Sonar Members Club No.36

カテゴリー: オリンピックへの道(2015年の憂鬱)

がんばれ!女子アイスホッケー スマイル・ジャパン

2018 FEB 10 14:14:47 pm by 西室 建

 リオ・オリンピックでは女子グランド・ホッケー『さくら・ジャパン』の全試合を見て応援した。この競技は中々野蛮ですっかりファンになり、東京大会は是非見に行こうと思っている。そして何より選手がとてもカワイらしかったのである。

がんばれ!さくらジャパン (今月のテーマ リオ・オリンピック)


 同じホッケーといってもボディー・チェックの当たりが更に厳しく、殆んど格闘技に近いアイス・ホッケーはと見ると、これまた大変な美人ぞろいで感心した。根性あるよな。

かわいい!

 最近はサッカーも女性チームが人気だし、女性アスリートは女子プロレスにいたるまで応援しているが、プロテクターを着けての強烈なボディ・チェックが入るアメフトやアイス・ホッケーまでやるとなると競技レヴェルはどうかと余計な心配までしてしまう。
 だが長野オリンピックにも開催国枠ながら出場し、きのうきょうのナショナル・チームではない。
 前回ソチでは奮戦敵わず全敗してしまったが、今回はドイツ・チェコ相手のテスト・マッチに連勝しており、グループBを勝ち上がるかもしれない。

ゴール・キーパー藤本選手

 この藤本選手は2015年に米プロ・リーグのトライアウトにも合格している。
他にもバセドー氏病を克服した姉と妹が一緒に参加する床(とこ〕姉妹の活躍も期待される。

 ところがこのグループBには南北合同チームがいるのだ。スッタモンダの挙句に現在は北も参加する試合に観客がどういう反応を見せるのか。当然あの美女応援団もやって来て(統制された)声援を送ってくるだろう。
 あまりに盛り上がりすぎて異常な環境になったら後味が悪い、やりきれない。
 ここは是非、双方ともにフェア・プレイに徹して正々堂々と闘って欲しい。
 そしてチーム名でもある笑顔でメダルを目指してくれ!
って、何ときょう初戦スウエーデン戦ではないか!

スポーツを科学の目で見る (ソチ 敗者達へ僕から10のメダル)

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オリンピックへの道 (2015年からの憂鬱 エピローグ)

2013 OCT 20 12:12:52 pm by 西室 建

2020年夏、東京オリンピックの開会式が華々しく開催された。新国立競技場に大観客が集まり各国の入場行進が始まっている。恐慌からは回復途上であるが史上最大規模(但し参加人数は最大でも何でもない)の入場行進の後、かつては海自の歌姫と言われた現国防海軍の華、今なお美しい三宅由佳莉中佐の澄み切った君が代の独唱が流れた。終わると同時に前回の東京オリンピックでも披露された大空への五輪が描かれる。それもブルーインパルスだけではない。国防空軍自慢の女性アクロバット・チーム、ピンク・フラワーズとのダブル・五輪なのだ。

昨年の尖閣事変の後、東アジアは様変わりした。中国は分裂し結果的には四つに割れた。正統な北京の共産中国、杭州を首都とした南宋共和国、内モンゴルから半島38度線までの中華合衆国、そしてダライ・ラマが復活させたチベットである。実は尖閣周辺はその後の第七艦隊および国防海軍による海上封鎖を経て、報復攻撃をすることなく静けさを取り戻し、今日に至るまで俗に言う独立混成旅団が駐屯している。竹島は中華合衆国と日本からの猛烈な圧力により無人化が図られた。親日の中華合衆国は積極的に平和共存主義を唱えて移民を奨励したため、突(ウィグル)・漢・蒙・満・鮮そして日といった諸民族協調のEU型国家に変貌したのである。無論、鉄壁の日米・日露の安全保障条約があったればこそであり、又背後には環日本海関税同盟の締結に向けて日本・中華合衆国・ロシア・韓国の交渉が着々と進んでいたからだった。

大観衆の中に感慨深い顔をした5人が並んで座っていた。向かって右から英(はなぶさ)・原辺(ばらべ)・椎野・出井・大和の面々である。英は事変後キャリア除隊しライフワークのアメリカ文学の研究に打ち込むことになっている。実際に骨折していたので早期除隊が認められたのだ。原辺と椎野も戦闘参加扱いになり、傷病除隊で年金がもらえるようになったのでサッサと辞めた。出井は大怪我だったものの一命を取りとめ、功一等で昇進、女性初の国防陸軍少将として防衛省幕僚になっていた。大和も戦果ありということでキャリア除隊が認められ、大学教授への道を進むことになっていた。ただ、原辺と椎野の傷病除隊に関しては、実際には帰隊の際に斜面を転がり落ちた時の大したことのない打ち身、捻挫、擦り傷、切り傷を、被弾によるケガということにして、大和が口裏を合わせてくれたからなのだが。

日が暮れ始め、そろそろ聖火が灯されクライマックスを迎える頃、帰りの混雑を避けるため5人は席を立って食事に行った。平和にこの日を迎えられたのは間違いなく混成旅団の戦友の犠牲の上に成り立っていることを実感できるのは、互いにこの仲間しかいないことを知っている。静かに過ごしたかったのだ。近況を報告し、乾杯した。
「出井閣下は現在は何をされていますか。」
「防衛省の幕僚第二部長です。インテリジェンス部門ですから皆さんが何をやっているか全部わかりますよ。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
「大和君はどうしているのですか。」
「来年教授になれそうです。唯、色々やることが多くて研究の時間がけずられそうで困ってます。」
「閣下はご結婚はなさらないのですか。」
「誰も寄ってきません。諸君の誰かプロポーズしてくれませんか。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
「椎野君は。」
「ハッ、基本プータローであります。ヒマでしょうがないので中華合衆国に移住しようかと考えてます。」
「それはピッタリです。情報をいただければ助かる。肩書きが無いのがうってつけです。当局は一切関知しませんからね。あはははは。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
「原辺君は。」
「ハッ、自分もプーであります。戦友を弔いたいのですが300人も墓参りできないので靖国神社に300回行くのを目標にしています。」
「正確には施設部隊を入れて318人です。尚、尖閣事変は攻撃国を特定せずに解決したことになっていますから英霊扱いされません。靖国にはいないことになってますよ。」
「・・・・。」「・・・・。」「・・・・。」
「知っています。ですから自分で私設靖国神社を造りました。」
「ナニッ。」「バカ。」
「山梨県富士吉田市に建てたあの掘っ立て小屋のことでしょう。」
「・・・・なんでご存知なんですか。」
「諸君は尖閣事変の生き残りですから。見られているんですよ。おっとこれはオフレコに。ははは。」

おしまい

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オリンピックへの道 あと1年(2015年からの憂鬱 急章)

2013 OCT 17 12:12:55 pm by 西室 建

2019年、世界の各ブロック経済が拮抗する故の気だるい平和の中、来年こそは東京でオリンピック、のかけ声とともに年が明けた。前回衆参同時選挙でも大勝していた最強安倍内閣も磐石かと思われていた。ところがそれは直ぐに吹っ飛んだ。

報道管制が強化され、内部の情報が断片的にしか伝わらなかった中国で内乱が起こっていたことが明らかになり、ついに分裂したのである。この3-4年に及ぶ経済混乱に統制に関わるコストを負担しきれなくなったのが直接の原因だった。古来より周辺国との関係において、朝貢体制による柵封というのがスタンダードで、革命前には国防関連費用がGDPに対し今日では考えられなかった程低かったのが中華というものであった。しかし共産中国は膨張しその負担が高くなりすぎたのである。元々北京とは仲の悪かった上海が香港と結託し、長江を境に独立の動きを見せたのが1月。スローガンにかの「プロレタリア文化大革命」が掲げられ紅衛兵が復活したのだ。管区人民解放軍がこれに乗る動きをしたためにもはや中央の威光が利かなくなっていたが、激高した北京が長江北岸に第三・第四野戦軍を出動させると、期をあわせるかのように、東北部が長城を国境とする独立を勝手に宣言した。既に完全に瓦解していて小競り合いにまでなりかけていた北朝鮮は、その動きに乗ずるように東北部独立に統合すると発表した。国名に『金』を復活させるという噂が飛び交い、実質の仕掛けはどうやら国家を維持し続けられなくなった北朝鮮執行部の呼びかけのようだった。東北管区の人民解放軍が鴨緑江を渡ったことが米衛星によって確認され、朝鮮人民軍は38度線に集結していたのだった。1月末にはこの『金』が韓国への牽制のため、竹島の領有権は日本に有り、と声明を出すという情報が駆け巡った。周辺国は俄に緊張し、台湾は金門・馬祖両島に陸軍を上陸させ、韓国は38度線に緊急出動、同時に竹島にも海兵隊を駐屯させた。

日本の政局は毅然と対応しようとする安部総理に対し、むしろ与党の公明党と自民党のハト派が足を引っ張る混乱に陥り自民党が分裂してしまう。土台が300議席が重すぎるのだ、色んな者が多すぎた。選挙をしている時間がない、と即断した安部総理はハト派と公明党を切り捨て、2/3の自民党と野田聖子率いる保守本流党で連立を組む賭けに出た。結果は衆参両院の首班指名で野田聖子総理大臣が誕生。安部総裁は力を温存できた。この間1週間。時の首相となった野田聖子はここに至って果敢に決断、尖閣に国防陸軍を上陸させ、海上封鎖する意思を固めた。そして出井旅団に強行上陸の命令が下った。

2月とは言え沖縄近海まで来ると日差しが暖かい。老人部隊は甘やかされているので当然統制は緩い。機動空母『いずも』の飛行甲板で原辺と椎野はまるで南の島にバカンスに行くようなノリで上半身裸で肌を焼いていた。大半のオヤジが船酔いで苦しむ中、二人は平気だった。                                               
「お二人とも船にも強く頼もしい限りです。」                           
サングラスを取るとこの日差しの中、制服制帽に汗ひとつかいていない出井大佐と汗だくの英曹長が立っていた。
「失礼しました。」                                          
慌ててシャツを着て敬礼する二人を制し、                           
「結構。それくらいでちょうど良いかもしれません。英特務曹長は本でも持ち込みましたか。」
「ハッ。原書30冊を別送しています。」                             
「アハハ、気を抜いてはいけませんが、敵海兵隊との交戦にはなりませんよ。」
と笑いながら行ってしまった。                                  
「なんだありゃ、クソ度胸満点だな。」                              
「本当に女か。良く見ると美形ではあるが・・・。」

島が見えてきた段階で『いずも』からはオスプレイのピストン輸送で上陸。魚釣島の旧村落の近くと平坦部のある南小島に、アッという間に300人が移動した。これとは別に揚陸艦と大型のバートルにて、大和大尉が指揮する同じく老人施設部隊が重機・資材を持ち込んでおり、テキパキと駐屯地を設営していた。『いずも』はさすがに長居は無用とばかりに直ぐ視界から消えて沖縄にいった。プレハブに毛が生えた程度の兵舎を南小島に、戦闘指揮所及びその他の観測所といった設備を魚釣島に構築していた施設部隊はゼネコンのOBが多く、さながら熟練工の集まった精鋭部隊で、出井旅団とは士気からして違う。昔取った杵柄のノリで徹夜で仕上げまで完了させた。翌日には一部の調整に掛かる20人程度を残して帰って行った。

魚釣島には南国らしい蘇鉄が生えており、海はメロン色、夕日が落ちる時などはオレンジ色の光が射して来る。かすかな雲が水平線あたりに漂っている所などに思わず見とれている老兵が多くいた。100人程が南小島に居り、200人は魚釣島で昼夜3交代勤務での3勤1休のローテーションで配置に付いた。夕食後南小島からボートで魚釣島に行き、配置について夜11時時からの夜勤、朝まで警戒に当たり7時に交代して仮眠、午後3時からの昼勤務が11時まで、睡眠後常駐体制で3時まで、次の入れ替えと交代し南小島で夕食、翌日休みの体制が組まれた。3日も経たない内に曜日の感覚は無くなった。もはや保安庁ではなく国防海軍の輸送船、潜水艦、揚陸艦が物資を運ぶ体制で一週間が過ぎた。いくらでも弛緩してしまいそうな環境であったが、出井旅団は何とかそれなりの緊張感は維持できていた。

ある日、南小島から魚釣島に向かうボートに出井旅団長と英曹長が一緒に乗り込んできた。初めから原辺・椎野に話しがあったらしく上陸後に「集まられたし。」とお達しが来た。テント仕立ての野戦ヘッド・クオーターに招き入れられると他にも大和大尉以下施設幹部の姿もあった。出井聯隊長は地図を覗き込むと、

「北東部の海岸線の守りが手薄です。至急機関砲据付けを行うコトになったため現地調査並びに設営可能ポイントの確保をされます。明朝大和大尉の指揮の下出発して現地にて野営、帰還されたし。尚、断崖絶壁の為海上からの接近は困難。設営のための補給も必要なので、地上移動のこと。移動用具・食料携行、通信確保準備。本日の夜間警戒免除。
「ハッ。」「ハッ。」                                          
翌日は日の出とともに出発した。山中行軍ではあるが武器は持たず、ましてや1泊しかしないので、食料・通信機器の10Kg程度での装備だったが、やはり山登りはきつかった。施設の大和大尉は、これも若年キャリアのようで山登り山中行軍は二人組と同じようなスピードで大したことはない。途中休止の時点でもうヘトヘトになっているようだった。
「大尉殿はやはり若年キャリアですか。」                           
「映画の見過ぎですよ(ハアッハアッハアッ)。国防陸軍は『殿』は付けませんよ(ハアッハアッハアッ)。専攻は生産工学でした(ハアッハアッ)。施設入隊2年目です。」                                   
息も絶え絶えでこりゃどうなる、と原辺と椎野は顔を見合わせた。

這々の体で島北東部の崖の上にたどり着くと、青い海が広がった。ポツンと島が視界に入る。見渡しても敵の気配も何にもない。傾斜はきつくて海岸までは降りられそうもないので、設営可能な場所を手分けして調査した。ようやくここで良かろう、と最適ポイントを見つけて本部に連絡・報告した。大和大尉は輸送ルートの確保に地図を覗き込み、仕切りに計算している。原辺・椎野は樹木を切り倒したり簡易スコップで整地等をしているともう野営の準備になった。火は起こせないから携帯食料でわずか10分の夕食を食べると見事な夕焼けとなった。南の島でも2月の終わりでは日が暮れると涼しいというよりは肌寒い。雨除けのタープを吊っただけでそれぞれ眠った。

ドーンドーンドーンバリバリバリバリドーンドンといつ終わるか分らない物凄い轟音とビリビリ伝わる衝撃波に飛び起きた。音が止まないので声も伝わらない。それぞれが「どっちから来るんだ。」「やられてるのか。」「敵襲かー。」と言っているようだがお互い全く聞こえない。30分は音が絶えなかった。島の反対側が集中的にやられたようだった。俗に、寝込みを襲う、と言う早朝未明の奇襲攻撃なのだが、島北辺には敵の艦船など見えない。味方の反撃は全くないようだ。通信を試みていた大和大尉が首を振って言った。

「全く連絡がつかない。ここにいてもダメだ。戻りましょう。」                 
三人は装備を装着し、ゴソゴソと山を越えた。分水嶺から見えたのは南小島から幾筋もの黒煙が上がり、駐屯ベースは真っ黒焦げになっている。魚釣島のヘッド・クオーターにも何発もくらったようで跡形も無い。急斜面を滑りながら必死で降りた。

やっと息を切らせて降りてくると何とも言えない臭いがして、苦しいくらいである。まさかの戦場の実態に物も言えなくなった。しかし建物は吹き飛んだが命中したのは微妙にポイントが外れていて起き上がって動いている人陰が煙りの中に見える。三人が駆け寄っていくと血だらけの出井大佐に小柄な英曹長が肩を貸していた。                     
「ご無事ですか。」                                         
「モルヒネを・・・・。無事が確認出来たのは他には・・・・。」                 
「設営に行った東側には生存者がいるはずです。恐らく南小島は全滅かと。」
「それでは残存者は大和大尉が指揮を・・・・。訓示があります。」            
「ハッ。」「ハッ。」「ハッ。」
「注目。本作戦はこれをもって終了。攻撃は 潜水艦によるスタンダード・ミサイルによる無差別飽和攻撃。やって頂きたい事があります。国旗の掲揚。そして直ぐに救助ヘリが来ますので我々の配置を伝えられたし。遺体のできる限りの保全。」
苦しくなったのか、深く息を継ぎながら最後の力を振り絞っているようだった。
「実は第七艦隊は既に海域に接近しています。国防陸軍石垣揚陸部隊も直ぐに上陸します。追加攻撃は無い。申し訳ないが、東京オリンピックの成功のために、どうしても最初の一発は受けざるを得ないという、誠に苦渋の選択による作戦でした。よろしいか、領土とは国旗があり、守る者がいてそしてその犠牲の上にしか成り立たないものなのです。・・・・諸君に感謝します。」
3人は暫く呆然としたが、あきれるほど静かな午後になって、使える資材の中からポールと日の丸を探し出し掲揚した。掲揚したのだがいかにも無意味な光景ではあった。すると轟音とともにオスプレイが3機飛来した。
「わかったぞ。出井大佐は我々を逃がしたんだ。国旗掲揚と部隊の存在証明に。」
冷静な大和大尉がつぶやいた。                                    
「大尉。飛んでくるのは国防軍なんでしょうね。」                       
「見れば分るでしょう。日の丸です。」                              
単純な原辺は感動して喚いている。                                
「出井大佐の遺骨を内地にお連れしなければ。」                        
皮肉屋の椎野はせせら笑った                                 
「バカ、まだ亡くなってない。モルヒネが効いてるだけだ。これじゃオモチャの兵隊の在庫セールだぜ。お前みたいなのが一番危ねーんだよ。こういう時は。」

折しもオレンジ色の夕日がオスプレイの編隊をシルエットにしていた。

 
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オリンピックへの道  あと2年(2015年からの憂鬱 破章)

2013 OCT 14 16:16:09 pm by 西室 建

2018年の春、国防陸軍朝霧駐屯地に新兵が配置されてきた。国民皆兵法による徴兵第三期300人の部隊である。四半期に一度の募集が原則であるが、自主的な入営の希望者が殺到したためこの年に限って毎月の配属である。年齢はバラバラであるが、大部分が中高年で2~3割が20~30台の比較的若い者も散見される。予想されたことではあるが、整列させてもピシッとしない。この300人は独立混成旅団として編成され、指揮を取るのは若干40がらみの出井大佐。新制国防陸軍は旧階級が復活していた。事前の調査によって比較的健康状態のものが集められたことになっている。訓示の後は下士官 英(はなぶさ)特務曹長の元、早速行進の訓練である。これがまたひどい。『前へーッ、進めーッ。』『左向けーッ、左!』『回れ右前へーッ,進めッ』英特務曹長の呆れ返った顔が次第に強ばりながら、何かを書き付けていた。

新規部隊を受入れるに当たっては国防軍当局もかなり気を使ったため、命令口調も嘗てのような険しいトーンは消えており、ましてや帝國陸軍のような内務班内の陰惨なシゴキは全く消えていた。『ナニナニされたし。』『ドウシタされるべし。』といった国防軍用語が用意されていた。

「本日はこれにて解散されたし。夕食後、各位点検、フタヒト・マルマルに就寝さるべし。」フタヒト・マルマルとは娑婆で午後9時と言われる時間だ。

英 曹長の疲れ果てた声に送られ、平均年齢63才の新兵達は兵舎に向かった。

「やれやれ、廻れ右なんて小学校以来だよ。忘れてた。」

原辺(ばらべ)はベッドにヘルメットを投げながら隣の椎野に聞こえるように言った。

「郷に入っては郷に従え。いくら何でもその内慣れるさ。」                     
軽く目で笑いながら答えた。二人は入隊時に同じ63才であり、聯隊の配属も同期だったので行動を共にしていた。椎野はどこから聞いてくるのか情報通で実に物が解っているふうだった。
「あの英曹長ってのはずいぶん若いな。まだ20代だろ。」                 
「あれはキャリア入隊の腰掛け。国民皆兵法が出来た時に大学卒業だけど就職するのもめんどくさいから体の利くウチにサッサとやっておこう、てクチだな。下士官やって上にいくのかどうか考えるんだろう。本職は英文学らしいぜ。」
「出井旅団長は?」                                        
「あっちはバリバリのエリートだよ。技官だそうだからもうすぐ予備役だろ。あの法律はキャリア・エリートの類いは予備役になっちまってからが人生の果実でオレ達みたいにならんですむ訳だ。だけどアレ40そこそこだろう、かっこいいよなー。」

若いエリート部隊と違い、老兵混成旅団は大幅に自動化が進み戦力的にも機動力は期待されていない。装備も固定されている武器以外は改良された『軽量突撃銃』が主流で、移動も全て軽量装甲車。災害救助の役には立たないし、往年の陸上自衛隊に比べればピクニックに毛が生えた程度の訓練でもすぐに音を上げる、何しろ年である。それなりにカリキュラムをこなして、初の外出日となった。殆どの者が出払ってガランとした兵舎に何故か原辺(ばらべ)と椎野が取り残されていた。
「椎野はどこも行かないのか。」                                 
「お前こそ家に帰らなくていいのか。」                             
「いろいろあんだよ。」                                      
「こっちだってそうさ。」                                      
そして二人でシコシコ飲みに出た。
原辺は50で離婚され還暦でリストラされ、居場所を失って入隊して来た。
「オレ何と息子から勧められちゃったんだよ。アイツ今度結婚するんだけど、オヤジどうせ国民皆兵だから入隊するとウチが空くだろ、だってさ。いつまでいることになるのかな。」
「オイオイ、少しは調べておけよ。ここを出て食えるなら2年満期だけど、国民皆兵法は本当のところ年金打ち切りだからな。放っといても年金貰えるのは国家公務員OB,教員OB、自立農業経営者、まあ他にもクドクド決めてるみたいだけどハグレ者には関係ない。生意気なこと言ってて挙句の果てに役立たずになった輩の一括処理みたいなもんさ。お前みたいにガキにおん出されたり、カミさんに追い出されたり、オレみたいにヤケになった者の吹きだまりだ。」
そういう椎野は経営していた会社を売り飛ばして遊び歩いているうちにバクチの大負けで借金を背負い込み、しばらく海外に逃げていたが里心がついて帰国したところ、女に追いかけ回されて逃げ込んだのがこの部隊だった。他も大体似たり寄ったりなのだろう。
「だけど怪我したり病気になったり、それこそボケたりしたらどうなるんだ。」
「それが簡単にはいかないんだよ。使いもんにならなくなると各師団に併設されてる野戦病院にブチ込まれておしまい。出られなくなるぞ。程度のいいのは朝から晩まで単純作業、ひどいのは人間扱いされなくて直るもんも直らんという話だ。凄いのは網走の第七野戦病院送りで細菌兵器の実験台にされてる、という噂もあるくらいだぞ。何しろ元刑務所だからな。」
「そんなことしたらさすがに問題になるだろ。」                        
「あくまで噂だがな。ひどい扱いではあるらしいが冷暖房完備で、別に拷問してるわけじゃないからな。第一ボケの入った老人なんか天下の嫌われ者だ。どうもそうしちゃった方が社会的なコストが一番安いんだそうだ。」
「オイオイ、でも看護師さん位いるだろ、若くてきれいな。」                 
「フッフッフっ、そこにいるのがバーサマ部隊なんだよ。ここの賄いにもいるだろ。やつら復讐のつもりなのか、ボケたやつなんかオモチャにされてるらしい。行くもんじゃない。」

奇妙な平和が醸し出す弛緩した空気がいいやら悪いやら。世の中はオリンピックまであと1年チョットだ、と煽っていた。しかしどんな世界でも差がつくもので、出井混成旅団は比較的デキが良いらしく、半年後原辺・椎野の二人は同期のトップで二等兵に昇進した。老人部隊には三等兵が新設されていた。出井旅団長から食事の案内が届く。恐れ多くも英曹長の後陪席であった。佐官食堂に第一種礼装で赴く重々しさはさすがに国防陸軍の面目躍如。二人で個室に入ると両上官が挙手の礼をもって迎えてくれた。
「大変ご苦労様です。今後とも宜しくされたし。」                         
丁寧な言葉使いで労ってくれる旅団長は近くで見ると大変なイケメン、隣の英曹長は小柄だが厳しい表情を崩さない。訓練の感想、生活について色々話題に上ったが二等兵組からは特に不満や要望は言わなかった。文句を言わず質問をしない兵隊は良い兵隊だからだ。1時間が経過した。                                        
「それでは私は午後に視察がありますから、これにて失敬。実は来月早々新規配属三等兵が30人我が旅団に配属されます。新兵教育について英特務曹長を補佐されたし。引き継ぎを受けられます。」
ビシッと決まった敬礼をして辞していった。3人で班編制、教育スケジュールの打ち合わせを細かくした。
「旅団長殿は大変立派なお方ですね。」                           
「原辺二等兵、国防陸軍では『殿』はつけません。出井大佐は防大物理出身で、実戦部隊は初めてのはずです。責任感旺盛。判断力、統率力、敢闘精神どれをとってもダントツの指揮官でしょう。」
「英曹長はどういう御経歴でありますか。」                           
「自分は英文学、特に現代アメリカ文学が専攻です。就職をするつもりがまるでなかったので、ここに来ました。先例が少ないので、いつまでいるのか、退官後は学究生活にもどります。デモシカ曹長ですよ、あははははは。」
「・・・・。」「・・・・。」                          「どうもお二人ご存知ないようですが、出井大佐は女性ですよ。」              
「エッ。」「えっ。」

つづく

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オリンピックへの道 あと5年(2015年からの憂鬱 序章)

2013 OCT 11 9:09:12 am by 西室 建

2015年夏、予てから恐れられていた中国経済が崩壊した。理財商品の決済ができなくなった地方銀行の破綻から飛び火し、シャドウバンキング等の破綻が隠せなくなってしまった。外貨が一斉に逃げ出したのである。もはや信用不安どころではなくなった共産党中央は、ほぼマーケットを閉鎖せざるを得ず社会主義市場経済の看板をかなぐり捨て、報道はブラック・アウトして国境も閉鎖するという超強行手段をとった。一部の米国債が出回っていたことは噂になっていたが、大量に売却されたことから誰も手がつけられず、さすがのアメリカも度を失った。中国はWTO加盟国の面目もなにも、ルール無視の蛮行を繰り返し貿易は香港の窓口以外は全て表に出られなくなったのだ。

ところが不思議なことに軍事的な緊張は全く起こらなかった。中国は国境を固めるばかりで、内側に閉じこもったことと、アメリカがアジアに構っていられなくなったからである。中国の国内から洩れてくる話は、どうやら力で押さえつけていた地下経済が地方当局の制御を受け付けなくなるほど相対的に肥大し、又周辺の少数民族問題を押さえつけることに人民解放軍を投入し続けるコストに耐えきれなくなって、外に向かう余裕がなくなってしまったようだ。一方経済は世界中どこもかしこもメチャクチャになりG7もG8も全く機能しない。年の暮れに向けて暗雲の中、金はバカ上がり、物は売れず、大雑把にいって資源の無い国は猛烈なインフレ、エネルギー輸出国は逆にウルトラ級のデフレが進行する有様。複雑に絡み合ったグローバル経済を調整する機能・信用が消失したのだった。売れもしない物は誰も造らない、と言う簡単な理屈で時代はリーマン・ショックどころか大恐慌の遙か以前に退化したかのようであった。要するに中国自身がグローバル経済に組み込まれてしまって、一国の統治機構の限界を超えたことにあまりにも無警戒だったのだ。

その中でただ日本のみ、無論急ブレーキはかかったが、何とか踏みとどまった。ひとえに絶好調で再選を続ける安部最強内閣が、メタンハイドレードの商業生産を可能にし、北方領土解決(面積等分方式、地続きの国境ができた)の際にロシアと交わした安全保障条約に加え、天然ガス樺太ライン敷設により長年のエネルギー問題を解決していたからである。日露国境は新名所として観光地化してブームを呼び、エトロフバブルが一時的に発生した。この日露安全保障条約は、日米条約の不備と不可侵条約の不健全を補完したような『国際条約の宝石』とも言われた緻密なもので、アメリカさえも異を唱えることができなかった(紙面の都合上詳しくは文献参照)。勿論日米同盟堅持の大前提あってこそであるのだが。

年が明けると、貿易決済を以前からユーロにしていた北朝鮮が国家機能を全く失い、中朝国境が廃止されそうになった。国境に人民解放軍が進駐する恐怖感にかられた韓国朴大統領は、前年から経済破綻していたこともありここに苦渋の決断をし、安部総理の呼びかけた日台韓ブロック経済圏に参加することとした。あまりの中国に依存した経済の大打撃に反対世論が形成されなかったことが大きかった。この効果は絶大で、2016年は数十年ぶりに何やら奇妙勝つ緩やかな共生感が漂ってきた。無論GDPは各国マイナス成長なのであるが、日本式『仕方が無い』韓国式『ケンチャナヨー』台湾式『メィウェンテイ』が合体したとでも言うのか。3国とも少子化の傾向が著しかったせいかも知れない。ただ竹島だけはこの時点では未解決であった。

2016年のリオデジャネイロ・オリンピックはまず開催地のブラジルの破綻が現実のものになり手をあげてしまい、強行しても参加国はせいぜいG7くらいの規模でしかないため、戦時とモスクワボイコット以来の中止の憂き目にあってしまった。

夏の勝負どころだった衆参同時選挙はまたもや安部自民党の圧勝で政治的には無風が続く年末、通常国会において、突如『国民皆兵法』がヴエールを脱いだ。それは周到に練られた案であったが、一言で言えば『兵役に就かない者への年金はストップする』だった。しかも遡って全国民に、だ。官邸側近及び少数の官僚が練っていると言う噂はあったのだが全く洩れてこなかった。検討グループに民間・学者・有識者の類いを一切入れなかったため、リークもされなかった。 即ち、この時点で10%の消費税でも超恐慌の元、財政は悪化どころではなく、かといって15%への増税が通るわけもなく、ターゲットにされたのが年金だった。一方で少子化による若年人口の減少はこれも止める術がなく、最早ニートだ引き籠もりだの類いを放っておく余裕もなくなっていたからである。早い話、一度でも兵役を勤め上げれば面倒みるがそれ以外は知らん、とする制度のようだ。問題はいままで勤め上げていないオヤジ、オッサン、ジイサマ、の類いで、この辺はこれからの詰めとされた。本当に年金が支給されるのは70才以上で、ガタがきていたりボケが始まっていなければ兵隊に取られて働く事になるのだ。衝撃が走った。だが、通常国会の議論は反対論に対する準備が実に周到で、ありきたりの空論を質問に上げる野党議員の意気があがらないまま、予算を編成して審議継続で年を終える。

2017年は奇妙な超恐慌下の平和は慌ただしく続き、日台韓の経済ブロック効果は東南アジアからインドへと非軍事的に連帯を伸し、各国の経済に些か効果をもたらした。第一次安部内閣の『自由と反映の弧』が、規模感は縮小したものの実現してしまったのだ。その中で、通常国会において、秋に例の国民皆兵法の国民投票が実施されることになった。既に改正されていた国民投票法がここで生きたわけだ。そしてその流れにおいて憲法改正、皇室典範改正までもが俎上に上がる。政党はこの頃とっくに再編されており、自民党・公明党・共産党以外は極右の正義党、中間の進歩党、北斗党、平和クラブであるが、旧左派は政治的に全くパワーを失っていた。大きく特筆されるのは、最強安倍内閣が憲法9条の『永久にこれを放棄する』の項目を残したまま集団的自衛権を堅持すること、更に期を合わせるかのように愛子内親王殿下、秋篠宮佳子内親王殿下の旧皇族との婚約あい整い、皇室典範が『男系』の一条を滑り込ませる離れ業もあり、10月1日の国民投票日を迎えた。

結果は投票率85%という驚異的な投票率で、何と、3投票案件とも70%越えの指示が示された。直後から投票率・賛成率の合計から6割しか賛成していない、という裁判が各地で起こされたが、民意は動かなかった。ひとえに内乱状態に陥った中国からの外圧がなかったことと、ブロック経済に異存を高めた韓国からの反発がなかったことが地滑り的な投票行動を呼んだ。更に巷間噂されていることには、役立たずの亭主が定年後ブラブラしているのに業を煮やしていた熟年主婦層(賛成票では最も多かった)が賛成し、先のことを考えない失業中の若年層と、実際ヒマを持て余しそうなオヤジ層が投票した結果だった。

あまりの票の多さに目が眩んだ保守政党も(この時点で衆議院自民党300正義党80議席)離合集散の動きが起こり、安部総理率いる自民党と野田聖子党首を擁する保守本流党に再編され、野田は時期総理の筆頭候補に躍り出た。信じられないことであるが、フェミニスト・リベラルはやることが無くなってしまい、男女雇用均等法を盾にとっての門戸開放運動に押され、看護・賄い・後方支援専門の通称『バーサマ部隊』の設立を推し進める有様で、何と通常国会において成立してしまった。

国防陸軍の編成は急ピッチで大幅に改革された。学業修了者の即時入隊組は訓練後、しかる後に下士官になって年金は安泰、隊員の競争率は2倍に達した。中学卒業に受験する少年国防学校(かつての少年術科学校)は20倍の競争率に、国防大学も一躍超難関校になってエリートとなった。例の奇妙な平和の風の所以である。

つづく

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