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Yokohama Yankee 邦題『横浜ヤンキー』

2015 DEC 8 3:03:43 am by 西 牟呂雄

 題名を『横浜の不良』と読んではいけない。明治時代に来日し、五代に渡り日本で生きて来たドイツ系のヘルム家の話だ。著者は四代目に当たる在米のジャーナリスト、レスリー・ヘルム氏。
 氏は日本で生まれ、高校までを横浜インターナショナル・スクールで学び、UCバークレーとコロンビアでアジア研究、ジャーナリズムを専攻した。ビジネス・ウィーク、LAタイムズの記者となり、特派員として合計8年を日本で暮らした経験を持つ。現在はアメリカ国籍で、二人の日本人を養子にした。
 仏墺戦争に従軍経験のある曾祖父ユリウスが来日し、廃藩置県以前に最も早くから洋式歩兵システムを取り入れた紀州藩で訓練を施す。しかし廃藩置県後の武装解除により、当時ヨーロッパ人の多かった横浜に移り事業を起こす。以来ヘルム一族は横浜を中心に根を張る。氏は1955年生まれ、何と私と一つ違いである。元町ですれ違ったかも知れないのだ。
 初代ユリウスは日本人を娶り、従って氏にも日本人の血が流れていることになる。この本には外見が白人ながら日本語も操る作者のアイデンティティーをめぐる葛藤が記されている。
 そういえば私も 異邦人のあれこれ などの経験で、この筆者の心境が多少分かった。ここで言うソフト差別のようなことは散々受けた事だろう。

 ところで『ヘルム』という名前には私の最も古い記憶が刻まれている。
 幼い私は母親に連れられてヨコハマに行き、生まれて初めて白人を見て驚く。そこには小さい子が乳母車のようなチェアに座ってオモチャで遊んでいた。私はそのオモチャで遊びたくなりその子から取り上げようとしたが、拒否されて大泣きする。それを見たかわいい少し年上の女の子が何かを日本語で喋ったので驚いた覚えがある。幼いながらも白人が別の言葉で喋ることは分かっていたようだ。ガレージにフォルクスワーゲンがあったこともはっきり記憶している。
 この記憶は長く眠っており、後年にあれは何だったかのと母親に聞いた。返ってきたのは『あれは横浜のヘルム財閥のヘルムさんの家よ。ミセス・ヘルムにはすごく良くして貰ったのよ。良く覚えてたわね。』だった。
 ミセス・ヘルムはエルベ川の東、イースト・プロイセンのユンカー(貴族領主)の出身で、私の母とは互いに外国語である英語・フランス語で会話したそうだ。ご一家はその後ニュージーランドに引っ越していったと聞いた。
 懐かしさと、もしかしたら私がオモチャを取り上げようとしたのが著者ではないのかと気になってしょうがない。しかし著作を読む限りでは著者には姉はいない様だった。それでも横浜のヘルムさんであることは間違いない。どうしても確かめたくなり、誠に滅多にしないことであるがおおよそ以下のようなメールを編集部に送った。

Dear Mr Helm,
I’m Ken Nishimuro, Japanese.
I noticed your book “Yokohama Yankee”,and now reading.
Because I slightly remember Helm House in Yokohama.
I was born in 1954.
I’m not sure why, but my deceased mother was a friend of Mrs.Helm.
Her name was Atsuko Hiraga.
When I was a little boy, Mama took me to Helm House.
There was a baby, looks like same aged.
I tried to play his toy, but he kept it, so I cried!
At That time Mrs. Helm said “Ken cyan, spoiled boy!”
Also I remember a pretty girl who spoke very beautiful Japanese, may be his elder sister.
Oh yes I watched Volkswagen at the garage.It was my first time to see such a beetle.
If possible, I would like to talk with you someday.
Regards,
Ken Nishimuro

 すると信じられない事に、翌日私のアドレスに本人から返事が来た。

Hi Ken,
It was great to hear from you and to learn of your memories. I am copying Marion, who lives in New Zealand. I think the pretty girl you refer to must be Marion or her older sister.

 マリオンさんはきっと著者のハトコ(従兄弟の子供同士)くらいなのだろうか。実はヘルム家と関わりのあった頃の母には、戦後の大混乱期もあって写真一枚残っていない。ミセス・ヘルムとは何の話を何語で会話したのか興味は尽きない。
 チャンスがあったら著者ヘルム氏と会って話がしてみたいものだ。

ハマのマイクと呼ばれた男

贋作 ジェットストリーム (横浜編)


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Categories:遠い光景

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