Sonar Members Club No.36

カテゴリー: 春夏秋冬不思議譚

年を取る効用

2025 MAY 17 21:21:51 pm by 西 牟呂雄

 目は霞む。アチコチ痛い。糖尿病になりかける。まあ聞いて欲しい。年を取るのはロクなことじゃない。
 連休中とある私用があって最寄りの駅から電車に乗ろうとした。ホームは空いて乗車口に並ぶでもなく二人ほどの人が立って電車を待っているが、黄色い線よりかなり後ろだったので私はその前に立った。そして電車が来たので乗ろうとすると、後ろの方から私の前に人が割り込んできてこう言うのだ。
『この人が先に並んでました』
 見れば別にガラの悪い若者でもなく、因縁をつけてきているわけではなさそうだ。私は割り込んだ意識などなく、目をやると後ろの初老のオッサンが電車に乗り込もうとしているのでコイツは無視した。すると奴は体を張って私を阻止しようとするのだ。顔が近い。
『彼の方が先です』
 こいつ、なんのつもりだ。おそらく私はキョトンとしたマヌケ面をしていただろう。すると促された初老のオッサンがその若者に言った。
『いいから早く乗れよ』
 電車の中はガラガラだ。席はやたらに空いている。オッサンはドアの所に立った。私を阻止した奴は座席に座った。なんだこいつ。隣が空いていたので(他も空いていたが)私はそこに座る、露骨な嫌がらせだが奴はスマホをいじりだして何も言わない。
 私はこのヤロウは何がしたかったのか考えてみた。どうも喧嘩を売って来たのではなく、よほど私が図々しく割り込んだように見えたので正義感から注意をしたのだろうか。あんなまばらなホームでもそういうことなのか。してみるとコイツは正義感の塊であらゆる不正と体を張って戦っているのか。まてよ、逆に少しアタマが弱いので順番を守ることに命をかけるよう教育されているのかも。えーい、いくら考えても分からない、面倒だからどうでもよくなった。
 奴は相変わらずスマホをいじり続け、とある駅で降りていく。その駅は私が乗り換えるターミナルなので降りたのだが、期せずして後を追う格好になってしまった。ストーカーじゃあるまいし勘違いされてもっと余計な騒動に巻き込まれるのもかなわん。冷静な私は人の流れに乗らずにしばしホームに佇んだのだった。昔であれば一服なのだが今は吸えないしね。
 そして落ち着いてみると(ホームでボーッとベンチに座っていただけ)、ツラツラ古希を迎えていることに安堵した。いまから数十年前だったらこうはならなかったろう。私を阻止した奴との顔の距離があまりに近かったから、反射的にグッと顎を引いて胸をそらし、間合いを図っていたに違いない。そのころは『眼つきがワルい』とそれなりの頻度で危ない目に合っていた(相手のガンの方が下品だったが)。
 結局、あの青年が何者で何を意図したのかはわからないが、私がそれなりに年をとったおかげで小さな小競り合いは起こらず、何事もなくある空間の休日は安寧に時間が過ぎたのだ。年を重ねることにも効用があるのか、と納得がいった。
 待てよ、この年になってもいまだに胡散臭いと見られる風体だったりして。
 それに、ついこの前起こった事件のように地下鉄の駅でいきなり切りつけられたわけでもない、メデタシメデタシ。
 だが、あの犯人のようなガイキチだったら・・・、体は反応しただろうか。繰り返しになるが古希だし。
 またいつかあのヤロウに会えないかな、今はそれが楽しみである。JR吉祥寺駅だ。

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レイモンド君の七五三

2024 DEC 15 2:02:49 am by 西 牟呂雄

 11月末、喜寿庵から街中を散歩していた、あれ、正装したレイモンド君じゃないか。英国にいたんじゃないの。お母さんと一緒だった。
『レイモンド君こんにちは』
『コーンニーチーワー』
『どうもいつぞやはこの子がお世話になりまして』
『いやいや、僕とは仲良しですから。今日はどうしたんですか。イギリスだったんじゃないんですか』
『それが結局納骨とか百か日で私とレイモンドは年内は日本にいることにしたんです』
『あ、ご主人だけ単身で渡英されたんですか』
『はい。私達も普段は東京にいますけどこの子の七五三に来たんです』
『レイモンド君、もうすぐ五つか。もうお兄ちゃんだね。お父さんいなくてさびしくないの』
『サビシクナイ』
 ふーん。しっかりしてきたなぁ、背も少し伸びてる。
 それにしてもコレ、やりすぎじゃなかろうか。レイモンド君はもう疲れていた。
『これからお宮参りに行きますので』
『そうですか。おめでとうございます』
『ココデアソブ』
『何言ってんの。早く来なさい』
『フンギャー』
『ああ、お参りをしたら遊びにおいで』
 言っちまった・・・。

右がレイモンド君の箒

 喜寿庵の秋は夕暮れが早い。4時になればもう陰って冷える。落ち葉を掃いていた。
 ご飯を炊いて最期の人参をゆでて海苔の佃煮と搾菜、等と晩飯のメニューを考えていた。
『バケバケバー』
 ワッ、驚いた、レイモンド君だ。もう着替えていた。
『一人で来たの』
『オカーサンニオクッテモラッタノ』
 以前カタコト喋っていたコクニイっぽい英語はすっかりかげを潜めて純日本語になってしまったようだ。
『お宮参りしたの』
『オマイリシテシャシントッタ』
『ふーん。おじさんは今落ち葉を掃いているんだよ。レイモンド君も手伝ってくれる?』
『オチバ』
『地面に落ちた枯葉のことだよ』
 柄の折れた竹箒を渡してやるとしばらくは僕の真似をして掃いていたが、すぐに飽きて畑の方に走って行ってしまった。
 集めた落ち葉をネイチャー・ファームに撒きに行くと、途中にレイモンド君がうずくまっていた。

『どうしたの』
 声をかけると、返事の代わりに
『イロノツイタオチバキレイダヨ』
 と言って楓の落ちた地面を見つめている。
『それは寒くなって色がつく種類のカエデという木の葉っぱだね。一緒に掃いてあげる』
『ダメダヨー。オトウサンニミセル』

黄色いもみじ

 へぇ、お父さんがいないのがやっぱり寂しいのかね。見ると真剣な表情だ。健気に耐えているがどうしても表情に出るのかな。ましてや、もっともかわいがったであろうオージーチャマ(大お爺さん、ヒイおじいさんのヒョッコリ先生)を失くしたからね。
 と、思ったら畑に撒いた枯葉の山を見つけたら走ってきてグシャグシャにし始めた。子供なんてこんなものだ。危うく、目下栽培中のスーパー・ニンニ君を踏みつけそうになる。
 冷えてきたので家に上がって二人でテレビを見ていた。
 するとインターホンが。
『あのう、レイモンドおじゃましてますか』
『今ここでテレビみてますよ』
『申し訳ありません。すぐ連れて帰ります』
『まだいいですよ。おとなしくしてますから』
『全く、一人で勝手にでかけちゃってもう』
 えっ?勝手に? お母さんが迎えに来たよ、と言うと、きゃあ、と叫びながら玄関に走っていく。僕も一緒に行き、お母さんの顔を見ると只ならぬ気配だ。
 お母さんは丁寧にお礼を述べると一瞬、鬼の形相で手を引っ張って行った。ハハァね。勝手に来ちゃったのね。

 今頃はガンガン怒られているであろうレイモンド君の1日は忙しかった。
 まずは健康で健やかな成長を願うため、大袈裟な衣装を着せられてお参りに。だが、こういったセレモニーはもちろん子供のために金と手間をかけるのだが、一方では親の自己満足のためでもある。あの衣装を着てもレイモンド君は別に楽しくもなかったかもしれない。僕の子供の頃の記憶でも、セレモニーそのものは特に楽しかったという印象は残っていない。
 一方で、子供の純粋さを過度に信じることもできない。あれで結構苦労しながら大人の反応を確かめたり駆け引きをしている。4歳の頃の記憶はすでに朧気だが、一人でものすごく困った時には大人に媚をうっていた。子供には子供なりの都合があるのだ。

 話は急に変わるが、僕の小学生時代なんかは今から考えると特殊だったのかもしれないが、教室で、校庭で、日々陰謀が張り巡らされ、裏切り寝返りが横行していた。SMCのメンバーの故中村順一君とは、当時から合従連合を繰り広げていた油断のならない同志だった。子供は無垢である、という言説には違和感を感じざるを得ない。

 ところが見たところのレイモンド君は、おそらく自分の頭の中でストーリーを組み立ててやりたいことをやりキャーキャーはしゃぎ、困ったり怒ったりすれば泣く。
 『オカーサンニオクッテモラッタノ』も『ダメダヨー。オトウサンニミセル』もその場のストーリーで、嘘でも何でもない。英国暮らしが多少の影響を与えたのか、或いはあの子は軽い自閉症なのかもしれない。苦労はするだろう。
 おじさんはレイモンド君の成人を見ることはできないが、幸せに暮らせるように祈っているからね。

 12月になって遅い遅い紅葉が夕日に映えている。
 遅れてきた秋をこのもみじが必死に取り戻しているな。
 十分にな寒くなってもらわないと日本から四季が無くなってしまうぞ。
 僕はもう古稀になった。
 果たしてスノボはできるだろうか。

白い山茶花

 紅葉や桜はできるだけ見事であってほしい。
 白い山茶花もだけど。
 もうすぐ冬至になれば1年で最も美しい日没が見られる。
 僕は今、絢爛豪華な秋を独占している。

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前期高齢者 緊急事態宣言下のゲレンデに立つ 

2021 JAN 25 0:00:12 am by 西 牟呂雄

月光仮面?

 密を避ける。喋らない。接触しない。マスク。サングラス。コサック帽。完全武装でスックとゲレンデに降り立った我が雄姿は、日露戦争時の日本騎兵とも見紛う凛々しさだった。
 首都は戒厳令下だが、一足早く喜寿庵に脱出していたのでこうしてスノボを楽しむことができた。
 去年、前期高齢者デビューしたものの、コロナの波状攻撃により結果として1年間というもの雌伏せざるを得なかった。そして今年も未だに厳しい状態が続いているものの、このままで終わらせてなるものか。
 しかしながら非常事態である。絶対にコロナに罹ってはいけない、みんなに迷惑がかかる。次に転倒してはならない、この年では骨折しかねない。するとバカにされる。最後に疲れてはいけない、去年しみじみ味わったが抜けないのだ。たまらずマッサージを受けたくらいだ。
 非常事態宣言が出されたこともあるし、ゲレンデはガラガラかと思いきやこれが結構な人出だった。もっとも考えてみればスキーヤーもボーダーもそもそも防護服みたいなウェアであるしゲレンデはオープン・スペースなのでリスクは小さい。

 しかし驚いたのはそれだけではない。リフト券売り場、ゲレンデの端っこでは新たに観光に来たはずもないアジア系の言語が飛び交っていて、こいつらはマスクなんかしていない。帰国できずにそのまま居続けているのか、いずれにせよのんきなもんだ。それも2~3人というレベルじゃない。
 誠に不謹慎とは思うがオリンピックの聖火リレーの際に、どこから湧いて出たかと肝を潰した某国の赤い国旗がウジャウジャしていたのを思い出した。コロナの本家のくせにデカい面すんな、な~んてことは言いませんよ、ヘイトになっちゃいますからね。
 で、一応シーズン初めなのでけがしないようにチョロッと滑ったが、やっぱり脚力は衰えていると言わざるを得ない。メイン・クアッドの長い中級ゲレンデを4本でワン・セットにしていたが、情けないことに2本で息が切れた。
 14か月前に癌の手術を受けたが、その後何故か体重は5kg近く増えた。人からは『コロナ太りですか』と聞かれるが、普段から何もしていないから関係ない。飲み会が無くなって酒の量が減ったかと言えばそうでもない、家でガブ飲みしてむしろ切れ目がなくなった。要するに圧倒的な運動不足なのだ。よーし、今シーズンは元に戻すまで鍛えるぞ!
 (1月11日時点の決意です)
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彼岸前の怪現象

2020 SEP 21 6:06:53 am by 西 牟呂雄

 風は秋風になった。まだ台風が大きくスライスしない時期、すなわち太平洋高気圧が未だにせり出していて連日暑いのだが、日陰で風に当たるとなんともさわやかに感じる。珍しく朝早く目が覚め二日酔いもなかったので散歩に出た。
 自宅周辺は繁華街から5分ほど外れた住宅街だがあちこちに公園があって楽しめる。丁度住宅一区画分のかわいらしいミニ公園なんかを見ると、あぁこの場所は相続に失敗して物納したのだな、などと不謹慎な想像を巡らせたり。
 ペットのワン公も数・種類と豊富で、中には犬同士のコミニュケーションを交換している和やかな姿が見られた。無論ネコもいるが、飼われているのかノラなのか良くわからない。
 戦後直ぐは引揚者のアパートがあったという大きな木のある原っぱのような公園で一服していると(簡易灰皿持参)足元の異変に目が行った。アスファルトの部分のあちこちに小さな土がコブのように盛り上がっているのだ。それも3つも4つもあった。
 しゃがんで良く見ると、小さな飴色の蟻がウジャウジャ固まっている。何だこれは。そして行列ができていてこの蟻どもはセッセと土を運んできては積み上げている。
 試しに指先で少し崩してみるとウワーッ、その土くれの中も蟻だらけ。

 思いっきり近づいて接写してみたが、拡大してやっと細かい蟻の姿がやっと分かる程度のマズいのしか撮れなかった。
 しかし、蟻の引越しは巣別れ現象として知っていたが、これはアスファルトの上だから巣を造るに至らないだろうに。この暑いのに良くやるなとしばらく見ていたが、これはマイクロ蟻塚を作っているのではないかと思い当たった。
 ところが検索してみると、日本には蟻塚を作る蟻はいない。いるとすればそれは毒性の強い外来のヒアリだ、との記述!これは大変だ。刺されればまれにアレルギー性のショックで強い回転性めまいを起こし、重度の無意識な痙攣を起こしたと報告されているではないか。
 地域の安全を守るためにアース・ジェットを掴んで夕方に公園にパトロールに行った。あの公園には小さいお子さんを連れて遊びに来ているご家族も多い。
 駆けつけて見ると、驚いたことにいくつもあったマイクロ蟻塚はみんな跡形も無くなっていた。

 お子さんが走り回っていた。僕は時々こういったチビちゃんが遊んでいるのを眺めていることがあるが、このテのチビ達の破壊力は凄まじいものがあることを知っている。ハトを追い回し虫を虐め殺し枝を折って石を投げまくっているのだ。おそらくわざとか無意識にか踏んづけたり蹴散らしたに違いない。どこか別の所に行ったのだろうか。
 ところが、翌日にはまた幾つかできていて、働き蟻は忙しそうに動いている。その時は別件でパトロールはできなかったのだが、夕方覗いてみると土の盛り上がりだけが残っていた。これは一体どういうことか。一般に蟻は巣篭もりをして越冬すると言われている(但し働き蟻の寿命も1~2年程度だが)。
そのための巣作りなのかと考えたが、アスファルトの上に土を盛るか。
 仮に作っても破戒されているのならば、その頻度で安全な場所には残るのではないか、とチビたちの攻撃に会いそうもない植え込みの奥の方をゴソゴソと調査したが、そんなものは見当たらない。それよりもオジサンが公園の隅っこをしゃがんで覗いている姿はホームレスか何かに見えるのかママたちの視線が怖くて止めざるをえなかった。
 そうこうしているうちに3日程でこの怪現象は起こらなくなった。あれはヒアリじゃなかったんだろうか。

 あっ、赤トンボ!

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ヒョッコリ先生宇宙を造る

2019 DEC 1 7:07:29 am by 西 牟呂雄

吊り橋

『よう、しばらく』
『あっ、どうも』
 喜寿庵の崖下を流れる川の改修工事が始まったので様子を見に行くと、ふた月ぶりか、ヒョッコリ先生に出会った。
『ここも護岸だけじゃなくて橋もそろそろ改修だな』
『そうですか。まだ大丈夫に見えますけど』
『そうか。君はこの吊橋になってからしか知らないんだな』
『はぁ。ズーッとそうじゃないんですか』
『この鉄骨吊橋になる前は木の橋が架かっていて、その頃は車なんか通らなかったから人がすれ違えるくらいの幅しかなかったんだ』
『ほう、そうですか。』
『それが伊勢湾台風の時の増水で流されちゃって、今みたいな吊橋に架け替えたんだね』
『知りませんでした』
『ここまで上がってきた』
 先生が指し示した先はほんの足元という高さで、川幅一杯にまで水が来たことが分かった。これじゃ木製の橋なんかひとたまりもない。当時の治水技術では仕方がなかろうが、ここから下流まで何億トンもの水量が移動したエネルギーを想像して恐くなった。
『その少し後にあそこの八幡様の高い木に雷が落ちて、全く人が行かなくなったから僕の実験室ができたんだな』
 エッ、実験室??
『しまった。言ってしまった。どうも君には口が滑ってしまうな。秘密の実験室を作ったんだ』
『また何を研究しているんですか』
『宇宙を造ってみたんだ。ただ偶然だったけどね』
『はあ?』
 またこの先生の不可解な話に乗せられちゃ堪らない。僕は黙っていた。
『ははあ、疑ってるな。よし、特別だ。おいで』
 とスタスタと橋を渡る。

怪しげな上り坂

 しょうがなく付いて行った。僕は橋の向こうの上り坂へ行くのはかれこれ40年振りだろう。相変わらず舗装も何にもされていない道だ。
 するともう無くなったかと思っていた八幡様があった!
 そしてその隣にくすんだ社務所のような掘っ立て小屋があり、先生はあたりを見渡すとおもむろに鍵を取り出して扉をギーッと言わせながら開けた。
『ところで言うまでもないが撮影厳禁だよ。あくまで秘密の研究だからね』

左側 八幡様

 別に撮るようなものは見当たらない。ところが先生が埃だらけの床をゴソゴソと片付けると、アメリカの家屋にあるような地下室への扉が出現した。その蓋のような扉をギーッと開けて中を確かめると
『早く入口を閉めろ、誰にも見られてないだろうな。それからここからはスマホも使うな』
 と言って真っ暗な階段を降りて行く。中の方でパッと電気が付いた。
『うわあっ!』
『静かに!』
 そういわれても、この不気味な物は何なんだ。電機の付いたぼうっとした部屋の真ん中あたりに、黒っぽい凝ったような、あるいはそこだけ透けているような空間が浮いているのだ、漂っていると言った方が近いのかもしれない。
 かといって、その何かは物体ではなく、また漂うようにも見えたが動いてはいない。空間の裂け目なのだろうか、奥の方にチカチカするかすかな光が見えた。
『これがその宇宙なんですか』
『良くわからないんだがね。フラスコで真空実験をしていたら何故かできちゃったんだ。超真空を作ってそこにヘリウムを打ち込むっていうコンセプトなんだけど』
『それをするためにこんな所に勝手に実験室をつくったんですか』
『キミィ!勝手にとは何だね勝手にとは。アノ大木に雷が落ちて大騒ぎになった後、心優しい私が密かに管理してやっているのだぞ』
『だけど、いくら何だって宇宙じゃないでしょう』
『まあ、その呼び方はワシが適当にそう名付けたに過ぎないのは確かだ』
『そもそも、これは物質なんですかねぇ。只の目の錯覚とか光の反射の具合とかじゃないんですか』
『いい質問だ。まず、フラスコ実験の時からそれは問題でこの宇宙は全体として質量がない。しかし内部に細かい発光現象が見られて、ある程度のエネルギーが内包されているはずなんだが、全く外に仕事をしない。ところがこいつは成長していて、フラスコを突き破ってしまったのだよ。これが破片だ。ある程度の密度はあって成長すると外部に仕事をする』
『良く分かりませんが、その”宇宙”というのは何でできているんですか』
『そこだよ!そこなんだよキミ!初めは真空実験だったと言っただろう。それにへりウムを打ち込むということは、まぁ後で気が付いたのだが複雑な経過を経て アルファ線照射のようなことが起きたのかと推測しているんだ』
『アルファ線って放射能ですか、まさか』
『だからさっき言った落雷で巨大なエネルギーがここで消尽したことと関係があるのかもしれない』
『確かに雷が落ちたあの大木の上の方が真っ黒になって裂けてましたね』
『ところが私の能力ではエネルギー計算もできないし仮説の域を出られない。ともかく、質量はないので地球の重力の影響を受けないからこうして漂っているのだと思ってる』
『あのー、それでこれは宇宙ができたことに』
『このゼロ質量も良く分からないが、何かの拍子に反物質がこの宇宙の中の原子の質量を相殺するのだろうが、ウーム』
『それで何でこれが宇宙なのですか』

こんな感じだった

『宇宙というのは138億年前に生まれたことは推定されていて、ビッグ・バンから膨張するのだが、この実験宇宙の膨張を観察していると、我々の宇宙の10億年くらいに当たるのじゃないかと思うんだ。何しろ最初はシミみたいだったのだから。その後加速度的に膨張するとして、あと10年もすれば今の我々の宇宙の規模に追いつくはずなんだ。10年後にはこの宇宙でキミと僕がこんな風に話してるのかと思うと、ウシシシシ』
『(狂ってる)あのー、本当にそうなら大発見ですよね。発表するとか誰かに相談するとかした方がいいと思いますが』
『だれかに相談して特許でも取られたらかなわんしねぇ』
『それは・・・・、すいません。ちょっと気分が悪くなってきて。帰っていいですか』
『あっそう。ここのこと誰にも言わないでね』
 当たり前だ。この人が言うことは今まで殆んどが嘘だった。第一『宇宙を作った』などという話をしたらこっちまで狂人扱いされるだろう。
 
 それ以来八幡様には行っていない。いや、恐くていけないのだ。

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ゴルフ 自分との戦い

2019 SEP 24 7:07:04 am by 西 牟呂雄

 7月は土日のたびに雨、8月は台風とメチャクチャな暑さ、9月の連休になってやっとゴルフをやる気になったが、連日やるのは体力がない。それが僕のホーム・コースは薄暮プレイと言って午後2時ころにスタートできればハーフやらせてくれる。中央道は秋の観光シーズンは大渋滞して都心からのプレイヤーは時々ひどい目に合うことになるが、喜寿庵からは10分だから天気が良い日は込み具合を聞いて、それではチョイト、という感じで行く。一日拘束されないのがいい。
 ある日に至っては、たまたまエア・ポケットのように空いていて一人ですぐに出られた。前はもういないし、後ろも来ない。せっかくだから2発打ってみよう、とカラー・ボールも準備してイエロー・ホワイトとショットすると、オォッなかなかいいではないか。
 その後イエローはバンカーに入れ、ホワイトは大きく右ラフに入り共にスリー・パットしたため共にダボとなる。スコアカードを書く段になってフト考え、イエローをニシムロA、ホワイトをニシムロBとした。

Aから見た所

 次に至ってイエロー、即ちニシムロAがパーを取った。Bはまたもやダボ。
 お次はここの名物ホール。左打ち上げのドッグレッグに三段バンカーという非常に厳しい仕掛けがあって、僕の腕では絶対にダボしか狙えない。
 AもBも慎重に慎重にそのバンカー下に運んだが、Aはボールを上げつつも距離を考えてクリークを、Bは安全を考えてサンド・ウェッジで右側の広いエリアに出そうとした。それが結果は逆に出た。Aのクリークはスライスし、Bのサンド・ウェッジはバンカーに入れた。Bはそのボールをバンカーからホームランして(砂に触らない大ナイス・ショットでグリーンの先の斜面までオーバー)7打。Aはボギー。Bは2ダウンした。

Bから見た所

 何故かここから熾烈なホールマッチになってしまった。不思議なもので打っているのは僕一人なのだが、AとBは互いの裏を掻くように対照的なプレーを選択する。Aがドライバーを振り回せばBはスプーンを選び、何故か距離はほぼ同じ。寄せにAはサンドで上げるがBは7番アイアンで転がす。
 6ホール目まででAが3アップしていたのだが7番でOBを出した。Aは悔しがるが、Bはせせら笑ってパーで一つ勝つ。
 お次はロング。Aはドライバー・クリーク(ダフり)・クリーク・サンドウェッジ(バンカー、乗らず)・サンドウェッジと5オン。Bはスプーン・スプーン・5番・7番でオン。更にグリーン上でショート・オーバーの3パットでついにAが切れた。Bは2パットでボギー、1ダウンまで追いついて来た。Aは怒り狂いBは燃えた。
 しかしこれ、考えてみれば(考えなくても)僕が僕と戦っているのだ。そしてどちらも僕がやっているのに例によって球筋は定まらない。従って右奥のラフから左端のバンカーまで歩かねばならず、グリーンの周りでグルグル回る。これは倍以上疲れる。焦っているのもせせら笑っているのも自分自身だ。
 ラストのショート・ホールでAは強烈な、OB、を打った。哀れ谷底に吸い込まれるボーールを見て(イエロー)僕はAを退場させた。因みにこの時点ではAの方がスコアは4打良かったが。

 アホらし。でもあしたもやろうかな。

 (結局一週間後に又やりました)

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春節富士山大噴火

2019 FEB 13 22:22:17 pm by 西 牟呂雄

わぁ~

 な訳ありません。
 初滑りに行った時に撮った会心のショットです。
 思わず手を合わせたくなるような。
 一瞬、噴煙を上げた富士山に見えませんか。
 爆発されたら喜寿庵のあたりは全滅でしょう。災害は噴火だけではありません。
 関東大震災の震源地は当時の観測技術が今ほどではなかったため横浜・相模湾が有力ですが、河口湖あたりという説を唱えた学者もいます。
 それまで精進湖の側に『赤池』という小さな湖が、この震災で姿を消したと言われています(別説あり)。今でも大雨が続くと出現してニュースになり、直近では2011年に姿を確認されました。
 私の祖母は喜寿庵で震災を体験していますが『歩けなかった』と聞きました。更に数日後もっと凄い揺れがあり、そっちの方が被害が大きかった、との口伝があります。調べてみると翌年にも丹沢を震源地とするかなり大きな地震はあったようです。

富士が見えるはず

 弱るつつある脚力を確かめるように、ソロリという感じでスノボに。
 ここのゲレンデはボード専用で、キッカー(ジャンプ台ですね)やレール・ボックスといったパーク・アイテムも整備されています。
 間違ってもオジサンはそんなものにトライしてはいけません。
 以前プロペラ・ターンをしている時に(10年前はできた)後ろ向きにひっくり返って頭をゲレンデにめり込ませ、脳震盪を起こしました。一緒にいた者が心配して来てくれたのですが、声を掛けても返事をせず目が泳いでいたように見えた、それでも滑っていたのでほっとした、と言ってましたがこちらは記憶が飛んで覚えていなかった。今度やったら絶対に骨折です。
 僕の年齢からいって、ボードはあと2~3シーズンでもうできなくなると思うと、できる間にシコシコとやるしかありませんね。

 喜寿庵にも雪が積もりました。
 それでも日が長くなってくると季節は巡ります。

 残雪の 
 足跡ごしに 
 福寿草

 そして、なんと出来損ないのニンニクは溶けた雪の中でも健気にサバイバル。

 潰れかけたのが、立ち直ったようです。
 収穫は寒冷地で5~6月ですから、まだ三ヶ月ほど楽しめます。
 今年の農業計画はジャガイモ・大根・茄子・ピーマンかな。

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 あっ、最後に。この季節中島さんの大宰府の梅便りを楽しみにしていますが、喜寿庵では寒いくせにチビ梅が綻んで・・・・。この梅はもう倒れかけていますが、根元の方にチョロっと咲きました。

 

銀座点描

2018 JUL 31 21:21:45 pm by 西 牟呂雄

 あまりの中国人買い物客の多さに昼間の銀座に出ることはなかったのですが(夜は別です)、ちょっとした買い物のために久しぶりに銀ブラ(死語ですね)しました。
 この暑いのに皆さんお元気ですね、的な人混みに目眩がします。飛び交う中国語がうるさくなくはないのですが、大昔のマンハッタン五番街の日本語だと割り切ってやりすごします。
 オジサンの買い物は最初からターゲットが決まってますから、アーデモないコーデモないと悩まないのですぐ済んでしまいました。オジサンはせっかちなのです。せっかちなくせにネットで買えばいいものを暑い中セッセと買い物に来る、頑固なのかも。
 問題はどうやって一服するかなんですが、銀座という街は意外と奥が深いので秘かに吸える秘密の所が実はあります。こっそりとフーッ。昨今のスモーカーは(いじめられすぎて)煙に敏感なので、漂っているのを見つけると蟻が蜜にたかるようにすぐに寄ってきて集団になりがちなので、そーっとそーっと。

ライオン!

 銀座通りに戻ってアッと驚きました。ライオンが歩いています。ライオンですよ、生きている。人の間をヒョコヒョコ縫うように歩いています。
 しかし、たてがみは立派なのに随分と小振りな、待てよ、赤ちゃんライオンにはたてがみはあったっけ???すれ違う人はスマホを向けます。ライオンは無視してトコトコ進みます、オジサンも後をつけました。
 すると余りの暑さなのか、地下鉄の通気の上でへたりこんでしまいました。変ですね、ライオンは40度くらいどうってことないのでは??
 で、良く見ると御覧の通り被り物をさせられたワンちゃんなのでした。
 それにしてもリードも付けないでよほど躾けられたというか訓練されたというか、いやがりもせずに大した物です。それともたてがみが暑くて熱中症なのでしょうか。

スパイダー・マン

 やがて日がゆっくりと陰りだしました。
 それでは帰ってビールでも(銀座のビア・ホールは中国人で一杯)と地下鉄の入口に行くと、ウワーッ、この暑いのにスパイダー・マンが。
 さすがに飛んだり跳ねたりはしませんが、人混みを見計らって四つん這いのような格好でパフォーマンスします。
 中の人、汗だくでしょうね。
 こちらはスマホを向けられるとそれなりにポーズを取ってくれるたのでパチリ。
 お疲れ様です。しかし、僕はプロレスを研究しているのであのテのマスクを被った事がありますが、あれは恐ろしく視界が悪くなる。スパイダーマンも飛び上がって目測を間違えないようにお願いします。

 生まれ育った下町から銀座に出るのは都電を使っていました。生活圏の東限で、銀座の向こうはそれはそれは恐ろしい別世界だとおもってましたね。
 当時は図抜けて大きな建物はデパートと三愛の三菱マーク、服部時計店。たくさんあった商店の上には人が住んでいて生活感がありました。今では時々有名店として紹介されるお店も普通の看板建築でしたっけ。
 冬の寒い日に母親に連れられて、何かの店先で光るヨーヨーを買ってもらったことを覚えています。その時は何故か地下鉄で帰りました。

別にストーカーじゃない

 
 さて、昼の銀座は買物の街ですが日が暮れるとそこはそれ、昨今の景気はどんなものでしょうかね。
 後日、銀座通りは避けて交詢社のあたりを散策すれば華やかないでたちのオネーさん達、高根の花が歩いています。
 高いお店はそこそこに、カウンター・バーなんかは手頃な価格でチョロッとは飲めます。
 最近、某官庁の高官がこの街で散々接待を受けて便宜を図ったと問題になりました。あれは払わなくていいから調子に乗ったのでしょうか。
 故山口瞳さんが書いていました。やむなくそういう場で接待されるとしても、別の機会に一人で行ってその場で自腹で払う、それがちゃんとした大人のやることだと。
 それじゃあの店に行ってきょうあたり払って帰るか・・(酔っ払って)。

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桜三態 

2018 APR 4 23:23:29 pm by 西 牟呂雄

 

3月25日

 東京の桜が終わり、不思議なものでこの時期になるとなぜか少しホッとする。
 今年はことのほか桜が早咲きだったのは冬が寒かったからだそうだ。
 ニュースが花見客のゴッタがえしぶりを伝えていて、私の地元でも凄い人が宴会をやっていたり見物に歩いたり(井の頭公園)。見に行った私もその一人に違いないのだが、このような見事な桜を誰も歩いていない中でじっくりと鑑賞したい欲求にかられる。ベンチで寝転んでみたが人の声が大き過ぎて気が散って仕方ない。
 外人観光客の多さにもビックリさせられた。
 この桜を撮った時に二回も道を聞かれた。
 最初は英語の白人夫婦だったので良かったが、次は東洋系の女性二人に「スミマセン」と声をかけられたのだが全然英語も日本語もダメ。身振りと中国語の観光案内のようなパンフレットで、どうやら銀座に行きたいらしいとわかった。
『ニー、チィ、ギンザ』
と咄嗟にいってみると「テュエ、テュエ」と満面の笑顔になる。地下鉄の乗り場を教えてやった。よくここまで来れたなぁ。何だってよりにもよって私に聞くんだ。
 しかし別れてから良く考えると、私は『あなた、銀座、いく』と言ったのではないか、あれは疑問形なのだろうか。中国語の基礎をやったことも無いのに余計な恥を晒したのかもしれないと不安になった。

3月26日

 散歩がてら見た夜桜は酒が回ったのかもっとうるさかった。
 この桜の下にもまたウジャウジャと人がいたが、どうも人は大勢が固まっている所に集中する傾向があるようで、蜜に蟻が群がるような習性を連想させる。
 桜が咲きはじめると毎年一日くらい、冷たい雨が降るが今年はそれが雪だった。

 こういった霞が漂うような姿も美しいが、以前にも書いたように山の中に綿帽子のようにそっと咲いていたり、スクッと一本立っているような桜の方がしみじみと味わえる。
 散り始めた東京から喜寿庵へ夜、車を走らせると、フロント・ウィンドウに霙(ミゾレ)のように桜が散り広がった。
 やれやれ、桜を惜しみつつ喧騒から逃れて菩提寺の枝垂桜でも見よう。
 この季節に母が逝って四年になる。

4月1日

 散らずには いられぬだろう 
   さくらばな 我も吹かれて
     舞ってみたくも
    

春夏秋冬不思議譚(春の桜に愕然とした日)

 

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夕空晴れて秋風吹く (エスパーからの写真)

2017 SEP 19 11:11:57 am by 西 牟呂雄

 地元の秋祭りがありました。御神輿を見ながら秋風に吹かれていると、今年も見られたという感慨深いものがあります。
 何とか晴れて心地よい風に当たって見事な夕日を見ていました。

虹が・・・、クリックして下さい

 その時携帯に着信音があったので見ると、さる人から画像が送られてきました。
 この不気味さはどうでしょう。
 確かに虹が映っていて『きれいな虹が』などと添えてありましたが、おどろおどろしいというか何というか。
 思わず見上げたのですが眩いばかりの赫々たる夕日です。
 あっそうか、太陽光を反射するのだから東か。
 と振り返ると、前線が通過したのでしょう、濃い雲が出ていました。

それにしても クリックして下さい

 ははぁ、通り雨が降ったのだな、しかしどう見てもこんな光景ではありません。
 もう一枚送ってくれ、と頼むとすぐ送ってきましたが、前にも増した恐ろしさです。
 
 これはやはり撮った人の問題かもしれません。
 読者はご記憶でしょうか。
 青い空の写真を撮って天変地異を写し込んだあの謎のエスパーを。

不思議な空 ブルーという誘惑


 この頃、太陽フレアの大爆発によるソーラー・マックスが取りざたされていました。
 巷間言われたような通信障害は出ませんでしたが、ひょっとしてこの空は・・。
 それにしてもそのエスパーが撮る写メだけに出るのもナンでしょう。
 一体あの人は何者なんでしょう。本当に実在の人物でしょうか。
 そういえば去年の今頃、喜寿庵で私が撮った夕焼けもこんなでしたっけ。

秋は夕暮れ 

 地球よ、どうか怒らないでくれ。心を入れ替えますから・・。
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実りの秋の不思議な話

おじさんだって前向きに生きる 

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