スポーツを科学の目で見る (プロレスその1)
2014 JAN 22 14:14:58 pm by 西 牟呂雄
前のブログで”開発の蹉跌”と称して材料開発の難しさをおちょくったが、あれは当時研究開発者達の前で本当に口に出した台詞が入っている。さぞ不愉快だったろうが真面目な人達に申し訳無いことをした。更に失礼ついでに、色々と実験することとプロレスの観戦は同じだ、という仮説をさんざん喋っていた。何を脈絡も無くとお思いだろうがこういう訳だ。
実際僕は研究者と言ってもいいほどプロレスには造詣が深い。村松友視の『私プロレスの味方です』という本が売れたが、あの本は当時のアントニオ猪木が唱えたストロング・スタイルの解説本で、無論読んだが正直言って、今更何言ってんの、ってな感想だった。比較されたジャイアント馬場のスタイルをショーマン・プロレルと貶めアントニオ猪木スタイルを過激なプロレスと論評した。これを聴いた馬場のコメントが残っている。「過激なプロレスって何だ。やってることは同じだろ。」・・・・さすが。もう一つ、猪木が進めた異種格闘技戦のハイライト、アリ戦に関しても「僕はアリなんか強いとは思わない。」と語ったとされている。ただ、ツウの間では猪木ーアリ戦はよくやったという評価はある。あれだけ直前にルールに文句をつけられて、何もできなくなった猪木がとっさに寝転んでアリの膝のみを狙わざるを得なかったのに、一応(一般的にはダレたが)15ラウンド戦ったのだ。
話がなかなか進まないが、僕レベルのツウになると大きな試合を見る際はその流れを事前に予測する。どこでどういう技を出すか、キメ技をいつ出すか、結果はどうなるのか。実際にはプロモーター(日本であれば所属会社)の意向が働きシナリオは出来ているのだが、そのシナリオを読みに行く訳だ。そしてそれがどの程度当たっているか、又は選手によってはどこまで忠実に耐えられるのかを見極めるのが醍醐味である。即ち『仮説を持って観戦し、結果を持って議論する。』と言った具合である。翻って実証実験をするに当たっては『仮説を持って実験し、結果を持って議論する。』のが王道であろう。何が何でも混ぜてしまえでは、何が開発要素なのかが分らなくなり、偶然の産物しか結果は出なくなる。これが本論の意味するところだ。
例えて言えば、新規プロセスの開発において製造機械のスケールアップを目指す場合には、開発側としてはいくつかの新規要素を盛り込んだ設備にしてコストを下げたいだろうが、良好な結果が出ても、どの要素技術が効き目があったのか、一概には言えなくなることがしばしばある。できればいくつもの設備を段階的に投入したいところなのだが、予算がかかり過ぎる、と誰でも悩む。こここそ『仮説を持って』であり、初めはその通りの結果など出ることは稀であるから徹底的に議論をするのである。
ところで、これほど研究している僕にして、プロレスの試合結果が全く思い描いたものとならないことも、たまにある。いくら専門家の間で議論しても『あれはないだろう。』となる展開に驚くような試合のことだ。古い話だが『ジャイアント馬場、ジャンボ鶴田VS大木金太郎、キム・ドク』のPWFタッグ選手権がそうだった。馬場と大木はこのシリーズ初めから意地の張り合いが続き、キム・ドクは鶴田を挑発し続けた。セメント・マッチ(本気のケンカ試合)ならば大木の方が強くはないか、と研究者の間で囁かれていたのだが、この試合で見る限り拮抗していたと考えられている(後にシングルマッチで馬場に軍配は上がるのだが)。タイトル・マッチの結果は、滅多にないことであるがあのジャンボ鶴田が頭に血が上り、キム・ドクにパウンド(馬乗りになること)しての左右パンチのラッシュが止まらず反則負けとなった。鶴田という選手はプロモーターからは実に頼もしいレスラーで、自由自在に試合を組み立てられる逸材なのだが、この時の鬼気迫る止まらない連打は、長年プロレスを見てきた僕が怖かったくらいだった。一方のキム・ドクはアーノルド・シュワルツネッガーのレッド・ブルで、冒頭サウナでのケンカに登場した東洋人と言えばおわかりの人もいるだろう。アメリカで売れたヒールなのだがこれも実力は一流だ。恐らく鶴田がヒート・アップしている内に歯止めがかからなくなったものと言われている。同じような展開に、タイガー・ジェット・シンが猪木からタイトルを奪ってしまったNWF選手権が上げられる。やったこともないアルゼンチン・バック・ブリーカーが偶然決まってしまい、シンも引っ込みがつかなくなって、猪木がギブ・アップしてしまった。もっと昔にはデヴュー試合でルー・テーズ(とっくに全盛時代は過ぎている)相手にいいところを見せるはずだったのに、試合途中にくらったバック・ドロップで失神したグレート・草津。
この草津という人はナイス・ガイで引退後は日本バスコンというコンドームの会社で営業部長をやっていた。元々はラグビーの名選手で所属は当時のY製鉄だった。高炉の炉前において、超人的なスタミナとその怪力で数々の伝説を残している。酒なんか超人を越えた魔人と言われたそうだ。ついでに言えばグレート東郷の最後の教え子で、同期は星野勘太郎。
この話、少し長くなりすぎるので次回に譲る。
ソナー・メンバーズ・クラブのHPは http://sonarmc.com/wordpress/
をクリックして下さい。
Categories:スポーツを科学の目で見る, プロレス
中村 順一
1/27/2014 | Permalink
プロレスは申し訳ないが、詳しくない。スポーツ(すなわち真剣勝負)なのか、ショーなのか、どうも理解できないのである。通の方はその微妙なタッチがいいのだ、と仰るのだが。ところで最近は女子プロレスというのはどうなっているのか?中学校時代だったか、西室兄が「世界で最も意味のない職業は何か?」とだべっていた仲間の前で質問し、僕が「それはテレビでの女子プロレスの解説者だ」と答え、仲間から激賛された記憶があるのだが。覚えておられるか?
西室 建
1/27/2014 | Permalink
最も不愉快な思い出の一つとして、中村兄の『せせら笑っている』表情とともに昨日のことのように思い出す。あの頃我が輩は職業に貴賎無し、のアオい考えに染まっており昨今のオレオレ詐欺のようなものを想定して、最も意味の無い職業について論じていた。女子プロレスは無論健在だが、一時の勢いはない。かつてのスーパー・スター(女子ではディーヴァと言う)が居ないためだが。後楽園ホールのイベントでも盛り上がりに欠けている。
ところで本来の提題に戻って、報道が喧しいがソチ・オリンピックにつき、あまり注目されないバイアスロンとかの解説でもやってみてはどうか。
日本のメダルは浅田真央と高橋沙羅くらいかと思っているが。