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イザイの無伴奏ソナタ3番『バラード』

2023 JUN 1 6:06:21 am by 西 牟呂雄

 先日、都内某所で小さなチャリティー・コンサートがあった。
 友人のブルーグラス・バンドが出演し、見事な演奏を楽しませてくれたのだ。
 そこまでは、単に楽しいだけだったが、真打にすごいのが出てきて圧倒された。バイオリニストの深山尚久。そして選んだ曲が提題の『バラード』だった。
 彼はご承知の通りプロであるから、腕が違いすぎて一緒に演奏できる人となるとノー・ギャラでは無理なので独奏となる。それで選んだのがイザイとはねぇ。
 『物悲しい』と『哀愁』の中間の美しいメロディーが奏でられて、その旋律を耳で追っているうちに途中からアレッ、となった。この曲、難しすぎる。深山氏は超絶技術で見事に弾きこなしているのだが、聞いているこっちは堪ったもんじゃない。何が堪らないのかわからないが、そう思い始めたら楽しめなくなり、終いには怖くなった。
 僕は高尚なクラシック論とは無縁なので、この曲の解釈はプロに譲る。
 だがウジューヌ・イザイという人は、非常に情熱的かつ感情豊かな天才なのだろうが、一方で極めて厳格なところがあり、怒りを爆発させることもあったのではないか。曲を書いているうちに『オレはこんなに簡単にできるのに弟子の誰一人弾きこなす奴いない』と怒り出して、ますます難しい旋律を書き込んだ。
 そう、僕はあの美しい流れの中にフト、作者の内なる怒りの炎がチラつき、恐怖感を感じたのかもしれない。
 というシロートの感想などどうでもよくて、深山氏の演奏はそれはそれは素晴らしいものだった。

 打って変わってマニアックなプレイヤーも登壇。余程のツウしか知らないだろうが、シカゴを中心に活動するブルース・ギターの名手、牧野元昭がインストゥルメンタルでスィング。この人はブルース・ハープ(10穴ハーモニカ)の天才シュガー・ブルーと組んでワールド・ツアーを回っている。
 こちらも客層を意識しての(家族連れの高齢者が多い)ジャズ・ナンバーをベースと二人で演奏した。
 そしてあろうことか、クラシック+ブルース+ブルーグラスのコラボが実現してしまい、冒頭の友人が(彼はフィドルもやる)深山・牧野両氏とともにステージに上がる。
 スタンダードの名曲『ティー・フォー・トゥー』を演奏した。この曲に落ち着くまでにいかにモメたかを想像するとそれだけで笑える。あれだけジャンルが遠い3人がまじめに相談をしたとはね。
 まあ、なんとも豊潤で密度の濃い午後を楽しんだ(いささかムチャ振りの感アリ)。
 フィナーレは小学生が登壇してカワイイ声の大合唱、カワイイ。
 で、そろそろネタバラシをすると、この3人、某小学校の同級生なんですな。ジャンジャン!

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Categories:古典

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