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海と船と釣り

2024 MAY 3 23:23:42 pm by 西 牟呂雄

 サボッてばかりでは船に申し訳ない。コーキングもしなかったし。
 久しぶりに会った愛艇アール・コンシェルジはさすがに機嫌が悪そうだった。彼女(船は女性名詞だから)はプライドが高い。僕は愛想笑いは浮かべずに、そっぽを向いている彼女に近づいて行き『相変わらずキレイだなぁ』と語りかけるように独り言を言う。その後桟橋からポンッと飛び乗って『久しぶりに会うとどんなに素晴らしい船なのか改めてわかるな』とわざとつぶやくと、ユラリと船が揺らいだ。どうやら機嫌は直ったようだ。

 朝方多少グズついたが曇り空で時々日が差す。多少寒いがセーリングはできる。と思ったらいきなりトラブった。我が艇は水のタンクが舳先にあって50Lくらいの水を積むのだが、あまりに久しぶりなのでその水を抜いた。すると電動ポンプがエアを噛んでしまって水が出ないではないか!これでは長い航海はできない(しないけど)。それで配管を開けて試してみたのだが、パイプにクラックが入っていた。パイプは塩ビの特注で手配はできない。あれこれ考えて水道配管の部品で付け替えることにして、カインズホームまで車を飛ばして買ってきた。取り付けてみると・・・出ない。ポンプが空気を吸ってしまって圧がかからないのだ。口を付けて吸ってみたがダメ。どうやらパッキングが甘くて継ぎ目からまだ空気が入っているらしい。再びカインズホームでサイズの合いそうなゴム・パッキングを探す。

 やっとこさ水は出られるようになった時点で夕方。
 ところがなにやらおいしそうな。
 仲間の船がバーベキューを始めていたのだ。
 僕達も酒・肉・野菜を持ち込んで仲間に入れてもらう。
 やっぱりこう来なくっちゃね。

 ここで衝撃的なニュースが飛び込んできた。
 別の船のオーナーさんが亡くなったと言うのだ。
 全員箸が止まってしまった。原因は事故だ、脳溢血だ、脳梗塞だ、と憶測が飛び交う。
 自転車が好きな人でスポーツ・サイクルで世田谷から油壷まできたこともあった。
 何より、明日の三浦~横浜のレースにもエントリーしていた。
 その船のクルー達は参加するかどうか悩んでいたが、故人の意思を汲んで決行するとしたらしい。
 追悼レースとなれば、我が艇もスタートくらいは見送らなければ、と早く寝た。

 翌朝。スタート地点は湾を出たところにあるブイだ。
 近づくとセールを卸している本部艇の周りにエントリー艇がポジション取りで旋回中である。
 ところがご覧の通り全く風のない凪。各艇スピンやゼネカーを上げて必死に風を拾おうと苦戦していた。
 長音が鳴ってスタート。それぞれの作戦に従って僅かな風に向ったり、なじんだりしていく。

 その中で故人が乗るはずだった船を見つけ、激励の声をかけた。
 すると、バウのところに故人愛用の合羽がまるで旗のように翻っている。
 彼らの友情や船乗り魂が伝わって来た。
 がんばれよ、の気持ちと共にご冥福を祈った。

 早朝のスタートを見送って、港に帰った。
 遅い朝メシを食べて一服してもまだ11時。あの風では横浜まで6時間では無理だ。僕達も今更出港しても遊べない。
 すると知り合いが声をかけてくれた。
 『釣りに行くけど来ない?』

 この人はハーバーのレースで何度も優勝している高速艇のオーナーで、釣り船の2軸船も所有している。
 僕は釣りはやらないが、この船には乗ってみたかったので連れてってもらうことにした。スクリューが二つあって右は右回転・左は左回転で推進する。ギアの操作だけでも細かい調整ができる船で、ヨットとはフロントの景色がまるで違う。
 風で苦労することなくドンドン進んでエンジンを止めた。
 水深40mくらいの所で波に揺られながら釣りが始まった。アンカーも打たずに漂っていると横波にはかなり揺れる。甲板で上半身裸になって寝ころんだ。

この画は借り物

 するといきなり『あっきたきた』と声が掛かってタモですくうと赤い魚が釣れた。高級魚、ハタだ。
 揚げた時にキラキラしていたがスマホが間に合わず画像は借りモノ。
 この人はもう一尾釣りあげたあと、やってごらんよ、と竿を貸してくれた。ヨーシ、オレも。
 疑似餌は赤いタコを付けてくれたが、他にも黄色・緑色の奇麗に光る物がたくさんあって、フーム魚にも好みがあるのかと奥深い。
 そしてサーッとリールを落としていくと着底したのがわかるのだ。
 それから疑似餌が生きているフリをするためにクイッ、クイッと引いては流す。
 すると、ピンと張った釣り糸の先の疑似餌の感触が、アッこれは何かをこすっているな、とかフワッと浮いたな、とか伝わるのである。

ちゃんと目もある

 糸は潮に流され船は風に流され、角度約45度の方向、即ち水深の√2倍の50~60m先の見えない海底を疑似餌は漂っていて、僕は手探りのようにその感触を味わった。
 一度だけググッといった感じで手ごたえがあったようだが、上げてみたら藻がついていた。
 場所も変えてみたが、その後は当たりもない。
 レースは横浜に行けただろうか。
 亡きO氏の魂も風に乗れたかな。
 クイッ、クイッ、クイッ・・・・

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Categories:ヨット

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