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近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅳ

2015 NOV 17 20:20:19 pm by 西 牟呂雄

 『ラー』本部で待つ出井の所に椎野と大和刑事がやってきた。
「オッ出井か。ご案内の通り一発逮捕にこぎつけた。」
「車に乗せられた時はあまり言い気持ちはしなかったんですけどね。」
「そうそう。店を出たら大和は車に乗せられて出ちゃってサ。イヤ焦ったの何の。ちょうど空車がいたんで追いかけられた。」
「私は椎野さんや防衛がいるものとばかり思ってましたから何とか逮捕できると思ってたんですよ。そうしたらホシの車が都合がいいことに追突したんです。」
口々に今回の作戦がうまくいったことを喋る二人。
 逮捕に至る経緯はこうだった。大和刑事は指示されるままにルノアールを出ると大型の車に呼び止められてそれに乗った。多少気味が悪かったが懐に入ると覚悟を決め乗り込むと、早速簡易検知器のようなものを使いマイ・ナンバー・カードが本物かどうかチェックすると直ぐに車を出した。
 椎野はその時になって店から出ると大和を乗せた車が出る所だった。偶然、客待ちのタクシーがすぐにいたので飛び乗って後を追った。大和を載せた車は幹線道路に出て少し走ると、金の受け渡しに車をとめようと左に寄せる。その時前の車(ワンボックス・カー)が妙な動きをしてスピン、追突した。大和を乗せた男は多少ガラも頭も悪そうな青年だったが『このやろう!』と叫んで前の車に詰め寄った。すると『申し訳ありません』などと言いながらガタイのいい屈強そうな男達が4人くらい降りてきてグルリと囲んでしまったのでトラブルに至らず、誰が通報したのかパトカーが直ぐにやってきた。無論椎野もヤジウマに混じってコトの推移を見守る。警察の事故処理が終わり、その若い男に大和と椎野が『警察だ。不正私文書売買で逮捕する!』と手錠をかけたのだった。

 出井は複雑な心境だった。公調と握ったことは言うわけにはいかない。飛乗ったタクシーも事故も仕組まれたものであることはその後知らされていた。
 確かに犯罪は減っている。一般市民はこの張り巡らされた管理ネットの元、大して気にも留めずに生活を営んでいる。ある面お上を気にせずに暮らすこと、古の尭(ぎょう)舜(しゅん)の治世の如しである。しかし一方で、組織拡大のために犯罪そのものを生み出してまで管理しようとする一団がおり、自分はそれに加担しようとしているのだ。
「どうした、出井。」
「うん。」
「乗るだろ。新宿ホームレスだけでこの成果だ。次は池袋でまたやれば必ず引っかかるぞ。」
「まァ暫くは多少の実績にはなるな。だがそうするとこの大げさなハイテク防諜施設そのものと『ラー』の存在意義はなくなるが・・・。」
「何言ってんだ、成果があがりゃ文句はあるまい。」
 暗号電報によってマイナンバーの売人が新宿から池袋にフィールドを移した事も公調から伝えられていた。しかし、このタイミングで池袋を出すとは。もしかしたら自分より先に椎野が公調にツウ(内通)しているのではないかと疑心暗鬼にも駆られ、出井は一瞬気が遠くなった。

おしまい

 管理され切った社会は組織防衛と権益の増殖を招き、出世のためには犯罪までを管理する人々があふれかえる。誰が誰と繋がっているのか分からない。そして犯罪は減り続ける、生温い市民の集合体になってしまった。普通の定義は難しいが、多くの”市民”は幸せそうに暮らし続けているのだ。このままでは済まないのではなかろうか・・・・。

近未来 無犯罪都市 TOKYO

近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅱ

近未来 無犯罪都市 TOKYO Ⅲ


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