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昭和45年11月25日 (その後)

2019 FEB 1 6:06:20 am by 西 牟呂雄

全国紙 太陽新聞 11月26日朝刊一面

 首都騒然 白昼に皇居占領
 三島由紀夫が扇動か
11月25日の午後、突然防衛庁市ヶ谷駐屯地より陸上自衛隊の部隊が道路封鎖された靖国通りを通り皇居半蔵門から内部に突入、封鎖している。
 25日昼過ぎに警視庁機動隊が皇居周辺を立ち入り禁止にする措置を取りはじめた。目撃者によると、その直後完全武装した自衛隊の一団が整然と隊列を組んで皇居を目指し行進を開始したようだ。その先頭には作家の三島由紀夫が率いる楯の会のメンバーがいたと見られる。
 同時に皇居上空には突入直前から兵員輸送ヘリコプターが数機ホバリングのフォーメーションを組んでいたため、異変を察した報道各局の上空からの撮影はできず、中の様子を窺うことは出来ない。
 その後、習志野から飛来したとみられる輸送機より突如落下傘部隊が皇居に降下した。従って皇居内にいる武装部隊は千人以上と見られる。
 又、25日夕刻に首相官邸・警視庁・報道各社に三島由紀夫名で檄文が届けられ、内容は全て同じ。檄文は日本からの独立をうたっており、大和国建国宣言とある。
現在、普段は一般に開放されている日本武道館や科学技術館のある北の丸も含め、内堀の中は完全に封鎖され電話等の交信も遮断されている。

天皇・皇后両陛下、並びに宮内庁職員らの安否は不明

 政府は直ちに佐藤栄作総理大臣名で非常事態宣言を出し、警視庁内に対策本部を設置。本部長には本多丕道(ひろみち)警視総監が着任した。治安対策は当然であるが、警視庁関係者によると今回の事件に第四・第七機動隊が動員されて道路封鎖及び皇居各門の封鎖に協力しているものとみられ、それを外側から残存機動隊の総力を上げて囲い込む警備を開始している。首都高速も通行止めとなった。
 一方、防衛庁も中曽根防衛庁長官を本部長に臨時司令部を防衛庁(六本木)に設置。市ヶ谷駐屯地やヘリを飛ばしている習志野駐屯地、並びに独立宣言に名を連ねている練馬駐屯地以外にこの動きに同調する部隊がないか各基地の情報収集に当たった。
 尚、自衛隊治安出動は発せられてはいないため、当面の事態収拾は警察主導で実行される模様。

 朝刊二面 全面

大和国建国宣言 全文
我々は真の独立をすることによってのみ、日本の伝統文化を踏まえた新たな国家建設をすることが出来るとの思いから、ここに大和国の独立を宣言する。
大和国は天皇陛下を元首とした立憲民主国家たることを目差す。独立国として日本の法律は適用されない。
天皇陛下は日本国の象徴であることには変わりはないものの新生大和国の軍を矛盾無く統帥する。
大和国の領土は本日時点で皇居域内、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地・練馬駐屯地・習志野駐屯地である。
現行体制の下、日本国との国境樹立交渉並びに領土交渉をするが、大和国の代表者は太政大臣である三島由紀夫であり、日本国の交渉相手は内閣総理大臣である佐藤栄作並びに防衛庁長官である中曽根康弘のみとする。
交渉の場所は桜田門内特設舞台とし、48時間後の11月27日正午とする。尚、佐藤・中曽根両名が来ない場合は大和国独立は自然承認されたものとする。

天皇陛下万歳
大和国 太政大臣 三島由紀夫
大和国 陸軍大将 益田兼利
大和国 陸軍少将 山本舜勝

・・・・

NHK特別中継 11月27日正午  桜田門内特設舞台

 もう直ぐ正午になります。全ての番組を中止して皇居より実況中継をいたします。
 一昨日より作家の三島由紀夫と自衛隊関係者、一部警察関係者の武装勢力により皇居が占拠されております。武装勢力は日本からの独立を求めて、佐藤総理大臣・中曽根防衛庁長官との会談を要求してきました。
 会談は桜田門を入ったところに占拠した勢力により特設舞台が設置され、そこで行われることになっております。報道関係は立ち会うことはできませんが、NHKでは特別に警視庁の屋上よりテレビ中継をいたします。間もなく正午になります。
 現在、皇居内部との連絡は完全に遮断されていますが、一部緊急回線もしくは何らかの協力者を通じて官邸とは連絡できているとの情報があります。それによると天皇皇后両陛下はご無事にあられ、ほかにも怪我人、体調を崩した者はいない、とのことです。
 あっ、桜田門外に黒塗りのおそらく政府関係者の乗る車が白バイ・パトカーに先導されてまいりました。 
 先の車からは中曽根防衛庁長官が降りました。それに続いて後続の車からは佐藤総理大臣が降りて、桜田門に向かっています。桜田門前にいた盾の会会員・機動隊員・自衛隊員・皇宮警察官らが出迎えております。そして閉じられていた門が開けられました。何と中には本当の舞台が見えています。門は閉じられます。再び武装警戒態勢が取られました。
 スタジオには三島由紀夫とも親交のある文芸評論家の奥野健男さんに来ていただいております。スタジオどうぞ。
アナウンサー(以下ア)「奥野さん、宜しくお願いします」
奥野(以下 奥)「宜しくお願いします」
ア「今回の事件ですが、奥野さんはどうみておられますか」
奥「うーん、とうとうやったか、という感じですか」
ア「以前からそういう可能性を示唆した作品もありますよね」
奥「はい。しかし我々は文学としてとらえていましたから、直接行動を起こすとは思いませんでした。ただここのところ盾の会の活動にのめり込み過ぎたことは確かです。時間も金も」
ア「一部の情報ですが豊饒の海の最終稿の日付が昨日で、まさに決行する直前に編集者に渡した、という噂がありますが」
奥「本当かどうか知りませんが、私はいかにも三島らしいと思いますね」
 スタジオ!桜田門の中継所です。たった今、会談終えたと思われます佐藤総理と中曽根長官が出てまいりました!そしてその後から楯の会のメンバーが続いています。整然とした行進です。アッ、更にその後からは陸上自衛隊が続いています。
 たった今情報が入りましたが、皇居各門から続々と同じように占拠していた部隊が投降しているとのことです。
 そして今、この二日間皇居上空で代わる代わるホバリングしていた輸送ヘリが一機づつ向きを変え編隊を組んで飛び去って行きます。
 事件は解決したのでしょうか。

コメントにつづく

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昭和45年11月25日

Categories:202X年の怪

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