おォ! 鉄の爪
2024 APR 20 9:09:06 am by 西 牟呂雄
鋭い眼光、いかり肩、リングをノッシノッシと闊歩しては相手と組みあう。スキを見てこめかみにガシッと手が食い込むともはや成すすべはない。そのまま押し倒されて抑え込まれればスリー・カウント。立ったまま揉み合えばギブアップ必至のアイアン・クローの完成である。手を広げた親指の先から小指の先までのスパンは33cm、林檎を握り潰す120kgの握力、単純だが物凄い威力の必殺技。ダラスの帝王、フリッツ・フォン・エリックは怖かった。
都内某中学で盛んに行われたタイトルマッチでは地味な技だったことと子供の握力ではギブアップが取れないために使い手は少なかったが、やられると痛い。
その中学に通っていた時の放課後に人だかりができていた。巨人のような白人が男の子を連れて校内に迷い込んできたのだ。その白人を遠巻きにしているのは男子生徒ばかりで、僕もその輪にヤジ馬として加わった。その中学は道を隔てた向かいに高級ホテルがあり、近所には大使館もいくつかあって外人は当時でも珍しくない。そのうち思い切って生徒手帳を差し出した奴がいてその外人は気軽にサインしたのをきっかけに輪が縮まって集団が押し寄せるようになった。やや危険な雲行きになると体育の教師が割って入って生徒を押し戻したのだ。巨人は髪の毛を短く借り上げて眼鏡をしていた。『おい。あれ誰なんだ』『バカ、エリックだよ。アイアン・クローだ』『エーッ!』初めての出会いだったが、テレビで感じた殺気はなくニコニコしていた。
ギミック上のキャラクターはベルリン生まれのヒットラー・ユーゲント出身、敗戦後の移民となっているが全部ウソで、根っからのテキサンである。
ジャイアント馬場が自ら決着を着けると公言していた試合はテキサス・デスマッチで行われた。それは10カウント・ノック・アウトかギブアップでのみ、反則裁定なしというアホみたいなルールだった。ストマックにめり込んだアイアン・クローのまま馬場の巨体を持ち上げかけたりこめかみから出血させたりの荒れた試合を二人のレフリーはひたすらカウントを取り続ける。最後は馬場がエリックの頭を思いっきり鉄柱に打ち付けてノック・アウト勝ちだったと記憶する。実にプロレス的勝負で、馬場は試合後の勝利者インタビューに答えて『これで馬場より強いとは言わせない』と言ったのが印象に残っている。
映画『アイアン・クロー』はそのエリックの5人の息子(長男は早世)の物語である。おそらくあの時に連れていたのは年長のケビンだっただろう。ご承知の通り、ケビンを除いた兄弟は全員不幸な死に方をしてしまい、呪われた一家などと言われていた。
ケビン役のザック・エフロンがレスラーに成りきって肉体改造をしている(他も凄いけど)。プロレスの演出はチャボ・ゲレロ。スマック・ダウンで大活躍したメキシカンである。これがまた80年代のスタイルを忠実に再現していて実に見ごたえがある。
6人の息子がいたが、長男を早くに失くし、ケビン・デビッド・ケリー・マイク・クリスの5人がレスラーとなる。この内デビュー後1年でピストル自殺してしまうクリスを除いた4人の兄弟の物語だ。物語の進行上クリスは描かれていなかった。
作品については見てもらうしかないが、デビッドを失った後の3人の絡みは素晴らしい。
全員アイアン・クローを使うが、裸足のファイター・ケビンはホーク・クロー、元円盤投げの選手だったケリーはタイガー・クロー、マイクはパンサー・クローと名付けられた。
ケリーは事故により足を切断したのちも義足を付けてファイトするのだが、そのシーンもあって感動させられる。
抗争を繰り広げるライバル達も実際に似ていて往時の記憶が甦る。ブルーザー・ブロディ、ハーリー・レイス、リック・フレアーなどそっくりな俳優をよく見つけたものだと感心した。そこまでやるなら兄弟たちと戦った日本人レスラー、ザ・グレート・カブキも出せばよかったのに。
エンディングについて、最後に自殺したケリーが先に逝った兄弟達とあの世で再開するシーンがあるが、あれは余計なシーンだった。
むしろ、ケビンの息子で日本のノアで活躍したロスとマーシャルの兄弟を実写してほしかったな。
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Categories:プロレス