Sonar Members Club No.36

カテゴリー: アルツハルマゲドン

大統領のイラ立ち

2022 APR 22 5:05:53 am by 西 牟呂雄

 明らかに常軌を逸した表情と、氷のような不気味な目の色に居並ぶ閣僚達は声も出せなかった。
『バカボンスキー諜報省長官。ナチスト達に嫌気がさしている首都の住民が歓喜の声で我が精鋭部隊を迎えるという話はどうなった』
『ハッ、潜入工作員が自分の手柄を大げさに伝えていた模様で現在処分を検討しておりましたところ』
『そいつを死刑にしろ』
『それが・・・戦闘に巻き込まれすでに戦死した』
『それでは死刑にできずに市民として勝手に死んだのか』
『そのあたりの詳細について』
『ダー、か?ニエットか』
『・・・・ダー・・・』
『バカボンスキー、お前は収容所送りにする。刑期は1万年だ。連行しろ。次、オロカノフ北部方面参謀長。戦車が大量に破壊されて血税1兆ルーブをスクラップにしたそうだな』
『あれはフェイク・ニュースです。鉄血戦車部隊は健在です』
『ではなぜ首都を制圧したのちにオデッサに向けて進軍できていない』
『それはアメリカとNATOが密かに介入しているからです』
『オロカノフ。そういう報告がなぜ私に上がらない』
『今にも壊滅させ南に進軍が始まるからです』
『今にも、と言ったな。今なんだな』
『えー、2~3日うちには』
『私は3日後のことを今とは言わない。お前は今から北朝鮮に行け。今からだ。そこで思想改造してもらえ。次、キシダは何で調子に乗って制裁に乗っかってるんだ。バカボンスキー』
『大統領。先ほどバカボンスキー長官を大統領が収容所送りにしました』
『ナニッ、そうだった。FSBの連絡将校はいるのか』
『外で待機しているのはウソツキー中佐です』
『中佐?オレと同じか、大したことないな。すぐ呼べ』
『ウソツキー中佐、入ります』
『日本は制裁に乗らないという報告を上げたのは誰だ』
『日本に潜入している工作員です』
『ロシア人か』
『ニエット。日本人です』
『名前は』
『確かニシムロです』
『ナニ!あいつか。ジェット・ニシムロはエカテリンブルグにいた二重スパイだぞ』
『大統領はご存じですか』
『KGB時代に会っている。その後日本の総理だったシンゾーに嫌われてクビになったはずだが、そんなのを使ったのか。あいつはいい加減なローシだ。ローシのことを日本語で何というか知っているか』
『知りません。自分は中国担当であります』
『では教えてやる。うそつき、お前の名前と同じだ。ニシムロをポロニュウムで殺れ』
『現在日本にいる工作員はポロニュウムを持っておりませんが』
『お前が持ち込んで殺せ。今から行け。もうこうなったら最後の手段だ。グズコフ大将。核兵器特別体制は万全か』
『ダー』
『キエフとモスクワに一発づつ見舞え』
『・・・・モスクワは既に沈没しましたが』
『よほどのバカかこんな時につまらん冗談が言えるマヌケのどちらかだな。ここ、首都モスクワに打ち込んでアメリカの仕業に見せかけろ』
『大統領。いったいどうやって・・・』
『モスクワには北極海の原子力潜水艦から発射しろ。キエフは隠しようもないから地上からICBMでも何でもいい』
『あのっ、モスクワ市民はどうなりますか。避難命令は出さないのですか』
『そんなもの出せば自作自演がばれる。チェチェンの時と同じにやれ』
『我々はどうするのですか』
『グズコフ。モタモタするな。おお、そうだ!お前のような奴を日本語ではぐずと言うぞ。わーははははは』
『逃げろ』『逃げろー原爆が来る』『ワぁー』『大統領が狂ったぞー』

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

魂が宇宙を漂う話 Ⅱ

2022 APR 10 1:01:32 am by 西 牟呂雄

『おい。おい』
『え、なんですか』
『オレだよ。しばらくだったな』
『あぁ、オマエか。いや、久しぶりだな』
『5年経ったんだよ。どうしてる』
『相変わらずだよ。ヤボな仕事したり船に乗ったり、そうそう野菜造り手掛けてるけど、忙しいんだかヒマなんだか。ちょっとオマエどこだよ。顔がよく見えない』
『バカ。オレは死んだだろ。顔はもうない』
『・・・そうだったな。もう5年か。お前からはオレが見えてるのか』
『見えるわけないだろ。視覚が無いんだぞ』
『それもそうか。待てよ、じゃなんでオレだって分かったんだ』
『こっちは真っ暗なんだよ。そこを歩いているような漂っているような感じだな。そしたら不思議なことに少し光を感じたんでそっちに行こうしてたらなぜか夢から覚めたように意識がはっきりしてあ~っあいつのことだな~という一種の覚醒があって今だな。オマエだってことはすぐ気が付いた』
『凄いな。死んでエスパーになったのか』
『いや、今オマエは寝てるんだよ。その夢の中に入ってこうして話をしてるのさ』
『夢か。どうりでハッキリしないと思った。するとオレが死んだらその真っ暗なところでオマエとまたこうして話せるのか』
『そうはいかない。だってオレは幽霊といえば幽霊なんだから夢なんか見ないし』
『なんだよ。それじゃオレも生きている奴の夢に入り込むしかないのか』
『どうもそうなっているらしい。死んでから5年経って初めてだ』
『ふーん。そんならそのうちまだ元気な息子さんや娘さんの夢でその後のことを聞きゃいいだろ。よりにもよってオレの夢じゃもったいない』
『無論オレもそう思うんだがうまくいかないもんだ』
『多分何かのワザとかコツみたいなものがあるかもしれないな。修行が必要か』
『さあな。こっちにきてからじゃ修行も何も、体もなけりゃ時間の感覚もない』
『苦痛もないんだろ』
『まあそうだ』
『だがオレの所にはうまく来れたな』
『腐れ縁だからな。別に来たくもなかった』
『待てよ。オレはまだ生きてるんだよな』
『そりゃそうだろ』
『するとオマエはオレの夢が勝手に作っている幻という事だよな』
『断じてそれはない。オレがお前の幻想などありえない。断じて認め難い』
『まあそうだろうな。オレだってやだよ、何が悲しうてお前の台詞を妄想しなきゃならんのだ』
『よし、オマエも死んで見りゃいいだろう』
『それは構わんが死んだ幽霊同士は会うことも話すこともできないんだろう』
『だからさ、二人で誰かの夢に忍び込むんだよ。そうすりゃ勝手に話せるだろ』
『ほう、それならいいかも知れんが、誰の夢に入るんだ』
『タカオでどうだ』
『おっ、そりゃいいな。あいつとは決着がついてないからな』
『ん?決着?』
『ほら、今から半世紀も前に大モメにモメたやつ』
『あー、あれか。明日のジョーは死んでたのか生きてたのか、のことか』
『そうだよ。オマエが息を引き取ってたんだ、って言い張ったあれ』
『それはあの時に論破したはずだが』
『バカ言え。一方的にオマエガ返事をしなかったのはすでに死んでいたからだ、と論争を打ち切ったんだよ』
『一方的とは何だ。タカオは答えられなかったじゃないか』
『アイツは一言、ジョーは白い灰になった、と言ったんだよ』
『それじゃオレが論破したことになる』
『ならない。白い灰が死んだことを表していない。死んでいるなら白い骨でなければならん』
『同じことである』
『いや、違う。骨は灰ではない。DNA鑑定ができる』
『バカなことを抜かすな。よし、それじゃ今からタカオの所に行くぞ』
『上等だ。早く行こうぜ』
『早く死ね』
『何だと』
『死ななきゃアイツの夢に忍び込めんだろう』
『そうか・・・。オレは生きてたんだ』

 ワッ! 危なかった。だけど死ぬのもこんなものかもしれんな。

魂が宇宙を漂う話

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

 
 

可愛げというもの

2022 APR 1 7:07:18 am by 西 牟呂雄

正装のレイモンド君

 喜寿庵で地元の慶事があって正装して参加したところ、あのテキトーの塊であるヒョッコリ先生(推定95才)がレイモンド君を伴って現れた。先生は紋付き袴のいで立ちでさすがに浮いていたが、傍らのレイモンド君もご覧の正装でこれはなかなか可愛らしい、人気者になっていた。レイモンド君(推定2才)は友達になった僕をしっかり覚えていてニコニコ笑ってくれた。
 レイモンド君はなんでも一生懸命やる。
 トコトコ走って会場の端っこまで行くと、そこに小さな段差があるのに突進してベチャッという感じでつぶれる。しかし体が柔らかいのと体重が軽いのでダメージはないらしい。そして仰向けになると、起き上がろうとしているのかブリッジをするように反り返る。当然起きられないのでくるりと腹ばいになって頭を床につけてもがいているうちにデングリ返しになってしまった。
 そしてその間、保護者であるはずのヒョッコリ先生は全然面倒を見ないで、勝手に知り合いと挨拶したりビールを飲んだりしている。そうなると放っておけない、どこかに行ってしまわないようにレイモンド君を追い回すのはなぜか僕になってしまった。
 すると、司会者が先生を指名してスピーチになった。久しぶりのヒョッコリ先生節だ。例によって訥々と話し出したが、やはり何を言っているのかはよくわからない。元々支離滅裂な人だったのは知っていたが、今日のは特に『世界平和にとって』とか『我が国の将来は』と怪しげなことを喋っている。待てよ。いつもとチョット違うな。
 普段はものすごい早口なのだが今日はゆっくりと丁寧だ。さらに見ていると、実に一生懸命言葉を選んでいることが伝わって来た。つまり普段の口から出まかせではなく、考えながら話している。いや驚いた、そんな芸当もできるんだ(内容については最後まで聞いたがどうってことはなかった)。汗をぬぐっている姿に、不覚にも可愛らしさを感じたものだった。

 そこでハタと気が付いたのだが、前期高齢者の僕は体力・知力の衰え著しく、今まで何でも手抜き足抜きでやってきたというのに、今ではやることなすこと一生懸命感が満載。
 体力面ではゴルフ・クラブ(途中でメチャクチャになるのは前からだが)を振っても、ヨットで舵を取ってもスノボを滑っても、ハタから見れば『あのジイさん、一生懸命だけどよくやるぜ』と笑われているに違いない。フォームがなってない。そしてその姿は見ている側からはカワイくも何ともないことは容易に想像できる、はっきり言ってみっともないだろう。
 また、例えば英語を読むのにサッと読むことができない。単語を忘れ過ぎているからだ。もちろん英語を勉強していなかったせいもあるが、前は勢いで読めて喋れた。今では電子辞書なしではとてもとても。たまに知ったかぶりがバレた時のアタフタぶりはさぞ見苦しいことだろう。
 もっと言えば、歩き方、酔っぱらい方、笑い方、怒り方等、立ち居振る舞いの全てで可愛げのカケラも無いのが、なりたてのジジイというモノではなかろうか。もう少し枯れて動きが鈍くなった頃にやっと『あのオジイチャン、何かかわいいね』となると思う。実に面倒な年になったもんだ。
 逆に、今は何をやっても可愛いレイモンド君も少年になって生意気なことを言ったり考えたりするようになった日には一人前のクソガキになってしまうことは間違いない。その両者のカーブ(仮にカワイゲ曲線と呼ぶ)が交錯する年が将来訪れる日が来るだろう。それは3年後か5年後か(10年後ではこちらの脳がアヤシイ)。
 そうだ、その均衡時期が来たらレイモンド君を連れて旅に出てみよう。どこに行って何をするか今から計画を立てておこう。老後の楽しみができたぞ。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

モデルナ戦記

2022 FEB 19 0:00:17 am by 西 牟呂雄

 3回目のワクチンを打った。前2回はファイザーだった。諸説あってそのままファイザーで行くかモデルナにするか迷ったが、ファイザーの方は予約が一月先になりそうだったので思い切ってモデルナでハイブリッド型を選択した。
 前2回とも腕の痛みも熱も出ず、どうってことなかった。今回もどうせそうさ、とホイホイ打ったのだ。
 会場で問診を受ける。
「アレルギーはありますか」
「ありません」
「服用中の薬は」
「××〇◎▽を服用してます」
「アルコールは大丈夫ですか」
「毎晩やってます」
「そうじゃなくて、消毒用のアルコールに被れたりしたことはありますか」
「全然ありません」
「ハイハイ」
チクッ、イテっ、でおしまい。今日はお風呂と酒はダメらしい。
 夜になって少し腕が痛いような気がしたが、まあいいや。
 翌朝、何事もなく目覚める。二日酔いもないしきょうも元気だ、タバコがうまい。
 ところが昼過ぎ、突然異変が起こった。首筋を風で冷やされた感じ。ヤバい!
 大事を取ってテレワークをしていたので慌てて体温を測ると38度。しまった、ナメていた。急いでスキーのインナーに着替え、タートルのセーターを着込む。まだ寒い、ジャケットも羽織りまるでゲレンデに立つようないで立ちに身を固めた。
 そういえば昨日『水分を多目に取って』とアドバイスされたのを思い出し、お茶のペット・ボトルをガブ飲みする。食欲はない。
 夕方、日が落ちてくると寒さが厳しくなったような、体温は同じだ。
 ここで僕は気合を入れる。司令官の僕(すなわち脳)から体の各部部隊長に総攻撃態勢を伝達することにした。

脳「各部隊長集合せよ。訓示を達する」
 神経を通じて前線から部隊長たちがやってきた。
「これより我が軍は総攻撃をかける。目下の苦戦は敵ウィルスを撃退すべくm-RNA作戦を展開中であるが、ここが戦いの分岐点である。各隊、『抗体』の防衛線が構築されるまであと少しの辛抱だ。勝利を信じて全力を上げるべし」
「隊長」
「何だ。腕少佐」
「我が部隊は昨日の左翼からの攻撃により消耗著しく、目下痛みに耐えるのが精一杯であります」
「それは織り込み済みである。残存兵力を率いて右展開せよ」
「隊長」
「腎臓少佐か」
「揮下、膀胱小隊も隊長の『お茶がぶ飲み作戦』遂行中につき疲労著しく、戦闘継続不能ー」
「却下。引き続き戦闘に従事せよ。もういいか」
「隊長ー」
「何だお前達まで。肝臓・膵臓両少佐。何か不満か」
「わが部隊は連日のアルコール攻めに壊滅寸前であります」
「分かっておる。大腸隊を見てみろ。癌攻撃も癒えていないのに健闘しているではないか。最後まで戦ってくれ」
 戦闘はその後も続き、火ぶたが切られてから8時間を経過した。もはや限界と言えよう。私は決断した。
「参謀長。小脳参謀長」
「はっ」
「戦局我に利在らず。最後の突撃を命ずる」
「お待ちください。友軍は現在も奮闘中です」
「時間の無駄だ。最後の突撃を決行する」
「隊長。早まってはいけません。何をなさるおつもりですか」
「小官自ら禁断の『びいる弾』を使用し、特攻突撃をする。全軍に通達せよ」
 現場からは悲鳴が上がった。特に肝臓少佐は『一命に代えても踏み止まっていただきます』と意見具申してきたが無視した。
「食道・胃・十二指腸・小腸の部隊の損傷はなお一層苛烈なものとなることを覚悟せよ」
「隊長ー。おやめくださいー」
「すでに大命は下った。諸君、靖国で待つ。突撃にー、前へー」
 号令とともにプシュッという音がして缶式びいる弾が発射された。

 翌朝、我が部隊は何故か何事もなかったように配置についまま目覚めた。戦闘は終了し、我が軍はかろうじて戦線を維持、即ち勝利した。私の脳裏にはその喜びは湧かず、軽い頭痛が残った。待てよ、若干の吐き気もある。戦闘の後遺症か、そういえば缶式ビイル弾に加えて焼酎ナパームも投入したのだった。人、これを二日酔いと言う。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

 

いよいよ来たか

2021 DEC 11 0:00:53 am by 西 牟呂雄

 某日、地下鉄に乗ってみるとやはりそれなりの混み具合だった。ターミナル駅で乗客が降りて車内がすいたのでやれやれと腰掛けてスマホを見た。
『こわいよ~』
 ん?かすかな声が聞こえたようだが、別に社内に異変はない。最近は物騒なガイキチが危ない事件をやらかすものだから、のんびりうたた寝をするわけにはいかないので、多少気になった。
『ボクはどこにいるんだ』
 まただ!スマホの手を止めて気配を感じ取ろうとしてみた。遠くの車両で事件が起きていないか。駅に着いてドアが開く。ほとんど人の乗降はない。閉まる。動く。
『たすけて~~』
 聞こえた!意外と近いぞ。

東西線の床で

 そして、足元に目をやると、何と虫がゴソゴソしているではないか。不思議なことにこの困っているムシケラの声を聞いたようなのだ。ん?
 そうこうしているうちに次のターミナル駅に着いてしまう。しかしこのムシケラは踏んづけたり手に取るとイヤーな臭いを出すナントカ虫ではないのか、一瞬躊躇した。まだ乗客もいるのでまさか話しかける訳にもいかない。そこで、心の中で念じてみた。『次にこちらのドアが開くから早く飛ぶなり跳ねるなりして出ていかないと踏み殺されるぞ』と。
 駅に着いた。ドアが開く。すると驚いたことにモソモソしていたかと思うと飛んでいくではないか。そして人込みの中に消えていった。
 そもそもどうやって地下鉄に紛れ込んだのか知らないが、元々の生活圏から3駅も離れてしまったから、あいつの生態系は激変だろう。生きていけるのだろうか余計な心配をした。

 先日、言葉も話せない幼児(1才半)となぜかコミュニケーションできたので、その子のことをエスパーかと驚いたことを記した。

レイモンド君再び


 だがしかし、やはり私がエスパーなのではないのか。ついに虫ともコミュニケートしたのではないか。実は思い当たることがないではない。
 例の謎の老人ヒョッコリ先生が面倒をみているピッコロ君とマリリンちゃん兄妹とご飯を食べていた時の事だ。元々この二人は先生が飼っているペットと同じ呼び方なので紛らわしかった。おまけに正規の学校教育を受けていないようなので日本語はヤバい。だから少しづつ正しい日本語を教えながら仲良くやっていた。
 僕はもちろんビールを飲みながらである。マリリンちゃんがウトウトしている僕の膝を叩いて聞いた。
『ドーシテ、オトナハビールヲノミナガラゴハンタベルノ?』
『んー?それはねえ、オジさんのように昼間働くとビールが必要になるんだよ』
『ハタラクッテナーニ?』
 といった会話をしたような気がするが、そのうちヒョッコリ先生が迎えに来て帰って行った。

 ところが翌日先生からメールが来た。『キミがウトウトしているところを撮ったので送っておく。マリリンをかわいがってくれてありがとう』と書いてあったが、なんだこれ。映っているのは犬じゃないか。
 するとナニか。私は犬が人に見えるだけではなく、犬と日本語で会話したとでも言うのか。
 待てよ。これはもしかしてアルツハルマゲドンが接近して・・・こわい。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

僕のリベンジ

2021 SEP 12 14:14:40 pm by 西 牟呂雄

 SMCの読者の皆様、お久しぶりです。私はニシムロさんに騙され続け、相変わらずつらい人生を送っているバラベ・ユズルです。覚えていらっしゃいますか。僕に精神的な問題があることを見抜いた、あの悪魔のようなニシムロさんは、初めは親切そうに山荘での寝泊まりを許し、僕にブログのスペースを貸してやるから少し文章を書いてみては、と勧めました。
 今から考えると、僕を笑い者にするためだったのですが、僕のブログが多少読者の共感を得たことに嫉妬してパスワードを変えてイジワルをしました。でも僕のIT能力は高いので簡単に見破ってあの人の悪口を書きました。
 すると今度は何故か町での仕事を紹介してくれたのです。しかし、その仕事のためだと言いつつ僕をさんざん調子に乗せた後、いやがらせをして僕をひどく落ち込ませました。
 そして、遂にあの人はそのことをブログに書き、僕の社会的生命を抹殺しようとさえしました。

虚数人間だった


 そうです、僕はここに書かれたバラベ・ユズル本人です。ニシムロさんはこのブログによって私を引きずり出し、いいようにコキ使い、ピンハネまでしたことを明らかにしました。何という卑劣な人間でしょう。
 それだけではありません。手の込んだことに仲間と一緒になって僕に恥をかかせ、笑いものにするためだけに野球チームに引きずり込むようなことすらしたこともあります。

ブログ・スペースを借りました キャッチャー・イン・ザ・ライ


 僕は密かに復讐を誓い、山荘を飛び出し家出したのです。もっとも僕の家ではありませんから家出ではなく、退去したことになります。僕にしては珍しいことに(というか生まれて初めて?)計画というものを立てました。まず、誰にも気兼ねなく、ただで住める場所を確保するのです。それはこの喜寿庵からそう遠くもなく、人目にもつかず、雨風がしのげる所です。そのため物置の奥の方で捨てられていた簡易テントをかっぱらいました。あの人の今までの僕に対する仕打ちから見てこれくらいの対価は当然です。

僕の新居

 というのも、格好の避難先が見つかったからです。私は知らなかったのですが、やはりコロナ禍のせいでしょうか、最近『一人キャンプ』なるものが流行っているそうで、そのためのキャンプ場があったのです。そこは渓流のほとりの美しい景色で、ここ辺りは鮎釣りが盛んですからそういうお客さんも多いようです。
 受付という事務所があってそこに行くと美人のオバサンが暇そうにしていました。
『こんにちは』
 とあいさつすると、親切そうな返事があって少し世間話をしたのです。何とオバサンはここのオーナーで、土地が遊んでいるのがもったいないとそそのかされてキャンプ場を始めたそうですが、平日はヒマでしょうがない、この年では草刈りとか掃除もキツイ、とこぼすのです。で、結論からいうと僕はそこの住み込みの管理人になったのです。
 面白いことに、宣伝も看板も出さず、ネットで前払いのお客さんだけをお客さんにしているので現金は置いていないそうです。だから僕のような風来坊でも安心だ、とのことで、ただで住んで就職までできたわけです。
 あの悪魔ニシムロさんにこき使われピンハネされていた時よりも収入が増えました。ザマーミロ!
 そして、じっくりと作戦を練りました。
 あの人は土日にこちらに来ることが多い。従ってウィークデイの喜寿庵は無人です。でも僕は犯罪者ではないので(テントは報酬としてかっぱらいましたが)おカネを盗んだりはしません。しかし忍び込む込み、いやがらせくらいはできるはずです。ただ、大っぴらに門を乗り越えたり夜中にウロウロして不審者と疑われてはマズい。

崖の下から

 それがある日、キャンプ場から川沿いに下って行った時のことです。
 川の淵で魚を見つけて遊んでいて、フト崖の上を見上げると、そこは喜寿庵の真下でした。写真は小さくて分からないかも知れませんが、左右の樹木の切れ間に母屋の屋根が見えました。
 そこには道などありませんが、探検でもする気分でワクワクしながら登っていきました。
 するとやはり喜寿庵の畑、通称ネイチャー・ファームに上がれることがわかりました。ヨーシ、これで人目を気にせず真っ昼間に自由に出入りが可能です。但し、かなり険しい崖のために夜は無理でしょう。あの人は夜中に庭のチェアでお酒を飲みながら夜空を見上げていることが多いのでオバケのフリをして脅かす、とか花火を投げこむ、ということを考えました。しかし逃げられないので僕の正体がバレるおそれがあるのでダメです。
 何かアッと言わせられないか、あれこれ考えながら某日(金曜日)忍び込んでみました。
 すると、芝生に小枝が散らばっています。風で折れて飛んできたのでしょう。

 ある考えが浮かんだので、小枝を並べて写真のように置いてみます。
 オォ!明日の朝、喜寿庵にきて庭を見た時にこの不吉な配列。あの鈍感で傍若無人なあの人も、さぞびっくりし自然の怒りに触れたかと怯えるに違いありません。我ながら素晴らしいアイデアに満足しました。
 そして帰り際にはあの人が育てているナスとピーマンももぎ取って帰ったのです。
 しかし、テントに戻ってみると、僕は包丁もフライパンもお鍋も持っていない。ナマでかじってみても不味いだけです。結局持て余したので、受付にいるオーナーのオバサンにあげました。オバサンは喜んでくれたのですが、『あれまあ、こんな立派なナスやピーマンをくれるの。あんたどこから採って来たんだい』等と質問され、仕方なく買い過ぎて余ったので、としておきました。アブナイアブナイ、秘密のリベンジ作戦を知られる訳にはいきません。
  翌日散歩に行って喜寿庵を遠くから見ると、あの人の車がありました。今朝はどんな顔をしたかと思うと無性に嬉しくなり、来週はどんな文字を置いてやろうかとその晩から色々と考えました。『悲』とか『怒』とか『愚』といった漢字を、実際に枝をならべてみましたが、どうも画数の多いとダメです。さあ、一週間考えましょう。
 そして週末を迎えました。金曜日にセッセと崖を登っていきます。ネイチャー・ファームにはまた新しいピーマンができていました、ナスはまだ小さいか。庭を覗くとうまい具合にまた小枝が固まっているではないですか。近寄ってみると、アーッ!

アーッ!

 暫く固まってしまいました。というか怖くなったのです。慌てて逃げ出しました。
 あの人は、もしかしたら僕が侵入したことに気が付いているかも知れません。
 そして僕にまたひどいことをしようと企んでいるのではないか。
 なんて残酷で薄情で卑劣な悪魔でしょう。
 僕は再びあの人のブログに忍び込んであの人の悪事を告発します!

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

不気味な夢の話 アルツハルマゲドン接近中

2020 DEC 19 0:00:50 am by 西 牟呂雄

 以下は妙に記憶に残っている夢です。おとといのことでした。

 スプリングのような形状ではあるが、1mくらいの長さのクネクネした生物が不気味に跳ね回っている。僕はそれを危険なモノだと分かっていて捕まえようとする。ところがそいつはピヨーンといった感じデジャンプして地面に潜り込もうとする。おっかなびっくり尻尾の部分を掴もうとしてもそのまま地中に入っていった。
 と、思った途端に別の方角からウネウネと出てきたので追いかける。するとまた少しジャンプして逃げていく。
 突然、天の声が聞こえてきた。
「我々は西暦2400年の未来から語っている。人類があまりに資源を消尽したので地球が疲弊してしまい文明が消滅しかかっている。そのため、ターニング・ポイントとなる時点に我々が開発した人工バクテリアをタイムスリップさせ、地球資源を宇宙に放出することにした」
 なんだ、この声は。僕の声ではないか。それはいいとして不思議な気がして聞き返した。
「人工バクテリアってあのウネウネしたミミズのオバケのことですか。バクテリアがあんなに大きいとは信じられません」
「あれは単体のバクテリアではなく集合体なのだ。単体バクテリアが常に細胞分裂を物凄いスピードで繰り返してあの大きさになっている。地球の化石燃料を光に変えて宇宙に放出する」
「しかし現時点での資源消費の状況がストップされたら人工バクテリアを生み出して、さらにタイムスリップさせることができるあなた方の文明にまで発展しないのではないか。するとあなたの存在そのものが消えると思うが」
 すると(視点がどこだかわからないものの、今をみているはずの)未来の僕が答える。
「西暦2400年時点での私は意識の上では存在しているが現実には質量も時間もないパラレル・ワールドから話しかけている。つまり今あなたのいる地球の380年後から話しているわけではない」
「そのけったいなパラレル・ワールドでも人工バクテリアを造れて、尚且つタイム・スリップをさせることができるんですか」
「いや、違う。我々のいる所には質量も時間もない。タイム・スリップしたのは我々の意思だけなのだ。概念といってもいい」
「意思とか概念だけでモノが生み出せるとは思えません」
「まだ気付かないのか。それらは君が無意識に作らされたモノなのだ。君が我々の概念によって発明したということだ」
「僕が?いつ?どこで?」
「そうだ。君は私である。君の記憶には残らないが、私が君になって合成した」
 これらは僕の夢の中、すなわち脳内で自分が自分と会話している状況だ。つまり喋っているのは全て単一の脳が想像した会話だということにこのあたりで気が付いた、さすがに変だと。普通ならこの辺で目が覚めて全部忘れる所なのだろうがこの日は違った。
 目の前から先程の人工バクテリアが無数に地面から湧いてくるように出て来た。恐ろしくなってそれらに火を付けようとしたら(どうやったのか不明だが)自分の部屋が燃え出した。それが、柱が燃えているのだが、炎が外にでるのではなく中が燃えているらしい。柱が燃えているのだから今のマンションではないし、山の家とも違う。そして今度は必死に消化活動を始める。何故かホースを持っている。

 ここでやっと目が覚めた。あー、恐かった。そして余りの奇天烈な内容に思わずメモに書き留めたので再現できた。尚、会話のディテイールについては大体こんな内容だったというメモから起こした。ちなみに火事になるパターンは割と頻繁にみることがある。
 改めて書いてみるとリアルさにゾッとする。明らかに常軌を逸しているからだ。そしてこの夢と現実の境目が無くなった時点が迫りくるアルツハルマゲドンと普通の人間の境目ではなかろうか。
 神様、お願いだからもう少し人間でいさせてください。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

ヒョッコリ先生 戦争を語る

2020 AUG 27 7:07:28 am by 西 牟呂雄

真夏のネイチャー・ファーム

からの続き

 とにかく母屋まで連れて行って冷たいお茶を出した。すると図々しいことに『せっかくならビールがいいなあ』などとほざくので、仕方なくビールの栓を抜いて結局僕も一緒に飲みだしてしまった。うまい!
「毎年毎年この時期になると戦争の反省ばかりだなあ」
「しょうがないですよね。つくづくやるべきじゃなかった戦争ですよ」
「キミに前にも言ったけどこの先に8月13日に爆撃されたところがあって、そこでは人も死んでいるんだ」
「本当に終戦直前ですね。しかし人口も大していない上に軍の施設も何もない所でしょう」
「あれはなぁ、東京で散々落として帰る途中に余った爆弾を捨てたんだよ。B-29は富士山をランドマークにしてたからね」
「えっ??」
「だって1発か2発だったよ。下にいたのは運が悪いとしか言いようがない。そのまま抱いて帰るのは燃料の無駄だと思ったんじゃないか」
「物量の違いがケタ外れですね。持って帰るくらいなら捨てるという。何でまた絶対負ける戦争をやっちゃったんでしょうか」
「ハル・ノートは知ってるよね」
「はい。日本が完全にプッツンする内容ですね」
「『こんなものを突き付けられたらモナコだろうがルクセンブルグだろうが銃を取って立ち上がる』とアメリカ人が言ったとされる内容だ。しかもそれをハルに焚きつけたハリー・ホワイトはコミンテルンのスパイだったことが今はわかっている」
「その頃はアメリカ人も知らなかったのでしょう」
「勿論そうさ。だがルーズベルトは既に始まっている欧州戦争には加わらない、と言って当選した大統領なんだ。ここは何とか先延ばしにしていっそ内容をすっぱ抜く手もあった。アメリカ人は今でもハル・ノートの存在を知っている奴なんか殆どいない」
「そうなんですか」
「仏印進駐で石油の禁輸を食らって挙句の果てにハル・ノートだからな。そこで散々モメてる中、山本五十六が真珠湾をやっちゃった」
「真珠湾は大成功でしたからね」
「キミも甘いな。ありゃヤケッパチに近い。あんなことやるのは止めて植民地解放とだけ言ってマレーとジャワに行けば良かったんだ」
「すると無傷の米太平洋艦隊がフィリピンに来ませんか」
「そりゃ来るけど2~3年はかかる。ABCD包囲陣のうちB・Dにだけ宣戦布告して戦争してればいい。何ならハル・ノートを丸飲みしてもいいぐらいだ」
「そんなことしたら陸軍が黙ってないでしょう。ハル・ノートには中国から即時撤兵が入ってるじゃないですか」
「その中国はチャイナだよな。すなわち当時の中華民国だ」
「はい」
「チャイナの国境は万里の長城になっていて外側は満洲国、マンチュリアは入らない」
「えっ?」
「帝国陸軍はチャイナから引き揚げて満州・朝鮮・台湾から南方だけ押さえていればアメリカも手が出せない。すると中国内で国民党と八路軍の内戦になるだけだ。ジャワ・マレーを抑えてインドにちょっかいを出すだけなら制海権は握れるからな。イギリス東洋艦隊なんてセイロン沖でほぼ全滅したんだから連合艦隊は今日の第七艦隊と同じポジションについたはずだよ」
「香港はどうなるんです」
「シンガポールと同じさ。史実の通りだね。イギリスは香港を要塞化していたが若林中尉の一個中隊の夜襲により6日で落ちた。チョロイ。ついでに肩透かしを食ったアメリカに防共ラインとしてアリューシャン・千島防衛ラインでも申し入れたら完璧だな。なんなら満州の共同経営もエサにしてもいい。その頃はドイツ軍がモスクワの手前で干上がってるからタイミングも最高だ」
「三国同盟はどうなります」
「知ったこっちゃない。ヨーロッパの情勢不可解で内閣が吹っ飛んだことを考えればその程度のバックレはかわいいもんさ。大体国際条約を一方的に破るのはドイツとロシアのお家芸だ」
「それでアメリカは黙ってますかね」
「無論フィリピンがあるからいつかはドンパチになるかも知れんがそれだって2~3年先になる。その間にどうにか時間を稼いで何とかなったんじゃないか。考えても見ろよ。仏印の進駐にガタガタ言ったってそのころのフランスなんかドイツに占領されて実態なんか無かったんだから。そうなるとフィリピンのアメリカ軍は孤立しかねない。一方インド洋の制海権を握った段階でB・Dと講和するというのはどうだ。シンガポールでパーシバル将軍に迫ったみたいに。実際、真珠湾のすぐ後にはアメリカ西海岸に浮上したイ号潜水艦が砲撃する一方でマダガスカルやシドニーにはイ号から発艦した特種潜航艇が攻撃している。インド洋は日本の海だった」
「(バカバカしくなってきた)講和ができるとそれで終わりますか」
「さすがにその後は分からんな。アメリカ次第なんだけどね。終戦直後から東西対立は始まるだろ」
「はい」
「アメリカは終戦直後から朝鮮・ベトナムと四半世紀戦争を続けた。その時の兵站の要を担ったのは日本だよ。日米で戦わず満州あたりをバッファーに持っていれば遥かに安くついただろうし共産中国への押さえも利いておたがいいい事尽くめだったろう。或いは蒋介石あたりを使って共産化を防げたやも知れない」
「日本はどうなっていたでしょう」
「我が国の場合は東亜の解放を謳っただけに東南アジアを植民地にはできない。君臨しても統治せずだったろうね。当然朝鮮・台湾には独立を勧める。日米同盟を結んでアメリカが払ってきたコストの半分位は持たされたかも知れない。岸信介あたりが絶妙な手腕を発揮して長期政権になっただろう。ただ高度経済成長ができたかどうか。あの戦争で勝ち太りしたのはアメリカだけなんだからねえ。すると我が国に分厚い中間層は形成されず格差は昭和の時点で社会問題化したろうな。華族制度の廃止やら農地解放は簡単にはできないだろうし国会改革なんかもっと無理。治安維持法とか統帥権の問題もそのままだ。キミみたいな怠け者は本土にいられなくなってインド浪人にでもなってたかもしれないよ」
「(笑えない。実質それに近いじゃないか)先生はどうなってたでしょうね」
「ワシか。そうだな、七族共和となった満州合衆国で教師になる、というのはどうだろう」
「七族って何ですか」
「満州国の五族は日・鮮・満・漢・蒙なんだがそれに革命を嫌ったロシア人とパートナーのアメリカだ。但しアメリカは民族の名前じゃないので白人・黒人とする。日・鮮・満・漢・蒙・白・黒」
「・・・・」
「おォ!もっといいのが浮かんだ。七だから虹の色に例えればもっといい。すると日本は日の丸の赤、鮮は少し明るい橙、満は黄、蒙は緑で漢は藍。後は白人を青にして黒人は紫。どうかねこれは、七族共和の虹の国だ」
「(どうでもいいや)いいんじゃないですか」
「うん。待てよ、クレームがついたらやだな。やっぱり白人は白、黒人は黒とするか。いや、それとも」
「(いいかげんにしてくれ)チョッちょっとすみません。あのー終戦の時は先生はどこにいたんですか」
「・・・・」

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

ヒョッコリ先生が マルクスを語ったけど

2020 JUL 18 7:07:57 am by 西 牟呂雄

 半農半テレ・ワークの生活も軌道に乗ってきたのはいいが、夏の暑さは今年もハンパない。昼間はとてもじゃないが土はいじれたもんじゃない。といっても梅雨明けでジャガイモとダイコンは収穫してしまったのでさしてやることもない。
 夕方になって散歩に出ようと木戸を開けたらワッ、ヒョッコリ先生に会ってしまった。いつもと違って子供がつかうような小振りのリュックサックを背負っていた。桜の植樹をしたとき以来か。
「やあやあやあやあ、元気かい」
「(うるさいな、見りゃ分かるだろ)おかげさまで、ここにいればコロナにも罹りませんし」
「うん。ヒマそうじゃないか。まっ、こう景気が悪くちゃどうにもならないだろうね」
「(アンタに景気がわかるのかよ)まあ、テレ・ワークとかでボチボチですね」
「そう言ってサボってんだろ。わかるよ」
「(ギクッ)そんなことないですよ。先生こそあのインチキな仮想通貨はどうなりましたか。一年くらい前にやってたじゃないですか」

ヒョッコリ先生奇怪録


「ああ、スーパー・メタリック・コインのことか」
「(なにがメタリック・コインだ。紙にかいただけだったろう)そうそう、略してSMCと言ってましたね」
「悲しいかな失敗した」
「(当たり前だよ)それは残念でしたね」
「地域性にこだわりすぎてダメだった。広げなければビジネスとしては成り立たないマルチ商法的な運用をせざるを得なくなって断念したんだよ。但しその欠陥を克服する新しい理論にたどり着けたけどね」
「(また変なことを思いついたのか。懲りないジジイだ)ほう、それも仮想通貨なんですか」
「分かっとらんなキミは。小規模流通の実験ならまだしも仮想通貨は暗号技術がなければとても一般に使えるエビデンスがないだろう」
「(だから失敗したんだろう)はぁ、誰か使ったんですか、そのSMCシステム」
「大いに使ったんだよ。だがワシの方の理論武装が甘かったんだ。資本主義の本義である成長を見誤ったんだよ」
「(違うよ。理論なんか無かったくせに)それが今度は何が理論の柱なんですか」
「資本は増殖を続ける宿命にある。そこに競争という補助線を引く。即ちマルクスの言った”相対的余剰価値”の拡大競争のことだね。キミはこの前話していて分かったけど近代経済学とか計量経済学とか言ってもマルクスなんか勉強して無いだろう」
「(ギクッ、だけどそれがどうした)そういえば講座は取っていませんでしたね」
「嘘付け、キミの通った学校は2年の時に必修だったはずだ」
「(ナッ、なんでそんなこと知ってんだ)アッそうでした。でも用語を覚えるだけでいやになって放棄してました」
「じゃあ聞きなさい。資本は増殖し続け、相対的余剰価値を増やす競争は終わらない。これはマルクスが指摘し、最近ではピケティが改めて「r>g」と表現して格差拡大の豊富なデータを示した。ついでにそれを解消したのは戦争だったとも言っている。しかし一方で今後はAI・ロボットが発達してきて大多数の普通の人達は恐ろしく安い仕事に付かざるを得なくなる。つまり便利にはなるが忙しさからは解放されない社会が出現する。格差は凄まじくなる」
「(また訳の分からんことを言い出したぞ)そうなんですか」
「幸か不幸かコロナショックの瓢箪から駒で10万円のヘリ・マネを蒔いた。目下の所賛否両論だ。だがあと一年もするとその絶大な効果に気が付いて世界からも絶賛されるだろう。するとだな、マイナス金利政策は止められなくなってるしゼロ成長経済プラス・ベーシック・インカムも制度化されるだろう。そこだよ、ポイントは」
「(怖くなってきたな)どうなるんですか」
「労働およびサービスの商品化が意味を成さなくなる。非付加価値生活こそが究極の姿の脱商品文化、すなわち働かないで付加価値も求めない」
「(この人は全共闘世代より上なんだろうに何を今更ヒッピーみたいなことを)つかぬことを伺いますが先生は共産主義者とか社会主義者なんですか」
「全く違う。ただマルクスについては充分に研究した。マルクスの理論を実践するもっとも手っ取り早いのが革命なんだろうが、ワシは革命家ではない。ましてや一党独裁とか世襲なんかはマルクス主義でも何でもない」
「(やっぱりただのイカレ爺いなのか)それで日本はどういう社会になるんですか」
「だからね、新自由主義だのグローバリズムだので稼ぎ捲っている会社にいるスキルも無いようなヒラ社員。こういう人の給料が大したことないの知ってる?」
「そういう知り合いはあんまり・・・」
「そのあたりの人材がAI・ロボット化によって落ちてくることになる、中流でなくなる、こういう格差拡大主義の反対をワシが”脱商品文化”として理論化したわけだ」
「良く分からないんですけどそのナントカ文化は普段何してればいいんですか。なんか働かなくてもいい、と聞えるんですが」
「その通り。例えばキミのうちにはキミが見ていても価値が分からないものはあるだろう。キミがほったらかしていても何の意味もないが、ワシのような教養人には文化的な価値が充分にある。チョットみせてごらん」
「アッ、チョット待って」
 言う間もなくまるで自宅に入るみたいにズンズンと入り込んできた。参ったな。

鴎外・露伴

 そして書斎の本棚をみて素っ頓狂な声を上げた。
「これこれ、この埃を被っている森鴎外と幸田露伴。キミなんか読まないだろう。オォ、この手触り!昭和初期の出版だな」
「(だから何だ)それは僕の爺様あたりが買って眺めてた本ですね。一回くらいは読んだでしょうけど」
「キミィ。要するにキミにとってはこの本は何の付加価値もない非商品なわけだ。古本屋なんかも引き取ってはくれない、この保存状態ではね」
「(大きなお世話だよ)まあ・・そうです」
「よろしい。ワシからほとんど付加価値のない食料を供給するからその本と交換してくれ。食料ならキミがどんな私生活をしていようと必要なモノだろう」
「(そう来たか)その食料って何ですか」
「うん。まあジャガイモなんだがね」
「いや、ジャガイモは僕もやってますよ」
「違うんだよ、ワシのジャガイモは。キミは種芋を買ってきて自分で植えて水をやってつくったんだろう」
「(他にどうやって作ると言うのか)当然そうです」
「ワシは食べるだけ収穫すると後はほったらかしにして次の年に自然に発芽してくるのを待つ。するとひどく栄養のバランスが崩れて小さすぎたりひしゃげてしまったりで全く商品としての価値が無いものが育つ。間引きも芽かきもしないからな。ましてや肥料なんか絶対にやらん。すると、だ。絶対に商品にならんジャガイモが採れるんだ」
「(バカバカしい)そんなもん食べられるんですか」
「食べられるに決まってる。現にワシはそれを食べている。そのジャガイモと埃を被ってゴミにしかならない森鴎外・幸田露伴を交換する。これぞ非商品化循環経済の極地だ」
「(よーし、少し脅かしてやろう)それはマルクスの言う所のルンペン・プロレタリアートになるってことですか。僕には単に怠け者が落ちこぼれているだけに聞こえますが」
「間違っとる!これぞ低成長時代に即し、尚且つAI・ロボット時代に文化的に生きる、まさしくニュー・ノーマルである」
「(あーはいはい)そうかなー。ホームレスがそんなこと言ってましたよ。で、その先生のジャガイモってどこにあるんですか」
「それはここにある」

なんだこれ

 先生は背中のリュックをおろすと中を見せた。こっこれは・・・。
「ではこの本を代わりに貰っていくから。しかしどちらも商品ではないから商談成立とは言わんな。ワハハハハ」
 意味不明の笑い声を残して先生は帰っていった。
 僕はしばし呆然とし、その後無性に腹立たしくなった。だってこれ、ほとんど詐欺じゃないのか。先日初収穫としてマリリンちゃんが掘ってしまった出来損ないよりも遥かにデキの悪いクズ芋ではないか。あんまり頭に来たのでタバコの箱と大きさを比較したが、そりゃ商品どころじゃない。

 僕はこいつをどうしたら食べられるかを必死に考えた。
 早速試しに皮も剥かずに吹かしてみた。やはり食欲をそそらない。
 翌日それをフライパンでバター炒めでいい色にして食べた。おいしい!だが、確かに買ってきて食べる代物ではないだろうな。

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

そこにいた男 Ⅱ

2020 MAY 20 21:21:57 pm by 西 牟呂雄

 某警察署の取調室に向かう刑事が話していた。
「黒川、その話は本当か」
「デカ長、本当です。私が取り調べているときに突然言い出したのです。出井主任も一緒でした」
「自分が原部穣で死んだのは女房の浮気相手だって?いくらなんでもおかしいじゃないか」
「ですから妻に会わせろ会わせろの一点張りでした。自分は椎野なんて男じゃない、とも」
「心神喪失による減刑を狙ってんだろ。オレがバケの皮を剥いでやる」
「それが原部で喋る話はミョーにつじつまが合うんですよ。椎野だったときは本当に記憶にないように見えます」
「オマエも青い。まあ見てろって。よし、入るぞ。(ドアを開けてドカドカと入る)椎野茂だな!」
『いえ、きのうもそちらの刑事さんに言いましたが僕は原部穣です、信じてください』
「なんだ、まだやってんのか。その原部さんはもう亡くなってるんだよ。原部さんなら生まれはいつでどこなんだ」
『はい、平成✖✖年▽月〇〇日、東京都千代田区で生まれました』
「わかったわかった。だったら小学校2年の時のケガの話してくれる」
『えっ、ケガ?』
「そうだよ。その話してよ」
『・・・・』
「どうした。覚えてない?じゃあこれはどうだ、高校の時にバンド組んでたよね。よくライブハウスに出てたったって聞いたけどそこのハウスの名前教えて」
『ライヴ・・・ですか・・・』
「ほら見ろ。お前は椎野茂だろ!記憶障害のフリなんかしてるんじゃない!」
『いや、本当です。僕は原部穣です!信じてください!椎野なんて名前じゃありません、ワー!』
「泣いたってダメだ!この野郎」

「まったくしぶとい野朗だぜ。一日中『僕は原部ユズルです』の一点張りだ。きょうこそ暴きたおしてやる」
「ですがどうも様子が変ですよ。あの取り乱し方」
「だからどうした。黒川、オマエも3年目だろ。あの程度のガキなんざ一捻りだ。(バーンッとドアを開けて)オウッ、椎野。きょうこそ本当の事を吐けよ!」
『おはようございます。エート刑事さん』
「ほう、原部だってのはもう諦めたのか」
『何の話ですか』
「きのう散々手を焼かせたじゃないか」
『刑事さんにお目にかかるのはきょうが初めてですが』
「バカ言え。昨日会ってるだろう」
『きのうは出井主任って方とそこにいる黒川刑事さんです』
「なにー、今度はそう来たか。よーし、オレはデカ長の柴田だ。早速始めるぞ、おい、椎野。〇月✖✖日の夜どこにいた」
『何度も出井さんにいいましたけど勤め先の◇◇旅館にいたはずです。僕は手帳も持ってないし日記をつけてもいませんから、旅館の人に確認してください』
「それは聞き込みしてるさ。だけどその日の深夜に▽▽区の高層マンション街からあんたそっくりの男がタクシーに乗ってるんだ。そしてその日のそのあたりで人が死んでる」
『原部という人なんでしょう。僕もニュースで知ってます。その時公開されたドライヴ・レコーダーに映っている男はケガのあたりが僕にそっくりです。それで聴取されているんでしょうが私じゃありませんよ』
「ところが困ったことにあんたにゃアリバイがないんだ。旅館の同僚はその日はあんたは帰ってこなかったと証言している」
『えっ、そんなバカな・・・』
「どこに行ったかさえ話してくれれば疑いは全て晴れるんだがな」
『疑いって、まさか原部という方を僕ガ何かしたというのですか』
「そこは調べている最中だが、事件性はあるとにらんでる」
『でも週刊誌やワイド・ショウではその人の奥さんが浮気してたって言ってますよ』
「その相手があんたでノコノコやってきたところで原部さんとトラブルになったとすればどうかな」
『私もどこにいたか記憶が定かではありませんが、トラブルだのタクシーに乗ったことだの一切記憶にありません。私のアリバイより原部さんの死因は何なのですか』
「それはおとといお前が原部の時に、追っかけられた後にガード・レールに頭を打ったと言ったじゃないか。この黒川と出井が聞いてるぞ」
『はぁ、私が原部の時って何ですか。その方が亡くなったんでしょう』
「きのうその口で原部だとほざきやがったじゃないか!ふざけるな!テメー、オレをおちょくってんのか」
「デカ長、落ち着いてください、あばれないで」
「黒川ウルセー!」

「昨日はデカ長キレてましたよ。きょうはやめてください。頼みますよ」
「出井も来るんだろうな。お前一人じゃ事の信憑性が確保できるかどうか分からんからな」
「主任はもう行きましたよ。ほら、あそこにおられます」
「オッ、おーい出井」
「デカ長。おはようございます」
「済まんが付き合ってくれ」
「何だか苦戦してるそうですね」
「参ったよ。見たこともない嘘つき野郎だ。さて、始めるか(ドアをバーンと開けて)。オウ!きょうのテメーは誰なんだ」
『(下を向いて)おはようございます。言ったじゃないですか、僕は原部穣ですよ』
「ホウ、そうか。死んだ男が蘇ったか」
『だからー。僕に飛び掛ってきた人は死んだかもしれませんが、その人は知らない人でした。僕の家で待ち伏せでもしてたんでしょう』
「その後タクシーに乗ったよな。自宅マンション前から。そこからどこに行ったんだ」
『乗りました。でも飲んだ時によくあるんですがどこに行ったかさっぱり覚えてません』
「そうかよ。オレは知ってるぜ。✖✖のホテルというか旅館だ」
『そんな旅館なんか行ってません。何しに僕が行くんですか』
「バカ!そこで働いてんだろうが」
『違いますよ。僕は〇〇商事の社員です』
「へー、そうかい。だったらその〇〇商事で何してるんだ」
『資材調達部の機材課設備係です』
「・・・・それは死んだ原部さんの部署だ!」
『だから僕が原部ですってば』
「だったら聞くが、その晩の後から何日出勤したんだ」
『・・・・それは・・・』
「ホレ見ろこのヤロー!」
「デカ長、落ち着いて。さっき君酔うと覚えてないって言ったな」
『はあ』
「まさかと思うがなんか薬やってないだろうな」
『くすり・・・って飲んでますよ』
「やっぱりそっちかテメーはよォ!」
「デカ長、待ってください。君何飲んでんの」
『あの、酒飲むとかえって頭が冴えて眠れないもんで』
「何を飲むんだ」
『レ〇〇〇ミンです』
「なんだそりゃー!脱法ドラッグかぁ!」
「デカ長、違いますよ。チョッ、チョット来てください」
「バカヤロウ!今半落ちしたじゃねーか!」
「黒川!デカ長を抑えろ」

「デカ長、あいつはシロですよ」
「寝ぼけるんじゃねぇ。真っ黒だ」
「あいつが飲んでるレ〇〇〇ミンは睡眠導入剤です」
「それがどうした」
「過度の飲酒とともに服用すると解離性譫妄(せんもう)といって意識障害を起こすんです」
「だからってシロにゃならんだろうが」
「デカ長、鑑識から上がって来た結果もガイシャの遺体に格闘の後はなく、恐らく自分で転んだ打ち所が悪かったのだろう、とのことです」
「だったら何で自分は原部だって嘘を言い張るんだ」
「ガイシャの、いや被害者じゃなさそうなんでホトケですね。ホトケの奥さんが出合い系か何かで知り合た男を自宅に上げて浮気をしてたのは報道だけじゃなくてこっちもウラがとれてます。その相手として現れたのが譫妄でヘロヘロになった椎野でしょう。寝物語にダンナのことを聞かされているうちに自分が原部だと思い込んだんですよ」
「そんなバカな。思い込んで普段は旅館の番頭をやってたのか」
「旅館にいる時は椎野なんです。解離性多重人格なんです」
「それじゃ何か、あいつの頭の中では死んだのは誰だってことになってるんだ」
「突然現れた第三者で奥さんの浮気相手だとでも思ってるんでしょう。もっとも椎野の時はこの件と無関係という認識でしょうが」
「冗談じゃない。オレのカンに狂いはない。あいつがホシだ」
「アイツって誰ですか。椎野はホトケに指一本触れてませんよ。原部で証言した内容は鑑識の結果と一致して蓋然性があります」
「それじゃ原部だろう」
「原部はホトケでしょう」
「うるさい!どっちでもいい!こうなったらトコトン追い詰めてやる」
「そんなことしたら逆提訴されることだってありますよ」
「じゃ何か、そのナントカ障害のガイキチを釈放して野放しにしろってのか」
「まずは精神鑑定を受けさせるんですね」
「知ったことか。よーし、ぶっ殺してやる」
「本気ですか。イヤちょっと待ってください」
「デカ長落ち着いてください。どうしたんですか拳銃なんか出して」
「抵抗するな、テメー等も弾き倒すぞー!」
「やめてください!」「拳銃しまってください!」
「やい、出井!黒川!公務執行妨害で逮捕するぞー」

「黒川、デカ長がヤバい。狂ってからじゃ遅い」
「出井主任。わかりました。僕が見張ってますから、上の方に手を回して本件から外してください」
「わかった。いやそれどころじゃないかもしれん。先にデカ長の精神鑑定だな。取り調べ中のデカ長の識別能力を超えてしまったようだ」

そこにいた男 Ⅰ 

「ソナー・メンバーズ・クラブのHPは ソナー・メンバーズ・クラブ
をクリックして下さい。」

▲TOPへ戻る

厳選動画のご紹介

SMCはこれからの人達を応援します。
様々な才能を動画にアップするNEXTYLEと提携して紹介しています。

たむらあやこ
久保大樹
深田崇敬