Sonar Members Club No.36

Since July 2013

怪奇 マンモス・フラワー

2024 JUL 5 13:13:47 pm by 西 牟呂雄

ポツン

 これは以前ブログで紹介したこともある、孤高の観葉植物で、喜寿庵の奥にある通称ネイチャー・ファームのはじっこにひっそりと佇んでいる。

ポツン 考


 それがですな、この梅雨時になって異常な姿に変身したのである。
 あまりの奇怪さに、思わず昔見たウルトラQ(50代以下の人、ごめんなさい。ウルトラマンの前の特撮テレビ)を思い出した。
 この番組ははじめはオトナを対象に企画された特撮物のフシがあって、怪奇現象を扱う不気味なテイストだったが、途中からもっぱら怪獣の出番が増えて後の子供向けウルトラマンの出発点ともなった作品である。
 ゴメスとかナメゴンとかカネゴンのキャラクターを僕たちは白黒で見たのだった。

 その中に東京の都心で突如巨大な植物が花を付ける『マンモス・フラワー』というのがあったが、それを彷彿させたのがこの写真である。あの寂しげな観葉植物の中からニューっと茎が伸びて花を咲かせた。
 長年見ているが花を咲かせたことはない。何じゃこれは。
 よく見ると花自体はそうケバケバしくはないものの、どうも突然変異的に出現されると不気味ですらある。あまりの気候変動でおかしくなったのだとするとコワい。

 という訳でその後必死に画像検索をすると、どうやら一番近いのはリュウゼツランという植物だった。そしてこの種は成長が遅く花を咲かせるまでに数十年を要し、開花・結実後に植物は枯れる一回結実性(一稔性植物)だとある。
 なにー、すると今現在見ている花は、こいつが生涯をかけてその最期に力を振り絞って咲かせた結晶とでも言うのか。
 そんな珍しい物に興味を示すのは僕の二代前、即ち変わり者で有名だった爺様に決まっていて、その爺様がヒマに任せて普請したこの喜寿庵はそろそろ百年が経つ。爺様、例によって凝った仕掛けをしたな。孫の僕が突然咲いた花に仰天して、その最期を見届けるのを今頃どこぞでニヤリとしているに違いない。
 ヨシッ、これで枯れてしまうならその時までをちゃんと記録してやるぞ、と意味もなく力を込めた。

 ところでその横でゴソゴソやっているネイチャー・ファームのアグリであるが、去年植えたスーパー・ニンニ君とお彼岸に蒔いたニコニコ・ポテトの収穫が始まった。ロクに肥料もやらず、厳しく育てられたニンニ君は締まった表情だが、ポテトの方は新品種かと思うほど小ぶりになってしまった。料理の材料にはなりそうもないので、茹でて自分で食べた。今のところ体調に変化はないので、少なくとも毒ではないだろう(不味かったけど)。

スクスク

 さて、枯れてしまうのをドキュメントしようとスケジュールの合間を縫って見に来たら、枯れるどころかますます健やかに咲き誇っている。どういうことだ。

 その後、二週間経った。
 相変わらず花は咲いている。
 下の方から枯れて来るという記述があったが、ご覧の通りドヤ顔で立ったまま。
 本当に枯れるのか、今度はそっちが心配になってきた。
 今年は梅雨も短く、その後は酷暑という。
 まさか・・・。

ドヤッ!

 梅雨空の元、
 更に一週間が過ぎてついに花が落ちた。
 いよいよ百年の寿命が尽きるのだろうか。
 但しこの硬い葉はまだ青々としたまま。
 まてよ、一部はすこーし白っぽいかな。
 そうなるとやたらと応援したくなった。
 せっかく異常気象なのだから、もう百年くらい行けるのではないか。
 そう思って周りに油カスを埋めたり水をやったりしている。
 ガンバレガンバレ!

花が落ちた


 
 

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ドン底とは何か 日本ハムファイターズ

2024 JUN 29 20:20:03 pm by 西 牟呂雄

 交流戦の巨人とやったあたりからおかしくなった。3引き分けをはさんで1勝5敗で3位に転落、首位ホークスとの差は11.5ゲームに広がった。
 理由は簡単で、役立たずの清宮と12球団一の下手キャッチャー清水を1軍に上げ、尚且つたまに使うからだ。ついでに最悪ストッパーだった杉浦も中継ぎで出す(今のところ防御率はいいが)。バカ・ボスは学習しない。
 交流戦MVPは水谷だ。ピッチャーもそこそこ。それで去年のファイターズに逆戻りとは、どう考えても監督力のダメさである。そしてチーム状態が悪くなっているところへ首位ホークスをエスコン・フィールドに迎え撃つ。なんというマズさか。

 初戦は山崎福也を持ってきて、清水も清宮もスタメンには使わない、ヨシヨシ。ホームランにはホームランとまずまずの出だしだった。ところがこの日の山崎はコントロールが悪くその後ポカスカ打たれるのだ。守備に至ってはゲッツーのはずが、何とダブル・エラーという珍プレーも出てアッと言う間に5-1と試合は崩れた。福田の二塁への送球がそれ、細川から一塁への送球もそれ、その間に1点献上と高校野球でもないような下手さ。全く去年までのファイターズ丸出しに僕は天を仰いだ。
 打線もマヌケ感満載でスチュワート。ジュニアのナックルに7回までに13三振。それならばピッチャーの代わりバナをと津森を攻め立てたのだが、川村のファイン・プレーでパァに。こう言うのを手も足も出ない、と言う。あまりの不甲斐無さにあきれた。

 本日はまたしても守備がエース伊東の足を引っ張った。水谷が落球!このエラーで交流戦MVPが帳消しになった。そして1点だけ取れたのは出してはいけない清水が打点を叩き出すという悪い冗談。これで4連敗。
 思うに、少し調子がいいからと言ってバカ・ボスが思い上がったのではないだろうか。打てもしないのにバントのサインが少ない。スクイズは殆どない。エラーは清宮がいなくても去年並。つまり全員去年と変わらない下手だったのに貯金ができて舞い上がったに過ぎないのだ。
 それにしてもこの11試合の1勝7敗3引き分けはあまりに酷い、即ちどのチームにも年に一度は来るドン底なのだ。バカ・ボスに覚醒を期待できないから、このドン底をいかに抜け出すか、選手一人一人が考えなければファイターズの今シーズンは終わる。
 それを占うのは明日の第3戦。宿敵ホークス相手に勝負を挑むファイターズの明日はどっちだ!

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白い狐 VS 緑の狸 都知事選スタート

2024 JUN 19 9:09:45 am by 西 牟呂雄

 白狐は別名砂かけババアという妖怪で、人にイチャモンをつけることで成り上がった。緑狸は別名塗り壁といい、権力にスリよって今の地位に上り詰めた。
 ただしどちらもスネに傷を持っている。白狐は参議院議員当選後も二重国籍だったことがあり、緑狸は学歴詐称を金でもみ消した。そしていずれもテレビ業界を手玉にとることに長けているが故に集票能力は高い。
 さらに言えば白狐は『二番じゃだめなんですか』という小学校低学年並の質問で有名になり、緑狸は怪しげな英語の標語を連発した。
 どちらも自陣営での人望は無く、嫌われ者である。
 筆者は都民であるが、両者の立候補した選挙全てでどちらにも票を投じたことはない。だが両者に投票した都民は何百万人もいるのだ。そいつらはバカか政治に絶望したニヒリストかどこかの工作員に違いない。どっちが当選しても引っ掻き回すだけで何も都民のためになることなどしないに決まっている。築地のドタバタは何だった。7つのゼロはどこへ行った。
 共通点は大陸のアノ国が大好きで、緑狸はコロナの初めの時点で備蓄している医療用の防護服を送った。白狐は北京大学に留学した。なぜ国籍まで持っていた台湾大学ではないのか。
 白狐は外国人投票権を打ち出す恐れさえある。緑狸はアラビア語が喋れないのがバレるのがいやでエジプトと断交でもしかねない。或いは卒業証書を出してくれた借りを返すため依怙贔屓してイスラエルを敵視するか。既に刑事告訴までされた。
 どっちもいやだ。田母神閣下・ドクター中松・元衆議院議員の小林興起・タレントの清水国明(あのねのね)等が出馬するらしいので応援したいがおそらく死に票になる。究極の選択をするぐらいなら住民票を喜寿庵に移さねば。
 こうなったら何とかもうチョットまともな候補者をぶつけて二人をつぶす秘策を練ってみた。この際、どちらにも見るべき政策なんかないのだから政治能力・政策立案能力はどうでもいい。

➀ 女性には女性を
  本来、支持しているマトモな女性政治家で言えば高市早苗と言いたいところだが勝てそうもない。そこでだ、国民的女優から選ぶとすればこの人しかいない。東京出身で品格も申し分のないとなると吉永小百合さんで決まり。自民党が必死に口説けば白狐の下品さと緑狸の胡散臭さを凌駕することだろう。

➁ スター選手から
  有権者の中高年、特に団塊の世代から上の圧倒的な支持を得られるとすればこの人、巨人軍永世名誉監督の長嶋茂雄!
  滑舌は大変に悪いようだが、元々何を言っているのか分からないのだからいっそ全く喋らなければいいのだ。下手に喋れば票が減る。

➂ 意識高い系タレント
  有権者の半分を占める女性票にのみ焦点を当て、それなりに格好の付くタレントとは。『嵐』で人気者だったうえに最近ニュース・キャスターでも活躍する櫻井翔だ
  この人は女性票をゴッソリ取れる上に、お父さんがキレ者官僚として有名だった。息子のために副知事にでもなって後ろから振り付けをすれば何とかはなること請け合い。

➃ 引退大物政治家 
  結構厳しいが、すでに議員を辞めた大物の中に使いモンになるのはいないだろうか。森元総理を考えたが、裏金の黒幕のイメージがあってダメ。
  石原慎太郎が実は死んでいなかったことにして比較的顔の似ている次男の良純を立てる手も考えたが難しかろう。
  それならまだ元気そうな小泉純一郎はどうだろう。
  いや、いっそ都知事を輸入する、例えばオバマ前大統領でもヒラリー・クリントンでも超法規で国籍を付与してなってもらう。

⓹ もう何でもいい
  とにかくあの二人の二択は耐えられない。どうしてもいやだ。棄権するのも消極的賛成にされそうでイヤだ。
  ビートたけしでも東国原でも所ジョージでも何でもいい!あの二人のどちらかに給料として払われる税金を払いたくない。大阪は横山ノックで何とかなったし東京だって青島幸雄だったこともあるじゃないか。
  何なら緑狸に投票しておいて、あることないことフェイクを流し、スキャンダルまみれにして引きずり下ろすか。

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令和亜空間戦争 老人ホーム編

2024 JUN 15 0:00:08 am by 西 牟呂雄

 ついにオレは体が利かなくなった。ロクに歩けない。手は震えている。耳は遠く、目も暗がりや遠くは分からない。同居人には愛想を尽かされ子供も孫も寄ってこない。有り金はたいて介護付き老人ホームに転がり込んだ。ここで静かに余生を送ろうと思ってのことだが、なかなか快適である。後は寿命との勝負。脳は持つのだろうか。
 メシも旨いしプライバシーにも気を使ってくれる。ネットも使えるし申し分ない暮らしだ。
 ただ、一つ気になるのは食事の時にどこに座って食べるのかの塩梅が難しい。こっちはこのありさまだから車いすを押してもらって空いているところにしか行かれない。だが、まだ多少元気な奴はヨチヨチしながらも仲のいい連中の所に行きワアワア言いながら食べている。オレも入っていきたいとも思うのだが、面倒な気もしていつも言われるままに黙って食べさせてもらっている、何しろ手が震えるのでこぼしてしまうのだ。情けない。
 しばらくして様子が分かってくると、小集団の中に一際目立つ男がいるのに気が付いた。襟足にかかる髪型と切れ長の目に特徴のある表情をした奴である。良く笑う。そして周りにいる老人は男も女も奴の言う事にいちいち反応して一緒に笑ったり頷いたりしている。時々視線が合うのだが、その目は明らかにオレを拒絶しているようなのだ。
 入居後一か月が経った。そうこうしているうちにオレにも挨拶をしたりテーブルを一緒に囲む仲間ができてきた。といっても半分は介護がなければ食事もできそうにない連中で、要するに介護士さん達と仲良くなったわけだ。すると彼等・彼女等からあの男の評判が聞こえてくるようになった。名前はアベというらしい。現役時代は怪しげな団体役員をやっていたそうで、なにやらいろんな知り合いが多い。まだ体も結構動くのでたまに外出する。
 ある日、天気が良かったので介護士さんが庭に連れ出してくれると、あのアベが立っていて『やあ、どうも』と挨拶をする。こちらも『どうも』と返した。すると『介護士さん、忙しいでしょうから車いすは僕が押して散歩につきあいますよ』などと言うではないか。オレはそんなことしてもらうのはいやだと思ったが、介護士さんは『それじゃよろしくお願いします』と行ってしまった。
 奴は庭を回ると『せっかくいい天気ですから外に行ってみましょうか』と言い出した。多少面倒かとも思ったがヒマに任せて言うがままに押されて外に出た。
 久しぶりの外気は心地よく、今日は風もない。住宅街だが人通りもない。
『あなたは以前は何をしていたのですか』
『普通のサラリーマンでした』
 会話はうるさいというほどではなく、とりとめもなく続いた。ところが、この地区を流れる河川にかかる橋のところに来ると、押す手を止めた。
『辺りに誰もいませんねぇ』声は低く変わっている。
『ええ、こんな街中で静かなもんですね』
『目撃者もいなくて今私がこの川に飛び込んだらあなたに何かの容疑がかかるかもしれませんね』
 こいつ何を言い出したんだ。
『或いは私が徘徊を始めていなくなった場合はあんたは誰かが発見してくれるまでここにいることになりますかな。いや冗談ですよ』
 言いようのない不気味さが伝わってくる。こいつ、オレにマウントしているつもりなのか。
 待てよ、人の気配がしない。オレは不自由な首を精一杯回して見ると、奴はいない。なんてこった、オレを置き去りにしたのか。
『こんなところまで来て何してるんですか』
 突然大声で呼ばれてハッと我に返った。
『いや、オレはアベさんに押してもらってここに来たんだけど、彼どこかに行っちゃって』
『何言ってんですか。アベさんならずーっとみんなでリハビリ体操してますよ。ダメじゃないですか勝手に出て行っちゃ』
『勝手にって、オレ一人じゃここまで来られるはずないでしょ』
『またそんな言い訳して。これは電動車椅子なの!』
 どうなっているのか。
 オレの推測はこうだ。奴は妖術を使うのかマジシャンなのかは知らないが、何らかの手段で人を服従させたり洗脳したりしてあの施設のボスの地位を手に入れているに違いない。そうはさせないぞ。
 それからしばらく、冷静に奴を観察し、たまに挨拶などはするが細心の注意を払いつつ秘かに呪術の研究を始めた。丑の刻参りでもやりたかったのだが、この有様では夜中に抜け出すこともできやしない。
 まず初めにタロット・カードを使おうとしたが、その解説書のあまりの多さに驚いてヤメ。魔法陣を書いて『エロイムエッサイム、我は求め訴えたり』とやろうとしたが、検索するとあれは水木しげるが自作したらしく、それなら自分で描けばいいとオリジナル魔法陣を作ろうとし、円の中を五芒星にするかダビデの星にするかで悩み挫折。
 そうこうしているうちに、奴のマジックは続いた。オレの嫌いなおかずが増えているし、中庭に押してもらって行くと奴とその取り巻きがこっちを見てニヤニヤする、オレのお風呂の順番に奴が割り込む。
 ある日、オレがボーッと窓の外を見ていると、奴が何かを唱えながら不思議なステップを踏んでいた。なんだかモタモタと歩きブツブツ言っている。聞こえてくるのは『リン・ピョウ・トウ・シャ・カイ・ジン・・・・』なんだありゃ。だが、その動きを見ているうちに突然気持ち悪くなってきた。息が上がり目がくらむ。
 次に目が覚めたのはベッドの上だった。起きようとしたが金縛りだ。
 運よく介護士さんが見回りに来てくれたので『起こしてください』と言おうとしたが声が出ない。介護士さんはこう言いながら事情を察知したらしく起こしてくれた。
『もう、一人ではうろつかないでくださいよ。危ないから』
 いや、オレはズッとこの部屋にいたのに、分かった。奴がまた妖術を使ったな。ところがうまく言えない。
『ヨージュツ、、アベ、、、』
 というのが精一杯だった。意味は通じないだろう。介護士さんは無視して出て行ってしまった。

 奴のあの不思議なステップには何かある。オレは大変な苦労をしながらパソコンで検索しまくった。すると、何と謎が解けた。
 あれは念じながら北斗七星の形を踏む『禹歩』というステップで、『三歩九跡の法』という陰陽師が使う秘術なのだ。そうか、奴は陰陽師だったのか。
 しょうがない、それに対抗するにはこちらも陰陽師だ。
 不自由な体で検索を続け、精神統一のために結界を張って瞑想し、ユーチューヴでそれらしい動画を見続けた。
 すると驚いたことに体調がよくなってきて、車椅子でなくても少し歩けるようになった。オレにも霊力が備わって来たようだ。いいぞ。次の段階に進もう。
 折り紙を折って『式神』をたくさんこしらえ、自作の呪文をかける、『阿毘羅吽欠蘇婆訶(アビラウンケンソワカ)我は求め訴えたり』を深夜0時に三回唱えること7日。どうやら霊力が強くなって来たころ合いを見て、枕の下に並べて寝てみた。
 その晩に見た夢は痛快であった。奴が『禹歩』を踏みながらこっちに迫って来るのをオレの式神が左右から攻撃し、慌てた奴がボロボロになって倒れこむ。再び立ち上がってまた『禹歩』で立ち向かってくるのを今度は前後から攻撃する。奴は何度も倒されるのだが、次第に近づいてくるのが不気味。っと、目の前に来た時点で目が覚めた。
 翌日の朝食時間に奴は現れなかった。効いてる効いてる、しかもおかずにオレの大好物の茄子のシギ焼が出た。どうやら一人前の陰陽師になれたようだ。
 部屋に帰ってみると、枕の下に隠していた式神がいない!ははぁ、奴の所に波状攻撃をかけに行ったのだな、ヨシヨシ。
 と喜んでいたら、夕食には奴はいた。何事もないような顔をしていつも通り側近に囲まれて大声で笑う。聞き耳を立てていると、夕べは娘さん一家のところに泊まって来たような話で、オレの式神は何の効果もなかったかもしれない。

式神

 頭にきたオレはこのような式神を12体こしらえそれぞれに「青龍・朱雀・白虎・玄武・勾陳・六合・騰蛇・天后・貴人・大陰・大裳・天空」と名前を書き霊力を込めた。そして夜半、再び呪文を唱える。今回は物部神道の祝詞に変えた。
『ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり、ふるべ ゆらゆらと ふるべ』
 この日の夢はとんでもなく大変だった。奴が『禹歩』で来てオレの式神が襲い掛かるのだが、突如奴の周りに普段一緒にいる側近達が同じステップを踏みながら集団で迫って来るとオレの式神が次々と燃えてしまい、役に立たない。恐怖に駆られたオレは仕方なく奴らと同じ『禹歩』で歩き始める始末だ。ここで目が冷めた、フーッ。
 翌日は無論奴は元気である。それどころか昼食後に中庭で仲間を集めて『禹歩』の練習を始めているではないか!そしてあの呪文を一斉に唱えている。『リン・ピョウ・トウ・シャ・・・・』
 わかったぞ!あれは陰陽師の呪文、臨兵闘者 皆陣列在前(りん・ぴょう・とう・しゃ・かい・じん・れつ・ざい・ぜん)のことだ。ヨーシ。
 これでは陰陽師のまねごとをしていては奴にやられる。こんな甘っちょろい式神なんぞでは奴は倒せないのだ。
 オレは更に研鑽を重ねた。
 そしてついにたどり着いたのが真言密教の呪詛だった。
 不動明王の御力でもって邪を払い悪を倒す、正義の秘宝を身に着けたのだ。
 深夜、ろうそくの一点を見つめながら7回唱える。 
のうまくさんまんだ~、 ばざらだん せんだ~、 まかろしゃ~だ~、 そわたやうんたらた~、 かんまん
 この、最後の『かんまん』のところをトントン、というように節を取るのがコツだ。早速今晩から始める。

『あのアベさんは本当にいい人だね』
『ハルアキさんのこと?協力的だしそう手もかからないからね』
『それだけじゃない。健康促進のために考えたステップをみんなに教えたりしてくれる』
『あれは老人の足腰を鍛えるのにちょうどいいらしくて評判だよ』
『それに比べて私が担当しているおじいちゃんには困ってるよ』
『ああ、あの変わり者の人?』
『もうわがままでわがままで困るよ。なんのリハビリだか知らないけど一生懸命折り紙の人型を作ってたり。掃除のたんびに全部捨ててるんだけどね。この前なんか夜中に部屋でろうそく立ててたから叱り飛ばしたけど』
『少しボケてんじゃないの』
『少しどころか大ボケだよ。分けわかんないことブツブツ言うし』
『あんな耄碌したお爺さんがセッセとなんかやってると恐いな』

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台風の通った相模湾を渡る

2024 JUN 8 0:00:11 am by 西 牟呂雄

 なんと間の悪い。恒例の油壷ー伊東レースが、台風直後の6月1日に行われた。前日、土砂降りの中、船を下したが、準備も何もレースが成立するかどうかも分からない荒れた天気で、台風は通過しても雨・風・うねりは残るかと暗澹たる気持ちになった。我が艇はレース・ボートではないのであんまりうねりに叩かれると規定時間内に入港できず、リタイアにされる公算が高いのである。
 そう思って朝起きてみると何と風はない。油・水・ビール・ウィスキィ・食料を積み込み出艇申告し、レース旗であるピンクのリボンを括りつけた。本部艇にチェック・インをするため、スタート・ラインに向ってみれば鏡のような凪の海面である。我が艇はうねりにも弱いが、ベタ凪はもっと困る。凪では更に進まない。
 試練は続く。メイン・セールを揚げようとすると出ない!マスト内の巻き込み式なのだが、中で噛んでしまっていた。ボースンがリフトに乗ってマストを登り、色々手を尽くしてもダメ。スタート時間の信号が鳴った。
 ところが、あまりの風の無さに各艇ポジション取りに悩み一斉にフライングしてしまった。ジェネラル・リコールという再スタートとなる。こっちもはれどころじゃなく、メインはあきらめてやれゼネカーを出すぞスピンを揚げるぞとジタバタし、全く船は進まずに焦りまくっているうちに予告信号が鳴り、再スタートとなった。
 スタート後10分を経過した時点で冷静沈着なスキッパーが厳かに言った。
『エンジンをかけろ。我が艇はリタイアするから本部にコールしろ』
 全員全く異存なく、一部はニターッとした(僕が)。
 こうなったらエンジンをブン回していい所に船を付け、早く温泉に浸かろうと一瞬にして切り替わったのだ。

 後方で必死に風を拾い真面目にレースを戦っている僚船を見ながら、通常は6時間はかかる航路を約3時間で伊東に着いて入港祝いのビールを飲んで温泉に入った。
 ところがのんびりと船に戻って来ると、大モメにモメている。僚船のオーナーとレース委員がトラブッていた。
 レース委員会はあまりの風の無さにコースの短縮を決定したが、その際のフィニッシュ・ポイントは『北緯35度2分45秒 東経39度10分15秒付近』と決められていて、熱海から見える初島の北側である。ところがまずいことにこの日、同じような葉山~初島レースも行われ、そのフィニッシュ・ラインもそのあたりだった。そこでレース本部は多少ズラしてラインを張った。この際、ピン・ポイントで狙ってきた船がラインを見誤り、多少行って来いとなってロスが生じたのだ。その時本部艇に向ってかなり激しい罵声が飛んだらしい。
 こういうこともあり得るので帆走指示書には『上記の位置はおおよそであり、位置の誤差は救済の対象にならない』と規定している。この『おおよそ』が問題とされた。
 そこから事態は複雑になった。罵声を浴びせられたレース委員会も頭に来たらしく、船名を確認するとその船の所属ヨット・クラブの会長に厳重注意の電話を入れた。そして査問を受けたそのクルーも激高したという話。話がつかずに、油壷のドンである我がスキッパーの所に持ち込まれた。こういう時『おおよそ』は困るのだ。
 まぁ、レースの最中だから興奮するのは分かるものの、品性に欠ける罵声は宜しくはない。その場でクレームのレッド・フラッグを揚げてレース成立後にしかるべき話し合いが行われるべき、という結論だ。

 モメごとを捌いて、伊藤市長も来賓として参加する歓迎パーティーに臨んだ。
 ここだけの話だが、地ビールというのにあまり旨いものはない、とだけ言っておこう。

 さて、翌日再びセールと格闘して遂に引きずり出すことに成功、よかったよかったと港を出ると、真向いの東風を受けた。真上り、と言ってとても帆走できない。しかもよく見るとセールの一部が破けている。これは・・・・。このまま風に逆らわずに行ければ持つのだろうか。
 案の定、破れ目は伸びてしまいこのままでは裂けて修理不能になる。今度はあわてて下ろしてたたむ。思えばこのセールも、十年以上良く働いてくれた。僕達のムチャな航海にも付き合わされて波飛沫を浴び、寒風の中を何とか安全に港へと運んでくれたのだ。これで寿命かとなると葬式でも出してやりたくなる。いや、むしろ捨てずに喜寿庵にでも持って行ってハンモックにするとか日差し除けにでもならないのか。そう言えば物置の奥に押し込んだ、もう使わなくなったゴルフ・クラブとかスキー板のようなものを並べて眺めたら楽しいかもしれない。
 いや、他にもあるぞ、弾かなくなったギター、得体の知れないスパイク、使い物にならないノコギリ、と次から次へと頭に浮かんできて、暫し黙って海面を見つめていた。
 それらは人間の業のような・・・マッ、ただのゴミ・ガラクタだが。
 初島を交わし熱海に別れ告げ、真鶴半島を過ぎたあたりでは日が射した。夕べから飲み始めたウィスキィが2本が空いた。
 で、結局のところ往復ともセール無しの汽走になってしまい、とてもヨットで横断した気がしなかったが、安全な航海はできたことになる。帰港した途端に雨が降り出した。
 セールよ、ありがとう。
 もう梅雨だな。

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贋作 ジェット・ストリーム 女性コーラス編

2024 JUN 2 20:20:12 pm by 西 牟呂雄

ーミスター・ロンリーが流れてくるー
 またお目にかかれましたね
 パーサーのジェット・ニシームです
 長い旅に出られたのでしょうか
 それとも忙しいお仕事でしょうか
 いずれにせよ日常を離れて
 しばし瞑想にふけるのもいいでしょう
 安らかな女性トリオのボーカルでおくつろぎ下さい

 稲妻のような光
 あなたを貫いていった
 一瞬だけ はっきりと見えた
 青白い横顔
 あの光が
 あなたを遠くに連れて行った
 そしてわたしは置いていかれた
 あなたをわたしから遠ざけた光
 1億光年先の過去から
 あなたを目がけた光
 なぜ どうして 今なのか あのひとなのか
 



 さあ これからだ
 夜中に走り出したくなる
 さあ これからだ
 早朝に 飛び込みたくなる
 さあ これからだ
 身支度を整える
 あたらしい 靴
 あたらしい ランドセル
 あたらしい 船
 もう夢から覚めたろう
 これから 大変だぞ お前たち

ーエデンの東が流れてくるー

 いかがでしたか
 おくつろぎいただけたでしょうか
 最後のスリー・ディグリーズはどうしてもはずせません
 次回は日本版の女性コーラスを
 お届けしたいと思います
 また 空の旅でおめにかかりましょう
 パーサーはジェット・ニシームでした

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ケタ外れの資産と自由

2024 MAY 26 8:08:42 am by 西 牟呂雄

 今日のコンピューターの進化と通信技術の爆発的革新によってビジネス・チャンスが生まれるのであろうが、その果実を十分に味わえるのは一部の限られた天才達、GAFAの創業者や昨今のイーロン・マスク、サム・アルトマン、正体不明のサトシ・ナカモトといった人々だ。こういった天才の頭脳構造は計り知れない。
 つらつら思うのだが、彼等は数学の問題を『解く』のではなく、問題を『造る』ような思考をするのではないか。そうなると無限に思考は進化し続け、おかげで我々は便利に暮らせ、彼等は益々富栄える。天才もここまで来るとかなり危なくて、彼らの子供達には自閉症が多いことが知られている。
 特にマスクは次々とターゲットを変え、ものすごい能力と集中力でもって成し遂げていく。そのために超多額の投資を厭わず、周囲と軋轢を起こし、極限とも思われるリスクを取り続ける。最終的には人類の火星植民を考えていると言うから驚きである。怖いのは本当にそうなりそうな気がしてくるからだが。
 同じような天才、ピーター・ティールは不死の研究に投資するだけでなく、将来の技術により蘇生を期待し遺体を冷凍保存する計画だそうだ。
 そして、彼等のような超天才+超富豪が等しく求めるのは何か、というとこれが『自由』なのだ。ただ、単純に好き勝手に暮らすというような我々の考える自由ではない。
 既に彼らの事業領域は国境を越えてしまい、国家というものは彼等の仕事をむしろ拘束しがちな機構である。したがって無政府主義のアナキストになるかというとむしろその逆を目指す。マスクやティールがそうであるように、一般的なポリ・コレとかフェミニズム系の言説には激しく反発する。ツイッターを買収して凍結されていたドランプ元大統領のアカウントを復活させた。更に自身がCEOを辞任すべきかどうかツイッター上で投票まで行って辞任している。
 一方で、自分のプライバシーには非常に敏感で、それが守られなければ完全なる自由は得られないと考えている。もっと極論すれば政府の干渉からプライバシーを守るためなら民主主義など無用の長物に違いない。そもそも極端に高い知能の彼等から見れば、バカにしか見えない連中の投票行動なんぞはアテにならないと考えるはずだ。
 どうもビル・ゲイツとかスティーヴ・ジョブズといった当初のIT長者といわれた人々と、マスク・アルトマン等の次世代とではこのあたりの考えは違う。彼等は伝統を愛するなどという気質はサラサラなく、既存の右翼・左翼といった分類などに当てはまらない。
 こういった天才たちの末裔に至っては一般人とは共存できなくなるのだろう。
 かれらが夢中になるようなプロジェクトも、例えば火星に移住するとか遺体を保存して将来蘇生するというのにも莫大なコストがかかり、彼ら以外にその恩恵を享受できるような者はいない。
 そうなると、ただでさえ大富豪なのだから、核戦争に備えた広大なシェルターやら例えば南極に快適な住空間を造り、その中でいかなる制約も受けずに自由に暮らし始め、仮想通貨で外界からモノを調達し、ハッキング技術によりいかなる攻撃も阻止し、人工の食事をし、仮想空間で遊びながら、好き放題研究開発に明け暮れる。これは楽しみというか怖いもの見たさというか、そのような生活をしているところに見学に行きたくなるような興味が湧く。だが一緒に住めるはずもない。

 ところでアメリカ以外の国はどうであろう。彼らに匹敵するような天才がいるに違いないが、今どこで何をしているのだろうか。アジアには孫正義や盟友のテリー・ゴウやジャック・マーもいいセンをいっていた。ただ、孫正義は借入金が大きすぎるし、テリー・ゴウは政治に興味を持ちすぎ、ジャック・マーは共産党に潰されそうだ。まぁ彼らは日本人ではないが。
 ホリエモンがそうなりそうな芽はあったのだが、ちょっと乱暴すぎて叩かれた。筆者はアレはもったいないと思うのだ。今はロケットに関わっているようだが、再びチャレンジ復活するところを見たい。
 どうも日本国内に留まっていてはいくら天才でもとほうもない資産を築くような方向にはいかない。更に言えば、やたらとIQの高い人間のいる確率が同じだとしても、日本の暮らしが居心地が良くて、そこまで孤独に自由を求めるという感覚は生まれない.むしろ侘び・寂びの方に行くのではないかな。
 規格外の天才児である大谷翔平がメジャーで成功しているのを見ても、ズーッと日本にいたらあそこまでブレイクしなかった。
 天才が一生かかっても使いきれない資産を築き上げ。自由を求める気分を醸成するインセンティヴは風土と密接な関係があるに違いない。筆者自身はアンチ・グローバルであるから少しも困らないし、外国に住みたいとも思わない。大谷の活躍を見ているだけで充分である。
 無論、そうでない人がアメリカに移住するのは構わない。それこそ自由なのである。 

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みーつけた

2024 MAY 19 16:16:57 pm by 西 牟呂雄

 最近また一段とモノを失くす。特に喜寿庵にいるとコマゴマした作業をするが、かなりの頻度で愛用の道具が忽然と姿を消す。シャベル・鋏・焼却炉の灰掻き、どれもいい具合に錆の付いた味のあるモノだった。
 故トム市原氏によると、それらは異次元にワープしてそっちで役に立っているから気が向いたらこの世に帰ってくるのだそうだ。そうであればよほど向こうの方が居心地がいいらしく、もう何か月も見ない。
 そして恐ろしいことに幻聴まで聞こえてきた。夜になって電気を付けると『ミシッ』とか『コン』とかいったかすかな怪音がする。はじめは虫がLEDにぶつかっているのかと思っていたが今はまだ虫なんか飛んでない。喜寿庵にいるときは大抵一人だから確かめようもない。そしていつでも聞こえるわけじゃない。待てよ、ポルター・ガイストじゃないのか!

 ある日、夜中に喜寿庵に着いて電気をつけると例の『コンッ』が聞こえた。試しに『ただいま』と返事をしてみた。するとかすかにLEDが瞬いたような気がした。
 実はここの二階の部屋に大昔友達が泊まった時にチョット妙なことがあった。霊感の強い女性が『いらっしゃる』と呟いて朝まで放心状態で正座していた。その姿を実際には見ていないが、一緒に寝ていた女性が朝方『きもちワル~』と言って青ざめていた。試しにその部屋で何回も寝てみたが、僕には何も起こらない。しかし気になって懇意にしている真言密教のお坊さんにお祓いしてもらったことがある。
 喜寿庵は築100年は経っているが、不幸になったという人はいない(取り合えず私自身は除いて)。即ち悪霊の類ではない。すると座敷童なのではないだろうか。
 そこで、名前をつけてやることにした。まず考えたのは『コロポックルちゃん』だった。
 だが結論から言ってこの名前は気に入らないというか、全く反応がなかった。
 それからいろいろ試すのだが『〇〇ちゃん』とか『✖✖✖✖ちゃん』と試したが芳しくない。露骨に『座敷わらし様』もダメ。色々試したがアホらしくなってしばらく忘れてしまった。

 ある日、喜寿庵に憑いて思わず『ただいま』と声に出したところポルター・ガイストが起こって軽い怪音がした。オッ久しぶりに出たのか。ヨシッ。いろいろ考えて私が布教している滋養教の神様の名前を呼んでみた。『滋養様、今参りました』すると『ミシッ』と返事があった。しめた。ちゃんと敬語を使えば反応してくれたのだ。
 電気を付けながら『ご機嫌はいかがですか』『コンッ』『だいぶ暖かくなりまして』『カンッ』といったやり取りが続くではないか。
 それからは外に行くときは『滋養様、行ってまいります』とか声をかける。ただこれには何も返事はない(当たり前だが)。ネイチャー・ファームで農作業中にフト語り掛ける。『滋養様、近頃は雨が少のうございます』先日はついに生垣を手入れしながら『お熱うございます、はい』とやっていたら通りがかった人が目を丸くしていたのであわてて携帯で話しているフリをした。アブナイアブナイ。

ポテト・フィールド

 ネイチャー・ファームでは今年もジャガイモ・ナス・ピーマン・キュウリを造り始めた。昨年飢えていたニンニ君は収穫間近。油カスや肥料をやって育てている。
 するとですな、農作業の合間に思わず労働歌のように口ずさむことがクセになってきた。

ニンニ君

『滋養様~、滋養様~
 今年も年貢を納めます~
 ハァ~めでたい~、めでたい~』
 というテキトーな詩をゴスペル風に歌っているとディープ・サウスの綿花畑で汗を流しているような気がしてなかなかソウルフルである。
 あれっ、誰かいる?振り向いても誰もいない、ン?見られているのか?

あっ!

 当然誰もいるはずがない。
 あっ!
 半年ほど行方がわからなかったシャベルが顔を出していた。
 異次元から帰って来たんだな、お帰り。
 そうか、これも滋養様のお導きだろう。ありがたやありがたや。
 そこで、先程のゴスペルを口ずさみながらお礼の踊りを奉納した。
 間の悪いことにそこに電車が通りかかって、富士山観光に行く外人が大勢こちらを見ていた。

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おやっ ヒョッコリ先生だ!

2024 MAY 11 11:11:58 am by 西 牟呂雄

 朝、喜寿庵からコーヒーを飲みにコンビニまで歩いていると、先の方にヨチヨチと歩いている人を見つけた。杖をついて下を見ながら一歩づつ歩くのだが、左の方を引きずるような歩き方で、前に進むのはもっぱら右足。左は進んだ分を必死に追いついていく感じ、だから一歩づつと言ったが正確に言えば半歩づつなのだ。
 途中に真言宗のお寺があるが、そこで止まると本堂の方に向かって被っているベレー帽をとるとゆっくりと一礼した。そのハゲた頭と横顔が見えた、ヒョッコリ先生だ!しばらく見ないうちにめっきり老け込んだ印象。待てよ、僕はこの人の年齢を知らない。戦争前のことを語っていたから昭和の始めの生まれだと思うが・・・。そうすると今年は昭和99年だから九十翁を超えているのは間違いあるまい。話が弾むと面倒だが挨拶くらいは、と近づこうとしてただならぬ気配を感じた。本堂に向かって何かを話しているのだ。
 僕は先生の家族について、息子さんがいて孫がいることしか知らない。その孫は僕の親友のレイモンド君だが、息子さんの海外勤務で今は一緒にはいない。それだけだ。奥さんの話は聞いたことはないし、一人で暮らしているのではないだろうか。
 ほんの1分程でまた歩き出した。思えばこの人は面白い話をしてくれたけれど、どれもこれも本当かどうか疑わしいものばかりだった。変な発明家のような話はおそらく出まかせだろう。コロナの最中に県境を越えてはならないとなっら時、それではと県境沿いに移動して海に出ようとしていたが、それもできなかったに決まっている。訳のわからないニュー・ビジネスのウンチクを傾けていたがうまくいったという話は聞こえてこなかった。戦前の日本のパフォーマンスを論じ、マルクスを語ったこともあったので、オールド・リベラルの系譜かとも思える。
 話しかけようとして止めたのは。そのたたずまいに一生懸命振りが滲み出ているからだ。話せばどうせ奇天烈なことを言うだろうが、無理にやっている気がしてしまって遠慮せざるを得ない。僕はコーヒーは諦めて帰り道をたどった。

 ヒョッコリ先生の孫とおぼしき推定4歳のレイモンド君もおそらくその血を引いていて実にバランスの悪い子供だが、彼の場合の一生懸命は微笑ましい。多分それは、その努力が叶わぬにしても彼の未来につながっているから。ところが推定90歳超えの先生の場合には未来はない。残酷な言い方になるが、すべての ”一生懸命” は来るべきⅩデーに向かっており、それは避けられない。先生は今一生懸命に死のうとしている。
 フト思うのだが、子供のころはどうだったのか、青春時代は何を考えていたのか、壮年期に何をしていたのか、もっと真面目に聞いておけばとも思う。いや、思わないか。
 それなりに噂が耳に入るのだが、先生は東京で仕事を終えた後に請われて北富士総合大学の理事になっていたようで、地元ではチョットした有名人なのだった(最近分かった)。

 考えてみれば僕だって老人の範疇に十分入る年齢だ。スノボだろうがヨットだろうが数えるほどしかやれないし、そう考えると桜を見るのも落ち葉を掃くのも20回が限度だ。最後の方は先生のような一生懸命感を身に纏うことになるだろう。
 どうあがいてもその『一生懸命』さが自然と備わってしまうとすれば逆らっても仕方がない。それなら今から多少の準備はしなければいかん。なぜなら今まで『一生懸命』に、などということを考えた事もやったこともないのだから。そんな時に、例えばスノボで足でも折ればその姿は哀愁を帯びるどころか、みっともない、いやむしろ滑稽といった笑いの対象になってしまう。うーむ。

 レイモンド君、イギリスでどうしてるかなぁ、英語を喋ってイギリス人になってたりして。

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海と船と釣り

2024 MAY 3 23:23:42 pm by 西 牟呂雄

 サボッてばかりでは船に申し訳ない。コーキングもしなかったし。
 久しぶりに会った愛艇アール・コンシェルジはさすがに機嫌が悪そうだった。彼女(船は女性名詞だから)はプライドが高い。僕は愛想笑いは浮かべずに、そっぽを向いている彼女に近づいて行き『相変わらずキレイだなぁ』と語りかけるように独り言を言う。その後桟橋からポンッと飛び乗って『久しぶりに会うとどんなに素晴らしい船なのか改めてわかるな』とわざとつぶやくと、ユラリと船が揺らいだ。どうやら機嫌は直ったようだ。

 朝方多少グズついたが曇り空で時々日が差す。多少寒いがセーリングはできる。と思ったらいきなりトラブった。我が艇は水のタンクが舳先にあって50Lくらいの水を積むのだが、あまりに久しぶりなのでその水を抜いた。すると電動ポンプがエアを噛んでしまって水が出ないではないか!これでは長い航海はできない(しないけど)。それで配管を開けて試してみたのだが、パイプにクラックが入っていた。パイプは塩ビの特注で手配はできない。あれこれ考えて水道配管の部品で付け替えることにして、カインズホームまで車を飛ばして買ってきた。取り付けてみると・・・出ない。ポンプが空気を吸ってしまって圧がかからないのだ。口を付けて吸ってみたがダメ。どうやらパッキングが甘くて継ぎ目からまだ空気が入っているらしい。再びカインズホームでサイズの合いそうなゴム・パッキングを探す。

 やっとこさ水は出るようになった時点で夕方。
 ところがなにやらおいしそうな。
 仲間の船がバーベキューを始めていたのだ。
 僕達も酒・肉・野菜を持ち込んで仲間に入れてもらう。
 やっぱりこう来なくっちゃね。

 ここで衝撃的なニュースが飛び込んできた。
 別の船のオーナーさんが亡くなったと言うのだ。
 全員箸が止まってしまった。原因は事故だ、脳溢血だ、脳梗塞だ、と憶測が飛び交う。
 自転車が好きな人でスポーツ・サイクルで世田谷から油壷まできたこともあった。
 何より、明日の三浦~横浜のレースにもエントリーしていた。
 その船のクルー達は参加するかどうか悩んでいたが、故人の意思を汲んで決行するとしたらしい。
 追悼レースとなれば、我が艇もスタートくらいは見送らなければ、と早く寝た。

 翌朝。スタート地点は湾を出たところにあるブイだ。
 近づくとセールを卸している本部艇の周りにエントリー艇がポジション取りで旋回中である。
 ところがご覧の通り全く風のない凪。各艇スピンやゼネカーを上げて必死に風を拾おうと苦戦していた。
 長音が鳴ってスタート。それぞれの作戦に従って僅かな風に向ったり、なじんだりしていく。

 その中で故人が乗るはずだった船を見つけ、激励の声をかけた。
 すると、バウのところに故人愛用の合羽がまるで旗のように翻っている。
 彼らの友情や船乗り魂が伝わって来た。
 がんばれよ、の気持ちと共にご冥福を祈った。

 早朝のスタートを見送って、港に帰った。
 遅い朝メシを食べて一服してもまだ11時。あの風では横浜まで6時間では無理だ。僕達も今更出港しても遊べない。
 すると知り合いが声をかけてくれた。
 『釣りに行くけど来ない?』

 この人はハーバーのレースで何度も優勝している高速艇のオーナーで、釣り船の2軸船も所有している。
 僕は釣りはやらないが、この船には乗ってみたかったので連れてってもらうことにした。スクリューが二つあって右は右回転・左は左回転で推進する。ギアの操作だけでも細かい調整ができる船で、ヨットとはフロントの景色がまるで違う。
 風で苦労することなくドンドン進んでエンジンを止めた。
 水深40mくらいの所で波に揺られながら釣りが始まった。アンカーも打たずに漂っていると横波にはかなり揺れる。甲板で上半身裸になって寝ころんだ。

この画は借り物

 するといきなり『あっきたきた』と声が掛かってタモですくうと赤い魚が釣れた。高級魚、ハタだ。
 揚げた時にキラキラしていたがスマホが間に合わず画像は借りモノ。
 この人はもう一尾釣りあげたあと、やってごらんよ、と竿を貸してくれた。ヨーシ、オレも。
 疑似餌は赤いタコを付けてくれたが、他にも黄色・緑色の奇麗に光る物がたくさんあって、フーム魚にも好みがあるのかと奥深い。
 そしてサーッとリールを落としていくと着底したのがわかるのだ。
 それから疑似餌が生きているフリをするためにクイッ、クイッと引いては流す。
 すると、ピンと張った釣り糸の先の疑似餌の感触が、アッこれは何かをこすっているな、とかフワッと浮いたな、とか伝わるのである。

ちゃんと目もある

 糸は潮に流され船は風に流され、角度約45度の方向、即ち水深の√2倍の50~60m先の見えない海底を疑似餌は漂っていて、僕は手探りのようにその感触を味わった。
 一度だけググッといった感じで手ごたえがあったようだが、上げてみたら藻がついていた。
 場所も変えてみたが、その後は当たりもない。
 レースは横浜に行けただろうか。
 亡きO氏の魂も風に乗れたかな。
 クイッ、クイッ、クイッ・・・・

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