贋作は楽し Ⅱ
2015 FEB 14 22:22:23 pm by 西 牟呂雄
ニセモノの話で思い出したことがある。随分前のことだが、薄いブルーの盤面のローレックスを腕に巻いていたことがあった。あるヤクザなダチ公(本物じゃなくただの不良)が『ケンチャンこれやるよ。』とくれたのだった。初めから贋物なのは分かっていて、どうやら京都の時計屋がたくさん作ったのだがすぐに足が付いて倒産したとのこと、東京に10個程流れた代物らしかった。
しかし見た目がきれいなのと、別に見せびらかす趣味はないので長いこと愛用していたらある日壊れて止まってしまった。当時まだ独身で身の廻りのことなんか何もやらなかった(親元から通勤していた)から、母親に『これ直してくれない、又使うから。』と言ってほったらかし一週間ぐらい忘れた。
ある日酔っ払ってか帰宅したら、鬼のような形相で怒っていた。
「何て物をしてるの!この恥知らず!」
ことの経緯はこうだ。母親も世間知らずに毛が生えたようなものだから、どうしていいか良く分からないままに某デパートのローレックス売り場に持ち込んだ。売り場の人は一目で見抜き『奥様(誰にでも言うが)これは大変なニセモノです。ご主人が騙されてます。一体どこでお求めになられたのですか。』と言われ、コトの経緯を知らされていなかったので絶句した。『息子が誰かから貰った様で。』とか何とか誤魔化そうとしたらしいが、相手はローレックスの出店だ。ブランド・イメージを守るために破棄することを強く勧められたそうだ。こういうときに僕の母親は一辺に思考回路が回る人で『恥をかかされた⇒バカにされた⇒犯罪の片棒を担がされた⇒息子が犯罪に手を貸している』まで飛躍するに至っていきなり激怒したのだ。はるか後年にオレオレ詐欺の電話が掛かってきて、勿論引っかかりはしなかったが、一瞬僕の差し金じゃないかと深読みしたこともあったくらいだ。結局この時計は深夜サウナかどこかで失くしてしまった。
しかし一時期の中国における贋ブランド時計は凄かった。大都市のさるところは堂々とニセモノであることをはっきりさせてバカバカ売っていた。そして買うほうも買う方で、分かった上で更に値引き交渉をしていた。中国人の友人が自慢していたがザッとこうだ。
『ほらお客さんあなたがしている本物と区別つかないでしょ。値段十分の一だよ。』
『何言ってんだ。これはこの前上海でその半値で買ったニセモンだよ。よし、その値段で3個買うから。』
『メイヨゥ!そんなことしてアンタ儲けるつもりだろ。』
で結局そいつはその値段で3個買い、全部日本人に売った。どっちもどっちなのだ、無論消費税なんか誰も払わない。ニセモノだとはっきり謳ってそれが分かっている人が買っている限り、いくら中国でも何かの法には触れるのだろうが当人同士に犯罪意識は全くない。今でも盛大にやっているのだろうか。アノ頃はシンガポールでも香港でも沢山売っていたものだった。
一方、浅草なんかで売っている日の丸に神風などと書いた鉢巻なんかもニセと言えばニセですな。良く観光に来た外人が買って行くのだが、今でもあれを日本では売っていて日本人はみんなあの鉢巻で気合を入れている、などと土産話をされてもねぇ。そういう心配なら他にも色々ハリウッド映画に散見される。ワイルド・スピード3とかベスト・キッドに出てくるステレオタイプの日本は実物とはかけ離れているし、キル・ビルに至っては今時いくらヤクザでもあんなに大ぴらに日本刀を持って歩いている訳がない。
又、僕は途上国の辺境に行くことがあるが、なるべく礼儀正しく振舞うようにしてナショナル・イメージを損なわないように勤めている。しかしそれってニセモノの僕なんだよなぁ。
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Categories:考えないヒント
中村 順一
2/15/2015 | Permalink
80年代、90年代初頭に香港に行くとほんものそっくりのヨーロッパブランドの時計が売っていて(秘密行商人がいた)、ロンドンに持って帰って、家族や英国人に見せてびっくりされていたものだ。すぐ壊れたが、ホンモノそっくりだった。中国のニセモノ作りは歴史もあるし、国家としてのサポートすら感じる。いやになってしまう。最も高価ブランドは自己満足の世界なので、ニセモノでは決して満たされないが。西室兄の母上のお怒りが目に浮かびます。
東 賢太郎
2/17/2015 | Permalink
香港にいた頃だから15,6年前だが、バイクはSanda、時計はReloxがあって笑えた。違法だが「安かろう、悪かろう」商法は昔からどこにもある。それが今や「安かろう、それほど悪くなかろう」商法で100円ショップになった。
西室 建
2/17/2015 | Permalink
大陸で Hongda のバイクもあったな。
一説によればクレームつけてもラチがあかないから合弁を作ったとか。