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この愛は何処へ インドよ

2024 MAR 4 1:01:47 am by 西 牟呂雄

コーキとブラッキーとチョット

 

 ところでインドの工場には以前ソニーという名前の犬が飼われていて、そいつは去年死んでしまった。インドでは犬の地位は低く、どうするのかと思ていたらなんと火葬にして葬ってやったそうだ。インド人パートナーの優しい心遣いがとても好ましく感じられたものだった。
 すると今回来てみれば、新しい犬がいるではないか、それも二匹も。多少の月齢差はあるようだが、まだ二匹とも子供で、見たこともない日本人が怖いのか珍しいのか、少しづつ距離を縮めてきた。
 そこで僕達が持ち込んだマスコットで遊んでみた。が、少し臭いを嗅いで見向きもしなくなった。
 これは亀のマスコットで「インドでは像・牛・猿が神様だが日本では亀なのだ」とデタラメを言って飾ってあったもの、名前は「コーキ」という。久しぶりにみたら花のアクセサリーを付けてもらっていた。

プロレス

 黒い方が「ブラッキー」小さい方は「チョット」だ。ちなみにチョットは「小さい」の意味で、日本語の源流が南インドのタミル語であるという説の根拠になって・・・いない。
 ブラッキーは少し大きいので慣れて寄って来た時になでてやると喜んでじゃれついて来る。インド人は普通犬なんかかわいがる習慣はないから嬉しいのだろうか。しかし顔を嘗めようとするのは参った。まさか狂犬病ではないだろうがそこはインドだ。どんな雑菌・ダニ・蚤が付いているか分かったもんじゃない。
 二匹でプロレスごっこをしていた。

 通勤途中に忽然と貧しい貧しい集落が出現する。おそらく農村だろうがその営みは慎ましく時間が止まっている感が漂う。そしてその暮らしに似合わない金ピカのお堂があって、たいていガネーシャが祀ってある。裸足で歩いている人も多い。何か楽しみはあるのだろうか。そして現場の大半の従業員はこういった村から来ているのである。

メヘンディー

 ある日、オペレーターの女の子が左手に何かを装飾しているのに気が付いた。
 見せて、と頼むと恥ずかしそうにしていたが、パッと開いた時はタトゥーかと目を見張った。
 これは「メヘンディ」と言って植物の葉をペースト状にしたものを縫って肌に一種の染色を施す縁起物とか。
 普段はしていないのでなぜしたのかを聞くとフェスティバルなのだという。

僕も

 そうか、こうして楽しんでいるのか、大した娯楽もないところで精一杯のおしゃれと微笑ましい。
 となるとやってみたくなるのは僕の悪い癖で、さっそく描いてもらった。
 しばらくスタッフに見せびらかしてよろこんでいたが、当分落ちないと聞かされてギョッとした。帰国しても落ちなかったらどうしよう。出張でインドに被れたバカ、となってしまうと焦って毎日念入りに洗っている(3日経っても落ちないが)。

 とある帰り道。いつもは車なんか通らない村に入った途端騒がしい。ドラミングが聞こえる、インド風の「ドンッ、ドドン」をのんびり繰り返す間延びしたリズム。
 鼓笛隊みたいなドラム・チームがやって来る、わあっ、でっ出たァ!なんじゃこりゃ。
 身長175cmの僕が見上げるような被り物が圧倒的な迫力で向ってきたので、携帯を以て車から飛び出して追いかけた。
 周囲の人たちは突如現れた外国人を排除するでもなく、こっちを見て笑っている。片方は牛でもう一方は人間。『これはGODか』と聞くと『ガシャラグシャラガシャラ』と説明してくれるがさっぱり通じない。誰も英語を喋ってくれないのだ。

 今度は何だ!巨大なタイガー・マスクかと思ったらライオンじゃないか。
 なかなかの迫力だ。
 ところで、インドの神様で言えば象の化身であるガネーシャが定番だが、それは待てども来ない。
 「ガネーシャは来ないのか」
 と聞いてみたがこれにも返事は「グジャラガジャラグジャラ」でさっぱり。
 そこでハッと気が付いた。皆神様(多分)を見てはいるが、それよりも一人ではしゃいでいる僕にも注目していた。
 そのうちの若いインド人がやってきて聞いたのは「アメリカン?」
 この凛々しい日本男児をみてアメリカンはないだろう。
 待てよ、こいつら日本人を見たことがなく色の薄い外人は全部アメリカンだと思ってるのか?

戦士の行進

 オット最後には戦士の登場だ。
 堂々たる体躯にきらびやかな飾りつけ。
 見事な行進にしばし見とれた。
 (ここで本当はついていきたかったが、先程から注目を浴びているため後からゾロゾロ一緒に来そうで怖くてやめた)
 それにしても、何かの信仰か言い伝えに基づいてのパレードだろうが、それに対する情熱には圧倒される。
 凝った飾り付けや細部に至る美しい装飾品の数々は、決して彼等が無知な連中ではなく高い精神性と文化を育んでいることの証左と言えよう。無論カーストはあり、ムスリムも混在し(村で見かけた)貧しい。インド哲学のアヤラ識も知らないだろう。それでも「愛」とでも表現したくなるような心の有り様が根底に見えるのである。
 パレードが過ぎた後も何やら拡声器を使った声が流れて来る。
 何だろうかとその方向に歩を進めると、人だかり。

人だかり

 ここでもジロジロ見られて中まで入る根性はなかったが、ポスターと旗で見当がついた。
 これは選挙運動の一種なのだ。
 それも現与党、ヒンドゥー至上主義のモディ派である。
 そりゃまあ、選挙は尊い。民主主義は尊いが、この無垢な人々の聖なるお祭りの最中に政争に巻き込むのも無粋な・・・。。
 日本でもお祭りやら正月・盆踊りに議員先生が来て握手しているからなぁ。

 現実に引き戻されて振り返るとデカン高原の遥か彼方。一抱えもあるような夕日がドーンと落ちて行くところだった。

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Categories:インド

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