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吉例顔見世大歌舞伎(平成二十六年霜月)

2014 NOV 30 16:16:19 pm by 西 牟呂雄

『寿式三番叟』ことぶきしきさんばそう、と読みます。元々は人形浄瑠璃の演目だったのを歌舞伎に移した踊りですね。今回は高麗屋市川染五郎さんと音羽屋尾上松緑さんが見事に舞います。口上で三つの神社の名前が出るのですが、住吉大社・春日大社・伊勢神宮なんですね、これが。出雲贔屓の私としては、さもありなん、そうだろうな、といった所でしょうか。この鮮やかな踊りで『黒』の着物があんなに明るい印象だとは思いませんでしたね、新たな発見です。古典はこういうことがあって止められない。周りの衣装がキンキラの中にあって一際鮮やかな黒の美しいこと。そして早い動き、歌舞伎の舞は飛び上がって『バンッ』と踏む所が華ですな。
 
 しかし次の出し物『井伊大老』ははっきり言って面白くなかった。井伊大老が日本の行く末を案じて懊悩しながら桜田門外で討たれる話なんですが、科白が説教臭くてかなわない。別に歴史の勉強なんかしに来た訳でもないのに見栄もなければ外連もないなんて。あれでやっているのが播磨屋中村吉右衛門さんでなきゃ見られた物じゃない。作を見たらやはり戦後の本だった。こんなのは大河ドラマでやってくれよ。唯一良かったのは吉右衛門さんが言った「彦根に帰りたいなぁ。』の『ぁ。』ぐらいですかね。これやっぱり『ぁ』なんですよ。芸が光るところです。
 
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 それでやっと高麗屋松本幸四郎さんの『熊谷戦記』になります。こちらは人情噺になっていてそれはそれで面白いのですが、源義経に音羽屋・尾上菊五郎さんと御贔屓の高島屋・市川左團次さんが石屋に化けている平宗清になって出てきます。左團次さんの重厚な脇が締まって芝居が進みます。この人SMが趣味だそうで、テレビでも公言しています。こういうところ頭一つ抜けてますね。
 最後に熊谷直実は僧形に身を固めて仏門入りするのですが(これは本当の史実)いかにも苦悩し身悶える演技を花道で続けます。この終わり方、幕を引いて花道の所でだけ演じて見せていました。しょうがないから三味線の人が一人出てきて立って合わせる。熊谷陣屋は見たことがなかったのですが、いつからこんな演出をしているのでしょう。

 ところでオヤジの意見で何だが、若いカブキファンの方に言っておきたい。こういった芝居を見にくるのに上着くらい羽織りなさい。着物の正装で見える綺麗どころも大勢いるのにGパンはないだろう。そういうのは日常でやってくれ。芝居見物はみんなが楽しみにしている『ハレ』の空間で『ケ』ではないんだよ。え?『ハレ』と『ケ』がどう違うかって?もういいや。僕もオッサンになったんだな。

九月大歌舞伎 千穐楽

猿之助四十八撰


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Categories:古典

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