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天使になったお魚

2018 SEP 3 5:05:57 am by 西室 建

 
 遠くに鱗雲、夏よりは透明度の高い海中を銀色の魚影がスーッと横切った。流木の下にいるシイラだ。

シイラ

 シイラは見た目が少しおでこが張ったような顔をした回遊魚で大型になると1m以上にもなる。釣り上げると暫くして魚体が緑色っぽく輝くようで、疑似餌を引きながらのトローリングで掛かったのをしばらく色が変わってくるまでジーッとみていた。
 これを食べるには塩焼きとかムニエルみたいに料理しなけりゃならないからなぁ・・・。
『なあ、あんた。久しぶりだねえ』
ん・・・・?
『オレだよ。シイラだよ』
シイラって、こいつのこと?
『あんた覚えてないかい。4年くらい前にこのあたりの海で銛もってオレを追いかけてきたろう』
むかし、シイラを突こうと銛をつかんだ途端、酔っぱらっていたので海に落ちてあやうく溺れかけたことがあったな。
『そうだよ。そのときのシイラだよ。あんときゃこの人間は海の中と外の区別もつかないのかと驚いた』
そういうお前だって間違えて疑似餌に食いついてこうなってるくせに。
『いや、オレはもう回遊に疲れてそろそろ潮時だとおもってもう海から出たかったんだ』
何を言ってるんだ。魚が疲れるなんてきいたことない。
『まあこの3年、南の海からこの辺をぐるっと回るんだけど、あんたらが思うほど海の中は平和でも何でもない。いつも誰かが誰かを食っちまうんだから、そりゃ大変だよ。事故だってしょっちゅうあるしあんた等が釣り上げたりするだろ。魚だって生き残るのは大変なんだ』
まあ、それはそうだろう。海の中は弱肉強食もいいところだからな。
『それでオレももう海からはオサラバしようと思ったわけなんだが、あんたたちが言う天国ってのはここのことじゃなさそうだな』
あたりまえだろう。ここはただの地上で現実の世界なんだから。
『海で気の毒な事故にあった人間が最後に口走るんだよ。天国に行くってさ』
それはどうかな。人間だって天国に行けるのは背中に羽の生えたエンジェルくらいだろう。
『そうか、それじゃあんたそのエンジェルの羽ってやつをオレに付けてくれないか』
いくら何でもそりゃ無理だ。魚なんだから、せいぜいトビウオがやってるみたいに胸ビレを広げる練習でもするんだな。
『あんなのじゃダメだ。トビウオ程度じゃチョッと飛んだだけですぐに海に落ちてくる。あの水鳥の羽ばたけるような羽がいいんだ』

無理だね。そもそも死んでからじゃなきゃ天使にはなれない、それは人間も同じさ。
『それじゃ死ぬ前にお願いがある。オレが天使になったらどんな姿なのか見たい。あんたその姿を絵に描いてくれないか』
絵だと?めんどくさいシイラだな。オレはここ何年も絵なんか描いたことないよ、まあいいか。テキトーにパソコンから画像でも検索してやろうか、とキーボードを叩いたが、考えてみればそんな絵柄などない。羽が生えているのはペガサスぐらいだ。
 しょうがない、メモ用紙に思いついたような絵を書いてみると・・・。

 あいつはきっと初めて天使になったシイラだろう。オレのことを覚えていてお別れを言いに来たのだな。そして自分では絵は描けないからオレに書かせたに違いない。

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