インドにもいた その2
2015 SEP 8 13:13:39 pm by 西 牟呂雄

インド人の社長が突然言った。
「明日はゼネストだから工場は稼動できない。」
その場にいた全員が(僕以外はインド人)エッと驚く。僕が驚くのは当たり前だがインド人までが『まさか』という反応だった。どうも以前からやるかもしれない、と言われていたそうだが結局やることになったとか。
お陰で予定はメチャクチャになり、現場にも出られず。仕方なく事務所で昼飯でも食おうか、となった。相手先で別の人達とパワー・ランチをするためホーム・メイド・カリーを用意したから一緒にどうだ、と誘ってくれたのだ。いやも何もない。
昨日は渋滞で一時間もかかった道が、そのストライキのおかげで10分で着いてしまった。何と学校まで休みになる。
そして懐かしいとでも言うのか、ツルハシにハンマーの旧ソ連国旗のような旗を持った集団が時折集団で練り歩いていた。聞いた限りではああして見回って、もしスト破りで操業している工場があったら襲撃するとか。紅衛兵じゃあるまいし本当だろうか、確かに食料品のお店以外はシャッターが閉まっていた。
事務所の横に怪しげな木が立っていた。これ健常者の方には毒々しい赤い花が見えるはずだが、写真に撮ってアップすると私には分からない(おそらく東 兄も全然ダメだろう)。
その邪悪な花を背にしながらパワー・ランチが始まった。そしてランチの相手はインド海軍のアドミラルなのだった。
無論我がパートナーは一生懸命接待するのだが、盛り上がりに欠けたまま時間が過ぎた。立食なのである時点でアドミラルと僕の間に真空地帯ができてしまい、何か切り札を出さざるを得なくなった。
『アドミラル、私はネイビーのビッグ・ファンだ。大変センスィティヴな話だが、私の父は1945年にネイヴァル・アカデミー(海軍兵学校)の生徒だった。』
アドミラルは途端に態度を変えた。
『お父さんはお元気か。あなたもネイビーだったのか。』
まずいことにブレザーにヨット・クラブのエンブレムを付けていたので、これではセーラーだと誤解されると思い、取ってつけた。
『無論違う。それに今日の日本にネイビーはない。マリタイム・セルフ・デフェンス・フォースだ。』
読者諸君、その時のインディアン・アドミラルの顔をお伝えできないのが残念だ、こいつは何を言ってるんだという表情になった。マリタイム・セルフ・デフェンス・フォースでは何のことか分からなかったらしく、こう言った。
『ネイビィ イズ ネイビィ』
それからジャパニーズ・ネイビーのことをやたらと誉めそやし出した。一度訪ねたが素晴らしい、たくさん学ぶことがあった、あの艦船があれば日本は安心だろう、そして・・・・。
『センカクを何とかしろよ。』
困るんですよ、そういうことをアジア・エリアで聞かれると。仕方なく『あれはマリタイム・セルフ・デフェンス・フォースは相手にしていない。コースト・ガード(海上保安庁)の仕事だ。』と言ってみたがどうも全く通じない。マリタイム・セルフ・デフェンス・フォースは海上自衛隊の正式名称なのだが沿岸警備隊くらいに思われるようだ。
インド海軍は原子力弾道ミサイル潜水艦や航空母艦を保有する堂々たるブルーウォーター・ネイビー(外洋機動部隊保有海軍)であり、そういう意味では海上自衛隊より格上と言えなくもない。ペルシャ湾の海賊対策では共に警戒に当たる関係でもある。
先日亡くなった作家の阿川弘之氏は、海軍の短期現役主計出身で海軍関係の著作も多い。ちょっと無理筋かと思われるほどの贔屓の引き倒しめいたコラムもある。
面接を受けに行って中佐クラスの試験官に『貴様はなぜ海軍を志望したのか。』と聞かれ、『陸軍が嫌いだからであります。』とやったと書いておられる。するとその試験官がニヤリと笑ったそうだが本当だろうか、実際に合格している。しかしこれ、あんまりじゃないか。多少陸軍に失礼かとも思う。
その阿川大尉の海軍自慢の定番に『フレキシビリティ』がある。そう言えばオヤジのネイヴァル・アカデミーのクラスメイトには医者だの社長だのからデザイナー・作曲家・共産党の元代議士までいる。但し敗戦により解散させられたので様々な道を歩まざるを得なかったからかも知れない。
不思議な事に作家にはまるで応援団のように海軍出身者がいて、文芸春秋社の池島信平社長を中心に源氏鶏太、阿川弘之、豊田穣(この人は海兵出身)といったお歴々が「海軍の会」をやっていた。池島信平・源氏鶏太両氏は徴兵組でだいぶ年嵩が経ってから水兵(セーラー)に取られたのだが、何故か大変な海軍贔屓。世に『海軍善玉・陸軍悪玉論』がはびこる所以である(この点、陸軍出身の司馬遼太郎あたりが陸軍の悪口を書きまくったせいで損をしたんじゃないだろうか)。
ちょっと断っておくが、私は安保法制改正には賛成だが戦争絶対反対の平和主義者です。戦争肯定論者では断じてないので、そこんとこよろしく。
又、海軍同士は国境を越えて一般的に仲が良いことで知られる.ネイヴァル・アカデミーのクラス・メイトが海外に行くと、各国の現役にやたらとチヤホヤされていることは聞いていた。いわゆる登舷礼式を以って迎えられる。
このインドも海軍はそうなのか。敬礼こそしなかったがアドミラル(良く聞くと技官のようだった)のジャパニーズ・ネイビー礼賛を聞きながら、こういうのも文化の共有と言うのかとフト思った。
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Categories:旅に出る

中村 順一
9/9/2015 | Permalink
自衛隊の定義を海外で説明するのは難しい。イギリス人とよく議論になったが、先方は”どうもわからん”という顔をしていた。西室兄ご存じのとおり、我が家もばりばりの海軍だが、なぜ開戦を望まなかった海軍が最後まで開戦に反対しなかったのか、ととても残念に思う。海上自衛隊とインド海軍はウマが合いそうだな。
西室 建
9/9/2015 | Permalink
冷戦時代は、ソ連ーインド アメリカーパキスタン の構図になっていて、おまけにインドーパキスタンは犬猿の仲だから、なかなか交流できなかったらしい。インドの外洋機動部隊も専らパキスタンへのアウトレンジ攻撃に運用された。
現時点では極めて親日的な印象を受けた。
本年の国際観艦式には韓国・米国・豪州・フランスと共にインド海軍も参加するそうだ。