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春夏秋冬不思議譚 (どうしても思い出せない)

2013 DEC 5 9:09:56 am by 西 牟呂雄

 この40年以上(計算しないで欲しい)直近を除いてほぼ毎日酒を飲み、毎朝二日酔いになる。直近を除くのは、ついに色々な数値が管理限界を越えてしまい、命の危険を感じたからだ。何を大げさなと言うなかれ。還暦近くなると医者の脅かし方も尋常でなくなるのだ。4年程前に医者がキレて「どうしても酒が止められないのならもうウチでみることはできません。勝手に死なれて医療の問題とか言われても責任持てませんから。」と宣言された。勿論上辺では「お願いですから薬を処方して下さい。」とペコペコした。大体そうでなくても命がけなんだから、こっちは。独身時代に六本木の路地裏で電柱に頭突きをしていたところも目撃されているし、荻窪駅の路上で転がっているのを家族が助けに来たこともある。カンが働いたのか、駅前の交番に恐る恐る「あのー、この界隈で・・・・。」と家族が聞きに行き、その最中に偶然警察無線が入り「現在北口に行き倒れがいる模様。」となったのだそうだ。結果はご想像の通りでお巡りさんとカミさんに連行された。見知らぬ駅で目覚めたことは数知れず、悪運強く生き延びたと思う。タクシーで「吉祥寺!」とだけ叫んで寝込み、吉祥寺らしいところで下ろされて(その前散々手こずらせた運転手さん、ごめんなさい)、全く分らなくなりこっそりと息子に携帯して車で迎えにこさせたこともあった。この時はガードレールに眉間を打ち付けて血まみれになり這っているところを確保されて病院送りされた。後日息子が言うには、「あー面白かった。『一度死んだことにしてカアさんには黙っててくれ。』とか言い出すし、医者に連れてったら先生に『裏口じゃないでしょうね。』とか聞くし。」だそうである。あの、酔っ払って足がもつれる時の感覚というのは、突然グルリと世の中が回転し地面がダーッと突進してくるという誠に恐ろしいものだ。しかし、ここまで書いてきたことはかすかに記憶があるだけまだマシと言える。全く覚えていない時間が存在する。「存在と時間」等と言えば哲学のように聞こえるがそれどころではない。

 見たことも無い飲み屋で知らない人達がこっちを見ている。僕は何かを喋っているのだが、どうも江戸時代のことを講義していて、時々聞いている人達が一斉に笑うのだ。僕はこのことを悪い夢だと思っていた。それがですな、多額の請求書がある日送られて来て全く覚えが無い。放っておいたら怪しげなメールが来る。ということは名詞をバラまいたに違いない。仕方なく払ったのだが、一体どこなのか全然覚えていない。覚えていないから再訪して言い訳することもできない。

 以前東南アジアをウロついていた頃、ある朝シンガポールのホテルの廊下に寝転がっていて目が覚めて、一瞬どこにいるのか分らなくて途方に暮れた。前日はマニラにいて・・・・、そうかフライト中に飲み過ぎたのだ。手に部屋の鍵があったのでチェックインしたことは確かなのだが運良く部屋があったもんだ。どうやって(どうせタクシーに乗ったのだろうが)たどり着いたのか全く記憶にない。それでも治安のいいシンガポールで良かった。これがマニラだったら危なかった。東京で言えば大手町のようなマカティでもホールド・アップが起こる所だ。

 又、ある時は社内の飲み会で他部門の連中とガバガバ飲んで二軒目に行き、更にでまたしこたま泡盛をやり、機嫌良く電車に乗った。次に目覚めたのは何と山梨県の某駅、あまりの寒さに目が覚めた。どうやって行ったのか。改札に行けばそこは無人駅なので誰もいない。タクシーなんぞ影も形もない。あまりに寒いので駅員室に入ろうとしたらガッチリ鍵がかかっていてどうにもならない。震えながらジーッと電車を待って、来た電車に飛び乗った。暫くして気が付くとその電車は反対方向に進行しているではないか。翌日何とか出勤すれば、前の晩一緒に飲んだ奴等は顔に大怪我をしていたり手首に傷を負っていたり千葉で目覚めたりしていた。全員記憶を失っていた。会社に申し訳ない。

 またあるときは・・・もうやめた。しかし二日酔いも年と共にひどくなる一方で、翌日一回もメシが喉を通らないこともある。不思議なことに酔い方はひどくなったような気もするが(正確に言えば昔から酒癖は悪かった)、飲む量は一向に減らない。それどころか最近は焼酎もウイスキィもオン・ザ・ロックで、益々強いものを好むようになってきている。時間さえかければボトル一本も軽い。実は若い頃に急性膵臓炎をやって、20代の臨床例が少なかったらしく、毎日偉い先生が回診に来て医者の卵達に解説していた。聞いていると「こんなに胃が持つものなんでしょうか。」とか「肝臓は人一倍丈夫ですか。」といった会話が飛び交っていた。そのころは丈夫でも今となっては冒頭書いた通りの体たらく。そろそろビール一杯くらいで十分酔えないものか。

 しかし何となくフラフラ寄って行きたい店というのは誰でもあるだろう。僕のフランチャイズはギロッポン六本木のピアノ・バーに昔から通っている。静かで一人で行ってもカウンターでジャズ・ボーカルを聞いたりして過ごすことができるのがいい。が、しかしである。以前のブログで書いた、李鴻章の曾孫やら怪しい外人が出入りしていてこれがかなり危ない。経営者はミッキーという奴で六本木の寄生虫みたいな存在。これの兄貴分にマイクというのがいて、これも近くで店をやっているが二人で最強のナンパ・ブラザーズを気取っていた(但し四半世紀前)。こういう輩は情報通で、エビゾーさんの事件の話とか、『今どこそこの界隈はヤバイらしいですよ。』といった話を教えてくれてありがたい。マイクは少し年上で、元横浜界隈のチンピラだったらしい。今では貫禄十分のワルオヤジだが、話を聞いていると結構な修羅場をくぐっている。なにやら地元の暴力団に米軍放出品のインチキな武器を(無論使い物にならない)捌いて大変なことになり、長いことハワイに逃げていたそうだ。知り合った頃はもうそんなヤクザなことはしていなかったが、バブル真っ最中のバブルまみれの店でVIP席に屯して、全く金を払わなかったのを目撃した(一緒に居た)。こういう人はしぶといくもクタバラずに健在なのがあの街のしゃれたところなのだろうか。

 でもってそろそろ酒も覚めてきたから今日も一杯行きますかね。

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Categories:春夏秋冬不思議譚

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