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古い記憶

2015 FEB 19 19:19:15 pm by 西 牟呂雄

 最近分かりましたが、人間はどうしてもストーリーが必要なため、あまり理不尽な記憶はリセットしてしまい別のことを自分の『記憶』だと思い込んでいることがしばしばあるのだそうです。私なんかは気楽な人生を送っていますが、当然『マズイ!』となったことはあるので(あったはずで)どれぐらい正確に覚えているか心配になりました。

 喜寿庵の麓にある桂川で遊んでいた時に深みにハマったことがありました。周りに人がいたのか覚えていません。当時は水着で川遊びをするのが普通だったのですね、そういう子供を見なくなって幾星霜です。暫くバシャバシャともがいて流され咳き込んだ時の強い恐怖感、ひょっとしてこれで誰からも見られることなく消えてしまうのか、と怯えました。しかしあの学齢前に自分が死んでしまうかもしれないと思ったのかどうか。それこそ死の恐怖等と考えるのは後付けの刷り込みリセットではなのかとも思います。実はその直後にはそういう状態になったことを親から叱られるだろう、と反射的に感じて何も言わなかったことは良く覚えています。
 この頃までは人見知りでもありました。現在の友人達は、腐れ縁も含めて誰も信じないでしょうがそういう子供でした。

 そして小学生になってからは今日に至るキャラが確立された訳です。僕の通った小学校では当時既にイジメの様なものは日常の光景としてあったようです。イジメのきっかけはそれこそ毎日毎日無数に転がっていて、ほんのチョットのバランスが崩れるといつ自分が仲間外れにされるか分からないような一種異常な緊張感を感じたことは確かです。たかが小学生と言うなかれ。圧倒的な暴力によってクラスに君臨しているつもりの子も、影で『アイツは頭が悪い』と言われてしまうとその権威が地に落ちるような可愛げのカケラもない雰囲気で鍛えられ(堕落させられ)ました。SMCの中村兄とはその歪みまくった時代を辛くも潜り抜けた、しかし油断のならない同志でありました。共通の友人にS氏という天才的な適応能力を持ったツワモノがいて今でも時々飲みます。腕力があるわけでもない、勉強は大嫌いのS氏は、ああいえば上祐並みの弁舌と相手の弱みを一瞬にして見抜く抜群の慧眼で、常にメジャーにつくという王道を行っていたものです。そう言えばS氏は進学する際も、就職する時も、更に社会人生活を送るにおいてもその天才ぶりを遺憾なく発揮し我々を驚かせましたね。
 都会のマセた小学生達の奇怪な気質は更に驚くべき進化を遂げます。高学年にもなれば女の子のことが気になりだす年です。恋愛感情も芽生えようというカワイラシい心情を、唾棄すべき堕落だ、と主張する一部の過激派が台頭しました。日常に会話をする微笑ましい行為を『談笑する』と定義し、『談笑禁止法』を勝手に成立させた挙句、クラス横断的に『談笑禁止法励行委員会』を設置したのでした。もっとも任命も選挙もなく、面白がったガキ共が自主的に支部長を名乗っただけなのですが。この校内イスラム国のような運動はさすがにバカバカしくて下火にはなりましたが、一部ははるか後年まで残ったようです。
 そんな毎日を送っていたある下校時に、何故か放課後の屋上で沈んでいく夕日をジーッと見ていた記憶があります。一人でした。この時の心境を『孤独感』とか言ってしまうと恐らくそれは後付けの記憶のすり替えになるのでしょう。私はただ夕日がビルの角をかすめていくのが可視化できることに『地球が自転している』と気が付き感動したのです。
 後年、何回か夕日を見ると、何故か友達も誰もいない屋上に一人きりになり夕日を眺めたその日を強く自覚したものです。それが悲しかったのか寂しかったのかは既に様々にリセットされてしまっているのでしょう。ただ、いつも『アッこの光景!子供の頃にも見ていたな。』と思うのです。何か美しく飾っているのでしょう、思い出せない。

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狼少年ケン

Categories:遠い光景

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