Sonar Members Club No.36

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東京湾横断航海

2013 SEP 23 17:17:52 pm by 西 牟呂雄

秋は海の険しい季節。台風も多いのだが、夏とは風が変わってヨット屋には腕が鳴るシーズン到来だ。しかしまぁロング・レグの航海も面倒だ、とホーム・ポートの油壺から城ヶ島をかわして東京湾を一跨ぎ、千葉の保田まで行ってきた。三浦岬を越えたあたりからフタコブラクダのような鋸山を狙うとほぼ東に一直線で2~3時間の距離。いい感じのナラエの風(北西の風)に乗ってセールを目いっぱいあげると、船がグーッとかしいで6~7ノットに安定した。波は思ったより高いが飛沫を被るほどじゃない。快適なセーリング日よりとなった。

但しこの浦賀水道は日本有数の船舶航行過密地域で、注意していないと巨大な貨物船、タンカーが行き来する。基本的にはそういう船舶は避けながら行くのだがあっちは早い。大型船は海面にへばりついているようなこっちから見ると,ブリッジなどは10階建てのビルくらいに見えるし、巨大な船体とバケモノスクリューがかきあげるウェーキ(航跡波)にも翻弄される。まさに木の葉のように、だ。ポツっと見えた船は見る見るでかくなって小山のようになるから要注意。ずいぶん前に自衛隊の潜水艦『なだしお』が遊覧船に衝突した事故があったが、実は『なだしお』は衝突直前に前を横切ったヨットを避けてあの事故につながった、とヨット乗りの間で噂になった。帆走船舶をかわさねばならないからだ。ヨットの名前も伝わってきたが。

東京湾は徳利を逆さまにしたような閉鎖水系で、僕達はその口のところを航海している。こういう潮目には結構珍しい光景が見られ、目を楽しませてくれる。以前はイルカの大群が延々と30分位続くのを眺めたこともある。今回は特にハイライトは無く無事保田に入港した。ここには番屋という観光コースにも入っているお土産食堂(お風呂付き)があり、東京方面から来るクルーザーも多いのでヨットバースが充実しているのだ。浦安ハーバーからは6時間くらいかかる。たくさん係留している中に特徴のあるなじみの船を見つけた。横須賀のミスター・ネイビーの愛艇だ。ミスター・ネイビーは元米海軍の士官で、横須賀勤務が長く奥さんも日本人(ちょっと見にはサモア人に見えるが)。退官後も横須賀に住み、しょっちゅう保田に来ていた。バース(浮き桟橋)のすぐ側に海の家に毛が生えた程度のスナックがあって、そこで一緒に飲んだりして仲良くなった。テキサス生まれで海などロクに見たこともなかったらしいが、それで海軍を志望したと言っていたが本当か。年の頃は少し上だからどうやら実際のドンパチはやっていないらしいが、その手の話には恐ろしく口が堅い。正にサイレント・ネイビーを地で行っていて、何に乗り組んだのかも言わない。第七艦隊の守備範囲は極東から中近東までなので、クウェートやイラクの時には現地まで行ったのでは。

ところで、海軍は一般的に海軍同士になるとやたらと親愛の情を示すと言われているが、これは本当だった。小倉記で一度書いたが、僕の親父は旧海軍をかすっていて、それで一気に打ち解けてくれた。今回はお風呂の後、食堂でビールに焼酎をジャンジャンやってキャビンで潰れたので、スナックで盛り上がるまでには至らなかったが、翌日油壺に帰港するためにモヤイを解くと、ミスター・ネイビー夫妻がデッキに座っていた。

「グッバイ、ミスター・ネイビー。」

と敬礼すると、笑いながらピッと立ち上がり「グッドラック!」と実に様になる敬礼を返してくれた。夕べから一気に涼しくなっていた。

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Categories:ヨット

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