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あやしうこそ物狂ほしけれ 

2016 FEB 8 22:22:19 pm by 西 牟呂雄

 春節。太陰暦の正月一日は今年は二月八日です。新暦正月はいつも通り喜寿庵にいました。毎年当たり前のようにスノボで初滑りをしたのですが、果たして何のために滑るのか一瞬迷った。上達する可能性はもうない、上達したところで”それがどうした”ですね。運動のためと言えなくもないが、疲れるとすぐやめてしまうから体力がつくまで行きませんね。爽快感はあるといえばありますが、スキーの直滑降ほどのスピードは出せません。第一この年でムチャをして骨折でもしたらバカ扱いされます。
 いっそ朝から酒でも飲んでしまおうかとも考えましたが、お腹が空いたのでラーメンを食べるという安直な理由をひねり出しゲレンデに行ってつくづく年齢を感じたことは既にブログに書きました。することがないので余計なことをして、気が付きたくもないことを実感させられて、と。
 2日・3日は箱根駅伝を肴にチビチビと酒を飲みウトウトしていました。それにしても彼らの体力と根性は素晴らしい。無論選手達も名誉に思い達成感を抱いたことでしょう。この20チーム200人は今この時点でスーパースター、優勝した10人はその名を刻まれます。しかし、更にオリンピックの長距離に出るような人は稀であり、殆どの選手を私達は1年後には忘れてしまいます(神野君は別)。実は某大学の駅伝部で(強豪校です)箱根の山下り(6区)を走ったことのある若い人を知っていました。その子は何かのケチがついて退学してしまい、会った時は陸上など見るのもいや状態で、色々あったのでしょう。自由になって最も好きだったものを失ったとも言えます。
 以上のことはどうでもいい話ですが。

 何もすることがなくなるとそれは不幸なのでしょうか。多くの人はそう思うかもしれません。しかし何かをやってさえいればそれで満足するものなのか。
 何もしない暮らしこそ最高だとは思えないですか。喜寿庵ではいつも一人だから自由と言えば自由。即ち何もすることがありません。去年はヒマにまかせて野菜造りに挑戦してほとんど失敗しました。時間も労力も全くの無駄。せいぜい失敗作を造る自由を満喫した、くらいかなぁ。
 ゴルフをやったりスノボに行くのも勝手に一人で行きます。それでいて深刻な孤独感に浸るとか、ひとりぼっちを実感するようなことはない、いや、何かに困ったときはあるな。生活はしていますから。
 毎日毎日一人でやりたいことだけをやって暮らすというのは現実的ではないですね。恐らく時間が限られないと何でもかんでも後回しにして、後で大変な事になり七転八倒することになりそうです。

 『つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ』という書き出しであまりにも有名な徒然草です。兼好法師は何もしないで「日ぐらし硯に向かいて」いたのでしょうか。勿論全部読んだ訳ではありませんが、知る限りではアチコチ出かけてはアレはダメとかコレは面白いとか言っています。また人の噂も大好きで、ネットも電話もない鎌倉時代にドコソコの誰は立派だとか、ナントカは大したことないと聞く、などと実名を書きつけています。比較的偉い人の悪口は書いていない。
 十月を神無月(かみなづき)と言うけれど記したもと文(ふみ)はない、といったヒネた意見も載せています。信濃の元国司行長という人が平家物語の作者だとありますが、これには諸説あるようです。
 それで思うに兼好法師、何もすることが無かったんじゃないですかねぇ、要するにヒマ。
 どうも鎌倉時代は京都周辺には将軍の直接の圧力は感じられず、山城・摂津・河内の国は半独立圏の趣があって気楽そうです。

 しかし時は流れ鎌倉末期から室町時代に移行する大混乱時代を迎えます。
 兼好法師も晩年にかの悪名高い足利尊氏の右腕、高師直に接近したという説もあります。人妻に宛てる恋文を吉田兼好に書かせたことが太平記に出ていて、これが後に江戸歌舞伎の忠臣蔵のネタにされています。二人でどんな会話をしたのでしょう、何しろ希代のワルと隠遁者。噛み合ったのかお互いに利用したのか興味の尽きないところです。

 『あやしうこそ物狂ほしけれ』は今の言葉で言えば『一日中ヒマすぎて、マジ頭にくるぜィ』くらいかもしれませんな。

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Categories:古典, 言葉

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