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サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅲ)

2015 MAY 21 6:06:41 am by 西 牟呂雄

「よう、久しぶり。」
「うん、だけどびっくりしたなー。お前が中国に行ったりしてるのは知ってたけど。あいつがマニラでバンド屋になってるとはねー。いくらなんでも弾け過ぎだろ。」
「それがなぁ。B・Bも一応サラリーマンは続けてるんだそうだ。」
「しかし、歌ってたんだろ。」
「いや、メンバーじゃないんだ。オレがよく行く店にあいつも行ってたんだって。そこのバンドと仲良くなったみたいで時々遊んでたみたいだな。で、あいつが来るとバンドの方もサービスでレパートリを演奏すんだって。それってアレだぞ、ワイルド・チェリーの歌だぜ。」
「へぇ、フィリピン・バンドもよくそんなの知ってたな。サラリーマンってスーツ着てたの?」
「まさか。マルコス大統領みたいなシャツ着てた。まあ、一応正装なんだがな、現地では。あの手のバカはどこにでもいるってこった。ホラあいつの名詞。」
「おお、だけど何だこれ。住所も電話番号もないじゃないか。これ電子メールのアドレスだろ。」
「あいつの説明も良く分かんないんだよ。事務所はシンガポールなんだって。フィリピンにはどうも工場があるらしいんだ。でお客さんが台湾・マレーシア・シンガポールあたりで、そのあたりをウロウロしてるらしいよ。一か所に長くいることはないらしいから電話はあんまり意味がないんだって。」
「それで住んでるところはどこなんだ。」
「ホテルを転々としてるらしい。えらい安宿に泊まってた。」
「この会社知ってるけどそんなところで事業してるなんて聞いたことないな。なんで潜り込んだんだろう。」
「どうも今度こそ真面目にやろうとしたみたいだな。どうせバレるのは時間の問題だよ。」
「日本には帰ってこないのか。」
「だからきっと会社も持て余して鉄砲玉の島流しにしてるんだろ。出張で帰ってはいるそうだが。だけどなぁ、ベロベロに酔っぱらって『帰りたいよ。』なんて涙ぐんでたぜ。」
「あいつが?」
「そうなんだよ、びっくりした。変な話し方になってて日本語のうまいフィリピン人みたいだったな。」
「だけど帰ってくると何かいいことがあるのかよ。どうせ独身だろ。」
「それも焦りのウチさ。おれもお前も結婚してるって教えたらドッと酒が廻って話し言葉がひどくなって何言ってるか分かんなかった。シンガポールのいんちき訛をシングリッシュってんだが、それとアメちゃんの兵隊が使うガター・イングリッシュが日本語に混じりこんでるんだ。」
「僕はロンドンにいたときは一度もホームシックにならなかったがな。」
「オレも3年間は全然帰りたくなかった。」
「それが最も順応性があると思われるB・Bが泣いて帰りたいだって。椎野は何で日本に帰ってきたの。」
「家族のこともあるしね。だけどもうオレみたいのがやれる場所じゃないんだとも思った。」
「どういうこと。」
「バブル弾けてヤレ低賃金だ土地が安いだで中国詣でが盛んになっただろ。初めは上の方とパイプがある奴等が行くわけだ。外資の投資が欲しいから至れり尽くせりで大企業が工場造ったりさ。するとそれにつられて中小や怪しげなのがついてくる。そのドサクサにオレなんかが刺さりこめる所ができるんだよな。だれそれ知ってるとか金渡すとか。で、いいかげん時間が経っていい具合になるともうお呼びが掛からなくなる。もっともその後大体うまくいかなくなるけどね。」
「騙されるのか。」
「面従腹背だと思ってちょうどいいんじゃない。昔、倭寇っていたろ。あれ半分以上中国人なんだってさ。実態は武装商人でうまくいかなくなると暴れたんだな。それで街を占領したこともあったんだけど、漢人の方は倭寇がいる間はヘコヘコしてたんだって。『倭人はしばらくすると国が恋しくなって勝手に帰って行く。』と伝わってたらしいよ。」
「B・Bもそろそろってことか。だけどちゃらんぽらんの天才だったからな。あんな真似は僕達だってできなかった。」
「それにしても、『帰りたい』とは意外だよな。あんなゴキブリみたいなヤツがねぇ。どうせ飽きたんだろうけど。あいつ飽きっぽかったよ、そういえば。」
「そうだよ。詩人になったりシンガー・ソング・ライターになったりしてたよ。」
「哲学者だって言い出した時もあった。確かその後ロックンローラだろ。あと時々発狂してた。」
「それでもクビになってないんだから会社の役には立ってるのかね。とにかくいっぺん3人で会おうぜ。オレも電子メールのアドレス作ったからパソコンで連絡してみる。」
「会社に勤めたことないからあいつが役に立つかどうか知らんけど、僕だってそんなに世の中の役には立ってないと思うけど・・。」
「ウッ・・それはだな、オレは・・・社会の迷惑かもしれない。」
「もう30代になって久しいからな。」
「・・・・そうだったな。」

つづく (最終回へ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅰ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編Ⅱ)

サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる(1998流浪望郷編 最終回)

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Categories:サンフランシスコ・ベイ・ブルースが聞こえる オリジナル

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