夏本番 昭和は遠くなりにけり
2015 AUG 11 6:06:56 am by 西 牟呂雄
大声で 泣き出したくなる 帰り際
かくも多くの 人といるのに
先日コンクリートに括り付けられた女性の遺体があがった小網代湾にアンカーを打って小さなビーチを見ていた。 狭い砂浜が二つ。多くの家族連れの海水浴客がいて、はしゃぎ声が聞こえて来る。ユラユラ揺られながら見ていると、どうしたことか。
人っ子一人いない、冬枯れの砂浜を幻視した。
ついさっきまで仲間と喋ったり海に飛び込んだりしていたが。不可思議な心象風景だった。
8月の航海のために船のメンテナンスをする。共同作業でロープを編み込んだり、エンジンオイルを替えたりした。物凄い熱さで日に焼かれ、全身ずぶぬれのように汗をかいた。すると上がって来たヨットから一人の女性がフラフラになって下りて来た途端に歩けなくなり、その船のクルーが駆け寄って日陰に寝かせているではないか。行くとガタガタ震えて『寒い』と言っている。熱中症だ。こんな若い人がやられてしまうのにビビッてオジサンはビールではなく塩を口にした。悲しいね。
帰りの電車で眠い目をふと開けると横浜の手前で、突然この辺りに住んでいた人を思い出した。
そして横浜で乗り換えた時の横浜駅の猛烈な雑踏に足が止まる。『ワー!』と叫び出したい衝動を抑えるためだ。オジサンが遊んで暮らすための最重要ポイントとして今年から鍛えている『孤独耐性』が途切れかけたか。立ち止まっているのは僕一人。これはいかん。
トボトボという感じで広いコンコースを歩いていたら独り言を喋っているではないか。ついに気がおかしくなる日が迫ったかと怖くなり、エーチャンの歌を口ずさもうとハミングしたのは『苦い涙』。失恋モノで更に落ち込んだ。『お願いだ。この電話を。切らずにいてくれ。』何だってこんな歌を思い出す、と少し怒る。
先月は週イチのペースで極親しいメンバーと偶然のタイミングで会合が重なり、旧交を温めたがそれぞれまだ活躍している。仕事で大変に忙しい(ひどい目に合っている)後輩、体調の悪い(腰痛)奴、大病をして手術した奴、相変わらず飄々としたマイペースの先輩、概してみんな楽しそうに思えた。それもそうで、ドン底の状態になっていれば人になど会いたくもないだろうから。
草むしる 手を休めつつ 問いかける
日は熱くないか 色夏野菜
喜寿庵の夏野菜、我がナスとピーマンはそろそろ収穫期が終わる。返す返すもスタート時の手入れの悪さでキュウリを全滅させたことが悔やまれる。来年の課題だ。
それにしてもこの歩留りは悪すぎる。ジャガイモはたくさん採れたのに。やはり無農薬には限界があるのかペイ・ラインは遥かに遠い。飛び地の開拓計画は全て白紙に戻った。
畑の横に栗の木が立っていて、栗の実が毎年落ちるのだが、拾って剥いて見ると全部虫に食われている。今年は落ちるところを狙ってやる。
立秋。暑いには暑く汗まみれにはなるが空の色は変わった。
午後3時の影が長い。
吉祥寺駅を下りたところで、再び大群衆に囲まれた。信号待ちの人数がハンパないのだ。
一瞬全員がこちらの私を見ているように見えた。携帯で撮っている人もいる。
私の回りで犯罪でも起こったのかと見廻すが何も無い。これも幻視か。
長いこと全力疾走などしていない。一念発起してジョギングをすれば、井の頭公園でもっとも足の遅いランナーだった。つまり誰にも追いつけないどころか、ほぼ全てのランナーに抜かれた。しかもセッセと走りながら『空挺・落下傘(クーテー・ラッカーサンと発音)』とか『万朶の桜か襟の色(歩兵の本領)』等と掛け声をかけているではないか。インパール撤退作戦かとギョッとして止めた。この前からロクな歌を思い出さない。
そうか、これが還暦というものなのか。
分かれば早い、これからは幻視と共に生きていくことにしよう。それもいいか。
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Categories:春夏秋冬不思議譚 四季編