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「あの日」 異変が生じた Ⅰ

2016 JAN 30 23:23:14 pm by 西 牟呂雄

 実は正月早々に体に異変が生じた。蕁麻疹ができたかのようにあちこちが痒い。そしてバリバリ掻くと少し赤くなって蚊に刺されたような後が残り、30分位で跡形も無くなる。
 それはある薬を飲むようになってからだ。その薬の名前は教えられないが、ある団体から被験者の依頼があってそれを飲む事にしたのだ。長年ブログを書いていると色々面白いメールを貰うことがあり、その中にわりと熱心に医療の研究を手伝って欲しい旨の内容があった。先方は私を良く知っていたそうだ。
 差し障りがあるので詳述は省くが薬を飲んで毎週身体検査を受けることになった。トータルで人間を活性化するような触れ込みで、体力の衰えを実感していたから一石二鳥のつもりで受けた。昨年末から飲みだした。
 すると年が明けて痒くなったのだ。腫れは直ぐに治るのだが引っ掻いているので皮膚がポロポロ落ちる。お風呂に朝晩二回入ることにしたがキリがない。何だか脱皮するようだ。
 身体検査を受けるために団体事務所に行くのだが、不思議な所で殆ど人に会わない。検査も全部自動化されている。受け付けも無人でディスプレイにタッチして指紋認証をすると『お部屋にどうぞ』と女性の声がして診察室に入る。そこで衣服を脱いで検査カプセルに入る。中は青く暖かい液体が満たしてあり狭い空間に入るとフンワリと浮く。自分でジタバタしないように両腕を肘掛のようなところにもたれかけて横になる。ハッチが閉じられ外観から遮断されると自然に眠っているように漂った感じがして、柔らかい音楽が聞こえてくる。そしてこのフロート・システム浸かっていると、勝手に身長、体重、血圧、採血、胸部レントゲン、どうやっているのか知らないが胃・大腸ポリープの内視鏡、心電図とやってくれているらしい。
 終わった後に診察室のパソコンに向かって問診めいたことをやる。そこでいつもは『お変わりありませんか?』等と女性の声の質問に『あまり良く眠れません』とか『酒に弱くなってます』等と答えていたのだが、今回は必死に訴えた。
「何だか蕁麻疹みたいに全身が痒くてしょうがありません!」
 すると又女性の声が
「診察室を出て右側億にある3番のドクター・ルームにおいでください。ムサシ先生が往診します。」
 と言った。急いで服を着て出てみると右側の廊下の奥に厳かな感じの厳重な扉あって、ドクター・ルームとあった。ノックして入ると照明がついた。誰もいない、しょうがなくて立っていた。
 するとノックがあって白衣の先生が二人入って来た。一人は女性だ。
 入会する時に面接があって、その人とは違う。
「あっおまたせしました。ムサシです、どうぞおかけください。」
「どうも、お世話になってます。」
「えーと。早速ですが湿疹が出ていますか?」
「そりゃもう。ホラッ見てください。」
 僕は両腕を捲り上げた。内側にポツポツと蚊に刺されたような跡がある。瘡蓋になっているのもあって痛々しい。が、ムサシ先生は
「ハッハー、出てますな。オビナタ先生サンプル採りますか。」
 オビナタと呼ばれた女性は
「そうですね。やっと効果が出だしましたね。」
 とーいいつつピンセットで腕の瘡蓋をピッピと採取して何故かガラスのケースに入れる。ここで僕は少しムッとした。言い方も言い方だがオビナタ先生のいかにも機械的なやり方もだ。第一サンプルとは何だ、人間様に向かって。オビナタ先生は僕の瘡蓋を持って出て行ってしまった。
 暫し沈黙の中、ムサシ先生は僕の数値データを見ながらパソコンに何かを打ち込んでいる。
「先生。効果って何ですか。」
「はい、簡単に言うと代謝が物凄く良くなってるんです。」
「老廃物が排出されるんですか。」
「もっと言うと患部でフレッシュな新細胞が分裂を繰り返して治癒できる、ということです。」
「ハァ~。万能細胞みたいですね。」
 ムサシ先生の顔がピクッとしたような気がした途端、オビナタ先生が入って来た。
「やっぱりステップ現象が起きていますね。」
「ああ、そうですか。ようやく効き出したようですね。」
 ステップ現象って何なんだ。まぁ体にいいことが起きているような説明ではあるが。
「それじゃあ西室さん、もう少し続けて飲んで様子を見ましょう。」
 
 しばらくすると体の方は少し収まったが今度は何とも無かった頭がかゆくなり、のべつまくなしに頭を搔きむしるようになった。体のほうは次第におさまったと思っていたらいきなりだ。ガリガリやっていると髪の毛が抜ける。年だから仕方がないがいい気持ちはしない。
 
 新年会に行った。同年代の仲間が集ったのだ。「おめでとう」とか「久しぶり」と挨拶していると、一様に相手がちょっと変な顔をして僕を「西室だよな」と確認する。そりゃ相手も中には相当頭が後退した奴も多いからこっちだって念の為名前を呼んで確かめもするが。そしてやたらに「お前は元気そうだ」とあきれた顔になるのはどういう訳だ。
 後日集合写真が送られてきた。それなりに懐かしい思いで眺めていると、いいお爺が写っている中に一人子供みたいな奴が混じっている。なんだこいつはとよく見たところ、驚いたことにそれは僕ではないか。 

つづく

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「あの日」 異変が生じた Ⅱ

Categories:アルツハルマゲドン

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