あのレイモンド君が
2026 AUG 24 0:00:27 am by 西 牟呂雄
謎の人物ヒョッコリ先生が亡くなって3年がたった。喜寿庵でフト思い立って墓参りでもするか、とこの暑い中〇〇寺まで歩いて行った。庭仕事のついでなのでツナギの作業服だ。
『アッ!』『アッ!』
ほぼ同時に声を上げた、レイモンド君だ。ずいぶん大きくなって少年っぽくなったなー、と思う間もなく駆け寄ってきてギューッとしがみついてきた、覚えてくれていたんだ。以前にもお目にかかったことのあるお父さんとお母さんの3人でお墓を掃除していた。レイモンド君は大きな声でなにかを喋ってくる。『アーイアギャギョーインオージーチャニナヒブ』
『?????』
本当に何を言っているのか分からない、これ英語か。お父さんに挨拶した。
『どうも』
『わざわざお参りに来て頂いたのですか、恐れ入ります』
『いやいや、3回忌でしょう。お世話になりましたからねぇ』
『とんでもない。こちらこそご迷惑にも祖父ともども散々レイモンドを遊んでいただきまして』
『(ホント迷惑だったよ)いえいえ、一緒に楽しんだだけです。もう帰国されたのですか』
『三回忌で夏休みに帰っただけです。まだまだ帰れませんよ』
『レイモンド君、ずいぶん英語(かどうか分からないが)が上達したようで』
『それがコクニィを覚えかけたのでまずいと引っ越しまして今年から現地のプライマリー・スクールに通っています。そうしたら日に日に日本語がおかしくなるんで日本人学校にも土日は行かせるんですが時々混じっちゃうみたいなんですよ』
『ところでレイモンド君は先生のお孫さんかと思ってたらひ孫さんなんですね』
『祖父は96で死んだんですよ。私の父とは折り合いが悪くて父もこっちには来ませんでしたからね。ところで祖父は別に先生と呼称されるようなことはやっていませんよ(笑)』
『そうでしたか。たたずまいで勝手にそう呼んでました。実はお葬式を遠くから眺めていてお父様の挨拶が聞こえてきてひ孫さんと分かってびっくりしました』
『アハハ。レイモンドも懐いていましたからね。そうそう、ヨットに乗せてもらったじゃないですか。まだやっておられますか』
『はい、あさってから海に出ます(シマッタ、言っちゃった)』
『そうですか。レイモンド、またヨットに乗ってみたいか』
『ギョーイヤ!アーイアーイアイ』
『そうか。どうでしょう、私が車を出しますからご都合よければまた連れて行ってくれますか』
『(ハメられた。前にもヒョッコリ先生にやられた)・・・もちろんいいですよ』
マッいいか、と後日お父さんの運転でレイモンド君と三崎に行った。折悪く珍しく東進してきた台風メが近づいていて、房総の方はガバガバに波を被っているようだが、着いてみたら相模湾はそれなりに風はあるが海は静かである。
ゲストが来ると前もって連絡を入れていたのでクルー達も喜んで迎え入れてくれて軽く海水浴でも、の運びとなった。
前もそうだったが、この子は足が立たなくとも全然海を恐がらず、ライジャケを付けて平気で飛び込んでしまう。沈むことはないのだが、湾内は結構潮流もありチョットでも目を離すと流されてしまうから、お父さんはすぐに追いかけるのに忙しい、結局背中に乗せて泳ぐハメに。
こっちは車も便乗だし例によってちょっと舵をとった後は焼酎をガブ飲み。夜半に目が覚めると喜寿庵に着いていた。
翌日にお父さんからメールが来た。お礼が述べられていて『今後ともよろしく』とあったが、面白い写真が添えてあった。
安全対策でGPSをレイモンド君のリュックに付けているので、当日の航跡が記録されたのだ。油壷湾を出てからの航路がプロットしてあった。この海域は定置網が設置してあるので、それを避けて北上・南下の後、諸磯湾でアンカーを打って泳いだことが分かる。
その翌日だった。セッセとネイチャー・ファームにダイコンとニンジンの種を蒔いていると作業服姿のレイモンド君が『ぎょいらあらんヘラトサポイニグ(と言ったように聞こえた)』と言いながら入って来た。お寺で会ったときにこっちがツナギだったので自分も同じ格好で来たのだろうか。どうせこっちの英語も通じないだろうから普通に日本語で返した。
『レイモンド君お早う。今。ダイコンとニンジンの種蒔きしてるんだよ。手伝ってくれるかい』
分かったかどうか分からないが、ニコニコしながらレイモンド語で返事をした。
『アーイワライギョイントゥラビナガロ』
それから掘り起こして腐葉土を盛ったところに水をやり、パラパタと種を蒔いて土を被せる。時々蒔いた土の上を踏んづけたりするので、コラコラ、と怒ったりしながら二人で作業した。どうもこのくらいの子供には言葉が十分通じなくともコミニュケーションはできるものらしい。一段落して二人で座った。
『レイモンド君。ここからここまではレイモンド君の畑にしよう。ダイコンやニンジンができたら写真を撮ってあげるね』
通じたのかな。猛暑の夏でももう秋の日差し。涼しげな秋風が二人の間を吹いて行った。
すると、レイモンド語でボソボソと何かつぶやいている。大人の日本語に訳せば、もうすぐイギリスに帰ります、と言ったんだと思う。大きくなったな、こっちが年を取るわけだ。
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Categories:和の心 喜寿庵




