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昭和亜空間戦争

2015 AUG 7 8:08:01 am by 西 牟呂雄

 朕深ク世界ノ大勢ト帝國ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ收拾セムト欲シ茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク。
 先の昭和大帝の捨身の「終戦詔書」のあまりにも有名な出だしである。録音は800字超、5分近い長いもので、一般には『堪ヘ難キヲ堪ヘ忍ヒ難キヲ忍ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平ヲ開カムト欲ス』の部分が各種報道・映画等に挿入される事が多い。
 原案は内閣書記官長迫水久常。漢学者川田瑞穂が起草し安岡正篤が加筆したとされる。安岡正篤はその時点で大東亜省顧問だったか。しかし何をしたかについては殆ど記録はなく、本人も語っていない。

 さて、戦争に関する諸問題についてはここでは置く。実はヤマトの亜空間においては、敗戦後に霊界戦争が勃発していたことを知る者はいない。
 片や大江戸総鎮守でありながら怨霊界の帝王、平将門。果敢に挑戦したのは何度怨念比べで跳ね返されても蘇る、大塔宮護良親王。両者とも首が胴から切り離された異形の怨霊である。両者は神田と鎌倉という至近距離にいながらも互いに潰し切れず、長年対峙し続けていたのだ。ところがヤマトの実空間である『日本』が建国以来の敗戦により占領されるという未曽有の事態に陥り、そのため亜空間の方にも大きな歪みが生じてしまった。そして再び雌雄を決することとなったのだ。しかもその亜空間の歪みにより、実空間との距離が嘗てないほどに接近したため、人間に怨霊が憑依するという特殊な霊界戦争になったのである。

憑依されたマッカーサー

憑依されたマッカーサー

 厚木に降り立ったのはGHQ総司令官ダグラス・マッカーサー元帥。元来権威好き威張りたがりの彼は初めの一歩をどう演出するかで頭が一杯だった。コーン・パイプもゆっくりしたタラップの降り方も占領軍という立場を最大限誇示するため、エラソーに見えるようにしようと考えたのだ。
 しかし彼は実力でフィリピンから追っ払われ『I shall return』と悔し紛れの捨て台詞で逃げ出した屈辱に未だに悩まされていた。南方島嶼部の激烈な戦闘も、圧倒的不利な状況下での日本軍の凄まじい抵抗の報告が上がっていた。その本土に降り立つのだ。どのようなゲリラ攻撃が仕掛けられるのか、内心では恐怖感で一杯だった。
 その心のスキを護良親王は見逃さなかった。事もあろうに横田に降り立った直後、すかさず憑依し大塔宮マッカーサーとなったのだ。
 しかしこれは戦略的には間違っていたのだが、目の付け所は良かった。

 平将門は当然大塔宮の動きを察知した。しかしこちらは旧軍人や政治家といった関係には目もくれず、何とその時点では民間人に過ぎなかった白洲次郎という人物に憑依して白洲将門と成りおおせていた。白洲次郎は戦中の隠遁生活からようやく復活したばかりだったが、ハッタリの強い悪魔的なキャラである。後にエッセイストとして健筆を振るった妻正子の奔放な言動にも振り回されていた。それが敗戦の大混乱の中、英国時代の付き合いから宰相吉田茂に『手を貸してくれ。』と口説かれて精神のバランスがおかしくなった。そこを将門に狙われた。

頭の後ろに将門の影

頭の後ろに将門の影

 しかしこのタイミングでは両者の実空間の力の差はデカすぎる。とうてい将門には勝機はないものと思われたが、さにあらず。実は東京裁判があることを予見したために一民間人に憑依したのだ。
 そもそも怨霊のパワーは人間界には向いてはいない。目の前の敵よりもより強い怨念・恨みのパワー・ビームを浴びせることが本義であって、人間界の地位とは関係がない。

 更に大塔宮マッカーサーは大きな失敗を犯す。昭和大帝に会ってしまったのだ。
 現在の皇室は北朝系、大塔宮は南朝嫡流。一応学問上は南朝正統とされているが相手は霊性において怨霊などものともしない大帝である。ここでパワーを相当失った。
 後に憑依が解けて書いた回想も自身の記憶は全て飛んでしまった為、口だけの礼賛に過ぎない。
 
 大塔宮はその破壊衝動を隠しつついかにも善人面をしながら まず帝国陸・海軍を解体。 思想、信仰、集会及び言論の自由を確保するといい、治安維持法を廃止、特高警察も廃止、政治犯を即時釈放する。更に政治の民主化、政教分離、財閥解体、農地解放と矢継ぎ早に指示を飛ばす。
 一方将門は占領下にも拘らず終戦連絡中央事務局次長、経済安定本部次長として政権中枢に君臨し、虎視眈々と相手の動きを伺っていた。

つづく

昭和亜空間戦争 Ⅱ

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Categories:伝奇ショートショート

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