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贋作は楽し Ⅲ

2015 MAR 11 10:10:44 am by 西 牟呂雄

 最近知ったのだが試験管レヴェルで培養した人工肉ができており、現時点ではハンバーガー1個造るのに数千万円のコストだそうだ。それどころか3Dプリンターでタンパク質と何かの繊維や脂肪を積み重ねていくとそれなりの食感の様々な食物も可能らしい。
 アリだろうとは思ったが、直観的に頭に浮かんだのは別のことだ。50年ぐらい経って安くできるようになると、現在たくさんいる牛も豚も必要がなくなる。すると家畜として飼育されている大多数は一気に絶滅させられるかもしれない、という心配だ。おまけに人類の農作物の70%は家畜飼料用だからそれも必要なくなる。いやそれも人工飼料で済むだろう。
 その頃は希少動物になって動物園に飼われて、本物の牛肉や豚肉は貴重な『風味』や『歯ざわり』が売りの高価なレアものになってしまうのだろうか。焼き鳥はどうなる、羊はどうなる。家畜として何代も飼われているともう野生化は無理なのではないか。
 いや『風味』『歯ざわり』すら、あるアルゴリズムで再現され、人類もそれを何代も食べ続ければ本物の肉・野菜・穀物を知らないで生きていくことになってしまう。既に野生の牛肉・豚肉の味は我々も知らないのだ。うーむ、贋作が楽しいどころではないな。

 20年ほど前に住んでいた所の近くの大きな八幡様があって、ニワトリがつがいで放し飼いになっていた。夜なんかにノラ猫から襲われたりしないのか不思議に思っていたが、ある夕方に子供と歩いていた時にそのニワトリがバタバタと羽ばたいた。八幡様には大きなツツジが参道に植えられていて五月頃には大変鮮やかな色を付ける。その綺麗に刈り込まれたツツジの茂みにバタバタしながら2m位の高さまで飛び乗ったのでびっくりした。無論ニワトリらしく不器用そうにではあるが。『コッコガ、ネンネニイッタノ?』息子がふいに聞いたので分かった。このニワトリは夜間の安全のために高いところで寝ているに違いない。この都会のど真ん中で大した順応性で、その次に見た時はもっと高い木にとまっていた。しかし良く考えればその樹上で営巣できるはずもなく、その個体だけが飛んだのかもしれない。つまりニセモノのニワトリだな。

 

故 内田百閒翁

故 内田百閒

作家故内田百聞は猫が好きな人で、庭に迷い込んで来た猫にノラと名付けかわいがった。そのノラがいなくなってしまい顛末を書いた随筆が名作『ノラや』だ。この百聞先生の随筆の実在の舞台は僕の小学校の裏だった。近所の小学校の校門でノラの捜索願いを配る描写がある。ただし子供というのはやれボールが飛び込んだと言って勝手に庭に入り、百聞先生の方も登下校の声がうるさいとクレームをつけたり、学校とは緊張関係にあったらしい。先生は庭に勝手に来る子供を『コラッ!』と怒鳴りつける、ガキの方もまんまと忍び込んでは帰り際に『バカヒャッケーン!』と大声を発して逃げた、という伝説が地元に残っている。
 それはどうでもいいのだが、弟子筋にあたる高橋義孝というドイツ文学者(教授)が酔っ払って『あんなノラ今頃三味線の皮になってらぁ。』とやって絶交された。しかしながらその内なんとかなってやはり猫を飼った。ところが放ったらかしにしているとガンガン子猫を生んでしまうので、高橋教授たまらず避妊手術をせざるを得なかったのだそうだ。ある日百聞く先生から電話があって、子猫はどうしているのかの御下問に事の顛末を伝えると激怒されてしまう。
「そんなもの猫じゃありません!」
猫のニセモノと言うのだが、そんなこと言われても困るよ。

 本物を見抜く『目』を開くのは難しい。

贋作は楽し

贋作は楽し Ⅱ


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Categories:考えないヒント

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