪にいて、逆に本田家・酒井家・井伊家は消えていた。

「おい、椎野。B・Bはどうした。」
「ん?英(はなぶさ)か。きょうはF高に行くってすぐ帰ったよ。」
「F高鬼面党か?別に誘われなかっただろ。」
「大和が行ってんだよ。ここのところの勝ちの乗じて奇兵隊を連れて鬼面党とやるそうだ。その取材らしいんだが。」
「あいつF高まで巻き込んでるのか。」
「何だか源平合戦がどうこう、て言ってたよ。」
僕はため息をついていきさつを伝えた。椎野はあきれかえってつぶやいた。
「あいつそんなことに夢中だったのか。どうりで負けても上の空だったわけだ。きっと鬼面党と奇兵隊の試合で鎌倉時代の歴史をいじって遊ぶつもりなんだ。」

白虎隊と奇兵隊の再決戦が始まったが、場は一方的に負けていた。僕と椎野がツキが全くないのだ。この日は午後の授業をサボッて昼過ぎには始めたが、午後4時時点でもう取り返しのつかない負けである。親の時はツモられる、リーチは引っかけても流される、白虎隊がたまに上がるのはB・Bの安手、いいところなしだ。そして今回はもう負け終わりというときにB・Bは大和に劇的な国士無双13面待ちに振り込んだ。実は僕も気が付かなかったのだが。そして終わりになった時B・Bの漏らした一言に椎野は切れた。
「しかし豊臣16代は豊臣明治て言うのかな。初代内閣を造り直さなくちゃ。」
サテンに入ってハイライトに火を点けた途端に椎野はまくしたてた。
「いいかげんにしろ!お前ただでさえお荷物なのにこの5~6試合くらい上の空だろう。まじめにやってるオレ達の身になってみろ!」
物凄い剣幕に、さすがにB・Bも不貞腐れていた。しかし店内のBGMが変わった途端にいつものバカ面に戻った。目が輝いている。曲はマイナーながら密かに流行っている”武蔵野タンポポ団(高田渡や山本コータローがやっていたブルー・グラス・バンド)の『サンフラン・シスコ・ベイ・ブルース』だった。
「分かった。白虎隊は解散する。今度はバンドやろうぜ、こういうやつ」

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年 共学編 Ⅱ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編Ⅲ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(197X年共学編 エピローグ)


 
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