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吉例顔見世大歌舞伎 仮名手本忠臣蔵

2013 NOV 14 13:13:59 pm by 西 牟呂雄

 さて年末が近くなると、第九の合唱と共に日本人になじみの深い忠臣蔵が掛かるので、夜の部(五段目・六段目・七段目・十一段目)を見てきた。五段目六段目は音羽屋・菊五郎の独壇場といったいつもの感じ。ここで不破数右衛門の役で出てくる、高島屋・市川左團次という人がいるが、実は私、その人の隠れファンだ。ときどきテレビの時代劇にも出たりする器用な人で、卑劣極まりない女好きの権力者とか金亡者の悪代官とかをやらせると天下一品の芸達者。歌舞伎の舞台では何よりも声がいい、声が。見得の際に良く通って惚れぼれする。

 七段目(祗園一力茶屋)からは、播磨屋・吉右衛門の技が光りまくる。この人上手いですからねぇ。赤星由良之助が遊び呆ける大好きな場面で、時節柄の話題を取り込むいかにも歌舞伎っぽい場面が入る。今回は「見立て」遊びの所に若田さんのロケット打ち上げの話だった。『まずはアチキが見立てましょう。お腰を、ここに見せまして、紙を、ここに乗せまして、浅草名物カミナリオコシ。』とチャラチャラ演じた後にやって見せた。一遍でいいからこういう遊びがしてみたい(酔っ払ってそこら辺でやっているが、大勢の花魁の前で、だ)。前に韓流ドラマが流行った頃、冬のソナタのバリエーションをやっていたこともあった。こういうところが大衆芸術たる所以の面目躍如。

 そう言えば40年前の下町の者にとって、相撲や歌舞伎は気軽に見に行くものだった。僕の小さい頃に歌舞伎が芸術だと考えていた大人というのはいなかったのではないだろうか。確かに土俵際砂被りや枡席、歌舞伎の桟敷席や一階の席は高い。だが国技館も上の方とか歌舞伎座の3階なんかは当日行っても買えるもので、今現在においても歌舞伎座二階B席(後方)で2500円だったか。一幕だけ見る当日売りの幕見はもっと安いのでは。ただしすぐ売り切れるから一か八かになるが。国技館だっての2階奥が2000円(当日券)とかそれくらいのはずで、要するにそこら辺の近所の人が行くような娯楽なのだ。だから相撲も歌舞伎も「見物」と言っていた。今でも歌舞伎座だろうが明治座だろうが新橋演舞場でもそういう所に屯しているのは声掛けがうまい。歌舞伎の声掛けについては以前タイミングのことを書いた。見得を切ったときに間髪を入れずに屋号を呼ぶ。「音羽屋」とか「成駒屋」とか言うのだが、そのまま呼んではいけない。アクセントを極端に前にかけて短く、「音羽屋」ならば「ットワヤ!」と聞こえる感じが粋とされる。相撲の方はかけ声なんかはないが、昔は印象的な声援があった。荒勢という相撲取りがいて、こいつのファンなのだろう、いつ行っても同一人物と思われる声援が飛んだ。呼び出しが例によって何を言っているのかわからないような節回しで「こなた荒勢、荒勢」と言った途端甲高い女性の声で、「あーらーせーー!」と一回だけ声を張り上げておしまい。もう一つ覚えているのは北天佑(字が合っているのかわからない)の熱烈な贔屓で、恐らく粋筋の女性だった。呼び出しの段階から仕切りの間、ずーっと「ほくてんゆー、ほくてんゆー、がんばれがんばれほくてんゆー!」と叫び続ける。自然と皆の視線が集まるが何のその、視線の先にはキリッと着物を着こなした美人が正座して座っていた。負けでもすれば涙目になっていたのをが印象的だった。こういうのは土俵脇の一つの芸みたいなもので名物化して楽しまれていた。

 そして十一段目、討ち入りになるのだが、まぁ中身はご案内の通り。赤星力の役で、先日亡くなった富十郎の一子、天王寺屋・中村鷹之資が出ていた。確か富十郎69才の時の子供だ。今14~15才位か、オモテはなかなかの若武者なのだが、チョットデブ過ぎる。あれじゃあまるで桃太郎。キミ、少しダイエットしなさいダイエット。

荒事の華麗な芸 

九月花形歌舞伎

九月大歌舞伎 千穐楽

猿之助四十八撰


 
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Categories:古典

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